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天は星に願いを込める~麗しの第二王子殿下は天才近衛魔術師を溺愛中~  作者: 宮前 雫


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17.国王陛下



馬車が静かに停止する。


「じゃあ、行こうか。」


「第二王子殿下のお成り。」


ヴァレン殿下の声を合図に、侍従の声が朗々と響き、ステラの頭は真っ白になる。

外は入学式のときの比じゃなく目立つことになっているだろう。


(ま、待って…まさかこの状況で私も出ていけって言うの…?)


声には出さなかったものの怯えた顔でヴァレン殿下を見上げると、殿下は入学式に見せたときのような人を寄せ付けない表情をしていたが、声だけは優しく言った。


「大丈夫。私が守るから。」


その言葉に目を見開き、これじゃだめだと自分に活をいれる。


「ヴァレン殿下、よろしくお願いいたします。」


微笑む私に、ヴァレン殿下は一瞬驚いた表情をしたが微笑み返してくれた。




扉が開き、殿下が先に降り立つと、すぐに手を差し出してくれた。

その手をとると、領地の家令と侍女に厳しくしつけられたマナーを思い出し、ピンと胸を張る。


馬車を降り立った先にはカーペットが敷かれていて、ずらっと整列した騎士が敬礼していて、侍従と侍女が胸に手を当てる臣下の礼をとって頭を下げている。


その迫力に圧倒されたステラは震えそうになるが、ヴァレン殿下の腕にかけた指に少しだけ力を込めて殿下に微笑んでみる。

私は守っていただかなくても大丈夫です、と伝えたかった。


ヴァレン殿下は感情を感じない冷たい表情をしていたが、濃い金色の瞳は少し微笑んでくれている気がした。




初めて中に入る王城は外から見るよりずっと広くて、煌びやかだった。

シャンデリアがきらめく広いホールを抜けると、長い廊下にはふかふかの絨毯が敷き詰められ、たくさんの肖像画が飾られている。


そっと覗き見たヴァレン殿下はやはり氷のように冷たい表情をしていた。

王族としてのヴァレン殿下はやはり「氷の殿下」なのかもしれない。


ステラの視線に気付いたのか、殿下の瞳がステラを捉える。

表情はないけれど、何か意思を感じる強い瞳にドキッとする。

きっとヴァレン殿下にはご事情があって「氷の殿下」でいらっしゃるのだろう。

そう思ったステラはそっと微笑み返して、エスコートされている腕に力を込めた。



ホールにたどり着くと、壁に沿うように整列した近衛騎士が一斉に敬礼をとる。

ヴァレン殿下にエスコートされていた腕が下ろされ、代わりに肩を抱き寄せられる。


「ステラ、入るよ。何があっても私に任せておけばいいからね。」


周囲に聞こえないように耳元で囁かれて、ステラは考えていたことを殿下に聞いてみようと囁き返した。


「はい、ヴァレン殿下。護衛として少し魔術を使ってもよろしいでしょうか。」

「杖は持ってるの?」

「はい、足元に隠しております。攻撃の意思があれば私にわかる魔術を使います。」

「いいけど、王城だし無理はしないでね。」

「はい、ヴァレン殿下。ホールの扉が開いたら詠唱します。」

「わかった。発動するまで君に目がいかないようにしておくよ。」

「ありがとうございます。」


抱き寄せられていた腕が解かれる。

また左手を取られ、扉に進む。


「第二王子殿下のお成り。」


侍従の声が響く。

近衛騎士によって扉が開かれたそのとき、ステラは右手を太ももに隠した杖に触れ、素早く詠唱した。


「《敵を示せ》」


ステラが使ったのは空間魔術だ。

ある程度閉鎖された空間全体に魔術をかける。

王城のホールは舞踏会も開かれるだけあって広く、天井も見上げるほど高かったので、これだけの空間に魔術を行き渡らせるにはかなり多くの魔力を必要とする。

それでも、この魔術をかけておけばヴァレン殿下に攻撃を加えようとする者がいたらステラにはその居場所までわかる。


精神に作用する「王家の魔法」と違って、精神には影響しないから未然に防ぐことはできないが、居場所がわかるだけでも護衛はしやすい。



会場がなぜかざわついている。

ヴァレン殿下を見る人々の顔に驚きの表情が浮かんでいる。

ステラが会場に魔術が行き渡っているか確認していると、額に柔らかいものが触れた。

なんだろうと思って見上げると、ヴァレン殿下の金色の瞳と至近距離で目が合い、微笑まれた。


「第二王子殿下が微笑まれているわ…。」

「『氷の殿下』が微笑まれているところなんて初めて見たぞ…。」


貴族達のざわめきが聞こえてくる。


(私に目が行かないようにするってそういうこと?!)


慌てたステラはさっと囁いた。


「ヴァ、ヴァレン殿下、もう大丈夫ですっ!」

「そう?」

「ありがとうございましたっ!」


「ではステラ、国王陛下にご挨拶しようか。」


最後の部分は普通の音量でおっしゃるものだから、貴族達のざわめきは一層大きくなった。


「ご婚約でもされたのか?」

「聞いていないけどご寵愛を受けているのは間違いない。後でご挨拶しておくか。」

「あのご令嬢はお見かけしないお顔だけど、どちらの方なのかしら。」


再び殿下の腕にエスコートしてもらい、ホールの奥へと向かう。

ホール全体はざわめいているが、ヴァレン殿下の進む先の人々は皆頭を下げて道を空けており、奥に国王陛下と王妃陛下と思われるお方がいらっしゃるのが見えた。

皆の勘違いに赤面しそうになっていたステラだったが、初めて目にする国王陛下のお姿に真っ青になったので結果的に顔色は変わらずに済んだ。


(こ、こ、国王陛下にご挨拶ってどんな顔をしたらっ…)


慌てたステラはヴァレン殿下を見上げるが、殿下はすっかり「氷の殿下」に戻っていて話しかけられそうもない。


ヴァレン殿下は立ち止まることなく進み、あっという間に国王王妃両陛下の御前にたどり着いてしまった。

ステラはパニックで頭が真っ白になる。

跪くどころか地べたに這いつくばりたい気分だが、今の立場とヴァレン殿下にいただいたドレスがそれを許さない。


ヴァレン殿下が礼を取るのに合わせて、ステラもドレスを摘まんで一歩足を引き、深く頭を下げる。



「国王陛下、第一王妃陛下、第二王子ヴァレンがご挨拶を申し上げます。」

「面を上げよ。」


ヴァレン殿下と同じ、人を従わせる声が響き、殿下が顔を上げるのと一緒にステラも前を向く。


ヴァレン殿下と同じ白銀の髪に、ヴァレン殿下よりも少しだけ薄い金色の瞳を持った国王陛下と、美しい黒色の髪に澄んだ青い瞳の第一王妃陛下が並んで立っていらっしゃった。


頭には冠とティアラが眩しく輝き、第一王妃陛下の首元は目も眩みそうな豪華なネックレスで彩られ、指にはヴァレン殿下が着けているのと同じような赤い宝石の指輪が輝いている。

ヴァレン殿下のご両親だけあって、お二人が並ぶとあまりの美しさと輝かしさに神々しさすら感じる。


両陛下と目が合わないようにそっと目をそらすと、後ろに控えていた王国魔術師の正装のローブを纏った父と目が合い、驚愕の顔で一歩後ずさるのが見えた。


(お父様ごめんなさいっ…!)


ホールに入場したときに使った魔術で、ヴァレン殿下と一緒にステラも参加していることは父にはわかっていただろうが、まさか殿下の隣に立つご令嬢が自分の娘だとは思っていなかったのだろう。

ステラ自身も信じられないのだから当然だ。


「ヴァレン、よくぞ参った。」

「国王陛下、このめでたき日を心よりお祝いいたします。

国王陛下のご健康と御代の安泰をお祈り申し上げます。」


ヴァレン殿下は入学式のときに聞いた朗々とした声で諳じる。

ヴァレン殿下が再び頭を下げたので、ステラも再び足を引き、それに倣う。


(お願い、早く終わって…)


心の中で不敬なことを願いながら、静寂に耐える。


「して、その者は。」


(ぎゃーーーっやめてえええっ!)


心の中のステラは打首にされたような気持ちだ。

願いもむなしく話題が自分に向いてしまった。


「私の物です。」


ヴァレン殿下が凍てつくような声で答える。

確かにヴァレン殿下の近衛魔術師だからヴァレン殿下の物ではあるが、答えになっていない気がする。


「ほう。どこの令嬢だ。」

「…陛下。失礼ながら私の娘でございます。」


とても声なんて出そうになかったステラだが、察した父が後ろから答えてくれた。

同時に片眼鏡越しにヴァレン殿下を睨んで、怒りの滲んだ表情をする。

お父様も盛大に勘違いされていらっしゃる気がするけど、とても訂正できる雰囲気ではない。


「それは面白い。そなたの娘とヴァレンが。」

「他の者に手出しはさせませぬゆえ、ご承知おきください。」


父に何か言われる前にヴァレン殿下がさっと口を出す。


(他の者も何も、ヴァレン殿下にも手を出されていないわ…!)


ステラの心はパニックを起こしたままだ。


「ヴァレン、貴方に大切な人ができたなんて嬉しいわ。」


第一王妃陛下の艶やかな声が聞こえ、ステラは驚愕する。

ヴァレン殿下は否定もせず、微笑みを返した。


(か、か、勘違いですううう!!

私はただの護衛ですううう!!)


「名は、なんという。」


国王陛下は明らかにステラに聞いている。

威圧感を持ったその声で聞かれたステラは真っ白になってしまい、まともな声など出そうにもなかったが、ここで答えないのは本物の不敬だろう。


「国王陛下、恐れながら申し上げます。私はステラ・アルカニスと申します。」

「ステラか。たしか学院の首席で、ヴァレンの近衛にしたのではなかったか。」

「恐れながら、さようでございます。」

「優秀な魔法の才を持つ者がそのような美貌を持ち、ヴァレンに見初められるとは。天はそなたに二物を与えたな。」

「…もったいなきお言葉、恐悦至極にございます、国王陛下。」


ステラの意識は本当に打首にされたのか、別の世界に旅立っていた。

国王陛下からお褒めいただくなんて、夢だとしても不敬すぎる。

口は不思議とすらすら動いているが、もはやステラの言葉ではなかった。


「それでは、私はこれにて失礼します。」


あまりの不敬に体までこの世から旅立つ前に、ヴァレン殿下が助けてくださった。

ちらりと父を見ると、顔面を真っ青にして今にも倒れそうな顔をしていた。

ステラも似たような姿かもしれない。


「また顔を見せるがよい。」

「はい。本日は誠におめでとうございます。」


ヴァレン殿下が頭を下げるのに合わせてステラも再度深く頭を下げて辞する。

生きてこの場を去った奇跡にステラはほっと息をついた。



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