神の審判 1
国中が祝賀ムードの中、ついにその日が来た。王太子アルベリヒの即位の儀であり、その事を主神ハーヴェイに審判してもらう一大儀式の日だ。早朝からカリンも準備のため王宮内にある神殿に入っている。
「あの、本当にそれだけでいいのですか?」
エリンの用意してくれた衣装に身を包み、手順を再確認し不安気にカリンが神官らに問う。彼等は式典が始まるとカリンには中央の天窓の下にただ立ってもらえればいいと言う。
「はい、こちらからあちらの神殿に呼びかけますのでガウス夫人には中央にてお立ちいただき、ただあちらからの使者、或いは主神御自身をお待ちいただければ宜しいです。後はあちらの方から指示がございますゆえに、ただ心穏やかにお待ちください。」
「えーっと、殿下の即位に際しての質問などは?」
小首を傾げて問いかける。
「こちらの用件は既に伝えてありますので、私どもは返事を頂くのみになります。今回はあなたの役目は言うなればこちらとあちらを繋ぐ門と、お考えいただけたら解りやすいですかな?」
「門・・・ですか?」
「はい、あなたのお力を少し分けて頂きあちらの扉を開けさせて頂きます。そこからこちらに門を潜りあちらの方がいらっしゃられます。お力を借りると申し上げましたが、あなたは地上で唯一ハプトマン神の名を持つ事が許された者ですので我々が門の役目を果たす時ほども体力は使わないで済むそうです。お身体へのご負担については神の保証済みですのでご心配なく。」
「はぁ・・・」
「主神に会われたことがあるそうですね?」
「あ、はい、何度か。」
「多分、今日もその時のお姿でいらっしゃると思います、会う相手、時、場所や内容によってはお姿を変えられるのですよ。今日のような場合は威厳ある本来のお姿が多いのですが、あなたがお会いしたのは少年のお姿だそうですね。余程、あなたをお気に召していらっしゃるのでしょう。年が近いお姿で現れる時は大抵そうなんですよ。私どもも久方振りにお会い致しますので大変楽しみにしております。」
主神との交信については以上のような簡単な説明を受けたのみで、どうやら本当にカリンはその場所に立ちハーヴェイ神を迎え入れれは良いだけのようであった。
「ま、いらしたらいらしたで何とかなるのかな?」
いつもの癖で小首を傾げながら時間まで椅子に座り待つことにする。カリンの立ち位置に示された場所の正面にアルベリヒが審判を待つ席がある。更に後ろ正面には現国王の席が、そしてカリンを挟んだ両脇に神官と魔法師の為の席が用意されている。その魔法師の席にはルディが座ることになるがこちらはカリンの様に気軽にはいかない、アルベリヒとアレクサンデルがそれぞれ神により次期国王・王太子に相応しいかどうかを見極めてもらい、認められればすぐに現国王・アルベリヒ・アレクサンデルと三人同時に結界の張り直し作業に移る。ここではそれぞれの魔法師の息が合わなければ隙をついて刺客に狙われるという事もあるので、作業は慎重に息を合わせて行われる。アルベリヒの王太子としての結界はガウス魔法魔術技師長が解くことになっている。ルディはアレクサンデル王子の結界を解き次にアルベリヒに結界を張る。そして更に次期王妃とその他の王子王女の結界を解き新しい結界が張り直す、それで結界の張り直し作業は終了となる。
既に椅子に腰掛け後は本番を待つばかりのカリンと違い、魔法師らは忙しそうに動いていた。万が一の刺客に備えての配備、更に魔具に不備がないかの調整など本番に備えての準備が入念になされている。
「なんだか、申し訳ないわねぇ・・・。まさか、こんなに何もしなくていいとは思わなくって・・・。」
忙しげな魔法師らをボンヤリ見つめながら独り言を呟く。
「ルディ、これどうなっている?さっぱり術式の発動がわからん。」
アニエスが困惑した表情でルディに近づく。彼は新王太子アレクサンデルの専属魔法技師になるので、ルディが現在の結界を解いた後に新しく結界を張らなければいけないがその際に使用する魔具を作製したのはルディである。
「あー、万が一専任魔法師が決まらなかった場合に備えていたのが裏目に出たな。ちょっと貸して。」
小さな指輪を受け取り一つの石をこすり息を吹きかける。
「はい、ここ。この石に君の魔法式を組み込めばいいから。」
「結界だけじゃないのか?」
「うん、ごめん。君が専任魔法師だって事を刷り込んでくれたら後は結界が君の術式で発動するよ。」
「やけに簡単そうに術をかけていたけど、俺にはさっぱりわからん術式で焦ったよ。でも様はこの石に俺の事を覚えさせればいいんだな?」
「そう。なかなか専任魔法師が決まりそうにないって聞いてたからさ、いざという時は僕が結界を張って専任者が決まれば簡単に交代できるよう術をかけてたんだけど・・・複雑だった?」
「複雑。ま、お前の魔法は昔から複雑だったからな〜。」
「はは、何とかモノを壊さないよう念入りにやってるうちにそうなったのかもね。さて、そろそろ始まるのかな。」
「だな、神官殿方も席に着き始めた。な、お前の奥さんも大変だな?」
「全くその通り。でも、もし殿下に不適格を出されそうになったらカリンほど殿下の弁護に最適な人はいないと思うよ。何たって今まで一番迷惑かけられて、身分も気にせず叱り飛ばしたのは後にも先にもカリンだけだろうからね。」
「はは、ウルリヒ絡みの話か。噂には聞いているが、実際にこの目で見たかったな。」
その時10時を告げる鐘の音がして、更に王族ら入場の合図が鳴り響く。カリンとルディはそれぞれの持ち場で固唾を飲んで王族の到着を待った。




