20.人として
「あの、恐れながら聞いてもいいですか…?」
「いいよ。君の不安を消せるならなんでも聞いて。」
「もしかして、入学式のときのお話のことで責任を感じてくださっているんですか…?」
ヴァレン殿下がステラのことを好きなんて本当にあり得るんだろうか。
となると、あの日の「王家の巫女」の話が関係あるのだろうと思った。
白銀の髪を持つという「王家の巫女」。
今殿下の目に映るステラの髪の栗色は魔法で作られていて、本当は白銀に近い色だということは殿下には伝えていない。
でも、白銀に近いだけで白銀ではないのだ。
だけど魔力の波長は殿下の王家の魔力となぜかぴったり合ってしまった。
「王家の巫女」と魔力の波長が合う者が神に選ばれた王位継承者だというあの話。
ステラは正確には白銀よりも少しくすんだ白い髪だし「王家の巫女」なはずはないけど、その可能性が否定できないから、殿下の庇護を受けていることを示すために近衛魔術師になったのだ。
「私があの可能性があるから、危ない目に合うかもしれないと思って、ここまでして下さったのですか。」
ステラは申し訳なくなって瞳を伏せる。
いっそ指輪を取って髪を見せた方がいいだろうか。
殿下の輝く白銀に比べると、白銀とは言いづらいその色を見たら思い直して下さるだろう。
「…正直、最初はそう考えた。
君を囲うために妃にしてしまおうかと。
君は伯爵家の出身だしアルカニス魔法伯は父上の側近だ。
出自は問題ないし、私には婚約者もいないからちょうどいいと思った。」
「はい。」
やはりそうだったのだ。
本当の髪の色を見せてちゃんと打ち明けなければ。
そう思って顔を上げると、殿下はまた切ない顔をしてステラを見つめた。
「でも、この一ヶ月君と過ごして考えが変わった。
コロコロ変わる君の表情が可愛くて、裏がない私へのまっすぐな忠誠が尊くて、いつの間にか君から目が離せなくなっていた。
君を離したくないと思った。君が私以外の男に触れられるのは耐えられないんだ。レオに嫉妬してしまうほどに。」
ステラは目を見開いた。
「君が私のことを恋愛対象としてみていないのはわかっているよ。
だから返事は急がない。
でもどうか、私のことを王族ではなく、一人の人間として見てくれないか。」
真剣に話してくださるヴァレン殿下を見て、ステラも考えを改めた。
不相応だからと逃げるのではなくて、こんなにステラのことを考えてくれる人に、人としてちゃんと向き合わないといけないと思った。
「ヴァレン殿下、ありがとうございます…。
恐縮ですが…、すごく、嬉しいです。
私のことをそんなに考えて下さるなんて、私はなんて幸せなんだろうと思います。」
ステラはヴァレン殿下を安心させたくて微笑んだ。
「これからヴァレン殿下のことをたくさん教えてください。
あの殿下の、お、お妃様はっ私には荷が重いですがっ…、好きという気持ちはどのようなものか知りたいなと思っています。」
「ステラ、ありがとう。」
ヴァレン殿下が嬉しそうに微笑んでくださったから、ステラも嬉しかった。
「じゃあ、二人きりのときはその殿下っていうのやめてほしいな。」
「えっ?!」
「敬称で呼ばれると距離を感じて悲しい。」
「いや、そ、そんな、お名前で呼ぶなんて不け」
「不敬じゃないよ。私が許可したから。」
「ひぃっ…む、む、む、無理です…っ」
「ほら、…呼んで。」
またあの声で言われて、ステラは負けを認めてヴァレン殿下を見上げる。
「ヴァ、ヴァレン………様…」
「…まぁいいか。二人のときはそう呼んでね、ステラ。」
「はい… ヴァレン…様…。」
「うん、いいね。
それじゃあ、ホールに戻ろうと思うけど大丈夫?」
「はい。すみません、私のせいで抜け出させてしまって。」
「私が連れ出したんだよ。気にしないで。」
ステラが身支度を整えようとするとヴァレン殿下は目で制止した。
「いるんだろう。手伝ってくれ。」
ヴァレン殿下が茂みの方に声をかけるとヴァレン殿下の専属の執事と侍従、朝ステラの着替えを手伝ってくれた侍女がずらっと出てきた。
(い、今の全部聞かれてたの?!!あれも見られてたの?!!)
慣れた様子のヴァレン殿下は、赤面してよろめくステラを見てまた震えるほど笑っていた。
ステラは恥ずかしすぎてドレスや髪やあちこちを整えてくれる侍女を直視できなかった。
特に口元を念入りに直されると羞恥のあまり崩れ落ちそうになり心配されたので、何も考えずにされるがまま支度を整えてもらうことにした。
「ヴァレン…殿下はずっとこうして生きてこられたんですね…すごいです…。」
「今は二人きりだよ。あの者達は口が堅いから大丈夫。」
身支度を整えて、再びエスコートしてくれたヴァレン殿下の隣に立つと、思っていたことがつい口から出てしまった。
気配はないけれどどこかで見守られていると思うと、ぎこちなくなってしまう。
「私が気にしなくていいと言っているんだから大丈夫、ほら、名前を呼んで。」
「ヴァレン…様…。」
「よくできました。」
満足そうに微笑むヴァレン殿下に困ったような顔しかできなくてあやふやに微笑んでいると、護衛の近衛騎士とすれ違った。
そのうちの一人、学院でも護衛をしているメーデンとすれ違うとき、さりげなく親指をぐっと立ててニヤッと微笑まれた。
(騎士様にも聞こえていたなんて…っこんなに大勢に…ああ、恥ずかしすぎる…)
また赤面したステラを見るとヴァレン殿下はやっと騎士の存在を思い出したようで、クスクスと笑われた。
「私といればいつかは慣れるよ。」
「はい…。」
笑いながら言われるがとても慣れる気がしない。




