1つめ! 異世界が来たっ!
お楽しみください
朝起きてもやる事無くて、たまに大学行くけど面倒くさくて。
そんな毎日をダラダラと過ごしながら、俺は時々思っていた。
「ああ~。面白いこと起きねえかな~」
すると右横から、またそれ?ーーと呆れた様に望んでも無い返答が返ってくる。
「あんた毎日それね」
俺の顔を覗き込むように顔を近づけ、明らかに馬鹿にしたような表情で俺を見る女性。
はっきり言ってウザイッたらありゃしないんだが、これが昔世話になった恩師の娘となれば話は別だ。嫌々でも付き合っていかなければならない。
たとえば俺の顔を覗き込む彼女。名前は……宮坂英理子と言ったか?愛称はエリー。
彼女の親には借りが有る。幼い頃、両親が居なかった俺を引き取って、ここまで育ててくれた恩が。
そんなことで、エリーとは幼馴染的な付き合いで収まるわけだ。これでエリーと縁を切ってみろ、たちまち俺の財産は底を突いて、借金まみれの苦学生になってしまうぞ。
「しょうがないだろ。つまんねえんだから」
だから俺は今日も、ウザイと言わずに普通に付き合っている訳だ。
「これから大学行くのに?」
大学だって好きで行っている訳じゃない。エリーと、彼女の両親による強い説得のせいだ。
初めは面倒臭いから働くつもりだったのに、三人の強い説得に俺が折れる形で大学に行く事になった。望んでもいないのに。それから早一年、俺は十九歳になっても変わらず面倒臭がり屋だ。
「面倒臭いからな」
面倒臭いから詰まらないと言いつつも、内心では少し楽しみだった。
何たって、俺たちが通う春桜大学の学食は、トップクラスの味を誇っている。大学に行く楽しみと言えば、学食置いて他に無い。だからこの大学への道が堪らなく好きなんだ。学食食いに行くぞ~!ーーっていう感じがするからな。
「またにやけて…………どうせ学食でしょ?」
ギクッ!何で気付かれた!?…………あっ、にやけてって言ってたな。俺ってそんな顔してるか?
ふと視線をズラしてショーガラスを見るが、まったく顔に変化はない気がする。
「何で分かった?にやけてなんかいないだろう」
エリーに視線を戻して問いかけると、彼女はニコッと笑って溜息を吐いた。
「何年一緒に住んでると思っているの?」
「十五年」
俺は即答する。そりゃあ忘れてないけどさ。いくら十五年同じ家に住んでいたって、分からないものは分からないだろう。つい一年前までは同居していたとはいえ、ねえ。
「それだけ居れば十分よ」
とは言われても、なあ。俺にはエリーの細やかな表情変化は見抜けないぞ?女性限定なのか?
俺はそう聞く。するとエリーは目に見えるぐらい不機嫌になって、歩くスピードを速めた。
「お、おい!」
小走りで俺の前に出たエリーは、振り返って八つ当たり気味に怒鳴り散らす。
「うっさい!一人暮らしでもしたから感覚が鈍ったんじゃないの!?司郎!!」
そう言って彼女は、逃げるように走っていった。
俺はその背中に向け手を伸ばしたまま、呆然と立ち尽くしているだけだった。
「何なんだよ……」
呟く言葉は虚空に消え行く。後に残った俺が惨めに感じた。
「何なんだよおぉぉぉぉっ!!」
それが俺……鳳司郎が二~三年振りに大声を出した瞬間だった。
ーー大学の帰り道。まだ夕暮れと言うほどでもない午後。
エリーに見捨てられた俺は、結局一人で帰る羽目になってしまった。おかげで商店街を歩く俺の足取りはーーーーとてつもなく重い。あんな軽口叩き合っている間柄でも…………いや、だからこそ、ケンカした後は気分が悪くなる。それを明日に持ち越すなんて在り得ない。
だが結果として持ち越すことに成りそうな事に、複雑な感情が渦巻いていて、それが足取りを重くさせている原因なのかもしれない。
「はあ、飯買って帰るか」
溜息一つで気分はーー当然の如くーー良くならず、とりあえずいつも買っている弁当屋で晩飯代わりの弁当を買うのだ。
「いらっしゃい!司郎君」
いつもの様に俺の名前を呼んでくれる弁当屋の女将さんに、いつもとは違う弁当を頼む俺。
いつもは焼肉弁当だが、今日は豚カツ弁当にしよう。そう決め、かなりボリュームのある豚カツ弁当……五百円を女将さんに頼み、しばらく待合室のベンチで待つ。
何とかこの暗い気分を打破しようとーー去年一人暮らしする際に買って貰ったーースマートフォンをポケットから取り出し、エリーにメールを送る。
『朝は俺が悪かったよ。頼むから機嫌直してくれー!』
タッチパネルって早打ち難しいよね。そんな事を考えながら待っていると、数分ぐらいで返事が来た。
『では許して進ぜよう。…………駅前のティーガーデンで五百円×三日分で』
『はあ!?千五百円って馬鹿にしてるのか!?んなもん法外過ぎるわ!!』
返信の文章を見た瞬間、鬼気迫る顔でそんな文章を書き込んでいる俺が居た。
すると今度は数十秒くらいで返信が返ってくる。息を荒くしながら本文を開くと、そこにはーー
『じゃあ許さん。反省するべし』
ーーと書いてあった。はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?何、するべしって!?
口には決して出さず、まるで銀さんみたいな感じで心中ツッコミを繰り出していた。
「司郎君、出来たよ」
文句のメールを送りつけてやろうか等と考えていた俺の耳に、女将さんの出来たよ宣言が届く。しょうがない、今回は許してやるか。ーーと、許してもらう立場の筈の俺はその時思っていた。
女将さんから弁当を受け取り、財布から五百円玉でそれを支払う。
「いつもありがとうね」
「お互い様です」
俺は財布をしまい、女将さんの笑顔に見送られて弁当屋を出た。
まだまだ青い空が澄み渡る頭上に、俺は少し気分が良くなっていた。若干スキップ気味に歩いていると、いつもの分岐点に差し掛かる。右行っても左行っても同じような時間で着くからな……。
今日の気分的には左だな。別に大した理由が有る訳でもないが、このあまり大きくない四季美町で言えば、道によって大きく景色が変わってしまう。
たとえばここを右に曲がる。すると東京程ではないが、そこそこ大きなビルが立ち並ぶ駅前通に出る。ならば左はどうか?そうすると田畑や住宅が並ぶそこそこ田舎の風景が見えるのだ。
だから今日の気分は左。田舎の風景を見ながら帰りたかったからだ。
「はあ、面白いこと起きねえかな?」
俺的には普通のペースで。しかし普通の人から見れば少し速いぐらいのペースで、俺は左の車道を歩いて行く。その途中で、いつも見ている公園が視界に入った。
芝生(雑草?)の生い茂った、遊具が全然無い公園だ。有るのはベンチと滑り台と精々ブランコ。
俺は視界の端に公園を捉えつつも、いつもの様に通り過ぎようとした。しかしーー
「ん?何だあれ?」
ーー公園の中心の丘の上に、何か良く分からない剣みたいのが刺さっていたのだ。
子供の忘れ物か?そう思いながら丘の上まで行くと、その剣が放つ重圧が物凄いことに気が付いた。
「な、なんだ……!」
あまり装飾のされていない、西洋風の剣だった。そこまでは普通のおもちゃ屋で売っているだろう。しかし、その剣は白かったのだ。刃先から柄頭に至るまで。
そして何より、刀身の輝きがおもちゃで出せるクオリティを超えている。まるで本物のようだ。ーー本物見たこと無いけど。
俺はその剣を手に取り、試しに引き抜いてみる。
誰かの忘れ物だったら交番でも届けなきゃな。ーーーーそれだと俺捕まるんじゃねえか?
そんなことを思った瞬間、右手に持った白き刀身の剣はその身を輝かせ、まるで太陽光を鏡で反射している様な光で辺りを包み込む。それが数十秒程続いたかと思ったら、その剣は光を徐々に弱めていった。
「……っ!何だったんだ?」
光が収まった頃、眩しさで閉じていた目蓋をゆっくりと開ける。
右手の剣を見ると、そこには何にも無かった。ーーいや、正確には十字架……というより剣の様なペンダントが右手に収まっていた。そのペンダントは淡い光を放ち続けている。
「何だこれ?剣は?」
公園内を見渡してみるが、白い剣はどこにも無かった。
しょうがないからペンダントに視線を移す。それは光を放つ不思議なペンダントだった。
まさかこれに?ーーいや、それこそまさかだ。俺はペンダントを放ろうとするが、手から離れた瞬間にペンダントは俺の右手に戻ってきていた。
「…………おいおい」
もう一度やるが、結果は同じ。ペンダントを見つめて問いかけた。
「お前はあれか?キング○ムハーツのキーブ○ードか?」
だが当然返答は返って来ない。やべえ、頭がパニックだ。
ゴチャゴチャになりそうな頭で思考するが、何一つ良い案が浮かばない。
そしてペンダントを見つめていると、不思議と吸い込まれそうな感覚に陥る。
白銀の美しい剣を模っしたペンダント。それが俺に言ってくる気がする。
『我を汝が望む場所に掛けよ。さすれば扉が開かれる』
俺はそれの言うがままに首元に掛けた。するとペンダントが一際強い光を放ち、唐突に鎮まった。
首元に掛けたペンダントは光を発さなくなり、不思議な感覚は露と消えさる。
「取れねえし」
ペンダントを外そうとしても、全然外れなくなってるし。多分、俺が首を切らないと取れないんじゃないかなあ。ーーと冷静に(やけくそになっただけ)分析してみたり。
しょうがねえ。とりあえず腹減ったし帰ろう。これはその後だ。
ーーと決めて振り返った時、上空から違和感を感じて空を見た。
「えっ?」
そんな馬鹿みたいな呟きをもらしてしまうほど、上空にあったのは驚愕だった。
そこにあったのはーーーー
ーーーー地面だった。
「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
何と上空の遥か先、多分大気圏前辺りから、もう一つの地球が俺たちの地球を覗いていたのだ!
「どゆこと!?どゆこと!?」
錯乱状態で頭を抱えて上空の地面を見ていると、ふと何気なく気付いた。
「あれ近づいてない?」
間違いない。さっきより近付いて来ている!えっ?あれ衝突すんの?
焦りと不安からジタバタする俺の目に、さらに驚愕のモノが降って来るのが見えた。
「ド、ドラゴン!?ゴブリン!?天使に悪魔……というよりサキュバス!?」
ゲームとかで見た様な風貌のそれらが、俺たちの地上へ向けて落ちてくるのだ!
ドガン!ドガン!そんな音を鳴らしながら地上に降り注ぐモンスターたち。そしてさらに極め付けはーー
「剣!?魔法!?危ないって!!」
それこそRPGとかで見たような剣に、明らかに火球とか雷撃の様なモノが降り注ぐ様は、さながら地獄絵図だ。
そんな中ーー
「あれは……」
とある一つのモノに眼を奪われる。というかモノというより者だな。
それは桜色の長髪をした、真っ白なドレスに身を包む少女。スカイブルーの瞳(何故か見えた)に、頭にちょこんと乗ったティアラ。まるでどこかの国の姫様だ。
それを思った瞬間に、俺はもう駆け出していた。意味も分からず。何となく。
そして俺は彼女を受け止め、大丈夫だーーそう言って笑っていた気がする。
いかがでしたでしょうか?
これでプロローグに繋がるわけです。
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