これからも僕は君に恋をする
「ちいさな僕のお姫様」シリーズ最終章です。
その桜色に染まった指先を初めて見たのはやっと、結婚後初の休みのために懐かしい我が家に帰り着いた晩だった。
夜も更けてからの帰宅になるのに、彼女は温かい食事と笑顔で待っていてくれた。
「お帰りなさいませ、ルディ様。お仕事お疲れ様でした。」
僕の上着と鞄をいつも通り受け取り定位置に置きに行く、あれ?夢だったのかな。ルディは自問自答する、僕らは何も変わってないのか?いやいや確かに僕は三ヶ月前に結婚し、専属侍女であった彼女の夫になったはず・・・余りにも長年の習慣と変わらないやり取りに返って戸惑いながら名前を呼ぶ。
「カリン?」
玄関に突っ立っているルディを振り返り慌てて駆け寄ってくる。
「どうかなさいましたか⁈まあ、こんなに身体も冷えて。」
その時僕の手を握ったカリンの指先が桜色に染まっているのに気づいてその手を取り、まじまじと見てしまった。すると彼女は頬まで似た色に染めて恥ずかしそうに俯き加減で、僕を居間へと手を引きながら話してくれた。
「あの、普通は成年を迎えてからお化粧とか覚えるそうなのですが。私はすぐに結婚してしまったので、なかなか友達とそういう機会がないだろうとアナスタシア様達が色々教えてくださって。今夜にでもお帰りになるルディ様に見せたくて・・・お嫌いですか?こういうの。」
「いや・・・嫌いじゃない(君限定だけど)」
ルディの小さな呟きに安堵の息を吐き良かったと囁くように言う。
「ただいま、カリン。とても似合っているよ、その結い上げた髪も桜色の指先も。すごく綺麗だ・・・会いたかった・・・」
そのまま居間で抱き締めてしまった。だってこれが夢ならどうしようと思うと怖くって。目覚めると、あの研究室の中ならどうしよう・・・。先に湯浴みを済ませているカリンの首筋や髪から仄かに花の香りがする。なんだろう、二人はまだ何にも始まってないのに女の子ってこんなに変わるんだ。
「ル、ルディ様⁈く、苦しいです・・・///もしかして、夢かと思ってるんですか?夢じゃないですよちゃんと居ます、ほら。」
下から見上げてくる翠色の瞳がキラキラとしている。ああ、良かった夢じゃないんだ。
「先に湯浴みをした方がよろしいですね。凄く冷えていますよ。あと、お食事はどうなさいますか?一応寝る前なので消化に良いものにしていますが。」
「うん。湯浴みをしてくるから、後で食べるよ。」
「はい。」
「カリン?」
「はい?」
可愛らしく小首を傾げ返事をする。わかってるんだろうか?いや、三ヶ月も時間があったわけだし覚悟もできてるよ・・・ね?