偶然不良を倒すのは喧嘩慣れしていないもの也
第一章
アイドルとしてデビューするまで
さて、今の状況をじっくりと把握したい。
「ようよう、お嬢さん。俺たちと遊ばな~い?」
「そうそう。いいお店知ってるんだよ~。」
「や、やめてください!!」
「お、言ったなクソアマ!!俺たちが誘ってんのになぁ~。」
「そうだなぁ。ちょっとこっち来い!!」
チャラ男が女の子の腕を引っ張った。
「いたっ!!」
「あぁ、いたかったぁ~?でも、そんなの気にしないほどにいいとこに連れてくからぁ~。」
さらに、その腕を引っ張ったのだ。
「や、やめ………いたいっ!」
どうやら、彼女は足をひねったらしい。
いやいや、なんで目の前でこんなこと起きてるの?
とりあえず自己紹介しておこうと思う。
俺の名前は棚望 ヘルト。名前は、ドイツ語で英雄という意味らしい。まぁ、当て字でもいい物が無いらしく、カタカナですまされた。まぁ、減るに人って書かれるよりはましだと思うけれど。
見た目については、多分ほとんどの人が、悪い意味で異様だと答えるだろう。
髪は色素が薄いらしく、灰色だ。それに、切りに行くのがめんどくさいので、伸ばしっぱなしだ。まぁ、伸びてきたら自分でテキトーに切るけど。素人だし、文房具の方のはさみで切るため、切った先はかなりボサッとなる。まぁ、今の髪の長さは膝まではあると思う。流石にバラバラにバサバサと動くのは落ち着かないので、腰のあたりで一回まとめている。髪ゴムとかだと無くしたときにまた買いに行くのがめんどくさいので、輪ゴムでまとめている。まぁ、無くしてもすぐに補充できるので、楽なのだ。
前髪は顔がやや隠れるぐらい伸ばしているが、前が見えないわけではない。
そして、目はよく分からないけれど片方が宝石のエメラルドのように輝く翠色だ。緑と表現するにはまぶしいと親に言われたので翠で書くことにする。
まぁ、他の人には奇妙にしか思わないだろうと思うからか、多少面倒でもカラーコンタクトをいれて、両方黒目にしている。カラーコンタクトのことを隠すために伊達メガネをしてるけれど。メガネはぐるぐるとした牛乳瓶メガネだ。
顔についても自信はない。イケメンの部類には入らないだろうし、一応ニキビやなんかは日頃から処理しているせいか一つも無いけれど、多分見られたら笑われるような顔だ。(自己評価です。人によって評価は異なりますby作者)
そして、性格についてだが、かなり暗い。
根暗だ根暗だと何回も言われてると思う。それのおかげかこの人生モテた事もなければ告白されたこともなく、平凡な生活を学校では送れている。
さて、話を戻そう。
今、女の子がチャラ男二人にからまれている。
それも、俺の進行方向で。
いや、ビルとか道路の間に道があるんですよ。その道を通って俺はある場所に行こうとしてるんですよ。
今日という日はそこに遅れて行くことは許されない。
これまで地道に稼いだお金も、今日のために使うのだと思った。
しかし、さっきも言ったように、チャラ男と女の子のやりとりで道が塞がってることになってるんですよ。
道路に出て迂回しようにも車がビュオンビュオンと走っていて、絶対に飛び出せない雰囲気を作っていた。
あそこに降りた時点で俺は死ぬな………。
なので、大迷惑なのだ。
まぁ、喧嘩が強いという属性を俺は持っていないわけで、立ち向かうのは無理。
かといって、退いてくれと頼んだくらいで終わりそうにもない。
今日はいつもよりも速く起きたのにな……。
学校にも時間ギリギリまで家でくつろぐような俺が、今日は速く起きて、わずか10分で身支度コンプリートで来ているのにな………。
「もう強行突破しかねぇな……。」
もう3分も立ち往生している。これだけあればカップめんが一つ食べられる………。
とりあえず、俺はチャラ男と女の子の間を通り抜けるように走った。
すると、急に動いたせいか、足がもつれた。
そうすると、偶然って不思議だなって思う。
まず、何か支える物をと思って手を出した先にチャラ男の肩があり、そのままチャラ男を堅い地面に叩きつける形になった。
すると今度は足のバランスが悪くなり、派手に転んでしまう。それがちょうどもう一人のチャラ男の顎にクリーンヒット。そして、頭を打ち付けて気絶してしまう。
あ、ちなみに俺の体はチャラ男の腹に一撃喰らわせるように倒れ込んで、堅い地面への直撃が避けられた。
「あ、あの……ありがとうございました……。」
女の子は座り込みながらお礼を言う。
「ど、どういたしまして………なのか?まぁ、偶然だし、恩に着る事なんてないぞ?」
「い、いえ、偶然とはいえ助けてもらえたのには感謝しないと………。」
「まぁ、気にするな。それに、見捨てようとしていたやつに感謝するな。まぁ、偽善者もいたかもしれないがな。」
チャラ男は、あの後やってきたブーメランパンツにジャージのガチムチでかなり日焼けしている男とオカマだと思われる男に「浮気なんてやっちゃだめじゃない(か)。」といって連れて行ってしまった。
あの二人はなんだったんだろう?
「あ、あの~。そういえば、時間って大丈夫なんでしょうか………。」
………あ。
「やばい!!後ちょっとで目的の場所までいけるのに!!」
そんなとき、行こうと思っていた方向から若い女性の人が走って来た。スーツをビシッと着こなしていて、一般的にキャリァウーマンと呼ばれるようなスタイルだと思う。
「ごめんなさい、あなたのアイドルとしてのお披露目会のはずなのに、寝坊して、待ち合わせに遅れちゃって………。って、どうしたの!?なんで座り込んで………。」
「あはは………ごめんなさい、マネージャーさん。私………足、挫いちゃったみたい。立とうと思っても立てなくて………。」
「う、うそ!!なんでこんなときに……。しかも立てないくらい痛いの?でも、お披露目会の予定は今日だって事務所のホームページで大々的に押しちゃってるから今日やらないと………。」
「ご、ごめんなさい!!私のせいで………。」
「あなたは多分悪くないわ………。でも、新しいアイドルは出さないと……。もう、変わりでもいいけど……。あなたは後日デビューさせることは可能だけど、この事務所の信用を崩すわけにも行かないし………。」
俺はそんなやりとりを聞いて、俺は、面倒ごとだと知りながらも、その考えを口に出していた。
「俺が原因でもあるので、何かできませんか?」と。
その後、予想外の答えがくるのに、俺はたじろぐのだった。