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クリス・ミーン 3

結局シロウは記憶を戻すことは無かった。クリスは結局シロウと共に行動をする事を伝えると、クラフト達の反対を受けて、最終的にクリスは自分の屋敷に帰宅することになった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おはよう、シロウ」

「おはようございます、クリスさん」


シロウが窓から外を眺めていると、クリスが部屋に入ってきた。この屋敷にクリスが帰ってきてから、シロウには屋敷の一室を与えられたのだった。シロウはその部屋で生活をして一週間、昔ここで生活していたせいなのか、どうかは分からないが、すぐに屋敷で暮らすことになんの不自由もないくらいになっていた


「何を見ていたんですか?」

「あの木です」


シロウが指を指したのは、昔シロウが良く昼寝に使っていた木だった。数年たったことで、シロウがいた頃よりも木は成長していたが、それでも昔と形がそこまで形が変わったと言う訳では無かった。


「何か思い出したんですか?」


クリスが期待の眼差しを向けてくるが、シロウはその眼差しを見て、すまなさそうに頭をかいて首を横に振る。


「いえ、何も。ただあの木に乗ってみたいなと思ったんですけど、流石にあの細い木に乗っかると落ちてしまうのに。何ででしょうね?」

「シロウは良くあの木の上で寝てました。もしかしたらそのせいかもしれません」

「そうなんですか?」

「はい、猫の姿で良く気持ちよさそうに寝ていました」


シロウは自分がよく寝ていたと言われた木の部分を見つめながら呟くようにクリスと喋る。


「未だに信じられません、自分が猫だったなんて」

「私は元猫のシロウが普通にこんな風に人として生活している方が不思議に思います」

「そうですか? 自分は元々人間で猫の姿に変身出来たのではなくて?」

「いや、あなたは子猫の時にここに来たので、その可能は低いですよ」


クリスにそう言われて、シロウは唸るようにして考える。その仕草がクリスには猫が唸っているように見えたのだった。


ナデナデ


「どうしたんです?」


突然クリスに頭を撫でられて、シロウは驚いたように声で尋ねる。正直シロウはクリスに撫でられるのは、嫌いでは無かった。むしろもっと撫でてくれても良いのだが、それを自らの口で言うのは気恥ずかしいので今まで言ったことは無かった。


「いえ、何となく……嫌でしたか?」

「いえ、大丈夫です」


シロウは赤くなった顔を見せないように、顔を逸らす。クリスはその真意を知ってから知らずか、嬉しそうに笑みを浮かべて、シロウの頭を撫で続ける。一通りなで続けると撫でてていた手を離す。シロウとしては正直もっと撫でて欲しかったのだが、クリスはこれから仕事なのだ。


「じゃあ、行ってくるね」

「ああ、気をつけてね」


クリスは父の仕事を継いでこの街を守る仕事をしているのだ。今は父親であるロットの仕事を補佐しているだけだが、ゆくゆくはロットの仕事を引き継ぐことになるであろう。腕っ節も頭もキレ具合も申し分ないのだ。ロットとしては正直ここで嫁に出して、置きたいのだが、クリスが連れて帰ってきたシロウが、クリスの思い人であることに気がついているので、強くは言えない状態だった。


クリスが仕事に出かけると、シロウも部屋の外へと足を向けた。廊下に出ると扉の中でもただ一つの両開きの扉の前でシロウは足を止めた。シロウは扉を開ける前に自分の服装を確認すると、扉を開けて部屋中へと入っていた。


扉を開けると立派な机で書類を書き込んでいるメガネをかけた初老の男性が待っていた。初老の男性はペンをシロウを一瞥すると再び書類にペンを走らせる。シロウはそれを確認すると同時に頭を下げる。


「おはようございます」

「おはようございます。今日はちゃんと服を着れているようで良かったです。ではそこにあるものをお願いしますね」

「分かりました、ソルトさん」


シロウはソルトと隣に座ると書類に書かれている数字を計算していく。ソルトシロウが出て行ってから雇われた人間で、主に財政面の仕事をしているのだった。シロウが何も仕事をしないのは悪いと思って、提案した結果、ソルトの計算の手伝いをすることになったのだった。ソルトは仕事をするなら、服装からしっかりするようにと言うことで、仕事を始めた数日間は服の着方から注意されていたのだった。


シロウが計算を終えた書類をソルトの机に書類を乗せていく。ソルトは自分の机の上に乗せられた書類を眺めて、ミスが無いことを確認すると書類の山の一枚に加える。


「相変わらず計算が早くて正確ですね」


書類に文字を書き込みながら呟くように、シロウを褒める、シロウはどう言う反応をしていいか分からず、無言で渡された書類の数字を計算していく。仕事を無言で続けるが、お互いあまり仕事を話しながらやるような人間では無いので、会話がないのが気まずくはなかった。


お昼頃になるとずっと動かしていたソルトの手が止まる。シロウも同じように手を止める。


「お昼にしますか…」

「はい」


ソルトが席を立つと、シロウもあとに続いて席を立つ。二人は調理場に行く。


「あ、お昼はそこにあります」


調理をしていた一人が指さした先にはサンドイッチっと紅茶の道具が用意されていた。ソルトはそれをキャスター乗せると追加で果物をいくつか乗せていく。


「これ持っていくぞ」

「どうぞ、どうぞ」


キャスターを転がしてさっきまで仕事をしていた部屋まで持っていく。シロウは扉が見えるとソルトより一歩前に出ると、扉を開けてキャスターを部屋の中に入れる。


「果物は私が剥きますから、シロウは紅茶を用意してください」

「分かりました」


シロウはキャスターの乗っている紅茶の道具一式を使って用意する。紅茶のお湯は保温容器に入れられており、紅茶を入れるのに適した温度だった。それをシロウは確認すると紅茶の葉っぱを急須に入れると、その後お湯を入れて砂時計を逆さまにする。時間にすると一分程度お湯の中で紅茶の葉を泳がせる。これで十分紅茶の葉から味が出る。砂時計の砂が完全に下に落ちると、カップに紅茶を入れ始める。


紅茶が入れ終わることには、ソルトも果物を剥き終わる。お互いの机に果物とサンドイッチそして紅茶を並べる。


「それじゃ食事にしましょう」


ソルトの言葉で食事を始める。ソルトはいつも食事を手早く終わらせて、仕事に戻る。シロウとしてはもっとゆっくり食事をしたいのだが、ソルトに釣られて食べるスピードが早くなるのだった。ソルトが食べ終わり、紅茶を飲んでいる時にシロウはサンドイッチを食べ終わった。


「今日の仕事はこれだけなので、早く終わりそうですね」


紅茶にお砂糖を入れながらソルトにシロウは同意を求めた。


「そうですね、これだけ済めばいいんですけどね。こういう時に限って仕事が入ってきたりするんですよ」


ソルトが紅茶のお代わりを入れようとした時、謀ったかのように扉が開かれた。


「ロット様どういたしました?」


扉の向こうにはこの家の主のロットがいた。昔より大分老け、仕事の前線で働くことは少なくなったが、未だに体は衰える様子は無かった。


「今回王都から逃げてきた指名手配犯を捕まえたのだが……それを王都まで届けなければ行けない。その路銀を明日まで用意してくれ」

「ロット様直々に引渡しに行かれるのですか?」

「ああ、一応油断ができない相手だ。私自らが行く」

「分かりました、明日まで用意しておきます」

「頼んだぞ」


ロットは金庫の鍵をソルトに渡すと、部屋を出て行った。当主自らが出張ると言うことは滅多に無いのだが、ロットは割とよく出かけていくことが多いのだった。ロットが部屋を出て行くと、ソルトはため息をついた。


「言ったそばから仕事が増えましたね。護衛の人数十人と当主で一週間ほどの路銀で計算してください」

「分かりました」


シロウはそう言うと早速計算を始める。基本的に一日分の生活費と路銀に必要なお金は分かっているのでそれを掛けるだけで済むのだ。シロウはカップにある紅茶を空にすると、ペンを手にして早速計算を始める。


「金貨二十五枚と銀貨四十枚です」

「それじゃ金庫からお金を持ってきますか……」


ソルトは引き出しから金庫の鍵を出す。金庫はソルトが持っている鍵とロットが持っている鍵が2本無いと空かないようになっているのだった。


「シロウも来てください」

「はい」


ソルトとシロウは金庫がある部屋へと移動した。そのついでにお昼の食器を片付けたのだった。



「それじゃ金庫開くから、中からお金を持ってきてください」

「分かりました」


ソルトが金庫の鍵を開けた。鋼鉄の思い扉をソルトが引っ張り、人が一人入れる隙間を作る。


「はぁはぁ、お金お願いします」


ソルトはその場で座り込むとシロウにお金を取ってくるように頼む。この金庫の扉は重いので、ソルトは少しの間疲れて動けなくなってしまうので、シロウを連れてきたのだった。


「わ、分かりました」


扉の隙間に体を入れて金庫の中に入る。金庫の中は外の気温より五度くらい低く。空気は誇っりぽかった。シロウはそこから金貨と銀貨を持って扉の外に出る。


「金庫の壁に袋がかかってるからそれに入れてください」

「分かりました」


金庫の中は薄暗い中なので、壁に手を着いてから袋を取ると、金貨を入れる。金貨同士がぶつかる音が金庫に響き渡る。しっかりと枚数を数えてから、シロウは金庫から外に出るとソルトが扉を閉める。


「大丈夫ですか?」


ソルトの疲労っぷりシロウは声を掛けずにはいられなかった。


「だ、大丈夫だ。あとちょっと」

「俺がやりますよ」


金庫の扉をシロウが背中で押すとあっさりと閉じる。


「……案外あっさり閉まるんですね」

「あれ?」


シロウは扉が簡単に締まったのに呆気なさを感じ、ソルトは信じられないような目でシロウを見る。


(あれ……シロウってかなり実は力持ち?)


「これ金貨です」

「ああ」


シロウから金貨が入った袋を受け取ると、中身の金額を確かめてしっかりとあると袋の口を閉めた。


「私は帳簿を付けておきますから、そのお金を渡してきてください」

「分かりました」


シロウは袋を受け取るとロットにお金を渡すために金庫の部屋から出て行った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そう言えばロット様どこにいるのでしょう?」


この屋敷にいることは確かなのだが、どこにいつかは適当に探すしかなかった。シロウは最初に一番いるであろうロットの書斎のドアをノックして、ロットがいるかを確認する。


「いるぞ、入れ」


ロットの野太い声が答えてくれる。シロウはゆっくりと扉を開ける。扉が開いてシロウの姿をロットは見ると、一瞬体が強ばって作業が止まるが、何事も無かったかのように動き出す。


「シロウか…何だ?」

「お金の支度が出来ました」

「そうか……そこに置いておいてくれ……ちょっと待て」



机を指差すとシロウはそこにお金をおいて出ようとするとロットが呼び止める。シロウは開けかけていた扉を閉めて、ロットの方に顔を動かす。


「シロウは娘……クリスをどう思っているんだね?」

「どうとは……」

「クリスは君に好意を抱いているのは気づいているね」


ロットは確認するように聞いてくる。それを確認するのがこのようのどんなことよりも苦痛のようで、その苦痛の元凶であるかのように、シロウの事を睨んでくる。正直ロットは自分の娘をこのような男に渡すのを納得できる訳もなく、今すぐ家からたたき出したいのだが、流石にそんな事をすれば娘のクリスと口論になるのは避けられないので、シロウの人柄を見るために家で使用人として雇ったのだった。仕事をサボることは無く、仕事は真面目にやっている。時々手を抜ける所を抜いている程度の普通の人格の人間だった。教養に関してはそこら編にいる貴族よりあり、宮廷で働けるレベルぐらいはあるのだった。娘と結婚するのに人格も教養も問題はない、後は爵位が無いことが問題くらいだ。クリス曰く、かなり強いらしいので、最悪冒険者の仕事でお金を荒稼ぎして爵位を国から買うことが出来る。一応そうすれば貴族と結婚するので、ミーン家としての貴族の面目も保たれる。後は問題があるとすればこの男がクリスの事をどう思っているかだ。勇者パーティーに参加出来るほど強い魔力を持っているので、結婚をしたいと言う貴族は多い。今の所は適当に言い訳をして避けているが、それも時間の問題なのだ。ロットしてはこの男に早めに結論を出して貰いたいのだった。


「まあ、気づいてはいます」

「それならその好意に答えるつもりはあるのかね?」


ロットの質問に困ったような笑い顔を浮かべて、シロウは返事をするのに少しの時間が必要だった。


「難しですね」

「何故だ、娘は器量も性格も悪くは無いはずだ」


うちの娘は完璧だと思っていたので、このように娘を否定されるような事を言われたので、ロットの口調が荒くなった。シロウはそれに若干ビビりながらも答える。


「彼女が好きなのは、今の自分ではなく過去の自分です。知らない自分を好きになられても困るんです」

「……」

「今の自分を好きになってくれているのならいいのですが……昔の自分と今の自分と結婚しても、彼女はその差に苦しむことになると思う」

「……」

「だから簡単に付き合うことは出来ないんです」

「そうか……分かった」


シロウはロットの言葉に内心ため息をついて、安心したが次の言葉でシロウは盛大に困ることになるのだった。


「だが今のお前としては娘の事は好きなのか?」

「え?」

「お前が好意に答えられない理由が聞いた。だけどお前の娘に対する思いは答えていないだろう」

「それは……」


シロウは盛大に額に汗をかいて、その返事をするのに窮するのだった。



結局その答えが出たときには、長い時間が経ってからだった。





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