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或る武器商人の物語  作者: ぽこっち
第一章 邂逅
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第一話 人生は出会いそのものであり、その招待は二度と巡ってこない

 ペンフォス王国王都より185マイル(300キロメートル)西の町、ラックドワルス。

 8つの街道が交差するこの町は王国西部の西の中継地点とも呼ばれ、物流が活発なことで有名だ。

 ラックドワルスの中央通り、沢山の店が並び立つ繁華街では屋台も数多く出展されており、日によって訪れる商人も変わる。


 今日も特に客を集めている店が3つ。

 1つ目は体力回復の薬草、魔力を高めるポーション、毒の沼地対策には必須の毒消し苔など、旅人御用達のアイテムがずらりと並ぶ道具屋。

 2つ目は、重厚な鉄の塊で作られた盾、ドラゴンの鱗で作られた鎧が目を引く、戦闘で飯を食っている傭兵などの強い味方な防具屋。中でも特に目立つ黄金の兜にはどこかの国の兵士が使っていた物なのか、星をあしらった紋章が彫られている。



 そして――


「さあてと、今回もいい武器がそろってるぜ。お客さん」


 その男、オズワルド・ディティーニもまた、武器商人として商いに勤しんでいた。


「あたしの包丁が錆びてきちまってねえ。新しくてよく切れるのを探してるのよ」


 杖を突いた小柄な老輩の女性が彼の屋台に近づいてくる。横に長い木製のテーブルに、布をかけて作っただけの天蓋。

 だが、本当に商売に必要なものを男はよく心得ていた。


「そいつは丁度いい時に来たなあマダム。ちょうどよく切れるナイフを仕入れたとこだ。いいか、ここにココヤシの実がある。南の地方でよく採れる、見ての通りカッチカチの実だ」


 オズワルド、通称オズは手に持ったココヤシの実を勢いよくテーブルに叩きつけるが、僅かなへこみもできなかった。


「ほらな?おっと、そこのイカした帽子の兄ちゃん、べっぴんさんな姉ちゃんもぜひ覗いて行ってくれよ。見ていくだけならタダだぜ?無論、俺の美貌を見つめ過ぎた客さんからは金取らせてもらうけどね」


 オズの軽口に見物客たちから笑い声が起こる。

 燃えるような緋色のくせ毛。この国では珍しい赤髪をオールバックにして後ろで束ね、やる気のなさそうな金色の三白眼が瞬きした。

 頭の上にはベルトが巻かれたカウボーイハットが乗っており、どことなく胡散臭い出で立ちだ。

 垂れた眉毛をわずかに上げて、オズはぽんと手を叩く。その音に、ざわざわと沸き立っていた聴衆も話を止めた。


「おっほん。では、ここに取り出したるは名工、ノルン・カワテンによって造られたナイフ。で、こっちにはさっき見てもらった通り、超硬いココヤシの実だ。じゃあ、早速ナイフで切ってみるぞ」


 オズはココヤシの実をテーブルに置くと、ゆっくりとナイフを入れていく。

 ココヤシの実は驚くほど簡単に切れた。輪郭をしっかりと残した美しい断面が見える。


「見たか?ギコギコはしなかったろ。一度刃が入ったらスーッと……」


「おいあんた、俺にもそのナイフ売ってくれ!」


「私にも!」


「俺にもだ!」


「ちょっとお待ちあんたたち、あたしが先に並んでたんだよ!」


 オズが言い終わる前に見物していた客たちが殺到する。


「はいはい、兄ちゃん姉ちゃん、焦らなくてもちゃんと全員分あるよ。マダム、しっかり順番に売るから安心してくれ」



「まいどありがとうな。これにて商談成立だ」


 オズが最後の客に梱包したナイフを手渡す。何時間商売をしていたのか、辺りの家々はすっかりえんじ色だ。

 ナイフを手渡されたガタイのいい中年男性はうなずくと礼を言った。


「こっちこそだぜあんちゃん。そうだ、よかったらあんたの名を聞いていいか?あんちゃんが次この町に来る時までに、知り合いのやつらに勧めとくからよ!」


 名前を聞かれたオズの瞳は一瞬どこか遠くを見つめたものの、すぐにまたあのやる気のない表情に戻る。


「……おっとそうか、ありがとうなおっちゃん。俺はオズ。オズワルド・ディティーニだよ」



 沢山の人が行きかっていた大通りの賑わいも鳴りを潜めはじめたころ、その問答を耳にした通行人の一人がピタリと足を止める。


「オズワルド・ディティーニ……?」


 ゆっくりと、しかし噛み締めるようにその名を繰り返す。

 振り返り、名前の主である〝ヤツ〟の姿が視界に入ると拳を強く握りこんだ。

 その人物の吐息が小刻みに震え、ギリと歯を噛み締める。


「絶対に、許すものか」


 目深にかぶったフードの奥、蒼い瞳が紅に輝く光を受けてマゼンタに染まっていった。



 辺りが夜のとばりに包まれた頃、今日分の商売が終了しテントや武器を並べていた商品棚などの荷物を片付けたオズは、宿へとたどり着いていた。

 あらかじめ取ってある宿屋のドアノブへと手をかけ、そして止める。

 体は宿屋の方に向けたまま、視線だけを左右に動かした。

 昼間に商売を行っていた通りの裏にある宿屋。

 華やかな商店が立ち並ぶ大通りもがあるこの町も、一つ隣の路地には住宅街が広がっている。

 オズはそんな家々を見渡すも、日が落ちて人気(ひとけ)もすっかりなくなった通りには、家から伸びる生活の木漏れ日が月明かりと混ざり合っているだけだった。

 オズは小さく息をつくと宿屋の扉を開け、中に入る。


「おかえりオズさん。どうだった?今日の売り上げの方は?」


 ふくよかな体におおきなエプロンを身に着け、カウンターで作業をしていた女性が入ってきたオズに声をかける。

 この町に来てからの一週間ずっとこの宿で寝泊まりしているので、宿屋の女将とは軽い知り合いのようになっていた。


「お陰様でばっちりよ。そういえば話は変わるんだがおばちゃん、俺ちょっと今日疲れちゃってさ。明日の朝早くにこの町を出るから、しっかり休ませて欲しいんだわ。だから悪いんだけど〝誰か俺を訪ねてきても〟適当に断っといてもらえるかい?」


「ああ、わかったよ。……あなたもいろいろ大変だね」


 オズの申し出に、察しのいい女将は頷いてくれる。


「助かるよ、おばちゃん」


 部屋に上がり、扉と鍵をしっかり閉めるとオズは荷物を置く。荷物といっても全部でトランク二つのみなので軽装なのだが。


「しっかし、俺の後をつけるとはね……いやいや、心当たりは結構あるけどな」


 オズはベッドに座り込むと床に足を投げ出し、天井を見上げる。

 新しくはないがよく手入れされている宿で、目立った汚れは目にはいらない。やわらかい木の匂いがふんわりと彼の鼻をくすぐる。

 幸いにも人に追われるのには昔の経験で慣れているため、今回も早くに勘付くことができた。だが。


「問題は〝誰が、何のために〟俺をつけてるかなんだよなあ」


 この半年間オズはまっとうな武器商人として生きてきたため、もう騎士どもに追われる理由はなくなったはずだ。

 だとするとやはり昔関わりがあった誰かか、とオズは適当に結論付ける。

 最低限の食事だけつまむと、そのまま靴を脱いでベッドに横になった。すぐにグーグーと寝息が聞こえ始める。

 ただでさえ商売で疲れた頭をさらに追跡者の警戒に酷使したため、オズの眠気は限界だったのだ。


 翌朝、オズは言葉どおり朝早くにラックドワルスの町を出た。無論、次の商売先の町へ向かうためである。


「さーてと、思ったよりラックドワルスでの売り上げが伸びたから予定を変更するかあ。そうだなあ、東の隣町でもうひと稼ぎだけしたら一度武器を仕入れに王都に戻ることにしようかね」


 地図を見て、目的地とルートを定めたオズは街道を東に向けて歩き始める。

 隣町といっても、徒歩で目指せば街道を寄り道せず一日中歩いたとて、一日半かかる道のりだ。

 乗り合いの馬車に乗るという手もあったが、オズはそうしない。


「隣町から王都への馬車に乗ったほうが、金が安く上がるもんで」


 オズは時間と労力で金を浮かす選択をする。


「とはいえ、若いうちしかできねえなこれは」


 オズは自らの賢いとはとても言えない選択に苦笑を零した。



「かーっ。疲れた体にエールが染み渡るぜ……」


 焚火に薪をくべながらオズはエールをグイグイと飲み干す。

 辺りではこの地方特有の虫がリンリンとお相手にラブコールを送り、またオズの頭上、ウインザーブルーのキャンパスにはあまねく星々の星座たちが絵画を描き、自分たちの存在を主張していた。

 街道の傍、丸太に腰かけたオズは手元にあった干し肉と(かた)パンを交互に食いちぎると、案の定芳しくない食感に顔をしかめつつ飲み込む。


「明日も早いとこ動き始めてえことだし、そろそろ寝っかあ」


 オズは頭をボリボリ搔きながらつぶやくと、ごそごそと寝床を作り始めた。



 そんな彼を少し離れた場所にある木から覗き込む影が一つ。

 怒りに震える小さな手には、使い古された刃こぼれの激しい包丁が握られている。


「必ず……殺す」


 彼が寝床に横になってしばらくし、彼の寝息が聞こえてくるとその影は木から離れゆっくりとオズの方に近づいていく。

 そして彼の脳天を叩き割ろうと、包丁を振り上げながら最後の一歩を踏み出した瞬間。


「え?うわっ!」


 フードを身にまとった人物の足元、そこにあった地面があっけなく崩れ去り、体が落下する。

 3.2フィート(1メートル)ほど落ちてしりもちをつくと、その衝撃で着ていたローブが脱げて月明かりがその襲撃者の意外な容姿を照らし出す。

 セミロングの毛先がはねた金髪に、どこまでも澄んだ蒼い瞳のかわいらしい少女。

 特筆すべきはその少女の年齢だろうか。あどけなさが残る顔に、4.4フィート(135センチ)に満たない身長。

 誰が見ても10歳以下にしか見えない外見だった。少女が(かぶり)を振り上を見上げると、その男、オズと目が合った。

 オズは少女に一瞥をくれるとめんどくさそうにポリポリと首の裏を掻く。


「まあ、なんというか……。これはまた、ずいぶん可愛らしい強盗が来たもんだなあ」

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