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ふたりで紡ぐ物語  作者: にしのかなで
第三章
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比翼の鳥

白々と夜が明ける頃に、泊まり明けで帰宅したルディをフェンリルが迎えた。


「ああ、本当にすみませんフェンリルさん。」


「おかえりなさいませ、私は一向に構いませんよ。主人も泊りの仕事は了承済みですし、ところで泊りのお仕事はまだ続きそうですか?」


「え?もうじき泊りはしなくてよくなりそうですけど、何かありましたか?」


玄関で荷物と外套を受け取ってフェンリルが話があるから居間で待つよう指示してきた。やがて温かいお茶と共にフェンリルが入って来る。


「カリンはまだ眠っています、あの子昨日はちょっと調子が悪くて・・・あ、でも体調はいいんですよ。ただねぇ、精神的に不安定みたいで。」


その言葉にルディが身を乗り出す。


「どういうことですか?」


その様子をフェンリルがジッと見つめ、溜息を一つ落とすと話し始めた。


「はぁ〜、本当に二人ともすっかり大人になっちゃいましたねぇ・・・。ルディ様、一つ確認したいのですがあなたは父親になる覚悟がありますか?」


「は?え?あ、父親にですか。えーっと、そうか僕父親になるんですよね。うあ、ずっとカリンの身体の心配ばかりで・・・そんなに深く考えた事なかった。」


「やっぱりねぇ。仕方ないですよ、お忙しかったですし。で、どうですか?父親になる気分は。」


直球の質問に言葉が詰まる。


「そ、そうですね。その、なんていうか僕って普通の環境に育ってないからなんだか心配になってきました・・・まずいなこんなんじゃ。」


「普通じゃない環境とは?」


「フェンリルさんもご存知でしょう?僕は孤児で養父母の元にも5歳迄しかいられなくて、その養父母も可愛がってくれたけれど二人とも魔法師で、その後は公爵家の離れでフェンリルさんとオブリーさんのお世話になって。学校に上がってからは寄宿舎生活だし、休みの間はやっぱり離れに帰っていたし・・・どう考えても普通じゃないですよこれ。」


「そうですね。ではカリンはどうでしょう?」


「カリン?カリンは・・・僕と同じだ・・・まさか、あの子それを心配して?」


「はい、そのまさかです。」


フェンリルはお茶を一口飲んでから続けた。


「女の身体は妊娠すると様々な変化が起こり、精神的にも不安定になりやすいんです。それで昨日あの子が私に自分の生い立ちを考えると母親としてやっていけるのかわからないと言って泣き出して・・・昨晩はアナスタシア様とイェンナさんに来て頂いて、少しでも気が休まればとそれぞれの経験談を話して聞かせたのですけど。」


「僕が受け止めなきゃだめですよね。」


「ええ。ルディ様に相談するように話してあります、でもルディ様も似たような環境で育たれているでしょう?だからいきなりカリンの話を聞いて今度はルディ様が沈まれてもいけないと思いまして、確認させて頂きました。」


「父親の覚悟かぁ・・・どうだろう。僕の養父はいつも忙しかったしそれ以外では僕の安定しない魔力のせいでいつも溜息をつかせていたし。実際のところ僕が家庭に近い生活をしたのって公爵家の離れで屋敷預かりだった間なんですよね、オブリーさんとフェンリルさんと食事して色々教えてもらってそこにカリンが加わって・・・あんな生活をすればいいんでしょうか?」


「いいと思いますよ。オブリーさんも詳しくは知りませんが家庭の事情とやらで、魔法魔術技師学校に入学してからは遠方のご実家には帰らずにずっと大叔父様が執事をしてらしたあの離れでお休みは過ごされていた様ですから。皆さん、意外と家庭と縁が薄かったりするんですよね。さてと私はこれで失礼いたしますね、ルディ様もお疲れでしょう?軽い朝食は作ってあります、お昼前にまた様子を見にきますね。」


フェンリルの去った後、そっと寝室に入るとカリンはルディの枕を抱えぐっすりと眠っていた。妊婦は眠くなるらしいが本当だなと思う、以前は玄関を開ける前には出迎えに来ていたのに・・・。


「たっぷり休んで、元気な子を産めますように。」


銀の髪を一房手に取り口付ける。知らないところで一人悩んで怯えていたであろうと思うと心が痛む。隣に滑り込み横になると眠気が襲ってきた、目が覚めたら君の話を聞こうなんでもいい小さな事でも話し合わなきゃ。君がいるから僕なんだ・・・。


「う・・・ん・・」


カーテンの隙間から差し込む陽射しと小鳥の囀りでカリンは目覚めた。そして、隣で寝息を立てているルディに気づく。その時、お腹が元気に動いた。


「ひゃっ!もぉびっくりさせないで、あなたもお父さんが帰ってきて嬉しいの?」


その声に返事をするかの様にまたポコポコと動く。が、その胎動によってカリンのお腹はまた少し張ってしまった様だ。硬くなったお腹を軽く撫でて「大人しくして。」と、お願いするその傍らでルディが起きる気配がした。


「ん、おはよう。なに?また動いてるの。」


「おはよう、おかえりなさい。そうなの、さっき目が覚めてあなたに気づいたら動き出して。そばにいるのがわかって嬉しいみたいなんだけど、またお腹が張っちゃって複雑だわ。」


ふふっと笑うカリンの為に背中に枕とクッションを楽な体勢で休める様にと敷き詰める。


「ありがとう。」


「うん。あのさ、今朝フェンリルさんから聞いたんだけど悩み事があるんだって?」


仄かに顔を紅潮させてカリンが俯く。


「うぅ、どの変まで聞いたの?」


「えっと、大雑把に大体全部・・・かな?」


カリンは両手で顔を隠し呻きながら呟く。


「う〜、フェンリルさん・・・いやでも確かに話した方がいい事だし、でもでも・・・」


その手が大きな手により顔から外された。上目遣いに見やると金色の瞳が心配そうに覗き込んでいる。カリンの細い手首を掴んだままその手を彼女の膝にゆっくりと降ろす。


「あのさぁ、僕も未知の事だから頼りにならないかもしれないけどさやっぱり話して欲しいよ、大事なことだし僕らでなきゃ誰が答えをだすのさ?」


「うん、ごめんなさい。でも怖かったの、こんな事に悩んでるなんて知られるのも、本当に大丈夫かって心配するのも。早く話して助けてもらいたかったけど今は忙しいでしょう?だから・・・」


「そこで変な遠慮しない、君だけの問題じゃないんだから。」


そこでカリンはプッと吹き出してしまった。


「本当にね。アナスタシア様もオブリーさんに同じこと言われたらしいわ。私達って、お腹に抱えているものだからつい自分一人の問題だと思ってしまうのね。本当は二人の問題なのに・・・話すのが遅くなってしまって本当にごめんなさい。」


「いや、いいよ。それは忙しかった僕にも責任がある・・・そうか、あのアナスタシア様でも悩んだんだ。あのさ、今朝フェンリルさんと少し話したんだけど、それで気づいたんだけど君だけじゃないんだよ不安なのは。僕はずっと君の体調ばかり気にしてたんだけど、よく考えたら僕の育った環境も結構特殊じゃない?」


「!本当だ、失念してたわ。だってあなたにはガウス魔法師夫妻という養い親がいたんだもの。」


「うん。でもあの養父母に実際育てられたのは5歳迄なんだよね、その後は君と大して変わらない。つまり気がつけば僕も親になることに対して考えてみろって言われるとさ、「うっ」と詰まるんだよ。今ちょっと忙しくて、でも年内にはどうにかなるからさ時間を見つけて二人で考えようよ。ていっても何から考えたらいいのかわからないけど、例えばさ子どもは男の子かな女の子かなとか名前はどうするとかそんな事でもいいんじゃないかなぁ?コレが正しい親ですよって見本はないと思うんだよ、だから僕らにしか作れない家族の形を・・・そうだな、設計図を書くみたいにさ思いつくままこれからは話そうよ。」


とろけそうに幸せな笑顔を作りカリンが答えた。


「ありがとう、ものすごく大きな設計図になるかもしれないけど頑張って作っていきたい。」


そうして二人はフェンリルの作った朝食を頬張りながらポツリポツリと、お互いの思いを語り合い始めた。

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