夢の中
寄せては返すあの波の音が不思議と気持ちを楽にしてくれる。
きっちりと一年もの長期休暇を取ったルディは次の日にはもう旅に連れ出してくれた。初めて見る海は驚く程広くて碧くて白波が立ってカモメが飛んで砂浜に恐る恐る降り立つと波が足を攫いにくる。
砂浜の所々に光るものが見えたので、あれは何?と、尋ねると貝殻や瓶の欠片だね裸足になると危ないよ。と、教えてくれた。ほかにも綺麗な色の石が転がっている、我慢できずにハンカチを取り出し拾い集めるカリンを微笑いながら「まるで小さな子どもみたいだ。」と言いながらそれでも一緒に探してくれた。その宝物達は今は枕元で潮の香りをほのかにさせながらおとなしくしている。
窓を開けて眠っていたから潮の香りと波の音で目が覚めたのかそれとも夢をみているのか、隣で静かに寝息をたてる彼を起こさないようにそっと上半身を起こす。
くすくす
笑い声がして暗闇に目を凝らすけれどなかなか見えない。悪い気配はしない、久し振りにハーヴェイ様が現れたのかしら?と、小首を傾げているとパタパタと小さな足音が複数聞こえる。思わず上掛けをギュッと握り締める。
「誰?」
パタパタ・・パ・・・
”きゃっ⁉︎”
”どうしよう?”
”しーっ、しずかにかえろう。”
ちょっと待って、夜中に他人の部屋に入り込んで逃げる気⁈よーし・・・そっとベッドからおりる。衣擦れの音をさせないよう注意して。まだ、ドアは開けられていない。小さな声で怖がらさない様に話しかける。
「こんな時間に他人の部屋であそんじゃだめよ。お顔をみせて?怒らないから、ね?」
”だーめ”
”ごめんね、またくるから”
”しっ!よけいなこといわないの。”
くすくす
パタパタ・・・
あら?なんだか目がまわ・・・る・・・。
「ん・・・?」
瞳を開けたら眩しい光を背に、ルディが心配そうに覗き込んでいた。あれ?なんでそんな顔してるのだろうと、訝しむ。
「お、おはようございます。」
「おはよう、気分はどう?」
「え?っと、悪くないですけどあのぉ〜何かやらかしましたか私・・・」
「・・・憶えてない⁉︎」
「はぁ・・・ん?ん〜なんかあった様な・・・あ、そうだ!夜中に目が覚めた気がしますけど・・・わかりません。」
はぁぁ〜と、彼がため息をつく。久し振りだこんなやりとり。
「あのねぇ、君は床で寝てたってゆうか倒れてたんだよ⁈僕も夜中目が覚めて隣に君が居ないからさ、心配でベッドを降りたら床に倒れて寝てるし。カリン?本当にどこもなんともない?」
カリンの頬に手をやり益々心配気な目の色になる。うーん、なんだか思い出さなきゃ悪い気がする・・・でも駄目、無理だ・・・仕方なく上掛けを顔半分まで持ち上げて表情を隠す。
「す、すみません。全然思い出せません・・・。」
その言葉を聞いてからルディは椅子に腰掛け難しい顔をして、悪い気配はなかったとか、小さい頃にも寝ぼけたり夢遊病はなかっただの段々小さな頃まで記憶の糸を辿っている。
「ルディ様!私の記憶を読んでみては如何ですか⁈」
我ながら名案と思ったがジロリと厳しい目で見られた。
「それさ、できるけどやられた方はどうなるか前に説明しなかったっけ?」
あ〜、あれは確か王太子殿下の婚約の儀の時に・・・聞いたような・・・あら、困った何だかとても眠いんだけど。ルディはまだ色々と考えてるみたいだが、カリンは襲ってくる猛烈な眠気に耐えられなかった。
「あの、ルディ様?」
「ん?」
「なんだかとても眠いで・・・す」
そのまま意識が途絶えた。
「え⁉︎ちょ、カリン?駄目だ・・・熟睡だ。」
あまりの突然の眠りっぷりに呆れたらしい彼はそれでも、すうすうと寝息をたてて眠る私の傍らで丸一日眠り通したカリンを心配しながら見つめていた。