23.期末試験
本日一話目です。
「ステラは『王家の魔法』を見たとき、どう思った?」
入学式のあの幻想的な光景を思い出す。
「幻想的で綺麗で夢みたいだなと思いました。」
「あぁ、そうか。入学式で使ったのは儀礼魔法だったもんね。」
「王家の魔法」は精神に作用する物が多い。
でも、入学式で見せていただいた魔法のように、精神に作用するわけではない魔法もあるらしい。
「王家の魔法」についてステラが知っているのはそれくらいだ。
「『王家の魔法』は精神に作用するものが多い。
魔力で強制的に人を従わせるんだ。」
「はい。」
「『王家の魔法』を使うときは、全身の血管から魔力が滲むような感覚だ。
この魔力で民を支配してきた王家の歴史を感じて…私は好きではない。」
「そう…なんですね…。」
深紅に染まったヴァレン殿下の瞳を思い出す。
あのときもそんな感覚だったのかと思うと、美しいと思っていたその瞳に複雑な感情を覚える。
「普通の魔力は、体全体から湧いて来るだろう?」
「はい。」
「だから、普段は共存している感覚があまりない。
『王家の魔法』と一般の魔法を同時に使うことなんて普通はないから、使ってみたらわかるかもしれないね。」
たしかに、王族の側には常に王国魔術師がいるから一般の魔法はそちらに任せておけばいい。
「大変貴重なお話をありがとうございます、ヴァレン様。
私の身に余るお話ですが、大変勉強になりました。」
王族から直接聞かないとわからないから、魔法力学の教科書に載っていなかったんだろうと気づいた。
知らなかった「王家の魔法」の話に、複雑な感情を持ちながらも興奮を隠せないでいると、ヴァレン様はそんなステラの気持ちに気付いたのか言った。
「今度『王家の魔法』を使ってみせようか。試験が終わったら。」
「ええっ!わ、私なんかがそんな貴重な魔法を見せていただいて不敬になりませんか…。」
「私がいいと言えば大丈夫。」
「で、ではぜひよろしくお願いいたします…!」
それもそうか、とステラは納得して、その日を楽しみに勉強を頑張ることにした。
ヴァレン殿下が真剣な表情でステラを見つめていたことには気付かなかった。
◇◇◇
期末試験は始まってしまうとあっという間に終わった。
余裕とまではいかないが、たしかにあんなに勉強をしなくても大丈夫だったかもそれない。
それを二人きりのときにヴァレン様に正直に打ち明けたら思いっきり笑われた。
「ステラはもっと自分に自信を持って。
それから、私の言うことは信じること。」
「はい、ヴァレン様…。」
そして、期末試験の結果が発表される日。
「な、なんかダメな気がしてきたわ。」
「ステラがダメだったらみんなダメだから大丈夫よ。」
アリスに背中を押されて、入学式以来の大聖堂に向かう。
大聖堂の中に立てられた看板にそれぞれの教科の順位と総合順位が発表されるのだ。
既に大聖堂には人だかりができていて、一年生は後ろの方から覗き込んでいるのが見えた。
ステラが痛む胃を押さえていると、中からクリスフォードが出てきてステラにウインクをした。
「見てみろよ、ステラ。」
大聖堂の中に入り、大して良くはない目で必死に看板を読み取る。
「学年別首席
一年生…ステラ・アルカニス
二年生…モーリス・デドモンド
三年生…クリストフ・ケイザン
四年生…ヴァレン・レクス」
ステラは名前を確認してほっと胸を撫で下ろした。
ヴァレン殿下は普段通り過ごされていたのに当然のように首席で、尊い方は頭の作りも違うのだと思った。
それぞれの試験の点数も張り出されているが、ステラの目ではこの距離からは読み取れない。
前の方から去っていく四年生の中にヴァレン殿下の姿が見えた。
ちょうど目があったので人の山を抜けて駆け寄る。
「ヴァレン殿下、首席おめでとうございます。」
「ステラもね。私はステラに叶いそうもないよ。」
「そんな、一年生と四年生で何を比べるんですか…。」
「もしかしてまだ見ていないの?」
「後ろからだと良く見えなくて…。」
「そう。後で見ておいで。…胸を張って私の近衛魔術師を名乗るんだよ、ステラ。」
最後の言葉はどういう意味だろうと考えていると、ヴァレン殿下は私の頭を撫でてから大聖堂を後にした。
そのやりとりを見ていたクラスメイトが固まっていることに気付いて、ステラは赤面しながらまた看板に戻った。
三十分ほど経ってやっと人が減って、ステラでも全ての文字が読めるようになった。
そしてびっくりして固まった。
十二教科、全てで一位だった。
実技に至っては満点を越えている科目もあるが、防御魔術の実技試験が百点中二百点だったのはクリンプトン先生の嫌がらせだろうと思った。
「ステラ、あなた本当にすごいのね。」
「ア、アリス、ありがとう…。」
アリスに声をかけられて動きを取り戻す。
他の学年も確認してみると、四年生はヴァレン殿下とレオナルドが一位と二位で並んでいるか逆になる程度で、僅差で首席と二位だったことを知り、優秀なお二人と仲良くしていただいて、レオナルドに至っては受験の勉強まで手伝ってもらって幸運に感謝した。
「だから言っただろ?ステラ、もはや学院に通う意味ないんじゃない?」
クリスフォードが横から茶化してくる。
「そんなことはないけど、お褒めの言葉と受け取っておくわ。ありがとう。」
ちょっと目立ちすぎてしまったステラは恥ずかしくて存在感を消そうとしたが、ヴァレン殿下の最後の言葉を思い出して、たまには自分を認めることにした。
「よっ!流石だね、首席さん。」
近衛騎士のメーデンの弟、ドラード・グラディウスにも背中を叩かれる。
「ありがとう、ドラード。」
魔法剣術でドラードに勝てたのがステラは一番嬉しかった。
実技試験ではドラードとの最終戦が夕方までもつれて、ステラが転ぶフリをしてドラードが油断したところに不意打ちを決めてギリギリ勝ったのだ。
領地で騎士にボコボコになるまで鍛えられたステラは、戦いから抜け出すには卑怯ではあるが不意打ちが一番だと知っていた。
その日、先に寮に帰っていたヴァレン殿下に付いて寮で待機していたメーデンに、
「やりました!!」
とガッツポーズをすると、
「それでこそ殿下の近衛だ!!」
と固い握手を交わしたのが良い思い出だ。
初めての期末試験でたくさん思い出ができて、首席もとれて、今日は良く眠れそうだと思いながら寮に戻った。
「ステラ、改めておめでとう。」
「ヴァレン様もおめでとうございます。」
二人で勉強した応接室で伝え合っていると、ここで過ごす期間も終わったことに気付き、寂しくなった。
「ステラ、何かあったの?」
「いえ、何でもないです。」
試験が終わったからここでヴァレン様と過ごせないのが寂しいなんて恥ずかしくてとても言えない。
「ステラ?」
「あの、疲れたな~って…」
目を泳がせていると、ヴァレン様はステラの顎を指でくっと掴んで濃い金色の瞳でステラを見つめた。
「ステラ、教えて。」
「…あの、試験が終わったので、ここでヴァレン様と過ごせないのが寂しい…な…んっ」
言い終わる前にヴァレン様の唇でステラの唇を塞がれた。
びっくりして目を見開いていたまま固まっていると、瞳を開いたヴァレン殿下と目が合ってしまって赤面する。
「すまない。ステラが可愛すぎた。」
よく見るとヴァレン様も少し赤くなっている。
人生二回目の口付けに、ステラは自分の心臓が高鳴っているのを感じ、また赤面した。
(ヴァレン様へのお返事、伝えなきゃな…。)




