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第22話:王者の陥落

 ミリタリ-ベ-スの冷たいコンクリ-トの上。

 膝をつき、信じられないものを見るかのようにレイを仰ぎ見る REIGN のリ-ダ-。その手元にあるのは、弾丸を一発も持たない、ただの鉄の塊と化した最新鋭のライフルだった。

「……バカな。……こんな、デタラメな初動が……」

「……コーチの言った通り。……弾がないあなたは、ただの置物よ」

 レイの声に、一切の躊躇(ちゅうちょ)はなかった。

 各自室から接続しているオンラインの戦場では、表情は見えない。だが、レイが引き金を引く指先に込めた冷徹な「正解」は、デ-タの奔流となって王者の胸を撃ち抜いた。

[ TR_Rei killed REIGN_Captain ]

 無機質なログが画面右上に刻まれた。だが、戦いはまだ終わっていない。

 リ-ダ-を失った残りの二人は、辛うじて拾い集めた拳銃と僅かな弾丸を手に、地下道の暗闇へと逃げ込んだ。

『……レイちゃん、深追いは禁物。……でも、逃がさないわ。……二人の足音の減衰率から推測して、潜伏(ハイド)ポイントは三か所。……ねねちゃん、右のダクトに手榴弾(グレネード)を』

『……了解ですぅ! ……えいっ!!』

 パニックに陥りながらも、そこは日本トップのプロだ。彼らは各自室のモニタ-を睨みつけ、音を殺し、一逆転の隙を狙って地下の角に身を潜めていた。だが、ほむらの演算は、彼らの「プロとしての最適解」すらも読み切っていた。

 爆風に(あぶ)り出され、たまらず飛び出してきた二人の残党。

 ――ッパァン! ッパァン!

 待ち構えていたレイのショットガンが、正確にその胸を撃ち抜いた。

 [ TR_Rei killed REIGN_Ace ]

 [ TR_Rei killed REIGN_Support ]

 直後、日本中のデバイスに、信じがたい一文が躍った。

 [ REIGN WAS ELIMINATED ]

 一瞬の、静寂。

 配信画面を見つめていた 10万人を超える視聴者たちが、絶叫することすら忘れてチャットを止めた。

 絶対王者 REIGN が、初動わずか 10分足らずで、予選 11位の「無名」に完敗した。

「……お、おぉぉーっと!? 何が起きたんだ今!! 王者 REIGN、ここで脱落! 初戦、まさかの初動落ちです!!」

「信じられません……! TR、彼女たちは一体何をした!? 武器すら持たずに王者の懐に飛び込み、その喉元を食い破りました!!」

 スタジオの実況と解説が、裏返った声で絶叫する。

 その衝撃は、それぞれの部屋で安地へと移動を開始していた他の24チ-ムのプロたちにも、モニタ-越しの戦慄となって伝わっていた。

 王者の全滅を告げる無機質なログ。

 各自室でモニターを(にら)みつけていた他のCD24チームのプロたちにも、物理的な戦慄が走った。

『……嘘だろ。REIGNが落ちた? ……あの、11位の女たちに?』

『……おい、今のログを見たか。……嫌な予感がする。……あいつら、ただのラッキーじゃないぞ』

 戦場を支配していた「王者の威圧感」が消え、代わりに正体不明の「異物」への恐怖が、光回線を通じて蔓延していく。

 だが、そんな外野の動揺など(つゆ)知らず、地下道では Trinity Raid の三人が、淡々と「収穫」を開始していた。

『……フルカスタムの M416 に、レベル3のベスト。……ふふ、最高のプレゼントね』

 ほむらが、王者の死体(ボックス)から零れ落ちた最高級の装備を、慣れた手つきで自分のアバターに着せ替えていく。

『……お肉、お肉の神様が味方してくれてますぅ……! 弾もいっぱい、回復薬もいっぱいです!』

 ねねの声に、先ほどまでの緊張の色はない。

 王者の装備を剥ぎ取り、彼女たちは初動10分にして、全24チームの中で最も「完成された武装」を手に入れた。

「……。……。……」

 レイは無言で、奪い取ったばかりのライフルのボルトを引いた。

 カチャリ、という金属音がヘッドセット越しに鼓膜を震わせる。

 一週間前、指の皮が剥けるまで繰り返したリロードの動作。そのロジックが、今、本物の殺意となって彼女の右手に宿っていた。

『……レイちゃん。……準備、完了よ。……次の安地(アンチ)は……南のミリタリーベース出口、あの三叉路を右ね』

「……。……了解。……コーチの言った通り、最短ルートで駆け抜ける。……誰にも、私たちの影すら踏ませない」

 三人は王者の残骸を背に、地下道から地上へと這い出した。

 コーチ席。マイクは切れたままだ。

 だが、モニター越しに、葉月とレイの目が合ったような気がした。

 (……。……第一フェーズ、終了だ。……次、安地の中心へ『最短』で駆け抜けろ。……お前たちの本当の進撃は、ここからだ)

 伝説の指揮官の無言の信頼を背に、三つの影が、誰もいない最短ルートを猛スピードで駆け出した。

 配信の同接は15万人を突破。

 世界が息を呑んで見守る中、11位の「怪物」たちが、戦場の中心へと牙を剥いて進軍を開始した。

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