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第25話:死神の最後の一撃

 第4パルスの収縮開始。

 これまで Trinity Raid を守り続けてきた安地の「中心(へそ)」、名もなき一軒家がついに白い円の外側へと弾き出された。

 家の周囲を囲む平原には、生き残った強豪たちが、パルスに追われながらも虎視眈々(こしたんたん)と銃口を向けている。

 王者 REIGN を初動で落とし、 『鬼神』 を一軒家でハメ殺した「正体不明の11位」を、ここで確実に仕留めるために。

『……ハァ、ハァ……。ね、ねえ。外、銃声だらけだよ……! 全方位から狙われてるのに、どうやって出るのぉ!?』

 ねねの声が、極限の緊張で上擦(うわず)る。

 だが、ほむらは微動だにせず、タブレット型のマップと窓外の僅かな地形を交互に凝視していた。彼女の脳内では、敵が放つ銃声の反響音から、その位置と射線がリアルタイムでデ-タ化されていく。

『……黙って、ねねちゃん。……計算のノイズになるわ。……北東に ASTRA。南西に中堅チーム。……彼らは互いに牽制し合いながら、私たちの「出口」が重なる 0.5秒の交差ポイントを待っている』

 ほむらの眼鏡の奥で、冷徹な光が宿る。

 普通にドアを開ければ、二つのチームから同時に弾丸を浴びる。だが、彼女が見出した「正解」は、その予測のさらに外側にあった。

『……レイちゃん、一階の車両に飛び乗って。……ねねちゃん、手榴弾(グレネード)のピンを抜いて。……コーチが授けたのは、ただの脱出策じゃない。……自分たちの「盾」を爆破して、射線を物理的に遮断するロジックよ』

「……。……了解。……ほむらちゃんの言う通りにする」

 レイが運転席に滑り込み、エンジンを爆発させた。

 その音に反応し、外の敵が一斉に銃口を一軒家の正面玄関へと向ける。

『……今よ、ねねちゃん! 車体の下へ!!』

 ほむらの鋭い号令。

 ――ドォォォォン!!

 一軒家のガレージが、激しい爆炎と共に吹き飛んだ。

 自分たちの唯一の足であるはずのダチアを、自らの手で爆破する。

 燃え盛る鉄屑から噴き出す真っ黒な油煙。さらに、三人が同時に投げ込んだスモークが混ざり合い、家の周囲を「黒い霧」が包み込む。

『……計算通り。……敵の狙撃手(スナイパー)は、この煙の厚さを抜けない。……レイちゃん、炎の右側、 5度の隙間を抜けて! ……そこだけが、唯一、誰の目にも留まらない「最短」よ!!』

 ほむらの導き。

 三人の影は、燃え盛るダチアを盾に、死の平原へと音もなく躍り出た。

 外野のプロたちが「どこだ!? どこへ消えた!?」と狼狽(ろうばい)する中、彼女たちは 0.1秒の迷いもなく、ほむらが指し示した「見えない死線」を走り抜ける。

 パルスの青い光を背負い、岩の隙間から躍り出た三人の死神。

 安地内で互いに牽制し合っていた ASTRA と中堅チ-ムは、まさか自分たちの真後ろ、死の領域から弾丸が飛んでくるとは夢にも思っていなかった。

『……。……3、2、1。』

 ほむらの冷徹なカウントダウンと共に、三人の銃口が火を噴いた。

 不意を突かれた中堅チ-ムが、反撃の機会すら得られずに一瞬で壊滅する。

 [ TR_Rei killed GHOST_Leader ]

 [ TR_Nene killed GHOST_Support ]

 残るは、狡猾な立ち回りで予選を勝ち抜いた強豪、 ASTRA の三人。

 彼らは咄嗟に岩陰へ身を隠すが、そこはすでに、ほむらが計算し尽くした「詰み」の場所だった。

『……レイちゃん、ねねちゃん。……銃は置くの。……トドメは「空」から落とすわ』

 ほむらの眼鏡の奥で、座標が高速で弾き出される。

 岩陰に潜む三人の位置、その背後にある斜面の角度、そして空中での滞空時間。

『……座標確定。……ピンを抜いて。……4秒。……今よ!!』

 ほむらの鋭い号令。

 三人が同時に放り投げた三発のグレネ-ドが、冬の空に放物線を描き、 ASTRA の頭上へと吸い込まれていく。

 それは、相手が「どこへ逃げても爆風の圏内」になるように計算された、完璧なトライアングル・エアバーストだった。

「……なっ!? 上かよ!! 逃げ――っ!!」

 岩陰から飛び出そうとした ASTRA の頭上で、三つの金属塊が同時に火を噴いた。

 逃げ場を奪う精密な爆撃。

 ――ドォォォォン!!

 平原を震わせる衝撃音と共に、三つのログが重なるように画面を埋め尽くした。

 [ TR_Homura killed ASTRA_Leader ]

 [ TR_Rei killed ASTRA_Sniper ]

 [ TR_Nene killed ASTRA_Support ]

 [ ASTRA WAS ELIMINATED ]

 静寂。

 直後、日本中のデバイスの画面に、巨大な金文字が躍った。

 [ Trinity Raid THE CHAMPION ]

 一瞬の、空白。

「決まったぁぁぁーーー!! Trinity Raid 、第1マッチ・チャンピオン!! 信じられない、信じられません!! 予選11位の彼女たちが、日本一の舞台で、全ての強豪をなぎ倒して頂点に立ちました!!」

 スタジオの実況、田中が喉を潰さんばかりに絶叫する。

「佐藤さん、今の! 今のラストムーブ、見ましたか!?」

「……絶句です。最後、一発も銃を撃たなかった。相手の逃げ場を完全に計算し、三人の投擲タイミングを 0.1秒単位で合わせて『空爆』で終わらせた。……こんな芸当、プロのトップチームでも練習なしには不可能です。彼女たちは一体、どれほどの地獄を潜り抜けてきたんだ……!」

 解説の佐藤も、興奮で震える拳をデスクに叩きつけていた。

 配信の同時視聴者数は 20万人を突破。チャット欄はサーバーが悲鳴を上げるほどの熱狂で埋め尽くされ、もはや文字として判別不可能な速度で流れていく。

『……う、嘘だろ!? TR が……ドン勝!?』

『王者と鬼神を初動で喰って、最後は計算ずくの爆殺……!?』

『ハイエナじゃない。……本物の「怪物」が、今この瞬間に産声を上げたんだ!!』

 各自室。

 レイは、汗で湿ったマウスからそっと手を離した。

 ほむらは、深く椅子に背を預けて眼鏡を直し、ねねは、「やったぁぁぁ!!」と泣き笑いの声を上げている。

 カチリ、とマイクが入る音。

「……。……。……及第点だ」

 葉月の声が、ヘッドセット越しに届いた。

 いつも通りの冷徹な言葉。だが、その声が僅かに、本当に僅かに震えているのを、三人は聞き逃さなかった。

「……休む暇はないぞ。……第2マッチの準備をしろ。……世界を黙らせる物語は、まだ一ページ目だ」

 11位、 Trinity Raid。

 日本最弱と(さげす)まれた少女たちが、日本一の戦場で、最初の王座を力業(ちからわざ)で奪い取った。

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