54.王族との茶会
ヴァレン様と一緒に王城に滞在することになった長期休暇だが、卒業が近づいてますます公務が増えたらしいヴァレン様は執務室に籠りきりになっていた。
ヴァレン様が執務室にいる間は警備も人の目も多いので、ステラは好きに過ごしていいと言われている。
とはいえ最初は執務室で護衛していたのだが、ヴァレン様が立ちっぱなしのステラに気を遣って下さるのが申し訳なくなった。
なのでステラはお言葉に甘えて、外出の予定がないときは王国魔術師団で訓練に励んだり、近衛騎士のアーノルドやメーデンの手が空いているときは鍛え直してもらっていた。
魔法戦で学生に嘗められてしまったので、改めて自分を鍛えようと思ったのだ。
それに、ステラは領地で騎士に鍛えられて育ったので、王城にいるよりも外の訓練場にいる方が気が楽だった。
王国魔術師団では戦闘部隊の模擬魔法戦だけでなく打ち込み訓練や体力作りの走り込み、諜報部隊による隠密訓練や諜報訓練、それに警備部隊による捕縛訓練や罪人の尋問にも参加した。
近衛騎士との手合わせでは、久しぶりに持つ剣が重たく感じて愕然としたが、三日もすれば領地で騎士と手合わせしていた頃の感覚を思い出した。
当たり前だが領地の騎士と近衛騎士では実力が雲泥の差だ。
剣技も武術も桁違いの力と技術を持つ近衛騎士に稽古をつけてもらうと、自分でもわかるほど太刀筋が良くなり、丸腰でも並の騎士なら倒せるくらいの護身術を身に付けることができた。
ステラはあちこちで鍛えてボロボロになりながらも、学びが多く楽しい日々を送っていた。
「ステラに雷を打ち込んだ者を鞭打ちにしたくなるな。」
戦闘部隊による打ち込み訓練で魔術師達から百本の雷を打ち込まれて、防御の衝撃で痺れているステラの腕を撫でながらヴァレン様が言う。
夕食後はステラの私室でカウチに二人で座りながら、のんびりと過ごすことが多い。
今日もカウチに腰掛けて、訓練のことを報告していたのだ。
「なりません、ヴァレン様。私は鍛えてもらっているんです。」
「そんなに鍛えなくてもステラは十分強いよ。」
「いえ。私が弱く見えるせいでヴァレン様まで侮られては悔しいので頑張ります。」
「…っ、そう。」
ヴァレン様がステラの二の腕をぷにぷにと摘まみながら笑いを耐えている。
ステラは女性にしては上背がある方だが、残念ながらいくら訓練しても筋肉には結び付かなかったので我ながら強そうには見えなかった。
強く見せたくてヴァレン様をキッと目に力を入れて睨むように見ると、今度はお腹を抱えて笑われた。
「第二王子殿下、第一王妃陛下より伝令です。」
「入れ。」
外から声がして、ステラは慌てて座り直す。
ヴァレン様はゆったりと腰掛けたまま伝令を見る。
「第二王子殿下、失礼いたします。
第一王妃陛下より伝令で参りました。
明日、ステラ・アルカニス様を茶会にお招きしたいとのことです。
十五時にお迎えに上がりますのでご準備をお願いいたします。」
「わ、私ですか?!」
ステラは驚きのあまりカウチから崩れ落ちそうになり、ヴァレン様に引き戻される。
「第二王子殿下におかれましては、ご公務に励まれますようにと仰せつかっております。
それでは、失礼いたします。」
ヴァレン様が伝令を睨み付けるが、伝令に罪はない。
ステラは頭を下げて伝令を見送る。
「ステラ、母上がすまない。今すぐ伝令を送って断る。」
「ヴァ、ヴァレン様、なりません。第一王妃陛下のお、お誘いをお断りするなど私は打首になります。」
伝令が消えた扉を睨み付けているヴァレン様に、ステラはなんとか意識を保って伝える。
「…それに、私、恐れ多いですが第一王妃陛下とお話ししてみたいです……。不敬なことを申し上げて申し訳ありません。」
その言葉にヴァレン様がはっとしたようにステラを見る。
ステラは、第一王妃陛下に恐れ多くも興味を持っていた。
艶やかに笑うその姿と裏腹に、昼食会のとき、隠密魔法をかけて存在感を消していたステラをほんの僅かな身動きで見破って、お腹が空いていることまで気付かれたのだ。
それに、第一王妃陛下からは王国魔術師から発しているのと同じような燃えるような魔力を感じる。
ヴァレン様のお母様なのだから悪い方ではないのだろうし、一度お話してみたいと思っていたのだ。
「ステラ、無理しなくてもいいんだよ。
王族を怖がっていただろう?」
「大丈夫です。恐れ多いですが、ヴァレン様のお母様とお話しできたら嬉しいです。」
ステラがヴァレン様に微笑むと、ヴァレン様は相変わらず嫌そうにはされていたが、扉を睨み付けるのはやめてくれた。
昼食会の時といい、ご家族のことになるとむきになって子供っぽくなる姿にかわいいと思ったが、あまりに不敬すぎたので心の中で思うに留めておいた。
◇◇◇
翌日、王国魔術師のローブからドレスに着替えて待っていると、迎えにきた侍女に第一王妃陛下のサロンに案内される。
「ステラ・アルカニス様をお連れしました。」
「入りなさい。」
艶やかな第一王妃陛下の声がして扉が開かれる。
ステラは入室すると足を引き、頭を下げる。
「第一王妃陛下、本日はお招きいただき、有り難き光栄に存じます。」
「ステラさん、急にごめんなさいね。
さあ、おかけになって。」
艶やかなのにどこか親しみやすいそのお声に顔を上げる。
美しい黒髪に澄んだ青い瞳の第一王妃陛下が優しい微笑みを浮かべてステラを手招きしてくれた。
ステラも微笑んで案内された席に腰掛ける。
「ステラさんとお話ししてみたいと思っていたの。
ヴァレン抜きでね。」
いたずらっぽく微笑む第一王妃陛下はやはりヴァレン様となんとなく似ている。
髪や瞳の色は異なるけど、表情や仕草はヴァレン様そっくりだ。
「有り難き幸せに存じます、第一王妃陛下。」
「そんなに畏まらないで。話しにくいわ。
娘になるんですもの、お母様と呼んでほしいわ。」
「……お、お、お、母、様…っ」
「そう、それでいいのよ。」
ステラはパニックで口に出してしまったが、自分ごときがお母様などと呼んでいいようなお方ではない。
「ふ、ふ、不敬でした。申し訳ありません、第一王妃陛下。」
「私がいいって言っているのだから不敬ではないわよ。ほら、呼んでみて?」
「お、お、お母様…恐れ入ります…。」
「嬉しいわ。娘がいたらそう呼んでほしかったの。」
「…あの、お母様…は、ヴァレン殿下とすごく似ていらっしゃって、お美しいです。」
「そう?あの子が聞いたら嫌な顔をしそうね。」
そう言ってクスクス笑う第一王妃陛下は本当にヴァレン様にそっくりだ。
なんだか調子が狂って口調も砕けてしまう。




