第5話:空っぽの怪物
お読みいただきありがとうございます! 遙 カナタです。
第4話での「わからせ」、いかがでしたでしょうか。
執筆初心者ながら、主人公・葉月の「最強ゆえの孤独」をどう描くか、一文字ずつ悩みながら絞り出しました。
今夜の第5話は、伝説の指揮官(OUKA)がなぜゲームを捨てたのか。
その「過去」が明かされる、物語の重要な分岐点です。
「――あいつはね、勝つために自分を殺しすぎたんだよ」
姉・Mintyが語る、壊れた怪物の真実。
そして、それを聞いた三人が出す「答え」とは。
初心者の挑戦、ぜひブックマークや評価(星★)で応援していただけると、執筆の大きな支えになります!
それでは、第5話――「空っぽの怪物」をお楽しみください。
静寂。
狙撃の残響が消えたあとのリビングには、耳が痛くなるほどの沈黙が横たわっていた。
ヘッドセットの向こう側、三人の少女たちは、自分が目撃した「異常」を咀嚼できずに息を呑んでいる。
(……言い過ぎたか)
俺は、熱を帯びた脳の片隅で、自分の放った「時間の無駄」という言葉のトゲを思い出していた。
今の俺にとっての正論が、夢を追う彼女たちにとってどれほど残酷なナイフになるか。それを自覚した瞬間、この場に居続けることが、ひどく居心地が悪くなった。
「……姉貴。外で、頭を冷やしてくる」
「いいよ。……あんまり、自分を責めなさんな」
姉貴の短い、けれどすべてを見透かしたような返事を聞きながら、俺はリビングをあとにした。
ベランダへと続くドアが閉まり、夜風の音が遮断される。
リビングに残ったのは、開け放たれた三つのモニターと、缶ビールを指で弄ぶ姉貴。そして、ヘッドセットの向こうで息を呑む三人の少女たちだけだった。
『……Mintyさん。……今の、何? 彼は一体、何者なの……?』
レイの声は、先ほどまでの反抗心が嘘のように震えていた。
姉貴はプシュリと二本目の缶を開け、天井を見上げるように深く椅子に背を預けた。
「……あいつが、かつて世界を更地にした『Ground Zero』の心臓。――伝説の指揮官、OUKAよ」
『――っ!?』
絶句する三人。だが、姉貴の瞳には誇らしさよりも、どこか遠くを見るような寂しさが宿っていた。
「……あいつだってね。最初に世界一を獲ったときは、子供みたいに泣いて喜んでたんだよ」
姉貴は空になった缶を見つめ、懐かしむように目を細めた。
「でも、二回、三回と世界一を重ねるたびに……。いつの間にか、あいつの瞳から光が消えていった。
勝つことが『喜び』から『義務』に変わり、一ミリのミスさえ許されない地獄の計算が始まった。
仲間の命を背負って、一秒先に一億通りの『正解』を弾き出し続ける毎日。感情を殺し、呼吸を止め、ただの計算機になり果てて……」
姉貴は、ベランダの方を静かに見やった。
「最後にはね、自分の心臓の音さえ『計算の邪魔だ』って言い出したのさ。……あいつはね、五年前のあの日。『世界一』という称号と引き換えに、ゲームを楽しむ心を、どこかに置き忘れてきちゃったんだよ」
『……心臓の音が、邪魔……?』
絶句したのは、ほむらだった。
勝利のロジックを追求する彼女でさえ、自分の生命活動すらノイズと断じるその「深淵」の深さに、戦慄を禁じ得ない。
『……そんなの、ただのゲームじゃない。……そんなに苦しんでまで、どうして』
レイの震える声。
その問いに、姉貴は悲しげに目を細め、最後の一葉を突き落とすように告げた。
「……あいつが今日、あんたたちに『時間の無駄』だなんて言ったのはね。自分みたいに、心が壊れるまでこの深淵にのめり込んで欲しくなかったからだよ。……不器用な、あいつなりの警告なのさ」
姉貴の言葉が、ヘッドセットを通じて三人の鼓膜に重く沈殿していく。
自分たちが「熱意」と呼んでいたものが、葉月の見てきた「地獄」の前では、あまりにも無邪気で平和なものに思えた。
ガタッ、と。
スライドドアが開く音が、リビングの静寂を破った。
夜の冷気を纏って戻ってきた俺は、室内の異様な空気――先ほどまでの反抗心とは違う、腫れ物に触れるような視線に眉をひそめた。
「……姉貴、何を話した」
「別に。アンタが案外、可愛い弟だってことさ」
姉貴は空になった缶を放り投げ、俺にヘッドセットを指し示した。
モニターの向こう。
最初に沈黙を破ったのは、やはりレイだった。
『……コーチ』
その声に、トゲはない。代わりにあったのは、ひどく不器用で、けれど真っ直ぐな、熱を帯びた決意だった。
『……さっきは、ごめんなさい。男だとか、一般人だとか、そんなこと言える立場じゃなかったわ。……私たちが甘かった』
画面の中の赤いアバターが、こちらを真っ直ぐに見据える。
『……私を。私たちを、その「最短ルート」って場所に連れてって』
レイの、震えながらも真っ直ぐな決意。画面の中の赤いアバターが、かつての伝説の指揮官を正面から射抜く。
『……あんたの心が、二度と壊れないような――最高に楽しい内容で、私たちが勝たせてみせるから!』
その、あまりにも青臭い、けれど今の葉月が最も失っていた言葉。
それに呼応するように、碧いアイコンが静かに灯った。
『……あなたの過去を「合理的ではない」と切り捨てるのは簡単よ。でも、その不合理なまでの献身が、今の結果を導き出している。……認めざるを得ないわね。コーチ、あなたのロジックに、私の「脳」を預けるわ』
理知的なほむらの、彼女なりの最大限の敬意。
すると、それまで黙ってお菓子を食べていたねねが、弾むような声で割り込んできた。
『ねねもー! コーチくんが悲しい顔をしないように、ねねがぜーんぶの敵をやっつけちゃうからね! だからコーチくん、笑って!』
――。
俺は、無言でキーボードに手を置いた。
そんな感情論も、子供じみた約束も、勝敗を左右するロジックの前には何の価値もない。
けれど。
少しだけ軽くなった胸の奥で、埃を被っていた回路が、カチリと音を立てて繋がった。
「……なら、まずは全員マウスから手を離せ。今日から寝るまで、一画面も目を離すな。――レッスン開始だ」
第5話までお読みいただき、本当にありがとうございました!
最強でありながら、心を失ってしまった葉月。
そんな彼の「深淵」を知ってもなお、前を向こうとする三人の決意……。
初心者ながら、書きながら目頭が熱くなってしまいました。
「……なら、まずは全員マウスから手を離せ」
止まっていた彼の回路が、ついに動き出します。
明日の第6話からは、いよいよ伝説の指揮官による「本物の実技指導」が始まります。
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明日も20:00に更新予定です。
また明日の戦場(更新)でお会いしましょう!




