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第9話:残り七日の胎動

お読みいただきありがとうございます! 遙 カナタです。

前回の第8話、地獄の修行編はいかがでしたでしょうか。

自分たちの甘さを削ぎ落とし、泥を啜って「正解」を脳に焼き付けた三人。

本日更新の第9話。

「#トリニティ・レイド逃亡中」と外野が嘲笑い、彼女たちの敗北を確信している中……。

ついに、300チ-ム以上が参戦する過酷な「一次予選」の幕が開きます。

執筆初心者ながら、一文字ずつ「逆襲」の予感を込めて書き上げました。

静かに牙を研いできた怪物たちが、再び戦場へと姿を現す瞬間を、ぜひ見届けてください。

「……全員、設定画面を開け。今から俺が指定する数値に書き換えろ」

 深夜、静まり返ったリビングに俺の冷徹な声が響く。

 三人のアバターが、戸惑いながらもマウスを止めた。

「レイ。お前はメインアタッカーだ。近距離のエイム速度を最大化させるために、感度(センシ)を今の二倍まで引き上げろ。……一瞬の振り向きで、敵の頭を射抜くためだ」

『えっ!? 二倍……? 指がちょっと震えただけで視点が飛んじゃうよ!』

 レイが悲鳴に近い声を上げる。FPSプレイヤーにとって、長年馴染んだ感度の変更は、自分の手足を他人のものに付け替えるような苦行だ。だが、俺は一切の手加減をしない。

「ほむら。お前は中・遠距離のカバーがメインだ。逆に感度を三割落とせ。……一ドットの狂いもなく、一〇〇メートル先の動く標的に弾丸を置くためだ」

『……了解。安定性を極限まで高めるのね。……合理的だわ』

「ねね。お前はドライバー兼、索敵だ。周辺視野を確保するために、垂直感度と視野角を最大にしろ。……運転しながら、敵の微かな動静を見逃さないために」

『ねね、目が回っちゃいそうだけど……頑張る!』

 それは、彼女たちの個性を「兵器」へと最適化する、残酷なまでの書き換え作業だった。

 

 潜伏、三日目。

 外部との接触を一切絶った練習サーバーの中では、肉体とデバイスを無理やり同期させるための「破壊と再生」が続いていた。

「……手が迷っている。脳の伝達速度に、指先の解像度が追いついていない証拠だ。三日で馴染ませろ。できなければ予選のリストから名前を消す」

 俺の言葉に、三人はもはや反論する余裕すらなかった。

 一時間。二時間。

 武器一丁拾わず、ただ「最速で車を奪い、最良のポジションを陣取る」だけの単調な、けれど極限の集中を強いる反復練習。

 その裏で。

 練習サーバーの外――SNSの世界では、最悪な「祭り」が最高潮に達していた。

『#トリニティ・レイド逃亡中』

『結局、女Vのプロごっこ。叩かれて泣いて逃げたかw』

『あの切り抜き見たけど、コーチの指示もただの精神論だろ。今頃、無能がバレるのが怖くて隠れてるんじゃね?』

 沈黙を「敗北」と決めつけた野次馬たちが、彼女たちの努力さえも「時間の無駄」だと嘲笑(わら)い飛ばしている。

 姉貴が心配そうにスマホを眺めているが、練習に没頭する三人は、もはやそのノイズに気づくことさえない。

 一秒先の景色を掴むために、彼女たちはただ、暗闇の中で牙を研ぎ続けていた。

 

 潜伏、四日目。

 外部との接触を一切絶った練習サーバーの中では、肉体とデバイスを無理やり同期させるための、孤独な「試行錯誤」が続いていた。

「……レイ。今の振り向き、コンマ二ミリ行き過ぎだ。マウスを握るな、添えろ」

『……っ、わかってるわよ! でも、この感度だと……!』

 レイの悲鳴に近い声。高感度に設定された視界は、わずかな指先の震えすら敏感に拾い上げ、銃弾を虚空へと逸らしていく。

 かつてなら容易に仕留められたはずのBOTにすら、一発も当たらない。昨日までの自分より弱くなっている屈辱に、レイの瞳に涙が滲む。

「ほむら、計算を止めるな。お前の右手が思考を追い越すまで繰り返せ」

『……了解。……やってやるわ。このロジックを、私の『本能』に書き換えるまで』

 一時間。二時間。

 深夜二時。練習開始から一五時間が経過したその時、空気が変わった。

「……南西、三〇〇。稜線の裏。……レイ」

 俺の指示に、レイが反応する。

 思考を介さない、反射。二倍に跳ね上がった感度を、彼女の神経が、ついに「(ぎょ)」し始めた。

 ――ッパァン!

 一寸の狂いもない偏差撃ち。

 高感度の視界が、吸い付くように標的の眉間を捉え、弾丸を送り込む。

『……っ、今の……。……コーチ、今。……「見えた」わ』

 レイの声が、震えている。それは恐怖ではなく、圧倒的な「正解」に触れた者の歓喜。

 

 設定変更による「ズレ」が、カチリと音を立てて噛み合い始める。

 

 絶望的な沈黙の裏で。

 三人の少女は、かつての伝説の指揮官が見ていた「一秒先の景色」を、その共有された視界に捉え始めていた。

 

「……そこまでだ。全員、手を離せ」

 修行七日目、深夜。俺の号令とともに、三つのアバターがピタリと動きを止めた。

 画面越しに聞こえてくるのは、疲弊しきった、けれど最高に不敵な三人の呼吸音。

 三日間でデバイスを馴染ませ、残りの四日間でチームの「呼吸」を合わせた。もはや彼女たちの動きに、かつての迷いも、無駄な贅肉(ノイズ)も存在しない。

『……コーチ。今の安置、予測通り……いや、それ以上だったわ。……私たちの指先が、あなたのロジックを追い越そうとしてる』

 ほむらが、眼鏡の奥で静かに、けれど熱く笑う。

 その瞳には、もはや「0.01%」の絶望など、(ちり)一つ残っていなかった。

「……及第点だ。あとは本番で、あの外野どもを絶望させるだけの仕事をする。……三時間、仮眠を取れ。以上だ」

 ――。

 日付が変わる。

 日本代表予選の公式サイト。参加チームリストが、予定通り更新された。

 SNSでは未だに『#トリニティ・レイド逃亡中』というハッシュタグが踊り、彼女たちを過去の遺物として葬り去ろうとする悪意が渦巻いている。

「結局、エントリーしなかったなw」「完全敗北お疲れ様」

 そんな勝ち誇ったリプライが乱舞するタイムラインの裏側で。

 一人の野次馬が、リストの一番下、第12グループの末尾にある「その名前」を見つけた。

 [Team: Trinity Raid]

 ――え?

 その呟きは、数秒で数万の激震へと変わった。

 逃げたはずの三人が、沈黙を貫いていた怪物が、最下位からの「逆襲」を虎視眈々と狙っていた。

 俺は、埃一つない新品のデバイスをバッグに詰め、静かに席を立った。

 復讐でも、証明でもない。

 ただ、あいつらが「楽しい」と笑って勝てるように。

「……行くぞ。世界を黙らせる、最初の『正解』を出しにな」

第9話までお読みいただき、本当にありがとうございました……!

「予選開始まで、あと七日。……その七日間で、あいつらの嘲笑を、絶叫に変える準備をしろ」

地獄の修行を終え、いよいよ戦場へと戻る三人。

彼女たちが再び表舞台に現れたとき、世界はどうひっくり返るのか。

執筆中、自分自身も彼女たちの成長に胸が熱くなるのを感じていました。

一人でも多くの方にこの熱量が届くよう、一文字ずつ魂を込めて綴っていきます。

続きが少しでも「熱い!」「もっとやれ!」と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】から評価(星★)や、ブックマ-クをいただけると、初心者の僕にとって最大級の執筆エネルギ-になります!

明日も20:00に更新予定です。

それでは、また明日の戦場(更新)でお会いしましょう!

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