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クリス・ミーン 2

顎を砕かれた俺は、直ぐに猫になって、猫の癒やしで体の傷を全て直した。だが痛みの余韻は残る。顎を砕かれた痛みと衝撃で、頭がミキサーに掛けられたみたいに、目の前の景色が歪んで見える俺は頭を振って、景色を戻そうとする。頭がハッキリすると痛みが、はっきりと感じるようになる。俺はその痛みで堪忍袋の緒が切れた。


「クソガーー!!」


猫になったことで、バレルから貰った腕輪がゆるゆるになる。俺はその腕輪を、前足を振って、落とす。落ちたステータス値が元に戻るのが体感で分かった。土煙で向こうから俺の様子は見えないだろう。土煙の下の方から飛び出して、サムイが持っているクロスボウを前足で、叩き落とす。サムイは完全に俺の姿が見えてないようで、クロスボウを壊した時も土煙の方を見ていた。ナックは俺の動きに気づいたようで、サムイを注意するが、それも遅かった。クロスボウは壊させてもらった。そしてナックを後ろから殺そうとするが、気づかれて、俺が飛び出したのに合わせて拳を振るってくる。だが俺の気配を感じ取れるだけで、姿は目で捉えられてないようだ。拳は俺から少しずれている。俺は爪でナックの拳に爪をあて、跳んだ勢いで肩まで切り裂く。ナックの血で前足が汚れるが気にしない。


「喜べ、ここからは俺も本気を出してやる!」


俺はそう啖呵を切ると、俺はサムイを殺すつもり襲いかかる。サムイに狙いを定めたことに気づいたナックが、サムイを突き飛ばして俺の爪から遠ざける。そして地面に着地した俺をナックが片腕で槍を扱い、俺の体を遠ざける。ナックは片腕で槍を扱っているから動きは遅いが、いや遅い分俺は自然に避けてしまう。早かったら槍が俺の体に当たる。怪我はしなかっただろうけど。避けた俺に向かって、槍を投げてさらに距離を取らせる。


「アクア様、片手剣を!」

「は、はい!」


アクアと呼ばれた巫女姿がナックに向かって、片手剣を放り投げる。鞘が付いたままの片手剣をナックが掴むと、思いっきり俺に向かって振る。剣撃が飛んでこない代わりに、片手剣の鞘が飛んできた。俺はその片手剣の鞘をよけないで、体を回転させて尻尾で鞘を飛ばし返す。鞘が飛んでいった先には、サムイがいる。サムイの頭に鞘が直撃して、そのまま後ろに倒れる。流石に頭を砕く事は無かったが、サムイは意識を失った。


ナックは一瞬サムイを見るが、気を失っているだけだと確認すると、俺の方に直ぐに視線を戻すが、その一瞬が致命的だった。俺は既に目の前にいる。咄嗟に片手剣でガードするが、俺の頭突きでナックの体が宙を飛んでいく。だが片手剣を地面に無理やり突き刺して、飛んで行きそうになる体を止める。口からは血が溢れるが、気にせず俺に攻撃してくる。俺が剣での攻撃を避けようと心構えをしていたら、ナックが俺を蹴り上げる。俺の体は容易く、ナックの蹴りで体が浮き上がる。体重が猫の体重だから仕方ないが、痛みは無い。空中で身動きが出来ない俺にゼノンが片手剣で浮いた体に振り下ろす。軽く肌が切れるが、それだけだった。真っ白な毛が微かに赤く染まる。俺の体が片手剣の攻撃で地面に叩きつけられる。その反動でまた体が地面から浮くと、ナックが体を蹴り上げる。


こいつ俺を地面に着地させない気なのか?


確かに俺の体は猫の平均体重より軽いくらいだ。空中で足場になるものが無いし、このままやれば反撃を受けることは無いだろうと考えているのだろう。その考えが甘いことを教えてやる。


何回か体を打ち上げられる中、俺は片手剣の軌道を目で追う。何度も体を斬られたが、薄皮一枚ぐらいしか斬れていないので、気にしない。そしてー


「?!」


ナックは驚愕のあまり声が出ないようで、体の動きが止まる。それはそうだ猫が片手剣に抱きついているのだから、俺はその剣を足場にナックに頭突きをかます。さらに前足の爪で顔を切り裂く。俺の前足を避けようとしたが、右目が瞼の上から切り裂ける。


右目を抑えることはせず、近くにいる俺を攻撃するために、片手剣を振るうが、俺が片目の死角に入る事によって、その攻撃を受けないようにする。更に尻尾で片手剣を持っている手を叩く。見た目はそんなにダメージを受ける攻撃には見えないが、手首の骨が砕ける程のダメージを与える。片手剣がナックの手から落ちる音がする。


ナックは頭突きと手首を砕かれた衝撃か、膝を地面につく。折られた片腕を必死に抑えながら、反撃しようとしているが、痛みのせいか、両手を失ったことで攻撃手段が無くなったせいか、すぐには攻撃をしてこなかった。俺はその無様な姿に笑みを浮かべた。その笑みを憎らしそうに睨んでくる。その目つきが気にいらなくて、さっきの俺と同じように尻尾で顎を砕いてやった。


その痛みと衝撃でナックは意識を飛んでしまったようで、地面に崩れ落ちる。そんなナックとサムイの様子を見て我慢しきれなくなったように、アクアと呼ばれた女が俺の前で通せんぼするように大きく腕と足を広げる。


「こ、これ以上傷つけさせません!!」


アクアは涙目になりながら、精一杯の虚勢を張る。傍から見ると猫の前で涙目になりながら通せんぼしているようにしか見えない。俺はそれを想像して、思わず笑みを浮かべてしまった。その笑が不気味なのだろう。涙目から完全に泣き顔になる。俺はそんなアクアの横を素通りする。アクアは俺が通り過ぎって、少し時間が経つとそこに座り込んでしまう。俺はある程度あいつらを痛めつけたことで、少し怒りも収まった。殺さないぐらいの冷静さは取り戻していた。


さて、バレルは何をしているだろうか?


俺がそう思って視線を向けると、いい塩梅に血を流しながら戦っていた。二人合わせてそれなりにレベルアップになる血を流せたのでは無いかと考え、バレルの方まで飛んで行く。バレルは俺の姿を見ると呆れたように小声で呟く。


「お前本気を……」

「心配するな、殺してはいない」

「それでも本気を出したんだ?」

「ほんの一瞬だ」


俺は最後に言葉を付け加えて、最後の足掻きとして言葉を付けたのだが、逆効果のようで、いたずらをして花瓶を割ってしまった子供を見るような目で見てくる。


「まあ、重症は負わせてしまったが」

「……まあ、生きているならいいが」


バレルはため息と共に呟くと、刀を鞘に収めた。これは俺に対してもう帰ることを示したのだろう。俺はクリスタルを取り出そうとして、猫の姿なので、服からクリスタルを取り出すために、猫から人へと姿を変える。猫から人間になったことで、服も一緒に出てくる。その服からマリアから預かったクリスタルを取り出す。


「あ……」

「どうした?」

「いや、クリスタルで颯爽と帰ろうと思ったんですけど……」


俺はそう言ってクリスタルを振って見せた。


「どうやら魔力切れだ」


俺が持っているクリスタルはすっからかんで、魔力が入っていれ分光るのだが、光っていなかった。


「……そのクリスタルは行きの分しか、魔力を貯められなかったみたいだな」

「知らなかったのかよ、バレル! お前がマリアに渡した物だろう!」

「いや、一回も使わなかったから、まあ、魔力をまた貯めれば、帰れるから心配するなよ」

「その魔力をここで貯めるのか!?」

「俺が時間稼ぎをする」


バレルはそう言うと鞘に収めた刀を決まり悪そうに出す。


「俺が時間稼ぎをした方が良いんじゃないか?」

「……俺はさっきまで、魔力を使って戦闘をしてたから、魔力はもう殆どすっからかんだ。そのクリスタル満タンにするだけの魔力はもう残っていない。だから俺が時間稼ぎしている間にさっさと魔力を貯めろ」


そう言うと未だに戦うことが出来るクラフト達の所に走っていた。この時になると、クリスも戦闘に参加出来るくらいには心の整理がついたようだ。クリスも剣と魔法でバレルに詰め寄っていく。俺が出ていてから、クリスは戦闘に参加してこなかったことで、体力と魔力が回復したからだろう、バレルが押され気味だ。手のひらにいくつもの魔法を出現させる技は使っていない。いや、使えないと言ったほうが良いのだろう。バレル自身が言ったように、魔力が殆ど空なのだろう。その戦闘に更にクラフトとクシアが参加する。二人が遠慮なく、バレルに攻撃を加えていく。俺は魔力クリスタルを貯めていく。既に半分ほど魔力が溜まっている。この貯まり方だと直ぐに満タンになるだろう。だがバレルも余裕は無いだろう。魔法を使わず刀だけで対応してきている。本格的に魔力が無くなってきたのだろう。魔法を避けている。だが今の状態で、魔法を身体機能で避けるにも限界がある。バレルの所々また傷が出来始める。


「おい、早くしてくれ、そろそろ限界だ!」


バレルがクラフトの攻撃を凌いで、クラフトの体を思いっきり蹴り飛ばして、距離を取りながら叫んだ。叫んだ所で、クシアの魔法を避けきれず、吹き飛ばされ、そこにクリスが剣を突き刺しに来る。バレルは咄嗟に刀の鞘を投げて、クリスの勢いを殺して、その間に体勢を整えて、クリスをクラフトのように蹴り飛ばす。だが先ほど蹴り飛ばしたクラフトがすごい勢いで、迫ってくる。既にバレルが防御したり、避けたり出来る距離では無かった。だがこのまま行けば、クラフトの攻撃は確実にバレルの命を奪うだろう。


「ち、チクショー!」


バレルが叫ぶと同時に全身から赤いオーラに包まれる。活性拳・血気。この土壇場で、生きるために発動したのだ。バレルは自分に何が起こったか正確に理解する前に、クラフトの攻撃を手のひらで受ける、その手がクラフトの剣で傷つくことは無く。クラフトは驚いて一瞬動きが止まってしまう。その一瞬の隙をついて、バレルはクラフトに拳を叩き込む。


バキッン!!


そんな音と共にクラフトの体が吹っ飛ぶ。さっきの音は一瞬骨が折れた音かと思っていたが、地面に落ちる剣の刃をみて、バレルの拳によって根元から剣がへし折られたことが分かった。その後ゼノンは膝をついて、倒れそうになる。今での全身の力が抜けてしまったようだ、体力も録にない状態で活性拳・血気を使ったせいだろう。


それがクラフトの咄嗟の行動かそれともただの偶然か、分からなかった。だがその行動がクラフトにまだ戦闘不能を至らしめなかった。


それがまずかった。それがクラフトのスイッチを押してしまったことに俺は気づいていなかった。


「よし、これで逃げるぞ」


俺がそう言って、ゼノンと共にクリスタルを握り締めた。力が抜けているゼノンの手を掴み無理やり持たせる。ゼノンはさっきの最後の魔力を注ぎ込んだ。その瞬間俺に向かって何かが飛んできて、頭に直撃する。頭に直撃した勢いで、体も少し吹き飛んだ。俺の手がクリスタルから離れる。だがクリスタルそのまま魔法を発動させて、俺の目の前からゼノンの姿を消してしまう。俺は物が飛んできた方を見る。クラフトが立ち上がって、全身が白いオーラに包まれていた。

活性拳・零式、その強くなった腕力に任せて、投げたものが当たれば普通は頭ごと吹き飛んでもおかしくは無かった。頭が吹き飛ばなかったのは、最後に目にしたのはその景色で、そのまま俺の目の前が暗くなった。




「くっそ!」

クラフトは目の前で戦っている魔族が、時間稼ぎをしていることが分かっていた。後ろでクリスタルの魔力を込めている白髪の男を倒したかったが、目の前にいる魔族を倒さないで、背後に居る白髪の男に切かかれば、背後から切られるのは間違い無かった。だから目の前にいる魔族を倒そうとしていたが、倒しきれず、逆に倒されそうになる。


クラフトは魔族に蹴り飛ばされ、その飛んでいる中でクリスタルが光り輝くのが目に入る。クラフトはここまで必死に使おうとしているクリスタルには、一気に自分たちを破滅させるほどの魔法が秘められていると思っていた。クラフトはなんとしてもクリスタルの魔法の発動を止めなければ、自分たちが死んでしまうと感じ、思わず使うのを止められていた活性拳・零式を使ってしまった。そして最後のあがきで思わず手に持っていた壊れた剣を、クリスタルに向けて投げた。クリスタルが壊すつもりで投げた剣が、軌道がずれて、白髪の男の頭に当たってしまう。クラフトは男の頭がはじけ飛ぶと思っていたが、そのまま吹っ飛び、クリスタルから手が離れたことによって、当初の目論見とは違うが、魔法の発動を止められたと確信した。

だがクリスタルは光輝き、魔法が発動し続けているのを見てしまった。クラフトが死を確信したが、魔法が発動しても、自分たちが死ぬことは無く、そこには魔族の男が去り、白髪の男が残っていただけだった。





「……で、どうしてこの男を生かしておくんだ? この男は魔族と協力していたんだぞ!」


ここは獣人の村で、クラフト達が借りている一室だ。ベッドにはシロウが寝ていた。


「少なくても私はこの人に命を救われたの! 何か訳があるはず!」


クリスは髪の毛を激しく揺らすぐらいに首を振りながら、クラフトとシロウの間に立って、シロウにクラフトをそれ以上近づけさせないようにする。


「でも俺もその男と戦ったことが……」

「それはあなたが悪事を働いていた時の話じゃないの?」


クリスが鋭く目を尖らせて、サムイを睨みつける。睨みつけられ、更にクリスに言う通り悪事を働いていたら、言い返すことができず『アハハ』と乾いた笑い声を出した。


「僕も殺すのはどうかと……確かにアルビオンさんは我儘でしたけど、決して悪い人ではなかったです」


クリスを援護するように、クシアが一言言う。


「まあ、本人が起きたら聞いてみましょう」


治療巫女のアクアはそう言うって、取り敢えず生かす方に意思表示をした。


「そろそろ目を覚ましそうです」


教会の巫女のアリストラがそう言って警戒する。アリストラが言うようにベッドの上で身じろいでいた。


「アリス!」


クラフトがそう声をかけると、アリストラは分かってますよとばかりに、全員に魔法をかけ

て、ステータスを底上げして、いつでも戦えるようにする。

シロウが完全に目を覚まして上半身を上げると、周りにいる全員を見渡す。


「私のこと分かる? クリスだけど」


クリスがそう言いながら近づき、シロウの瞳を見つめる。シロウは少しの間沈黙し、やがて口を開いた。


「すいません、覚えてません」

「そ、そうよね。何年も前のー」


クリスが落胆したようにそう言いかけた所に、シロウが言葉を重ねる。


「と言うか僕は誰で、ここはどこなんでしょう?」

「え? 今なんて言ったの?」


シロウの口から聞き流せない言葉が飛び出た。


「僕は一体誰なんでしょう? 何も思い出せないんです」


シロウは不安そうにそう言って、クリスのことを見つめる。




「記憶を失っている?」






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