第27:囮の怪物
1300。最終ブリ-フィング。
モニタ-に映し出された第2マッチの航路を指し、葉月は冷徹に言い放った。
「……。……。レイ。……第2マッチ、お前たちは孤島すら捨てろ。……航路の真下、最も物資が豊富で、かつ激戦区とされる『コンテナ街』へ直下しろ」
三人の間に戦慄が走る。
『……えっ!? あそこ、最低でも5チームは被るデスゾーンですよ!?』
「……。……そうだ。……第1マッチでお前たちが『怪物』だと証明した以上、全チームがお前たちの背中をマ-クしている。……お前たちが降りれば、そこは5チームでは済まない。……『TR を初動で潰せば代表権が近づく』と考える連中が、吸い寄せられるだろう」
葉月のロジックは、彼女たちの「悪名」を燃料にした、最悪の誘い込みだった。
「……10チーム以上がひしめく箱庭で、お前たちは『最高級の餌』になれ」
カチャリ、と無機質な電子音が響き、ボイスチャットから葉月の気配が消えた。
第2マッチの輸送機が、再び戦場の空を切り裂いた。
ハッチが開く直前、機内の空気は異常なまでに張り詰めていた。参加する全24チーム、72人の視線の先は、ただ一点。
11位、 Trinity Raid 。
『……視線が痛いわね。……全チームの観戦カメラが、私たちの挙動を 0.1秒単位で監視しているわ』
ほむらの冷静な分析。
『……ねね、生きた心地がしません! まるで檻の中の獲物になった気分ですぅ……!』
ねねの声は震えている。
ハッチオ-プン。
レイの号令と共に、三人の影が真っ先に輸送機から飛び出した。
直下。目的地は、迷路のようにコンテナが積み上がる、血生臭い激戦区。
それを見た他のチームの近接ボイスチャットが、一斉に殺気立った。
「……行ったぞ! TR がコンテナ街へ直下だ! 全員で行くぞ、初動で確実に落とせ!!」
自分たちの本来のランドマ-クを捨ててまで、彼女たちの背中を追って急降下を開始する複数のパラシュ-ト。
「……さあ、始まった第2マッチ! 注目はやはり Trinity Raid ですが、なんと真っ先に激戦区コンテナ街へと飛び込みました!!」
スタジオの実況、田中がその異常事態に声を張り上げる。
「佐藤さん、これ、彼女たちの真後ろに 10近いチームが続いていますよ!? このままでは着地した瞬間に、四方八方から狙われることになります!!」
「……理解不能ですね。あまりにも無謀だ。……ですが、彼女たちがこのまま黙って死ぬとも思えません。何かが起きますよ……!」
高度200。地面が牙を剥く寸前、三人のパラシュートが急旋回を描いた。
コンテナ街の中心部へ吸い込まれるように落下していた 10チーム近い影とは対照的に、 Trinity Raid の三人は、その外縁にある、物資も乏しい一軒のボロ小屋へと滑り込んだ。
「……なっ!? 旋回した!? あいつら、どこへ――」
背後を追っていたチームの悲鳴が、近接ボイスチャットから遠ざかっていく。
彼らはすでに、コンテナの迷路へと足を踏み入れていた。一度足を踏み入れれば、もはや上空を確認する余裕などない。
『……着地成功。…… 0.2秒の誤差。……許容範囲ね』
ほむらが砂埃を払いながら、冷静に周囲を索敵する。
直後、彼女たちの背後にあるコンテナ街から、この世の終わりかと思うほどの激しい銃声が鳴り響いた。
――ガガガガガッ!! ドォォォォン!!
「……始まった。……あはは、凄いですぅ! みんな『あいつらが TR だ!』って思って、目に入る敵全員に撃ち合ってますよぉ!!」
ねねが窓から外を覗き、無邪気に笑う。
コンテナ街に降り立った 10チーム。彼らにとって、自分たち以外の全チームが「自分たちを陥れようとする 11位」に見えていた。猜疑心とヘイトが、正常な判断力を奪い、戦場を地獄の共食いへと変えていく。
キルログが、異常な速度で画面を埋め尽くした。
[ TEAM_C killed TEAM_F ]
[ TEAM_G killed TEAM_H ]
[ TEAM_D eliminated ]
『……。……。……いい気味ね。……私たちの影を追った報いよ』
ほむらはボロ小屋に転がっていた錆びついた UZI と、僅かな弾丸を拾い上げた。
豪華な物資はない。だが、すぐ隣の巨大な「コンテナ街」では、今まさに最高級の装備を持ったプロたちが、勝手に傷つき、消耗し、数を減らしている。
「……。……。……行こう。……料理が、丁度よく温まってきた頃だよ」
レイの冷徹な号令。
一発も撃たずに、戦場を「迷路」に変えた三人の死神。
彼女たちは、血の匂いが漂い始めたコンテナ街へと、漁夫の刃を研ぎ澄ませながら、静かに歩き出した。
配信の同接は 22万人を突破。
実況の田中が、震える声でその異常な光景を伝えている。
「……何ということだ。 Trinity Raid は一歩も動かず、ただそこに降りたという事実だけで、強豪 10チームを共食いさせました……! これが、これが彼女たちの描いた『正解』なのか……っ!!」
その直後、配信のチャット欄は、もはや判別不能な速度で狂乱のログを吐き出し続けた。
『……は!? 今の空中旋回、物理演算バグってないか!?』
『11位を追った10チームが、TRがいない場所で殺し合ってるwww』
『不気味すぎるだろ……』
『見てろ、今から怪物の掃除が始まるぞ。……鳥肌止まんねえ……』
『ハイエナなんてレベルじゃない。……こいつら、戦場そのものを飼い慣らしてやがる……っ!!』
視聴者の戦慄を背に、三つの影が、爆音の止まない迷路へと溶け込んでいった。




