24.答え
本日二話目です。
(ヴァレン様へのお返事、伝えなきゃな…。)
期末試験が終わって手持ち無沙汰になったこの一週間。
ステラはずっと考えていたのだ。
二ヶ月前の夜会でヴァレン様に伝えていただいたお話の答えを、返さないといけないと。
ステラは早い段階で、ヴァレン様に対する胸の高鳴りの正体に気付いていた。
思えば入学式でヴァレン様の瞳と目が合ったそのときから、ステラはヴァレン様のことばかり考えていた。
領地を離れて初めて王都で暮らすのに寂しくなかったのは、寮で一緒に過ごして下さるヴァレン様のおかげだと気づいた。
友達がいない私を昼食に誘ってくれて、一年生で近衛魔術師に登用されたから浴びてもおかしくなかった周囲の悪意から守って下さったのはヴァレン様だった。
ステラがどんなに不敬でも笑って許してくれて、失敗も咎めないでくれて、困っていたら助けて下さるヴァレン様。
ステラはその優しさに何度も救われてきた。
胸が高鳴ってしまうのはヴァレン様の美しすぎる見た目や不思議な響きの声のせいだと思っていたけど、どんなに麗しくてもヴァレン様以外には高鳴らないから、見た目も声も好きだから胸が高鳴っているんだと気づいた。
ただ、ヴァレン様のことは好きだけど、正直ヴァレン様のお妃様になるのはステラには無理だと思う。
既に王室に忠誠を誓っているアルカニス家ではなく、公爵家や由緒ある伯爵家とか、もっと結びつきを強めた方がいい家はいくらでもあるだろう。
それに、あの麗しい王族方の中に自分が入る姿は不敬すぎてとても想像できなかった。
結婚しなくても、ヴァレン様が許して下さる限りずっと、ステラは近衛魔術師としてお傍にいる。
いつかヴァレン様のお妃様ができて、お子さまが生まれたら…、ステラはその方を全力でお守りする。
ヴァレン様のことを大切に思うからこそ、少しでも強い家を味方につけていただいて、ヴァレン様の望むことを叶えていただきたいから。
だから、結婚はお断りする。
どうやって伝えようとうんうん悩んで、手紙を書いたりもしたけど、途中で恥ずかしくなって魔法で燃やしてなかったことした。
ヴァレン様が直接伝えてくれたからステラも直接伝えたかったのだ。
執事も侍女もいなくて、応接室に二人きりの今なら、伝えられるかもしれない。
「あ、あの…。ヴァレン様、今お時間よろしいですか?」
「大丈夫だよ。」
「あの、聞かれたくないので…防音結界を張ってもいいですか。」
「あぁ、いいよ。」
ステラは応接室の外で待機する騎士に一声かけてから、応接室に防音結界を張る。
「ヴァレン様、前にいただいたお話のお返事をお伝えしたいです。」
ヴァレン様は予想していなかったのか、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつものように微笑んでくれた。
「もっと時間がかかると思っていたよ。
もう考えてくれたの?」
「はい。あの、お待たせしてすみません。」
「考えてくれてありがとう。」
ステラは息を整える。
自分が決めたことの重さに泣きそうになったが、ぐっと堪えて切り出す。
「私、ヴァレン様のことが好きです。」
「…っ」
ヴァレン様は目を丸くして、穴が空きそうなほどステラを見つめた。
「…本当に?」
「はい。思えば、入学式のときから好きでした。最初はそのお美しい見た目や、そのお声が…気になって、それからはヴァレン様のことばかり考えていました。」
まだステラのことを見つめ続けているヴァレン様に微笑んで、そのまま続ける。
「考えていると気づいたんです。
私、領地から出て初めて王都で暮らすのに全然寂しくないことに。
一年生が目立つことばかりしてきたのに、悪意にさらされることがほとんどなかったことに。
それはヴァレン様と一緒に過ごしている時間が楽しいからだと、ヴァレン様がいつも私のことを守って下さるからだと気づいたんです。」
「ステラ…。」
ヴァレン様の潤んだ瞳に見つめられると決心が揺らぎそうになり、ステラはぐっとローブを握りしめる。
「私はヴァレン様の優しさに何度も救っていただきました。
私は、そんな優しいヴァレン様が大好きです。
…恐れ多くも、お慕いしています。」
最後の言葉に、何かを察したのかヴァレン様の顔が曇る。
「でも、私はヴァレン様の近衛魔術師でいたいです。」
「…なぜだ?」
ヴァレン様は冷たさの滲む声で聞く。
自分が傷つけてしまったのだと思うと申し訳なさで泣きたくなる。
「私はヴァレン様のお妃様にはなれません。ヴァレン様のお妃様には、もっとふさわしい方がいらっしゃいます。
私はヴァレン様とお妃様をお守りする、近衛魔術師でありたいです。」
そこまで一気に言って、ヴァレン様を見ていられなくなり目をそらす。
ヴァレン様を傷つけているのはステラだ。
涙が溢れないよう必死に息を整えた。
「私がそなたを欲しいといっているんだ。
私にふさわしい者は私が決める。」
ヴァレン様はステラが従ってしまう、胸に響く声で言った。
無意識のうちに「王家の魔法」の魔力が漏れだしているのか、その金色の瞳の端が紅く染まっている。
「ヴァレン殿下。」
好きではないと言っていたその魔力に染まる姿を見て、ステラはヴァレン様の手を握って、深紅に侵されつつあるその瞳をじっと見る。
あえてヴァレン殿下、と呼ぶ。
ステラには手の届かない、そのお立場を自分にも言い聞かせる。
「私よりも、ヴァレン殿下をお幸せに出来る方がきっといます。
私はヴァレン殿下とそのお方をお支えしたいのです。」
ヴァレン殿下は珍しくふーっと息を吐いた。
自分の魔力の乱れを整えようとされているのだと気付き、ステラは自分の魔力を込めてその背中を撫でた。
こうすれば良い、とステラの魔力が教えてくれたのだ。
「ステラ、傍にいてくれ。」
しばらくして、優しい声色に戻ったヴァレン殿下に安心して手を離すと、逆にヴァレン殿下に抱き締められた。
「今ので確信した。ステラが、『王家の巫女』なんだろう?」
ステラの好きなあの声で耳元で囁かれてぞっと胸が震える。
「…違います。」
ステラは首を振って否定した。
そんなこと絶対に、認めてはいけない。
「そなたが、『王家の巫女』だろう。
神が王家に与えし者だ。
私から離れることは許さぬ。」
その声色に、ヴァレン殿下は王族として、この国の第二王子として命令しているのだということに気付き、ステラは体を硬直させる。
…自分が「王家の巫女」かもしれないことには薄々気付いていた。
白銀に近い髪、ヴァレン殿下の王家の魔力と波長が一致する膨大な魔力。
ヴァレン殿下は「王家の巫女」は王家の傍系に生まれると言っていたが、ステラは父の実の子ではない。
領地の噂で、ステラの実の父親は母が仕えていた先の名のある家のご令息だと聞いたが、子爵家出身の母が侍女に出される家なのだから、伯爵家ではすまないだろう。
公爵家。
レオナルドの実家もそうだが、公爵家は王族しか設立できないので、元を辿れば王家にたどり着く。
母とどこかの公爵家のご令息の間にできた子がステラだとすると、王家の傍系という点も辻褄が合う。
ステラの瞳は母譲りで顔立ちもそれといった特徴がないから、どこの家か特定するのは母に聞く以外難しいけど。
母には嫌な思い出は忘れてほしいので、母に聞くくらいならステラは知らなくてもいいと思っている。
考えても否定できる点が見つからなくて、もしかしたら自分が「王家の巫女」かもしれないと思うようになっていた。
毎日更新予定です。




