クラーク家の心配
「ねぇ、あなた。ガウスさんにはやっぱり欠席を勧めた方がいいんじゃない?」
そう夫に向かい話しかけるのは、ルディの旧友アニエスの妻ルリである。
「一応言ったんだし、それでも気にせず僕等に会いたい方が勝ったんだから仕方ないさ。」
「でも・・・私だったら嫌だわ。そんな昔の彼女・・・ではないのよね・・・だからこそ何を考えているかわからないじゃない。そんな人にあのカリンさんが呼び出されるなんて。」
「・・・ああ、君も子鹿会会員だったか。そりゃ心配になるだろうけどさ、そこは僕等でカバーしようよ。君も彼女と親しくなれるチャンスだよ?」
夫にそう言われては反論しにくい・・・ルリは王宮勤めの侍女でかつての子鹿会の会員であった。ふぅーっと息を吐き、それでもまだ納得いかない風な妻を見やりアニエスが問いかける。
「エリカも馬鹿なことはしないさ。まあ、同じ人妻の立場に立てば面白くないのはわかるけど。」
「違うのよ、アニエス。あのエリカって方、気位も高いでしょう?私もお勤めしている時に何度か見かけたし、噂も聞いてるから心配なの。」
「噂?」
「欲しい物の為なら何でもやるって。」
「あ〜、それね。学生の時からだよ、変わってないな全く。でもさ、ルディが一緒だから平気だよ多分。」
「そう・・・そうね。」
そう返事しながらも内心何事もなければいいとまだ心配しているルリであった。
そして、心配されている二人は懐かしい我が家に帰ると同時に近所から人が集まり「お帰り会」なるものが行われていた。
「全く、一年もどこほっつき歩くつもりだったの⁉︎」
双子を夫に託しワインを飲みながらアナスタシアがルディに絡む。
「えーっと、カリンが見たことの無い景色のある場所を転々としようと。」
「あら〜、愛されちゃっていいわねカリン。それにしても、よく一年も休暇が取れたね。」
と、イェンナが。
「働かせ過ぎたとアルベリヒ殿下が反省してましたから。お陰で私の仕事が少しばかり増えましたけど。」
「うわ、オブリーさんすみません!帰ったらお返しします。」
両肩に双子を乗せてオブリーがにっこり笑う。
「帰ったらって、帰って来たんじゃないんですの?」
フェンリルの子どもも随分大きくなって皆で少尉にじゃれついている。
「いえ、今回は同窓会があって。それが終わればまた何処かに行こうかと。すみませんフェンリルさん、留守中掃除とか任せて。」
「あら、それはいいんですよお仕事として任せてくださってるから。でも、またお出かけに?」
「ええ、カリンの体調を見ながらですけど見るもの全部が珍しくてかえって元気なんですよ。」
そう言って子ども達と遊ぶカリンを見る。
「なんか、雰囲気がちょっと変わったわよね。なんていうか、女っぽくなった。」
「そうそう、表情とか。今迄はどこか中性的だったけど・・・愛ね。」
「うん、愛だわ。」
うんうんと頷き合う女性陣に居心地が悪くなりそっと、その場を離れる。
「お!魔法使いのおにーさんが来たぞ、なんか出してもらうか?」
「「「見せてぇー」」」
子どもらにせがまれ、ちいさな手に収まる光る球を出してやるとそれぞれが母親に喜びながら見せに行く。
「いやぁ〜、なんであいつらいっつも俺にばっか構うんだ⁉︎こっちも流石にあの人数は疲れるわ。」
と、言いながらも少尉の顔は笑っている。
「一時帰宅だって?」
「はい、同窓会に。」
「エリカ・ペイン?」
「ご存知ですか?」
「ん〜、あんま言っちゃいけないかもしれないけどさ彼女には気を付けろ。」
いつもどこかおどけた少尉が珍しく真面目な顔で声を潜めて話す。
「俺も噂しか知らないけどな、手段を選ばない女で今の地位にも登りつめたって聞いてるけどそんなのが名指しであんたら二人に必ず来るよう言ってきたんだろう?あんたはさ、魔法師だからまだいいけど俺はカリンちゃんが心配だねぇ女は怖いから。」
「そんなに彼女の評判は悪いんですか。」
「ん〜、らしいよ。ごめんな、あんた同級生なのに。」
「いえ、僕もあんまり知らないんですよ。だから、聞こえて来る話が全部悪いと段々心配になりますね。」
「だろ?何もないように頼むよルディ、俺さあの子は妹みたいに思ってるから。」
はは、あっちはあなたに父親像を重ねてますよ。