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第23話:予測の支配

 ミリタリ-ベ-スを後にした一台の車両。

 エンジン音を響かせ、三人のアバタ-を乗せた車体は、安地の中心部へと続く幹線道路を猛スピ-ドで駆け抜けていた。

『……前方、検問の気配。……橋の入り口に車両二台。……伏兵ね』

 ほむらの冷静な報告。

 本来、ミリタリ-ベ-スから安地へ向かうには、必ずどこかのチームが張っている「検問」を突破しなければならない。だが、今の彼女たちの目には、敵がどこに銃口を向けているか、その「正解」が透けて見えていた。

『……レイちゃん、ハンドルを左に。……30度。……その先にある小さな起伏を盾にして、一気に加速して!』

『……了解! ……みんな、舌を噛まないでね!』

 レイがアクセルを踏み込む。

 車両は道路を外れ、ゴツゴツとした岩場へと突っ込んだ。

 検問を敷いていた中堅チームが慌てて銃を向けるが、彼女たちの走るル-トは、常に地形の「影」を利用していた。

 ――ッパァン! ッパァン!

 虚しく岩を叩く弾丸。

 王者の装備であるレベル3のベストとヘルメットを(まと)った彼女たちにとって、そんな精度の低い射撃は「ノイズ」ですらなかった。

『……抜けた! ……あはは、全然当たってないですよぉ!!』

 ねねの無邪気な笑い。

 だが、その直後。モニタ-越しに戦場を見守る15万人の視聴者が、戦慄に包まれた。

 彼女たちが向かっている場所。

 そこは、安地の中心にある名もなき「一軒家」だった。

 通常、安地の中心は四方八方から狙われる「死地」だ。プロなら絶対に避けるはずの、あまりにも無防備な場所。

「……信じられません! TR 、検問を突破してそのまま安地のど真ん中へ突っ込んでいきます!!」

「正気か!? あそこは遮蔽物も少なく、全方向から射線が通る場所ですよ! 王者から奪った物資をドブに捨てる気か!?」

 実況と解説が絶叫する。

 だが、葉月だけは知っていた。

 その場所こそが、これからのパルス収縮において、一五分間一度も安地から外れない「唯一の聖域」であることを。

「……。……。……」

 コ-チ席。葉月は無言で、手元のタイマ-を見つめていた。

 三人が一軒家に滑り込み、扉を閉めた刹那。

 ――グォォォォン……。

 第二パルスの収縮。

 マップ上の白い円が、三人が今入った「一軒家」を、まるで測ったかのように中心に据えて、ピタリと止まった。

『……。……ほら。……言った通りでしょ。……コーチの予測は、一ミリも狂わないわ』

 ほむらの不敵な呟き。

 自分たちを「カモ」だと思って追いかけてきた全チームが、今、安地の外でパルスに追われ、血を吐くような潰し合いを始めている。

 一発も撃たず、ただ「場所」を支配する。

 11位の「怪物」たちは、戦場のへそで、静かに王座に腰を下ろした。

 第二パルスの収縮が完了した瞬間、配信の同接は17万人を突破した。

 マップの中心、ポツンと取り残された一軒家に陣取る Trinity Raid。その周囲では、安地から外れた 20以上のチ-ムが、生き残りをかけて血を吐くような潰し合いを繰り広げていた。

「……信じられません! 全チ-ムが安地入りに苦戦する中、TR だけが悠々と屋上で索敵をしています!」

「あの位置、本来なら集中砲火を浴びるはずですが……周囲のチ-ムが互いに牽制し合っていて、誰も手が出せない! まるで、戦場の空白地帯です!!」

 実況の絶叫を裏付けるように、ほむらのスコ-プは、安地の縁で遮蔽物を奪い合う敵の姿を、冷徹に捉えていた。

『……西、330。……岩陰に一、木裏に二。……Bグル-プ 3位のチームね。……パルス収縮まであと 15秒。……彼らは、必ずこの開けた平原を走らざるを得ないわ』

「……。……レイ。……獲って」

 葉月の声が、三人の脳裏に直接響いたかのような、完璧なタイミング。

『……了解。……偏差 200。……風速 2。……3、2、1』

 ――ッパァァン!!

 レイの放った M24 の一発が、遮蔽物を失い走り出した敵のヘルメットを貫いた。

 [ TR_Rei knocked down GHOST_Leader ]

『……ねねちゃん、右の木! 追撃!!』

『……はいっ!! ……えいっ!!』

 ――ガガガガガッ!!

 王者のフルカスタム武器を手にしたねねの射撃は、もはや予選の頃の「乱れ撃ち」ではない。 4倍スコ-プ越しに、敵の移動先を(ポイント)で叩く、正確無比な制圧射撃。

 [ TR_Nene killed GHOST_Support ]

 [ TR_Rei killed GHOST_Leader ]

 一発も無駄にしない。

 自分たちは一歩も動かず、パルスという名の「死神」に追われてくる獲物を、高台から淡々と間引いていく。

 その光景は、もはや「Vのアバターを被った少女」のそれではない。

『……次、東。……距離 180。……『鬼神』の残党が来るわよ』

 ほむらの報告に、レイの指先がピクリと跳ねた。

 スクリムで自分たちを 10秒で全滅させた、あの暴力の化身。

「……。……。……」

 レイは無言で、ボルトを引いた。

 金属音が深夜の自室に響く。

『……来なさい。……今度は、私たちの「正解」で、あなたたちを終わらせてあげる』

 安地の中心。

 絶対的な静寂の中に座る三人の影が、地平線から迫る野獣(ライバル)たちを、冷たく見据えていた。

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