アリサルート
「……オズワル…ド様?」
俺はアリサとバレルの間に立ち、バレルを威嚇するように睨む。
「お前がここに来るのは、想定外だな。病気で寝込んでいると思っていた」
「悪いな、あいにく俺は元気なったよ」
俺は口の端を上げて笑ったが、俺は状況が理解出来ていなかった。俺は背後に目を向けると、アリサが思い出し様に喋りだす。
「オズワルド様ですよね!どうしてここ?シロウちゃんがオズワルド様だったんですか?」
アリサは俺に再び会えたことに驚きと嬉しさで早口になっていた。
「その通りだ。話している時間は余り無いから、この状況の説明だけしてくれ」
俺はそう言うとバレルに目を向ける。バレルが雰囲気で待っていてくれる事が分かる。
「バレル様が反乱を起こしの。魔王様を殺そうとしていて所を私達に見られて、殺そうとしているの」
俺はバレルに視線を戻した。バレルは特に焦った様子を見せていなかった。
「バレルそれは本当のことか?」
俺は正直バレルが魔王を殺すことは正直思えなかった。バレルは確かに人間を憎んでいるがこんなことをする奴だとは思えない。
「俺が違うと言ったら信じるか?」
バレルは珍しく笑みを浮かべて問いかけてくる。これが俺の初めて見るバレルの笑だっただろう。
「……はぁ~、面倒だな~」
俺は想定外の事件にため息が出た。病み上がりから面倒なイベントが起こるなんてかったるかった。
「オズワルド様、守ってください」
「はぁ~しかたない、ここでこいつ(魔王)を殺させる訳にはいかない!」
今ここで魔王に死なれたら、クミンの面倒を今から見ることになる。そんななことはしたくない。少なくても勇者に殺されるまでは、クミンの面倒を見る気には無い。
「オズワルド様!」
アリサの声に俺への期待と喜びで満ちていた。俺もバレルなら本気になれば勝てると思っている。しかし油断が出来ないのでアリサに指示を出した。
「アリサ武器を持て!」
俺の言葉でアリサはスタッフと取り出したが、俺はそれを良しとしなかった。
「武器は弓矢か魔法にしろ」
俺の言葉でアリサはスタッフを自分の影にしまし、弓矢を構える。スタッフでは活性拳を使った体に傷をつけることは出来ない。弓矢なら皮膚に傷を付することなら出来るし、魔法でも火傷や凍傷などを与えることが出来る。それを確認すると俺はフルパワーの活性拳を使い地面をものすごい勢いで駆けて、バレルの背後を取るが完全ではない。俺は人化すると同時に天棒を腰の辺りから引き抜くようにして、バレルにぶつける。俺はそれで勝ちを確信するが、あっさりよけられてしまう。
「くっそ、何で三式にならない?」
フルパワーで使ったつもりの活性拳が二式までしかなっていなかったのだ。三式なら二式までしか使えないバレルを倒すことは可能だ。それで勝ち目があると踏んでいたのだが、これは大きな誤算だ。俺はその動揺を悟られないようにポーカーフェイスでいようとしたが、バレルはあっさり見抜き解説をしてくれる。
「猫、お前の体力が落ちて三式まで発動できるほど体力が無いんだ。病気で寝込んでいたんだ。体力が落ちて当然だ」
バレルが解説している間に俺は、バレルを倒そうと策を模索していたが何も考えつかなかった。それにバレルは解説しながら、俺の一挙一動まで見ている。下手に動いたら俺がやられてしまうだろう。
そう、『俺の』だ。
「我が魔力を糧に吹き荒れろ、乱氷風!」
バレルは俺に目を向けていて、背後にいるアリサには注意が向いていない。アリサは俺の攻撃が失敗したことに気づくと魔法を使う準備をして、隙を伺っていたのだ。バレルの体が地面から吹き上がる氷の竜巻に包まれる。氷魔法と風魔法の混合技だろう。地面から氷の欠片が生え出し、突風が地面の氷を巻き上げてバレルを切り裂くのだろう。
「爆風炎」
しかし、アリサの魔法はたった一言で発動された魔法に打ち消されてしまう。魔法が乱氷風の内側から発生し、氷と風を消し飛ばしても炎の竜巻は勢いを衰えさせること無く、周りに広がろうとする。
「ひょ、氷壁!!」
俺はこのままでは焼かれると瞬間的に悟って、炎の竜巻を囲うように氷の壁を出現させるが、焼け石に水で氷の壁がどんどん削れていくことが分かる。
「アリサ!アリサ!」
俺は目の前に光景を、ぼーっと見ているアリサを怒鳴りつける。アリサは俺の顔を見る。アリサはどうすればいいか分からずに混乱しているようだった。
「氷の中を水で満たせ!」
「う、うん」
アリサは頷くと手のひらを向ける。音で氷の壁の内に水が満たされていくことが分かる。これによってバレルの攻撃を相殺することが出来た。
だがバレルには余裕があり、俺たちには余裕がなかった。とてもじゃないけどこのままでは俺たちの負けは確実だ。魔法の技能も活性拳も武器の扱いも俺たち二人はバレルより劣る。どうする?一体どうすれば勝てる?
俺は確実に勝てる方法を思いついてしまった。これさえ決まれば俺たちは逆転出来るだろう。今なら凄まじい水蒸気で周りが確認出来ない。今ならアリサにこいつを渡すことが出来る。
「おい、アリサ」
俺はアイテムボックスからキーアイテムを出してアリサに手渡す。
「これは何ですか?」
「キーアイテムだ。これを矢の先につけて、放て。絶対に当たる時にやってくれよ」
アリサに念を押す。バレルにバレたらたぶん勝ち目が無くなるからだ。アリサはしっかりと受け取ると、矢の先にそれをくくりつける。
俺はそれを見届けると天棒を握り締め、バレルに向かって突っ走る。この時にはすでに水蒸気は無くなり、視界が良好だ。
バレルは俺の攻撃を刀で受け流すと、その勢いを利用して体を回転させながら、首に回し蹴りをしてくる。俺はその攻撃をまともに受けて、意識が飛びそうになる。無理やり意識を留めると、気持ち悪さが襲ってきた。俺はそれを無根性で抑え、攻撃を再開する。だが無理やり抑えても攻撃には影響して、最初の攻撃より鋭さは欠けてしまう。バレルは刀で受けること無く、体を逸らすだけで、攻撃を避けてしまう。
俺は先ほどと同じように攻撃を食らわない様に体を転がして距離を取る。
くっそ、こんなことじゃ、アリサに攻撃をしてもらうことなんて不可能だ。
転がした体を起こした時には、目の前に壁が出現する。その壁が俺の鼻めがけてぶつかってくる。バレルの足の裏だ。俺の体を面白いように吹っ飛び体を壁に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
久々に感じる凄まじい痛み。俺の意識は半分飛んでいた。だが次の衝撃が俺の意識を無理やりつなぎ止める。俺は背中を壁に押さえつけられ、バレルに首を掴まれ待ち上げられている。
「この! 離せ!」
俺はバレルの体に蹴りを入れるが、この時既に俺の活性拳は解けていた。活性拳を使っているバレルには子供のパンチより弱いだろう。お返しとばかりに俺の首を絞める。俺は手首を掴み力いっぱい掴む。だがやはり、それも対して影響は無い。
だがこれでいい!
バン!
そんな音共にバレルの体に弓が刺さった。俺はそれを確認すると、人化を解いて猫の姿になる。バレルの手から俺の体が落ちる。俺は落ちながら、バレルに向かって猫の咆哮を放つ。バレルは活性拳を使っているからダメージは入らないが、体を大きくとふっとばすことが出来る。これで距離が取れた。
「マリア!魔法だ!」
俺はそう叫ぶと、俺も精霊魔法を使おうと呪文を唱え始める。
「わ、我が魔力を糧に、吹き荒れろ!風乱」
「燃え盛れ!火炎!」
マリアは俺を見てこの攻撃にどのような意味があるのかと視線で問いかけてくる。俺は黙って魔法に集中するように視線で答えた。
「無意味だ、これくらいの魔法なんぞ。乱氷風!!」
バレルが魔法を唱えたが、魔法は発動しなかった。
「なんだこれは?!」
バレルが動揺している間に、俺のマリアの魔法が混ざり合い、勢いを増してバレルを襲う。
「があああああああああああああ!」
バレルが炎に焼かれる痛みで悲鳴を上げている。そこで急に意識が遠のいていくことが分かる。俺が最後に見たのは、俺と同じように倒れるマリアの姿で、お互いに見つめ合う格好だった。
「はああああ!?全部芝居?!しかも、俺を試すための!?」
次に目を覚ました時には、魔王、バレル、ザイード、バレルが一同に揃っていた。
「その通りだ」
魔王が悪びれもせずに、言い放つ。俺はそれに怒りを感じながら、この事件の全貌を解いていくことに専念した。確かに近々魔王が俺の強さを見たいとは言っていたが、こんな方法を見るとは思わなかった。
「じゃあ、マリアたちがあの場にいるのは何故だ?」
「それはたまたまだ。お前がクズグズしている間にクミンたちが来てしまったのだ、全く寝起きの悪い猫だ」
魔王はそう言って、腕を組む。
「本当ならエリック殿が倒れる所を見せて、バレル殿と猫殿を戦わせようと考えていたのだが……」
「お前が来る前にクミン様たちが来てしまってな、タイミング的に事情を話す時間も無かったのだ」
あの最初の魔王に問いかけるような視線はそれが理由か。
「で俺の強さは合格レベル達したのか?」
「合格点だな」
一応合格は出来たようで、これで修行日々が終わると思うと嬉しく思った。
「そうか、風呂入りたいだ。風呂。どこにある?」
「……ドアノブを五回右に回せば、風呂場に繋がる」
魔王は俺のどうでもいいような、反応に何とも言えない顔をして、答えてくれる。俺はそれを聞くとさっさと部屋から出て行った。病気が治って最初にやろうと思っていたことだったからだ。
俺はドアノブに飛びつくと、体を振り回して五回右に回してドアを開け放つ。するとそこは既に風呂場だった。風呂場直通のようだ。
俺は風呂のドアを閉めると、体をフレッシュで清めて、すぐに湯船に疲れるようにした。風呂場はかなり広く日本の銭湯とよく似ている状態であった。
俺はお風呂に前足から入りゆっくりと体をお湯へ沈めていく。久しぶりの体をお湯に沈める感覚に身震いをする。
「ふにゃ~~」
俺の口から情けない声が漏れる。
「アルビオン様?」
風呂の端から声がする。
俺がそこに目を向けると入っていたのは、アリサだった。