プロローグ 昔々あるところに
昔々あるところに、オズワルド・ディティーニっつう大層な馬鹿がいた。
そいつぁ、早くに両親を亡くしちまって孤児になった。可哀想だって思うかい?
そりゃあ、ここまでの情報だけじゃ、そう思うのも無理はないね。
だが、よく考えてごらんよ。孤児が食い物を得る手段なんて限られてんだろ?
奴が選んだ手段は、人から奪うことだった。早い話が泥棒さ。
奴は昔から、人を口車に載せるのと逃げ足だけは一級品だったからね。
奴の生い立ちにはお偉いさんも思うことがあったのか、あるいはそんな小物に構っている暇がなかったのか。
事件後しばらくは憲兵の見回りを増やすとかして警戒されたが、すぐ町の空気は元に戻っていく。
まあ、奴を抜きにしても昔は泥棒なんて日常茶飯事だったからね。町の奴らも慣れたもんなんだろうよ。
とにかく、そんなオズワルドについたあだ名が、【コソドロのディティーニ】さ。
しばらく憲兵どもからも逃げ続けて生活してたんだが、ある時あろうことか奴は殺人を犯してね。
流石に牢屋にぶち込まれたって訳だ。
そんなどうしようもない阿呆だが、奴は7年の投獄期間を経て再びシャバに出てきた。
そして何を思ったか、今度は口達者な武器商人として国中を旅し始めるのさ。
――その昔、このペンフォス王国には恐化病というそれはそれは奇怪な病が流行っていたんだ。
というのもだよ、恐化病に罹る条件も、もちろん治療法までもが全くの謎だったからね。
分かってたのはただ感染者が理性を失い、猛獣のように誰彼構わず襲い掛かるということだけ。
この病はゆっくりと、だが着実に罹患者を増やしていったんだよ。
しかも一番恐ろしいのがね、恐化病は感染者とそれ以外の人々の区別が外見でつかないっつうことだ。
感染してからの進行度合いは人によってまちまちだが、いつかは確実に狂っちまう。
国民らは親しい友人や大切な家族が、突然自らを殺そうとしてくるかもしれないという恐怖に怯えながら暮らすことを強いられていたのさ。
そんなこともあって、ペンフォス王国の重鎮たちは、この恐化病への対処に追われていたって訳だ。




