表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

クリスルート

「早く扉を閉めろ、誰かに見られたらどうする」

魔王に言われて俺は扉を閉めようとする。意地悪で締めなくても良かったが、それじゃ話が進まないのでやめた。


俺がドアノブに飛びついて、扉を閉めようとすると、扉が突然開き、俺の体がドアを開けた勢いで、ドアノブから飛ばされる。俺は突然の事だったが、綺麗に地面に着地を決める。


「シロウ? この映像は……」


ドアを開けたのはマリアだった。と言う訳か出かけたはずのマリアが戻ってきたのだ。魔王とザイード、そしてマールは呆気に取られていたが、事態を理解すると頭に魔王は頭を抱え、マールとザイードは苦笑している。


「恐れながら魔王様」


マリアはいつもの言葉数が少ない喋り方をやめて、しっかりと話す。


「なんだ?」


魔王は頭を抱えたまま返事をする。これから聞かれることは予想出来たが、その予想が外れて欲しいと願っていた。


「これはどのような状態なんです?」

「…………」


魔王が沈黙している。正直どう答えるか悩んでいるようだった。


「勇者と戦っている所だよ」


「おい、糞猫!!」


俺が答えると魔王が俺に怒鳴ってくる。


「これを見られた以上誤魔化しようが無いだろう?」

「ぐぬ」


俺にそう言われて魔王は何も言えなくなる。魔王もそれが分かっていて、答えあぐねていていたのだろう。


「……全力を出してない」


マリアが不思議そうな声で映像を見てる。確かに俺でも分かるぐらい露骨に弱いが、マリアにもそれが分かるのか。


「マリア分かるのか?」

「うん、弟子。私に剣の基礎を教えてくれた」


マリアは映像から目を離さず、教えてくれる。


「……師匠勝つ気がない………死ぬ気」


マリアはすぐにバレルがどのような決意でいるのか、すぐに悟ったようだ。弟子を名乗るだけあるようだ。


「助けにー」

「行くことを禁じる」


マリアが助けに行ことを提案しようとすると、魔王がそれを厳しい口調で止める。


「どうしてですか、魔王様!」

「図に乗るのもいい加減しなさい、マリア殿」

マリアを叱るようにマールが口を出す。

「一般のあなたに話す必要のない話。魔王様の娘のご友人とは言え、いい気になりすぎよ」

「それはー」

「確かにあなたはバレル殿に剣を習ったかもしれなが、それだけの話。この話を説明する必要もないし、助ける権利もあなたには無い」

「……」

マリアは無言だが、マールが言っていることが、正しいとは理解しているようだ。


「魔王として命じる、この部屋から出て行け」


魔王にそう言われ、マリアは地面にいる俺を抱えて、部屋から外に出る。正直なんで俺まで外に一緒に連れ出したのか分からないが、あんな状態だと女神の所に行くのは諦めるしか無いだろう。


「シロウ」

「何だよ?」

「師匠を助けてほしい」


マリアが言ってくることは半ば分かってはいたが、俺は正直断るつもりだった。勇者はともかくあそこには知り合いが多すぎる。顔を見られたくは無い。


「これで師匠の所に行って、帰ってこれる」


マリアが見せたものは、見覚えのあるクリスタル。これは確かビイルが持っていた転移クリスタル。俺が助けに行く手段が無いと思ったのか、クリスタルを俺に差し出してくる。


「行く手段があったとしても、俺は行く気にはならない」

「……普通の猫じゃないことバラすよ」

「……このくそハーフが、エルフの村で助けた貸しを忘れたのか?」

「忘れてない、だから今までマリアはシロウのことをマリアは秘密にしてた」

マリアはそう言うと俺にクリスタルを押し付けてきた。

「今のマリアじゃ、師匠を確実に助けられる保障は無い」

「だから助けて欲しいの、お願い」

マリアがそう言って頭を下げてくる。


「………脅すんだか頼むんだかどっちかにしろ、たく……分かったよ、助けに行けばいいんだろう、助けに行けば!」

「シロウ!」

俺の言葉に感激して、下げていた頭を上げる。


「それでこのクリスタルは?」


俺は渡されたクリスタルを前足で転がしながら聞く。既に魔力が充填されているのだろう、クリスタルは光り輝いていた。


「師匠に渡された、何かあった時に使えば、師匠の所に飛んでいけるって言われた」

「帰りは?」

「ここ」

「分かった、じゃあ行ってくる」


俺はそう言うとクリスタルを咥えると魔力を込めた。魔力を込めると同時に、クリスタルが光俺の体をバレルの元へと飛ばした。



俺の目の前にはバレルとクリス・ミーン サムイ アクア・トレント ナック クシア・クルジス。あと名前が知らないけど、顔を知っているシスター服を着ている女だ。それともう一人豪華なシスター服を着ているが、こいつは知らない人間だ。俺の姿が突然目の前に現れたことに驚くことは………無かった。それはそうだ。こんな時に猫が一匹現れても、気にかけてる余裕は無いだろう。俺は無理やりバレルの首元をスピードに任せて引っ張る。弾丸のように飛び出した勢いのまま戦闘から離れる。


「おい、何だ?!」


バレルの目に前に現れても、俺には気づけていなかったようで、体が運ばれていることに驚いているようだった。体を無理やり運ぶと猫の癒やしで体の傷を癒す。


「シロウか?!」

「シロウだ」

「何しに来た」

「お前の弟子に死なせないでくれと頼まれてな」

「余計なことを、決意が鈍る」

バレルが忌々しそうに呟いて、俺から視線を逸らす。

「全く余計なことを」

「お前が死ぬことに納得している人間はいないと言うことだ、全く」

俺に言われてキョトンとした顔をする。そこから軽く喉を鳴らして笑う。

「そうか、そうだよな。確かにそうだな」

俺は畳み掛けるように次の言葉を吐く。

「そうだ、だから早く帰るー」

「それは出来ない」

「はぁ?!」

バレルの言葉を聞いて、俺の口から素っ頓狂な声が出る。正直ここで否定の言葉出るとは思ってなかった。

「勇者のレベルを上げる必要がある。まだ経験値が足りないんだ」


確か経験値を上げるには、流れ出る血が相手の経験値になると書いてあったはずだ。俺も戦えば必要な分の経験値は賄えるのではないだろう。


「俺も手伝えば経験値は足りるだろう」

「確かに足りると思うが、手加減出来るのか?」

「た、たぶん」

「その言葉は不安だな?」


バレルは乾いた笑いをし、真剣な顔をする。


「頼めるか」

「既に頼まれてるんだよ、取り敢えず傷を治しておくぞ」


俺はそう言うと猫の癒しで体の傷を全て癒す。ゼノンが大怪我をしていたと思えない状態になった。その血まみれの服がなければ怪我をしていたことには気づかないだろう。


「体力までは回復していなから気をつけてくれ」


俺はそう言うと猫の体を伸ばす。それと同時にゼノンは刀について血を、刀を振るって血を飛ばした。


「それじゃ行くぞ」

「ああ」





ゼノンの姿が突然消えた事によって、勇者たちは混乱していた。今までいたゼノンが消えたのだった。最初は姿でも消す魔法でも使ったかと疑っていた。背中合わせでいつ襲われても大丈夫なようにしたいが、だがいくら待っても襲ってくる気配はなかった。周りに潜んでいるのかと重い、魔法で自分たちの周りに風の魔法で一掃したが、敵の死体も気配もなかった。


「逃げたのか?」


誰かが呟いた。それは全員が思っていたことだが、その呟きで気を抜いてしまう訳には行かなかった。だが全員の心には少しだけ、隙ができてしまう。それが次の言葉を吐かせた。


「なあ、あの魔族は逃げたんじゃ無いのか?」


今度は誰が言ったかはしっかり分かった。盗賊だったサムイだ。サムイは武器をクラフトお手製のクロスボウからナイフに武器を替えて構えていたが、正直この緊張感に耐えられなかったのだろう。


「おいおい、誰が逃げただって?」


その声を聞くと全員がその声のもとに視線が向けられる。そこには笑みを浮かべたゼノンと足元猫がいたが、突然姿が変わって長髪で白髪の青年がいるのだった。青年の武器は白銀に光る短いランスのような武器は両手に装備されていた。


「え……シ、シロウさん?」

「オ、オズワルド……なの」

「猫から人に姿が変わった?!…」

「白髪の男!」

「魔族の時の!」

「………?!」


クシア、クリス、アクア、ナック、クラフト、アリストラ、六人がそれぞれリアクションを起こしてくれる。そしてお互いの言葉に顔を見合わせる。その顔には『知り合いのか?!』と疑問が現れていた。そして魔族陣営でも


「し、知り合いがいたのか?」

バレルの顔は驚愕と戸惑いそしてすまなそうな顔をする。バレルはこの中に知り合いとは知らず、そして戦わせるのをすまなそうに思った。

「気にするな、別に殺すわけじゃない」

シロウは何でもないように言うと、武器を構える。それはシロウが戦う意思を相手とバレル、そして自分に示すためだった。そして最初に攻撃を仕掛けたのもシロウだった。そしてそれに反応したのは、ナックとクラフトだった。最初からシロウを敵として見定めていたからである。ほかの人間は傍観とそして敵になったことに戸惑っている。ナックとクラフトが二人掛りでシロウの攻撃を受け止める。


「ほお~」


シロウが関心の声を出す、その関心の声は自分の攻撃を止めたことと、ナックとクラフトのレベルの高さに寄りものだった。シロウは久しぶりに鑑定のスキルを使ったのだった。シロウはこれで大体の力加減を見極める。


(こんな感じでっ!)


シロウは天棒を振るって、二人の体を吹っ飛ばす。ナックとクラフトは無理にそこに留まらず、後ろに飛んで態勢を整える。


「どこで知り合ったかは知らないが、全員で戦うんだ! 彼は今魔族の仲間なんだぞ!」


クラフトは戦闘に参加するように促した。クシアとクリス以外は直ぐに戦闘に参戦するが、クシアとクリスは戸惑っていた。クシアは自分が尊敬する相手に剣を向けること、クリスは自分の命の恩人を攻撃することに戸惑っていた。そしてクリスはこの旅の目的が目の前にあるのだ。戸惑っても仕方ないと言える。


「な、なんでオズワルドが、どうして」


クリスはクラフトの声が聞こえてないようで、シロウの姿を見つめることしか出来ていない。クシアは一応格好として剣を向けるが、気持ちまでは向けきれいない。シロウは話しているクラフトに向かって天棒を振り下ろす。クラフトは剣で受け止めることを避ける。クラフトがいた地面は天棒によって、砕けて土の欠片が中を浮く。浮いた土欠片をもう片方の手にある天棒で、土欠片をクラフトたちに飛ばす。飛ばした土欠片が目に当たらないように、手と武器で目を庇う。


だがそれによって自分の視線を遮ってしまう悪手だった。バレルがいつの間にか接近して、クラフトを蹴り飛ばす。クラフトは咄嗟に魔法を使い、クラフトは空気の防壁を作る。バレルの蹴りが水の中に入ったかのように、動きが遅くなる。バレルは何をされたか分からず、戸惑いを浮かべる。シロウはバレルの体を無理やり動かして、その空間から離脱させる。だがシロウが背中をナックが剣で切り裂く。


「痛っ!?」


シロウの口から思わず声が漏れたが、動きを阻害するほどの痛みじゃ無かった。シロウはその痛みに違和感を覚えた。しっかりと背中を切れたはずなのに痛みが少なかった。


「なあ、バレルちょっと背中見てくれる?」

「あ、ああ」


バレルは突然のシロウの頼みに戸惑いながらも、背中を見る。背中は服が着られて、その下の肌が薄皮一枚斬られている状態だった。バレルがシロウにその状態を伝えると、『あちゃー』みたいな顔をする。


「どうやら、俺の防御力が高すぎて攻撃を食らってもダメージが入らいないみたいなんだ。それだとレベル上がらないだろう」

「……これを手首につけろ」

「これは?」

「手加減なしで戦えるようになる腕輪だ。これは予備だ」


シロウは銀色の腕輪を装備して、自分のステータスを見ると大幅にダウンしていることが分かる。


「これで本気で戦っても大丈夫なんだ」

「むしろ本気で戦わないと自分が死ぬことになる」

「……俺的は防御力を下げてくれるだけ良かったんだけど」

「贅沢言わないでくれ」


シロウは腕輪の具合を確かめながら、もう一度体勢を整えている相手を見る。勇者組は既にクリス以外は戦う覚悟を決めていた。サムイは既にクロスボウから矢を放っていた。そのクロスボウは真っ直ぐシロウに向けて飛んでくる。シロウは全力で天棒を振り上げた。全力で振り上げなければ間に合わない速度だった。


「本当に全力で戦わないといけないみたいだな」


シロウは全力で振り上げた天棒の速度を見て、自分のスピードが思った以上に遅くなっていることを自覚する。


「だから気を抜くなよ」


バレルは右手に刀、左手に魔法を火、水、氷、風、雷、土、光、闇魔法が球体になったものが、浮遊している。バレルは直ぐにどんな魔法でも使えるように、左手で魔法の球体を作っているのだった。正直こんな風に使えるのは、バレルの長年の修行の成果だった。そしてそれによって、クラフトとクシアの魔法攻撃を全て無力化していく。水と氷魔法には火の魔法を風の魔法には土魔法で無力化していく。


「じゃあ、魔法を頼む。俺は物理の方をやる」

「分かった」


ゼノンにクラフトとクシアの相手をして、シロウはナックとサムイの相手をすることになる。シロウはナックに接近を仕掛けて、サムイに矢を撃たせないようする。ナックとシロウの体が離れる瞬間を狙ってサムイは矢を放つが、それが分かっていればシロウにその矢を防ぐことは容易かった。そもそもサムイの役割は遠距離や暗闇の中で、相手から攻撃が届かない距離、見えない距離からの不意打ちがサムイの攻撃手段なのだが、姿が見えて相手に自分のことが認識されている時点で不意打ちなんで出来るわけも無い。サムイの本領を発揮することが出来ない。


シロウの攻撃をナック一人で防ぐ。ステータスが下がったことにより、ナック一人だけでも防ぐことが出来る様になった。だが正直ナックは剣で防ぐことはあまり避けておきたかった。


カチ、カチカチ


剣と天棒がぶつかり合って、少しずつ剣の刃が潰れて来ている。このままじゃ使い物にならなくなる、だがその前に剣が砕けるのが先だろう。だからナックは武器を変える。


「アクア様、武器を!!」

「はい!」


ナックは持っている剣を放棄して、槍に持ち変える。足を狙い、足から上に切り上げ、そして右手にあった天棒を槍で絡めとり、シロウから奪う。シロウはその動きに驚いてナックから体を離す。それがまずかった。天棒の間合いから離れてしまった。そして槍の間合いの方が広いのだ。そしてステータスダウンしているシロウにとって、その間合いを詰めるのは容易では無かった。シロウは武器を失うことを恐れて、武器で攻撃を防ぐことは避けて避けることに専念する。だがそれを待っていましたとばかりに、サムイはが矢を放つ、それも避けようとするが、完全に射線から逃れたはずなのだが、急に矢が曲がってシロウに向かって飛んでくる。シロウは咄嗟に拙い精霊魔法を無理やり使って、風で矢をずらした。頬が浅く切れる。それに対応している間に、ナックの槍が襲ってくる。浅くだが体に傷を付ける。シロウは足だけは切られないようにする。足を斬られると、逃げるスピードが落ちるからだ。


だが避けることに慣れた時を狙って、ナックが新たな攻撃を仕掛けてくる。槍を突き出した後、石突で攻撃を追加してくる。シロウは今までに出てこなかった技で、一瞬反応が遅れて顎に石突が直撃する。シロウの顎が砕けるのが分かる。痛みと衝撃で意識が飛びそうになる。そこにさらに矢が突き刺さる。さらにナックが槍で腹を切り裂こうするが、それを天棒で防ぐ。天棒は槍に絡め取られ、吹っ飛ばされる。だが石突で胴体を突かれ、体を吹っ飛ばされる。


「やったか」

「ナックさん、よく吹っ飛ばせましたね」

「いや、何だか最初より弱くなっている。手加減されている?」

「まさか、魔族の敵ですよ」


サムイは次の矢を番えながら、土煙の向こうの標的に向ける。


「でもあれで少しは動けなくなるだろう」

「顎を砕いたからと言って、動けなくなるとは限りませんよ」

「それだけじゃない、脳震盪を起こしてもいてもおかしくはない攻撃を……」


「クソガーー!!」


土煙の向こうから怒りに満ちた声が響き渡る。


「脳震盪を起こしてもおかしくない攻撃のーの後はなんです? ナックさん」

「何でもない、来るぞ!」


ナックとサムイが武器を構えたが、サムイの持っていた武器が砕ける。


「え?!」


サムイの驚きの声が響く。そしてサムイは自分の手にあるクロスボウの残骸を力なく見つめている。正直土煙から目を離してはいなかった。だが攻撃を受けたのは確かだった。


「後ろだ!」


ナックの声に反応して、サムイが後ろを向く。後ろから白い物体が襲ってきたのだった。今度はナックの手に向かって攻撃してくる。ナックは咄嗟に拳を振り抜くがー。


「グア?!」


その拳から肩まで鋭いナイフで切り裂かれたような傷が出来る。ナックは方の傷を抑える。


「喜べ、ここからは俺も本気を出してやる!」


そこにいたのは、前足をナックの血で染めた白い猫だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ