第16話:戦士たちの休息、素顔の約束 ➁
「ねぇ、みんな。……この堅物コーチに、何か聞きたいこととか、不満とかない? 今なら私が全部聞き出してあげるわよ!」
Mintyの無茶振りに、個室の空気が一気に色めき立った。
葉月は露骨に嫌そうな顔をして、追加のウーロン茶を注文するボタンを押したが、三人の少女たちの視線はすでに「獲物」を捉えたハンターのそれだった。
「……じゃあ、私からいいかしら」
最初に口を開いたのは、理詰めの観測者、ほむらだった。彼女は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、冷徹な分析官の目つきで葉月を射抜く。
「コーチ。……あなたは練習中、私たちのミスに対して一秒の猶予もなく罵倒を浴びせてきたわね。『脳をドブに捨てたのか』とか、『右手の神経が腐ってるのか』とか。……予選の本番中はマイクが切れていて、あなたの声が聞こえなくて、正直ホッとしたくらいだわ」
「……。事実を言ったまでだ。練習でできないことが、本番でできるわけがない」
「ええ、それはいいわ。合理的だもの。……でも、現実のあなたは、こうして甲斐甲斐しく肉を焼いて、私たちの皿に配っている。この『ギャップ』の正体は何? 飴と鞭による洗脳の一種かしら?」
「…………ただの、焼き加減の管理だ。素人に任せて肉を焦がされるのが不快なだけだ」
葉月がぶっきらぼうに言い返すと、横からMintyが「はい、照れ隠しー!」と茶化すように囃し立てた。
「次はねねです! ねね、ずっと気になってたんです!」
ねねが口いっぱいに頬張っていた白米を飲み込み、勢いよく手を挙げた。
「コーチって、普段は何を食べてるんですか? あんなに怖い声を出せるってことは、やっぱり毎日、生肉とか……サプリメントだけとか、そういう……戦闘マシーンみたいな生活なんですか?」
「……。……コンビニの鮭おにぎりと、カップ麺だ」
「……え。……普通。普通すぎます、コーチ! もっとこう、プロのこだわりとかないんですかぁ!?」
あまりにも地味な回答に、ねねがガッカリとしたように肩を落とす。その隣で、レイが少しだけ顔を赤らめながら、小声で問いかけた。
「あ、あの、桜庭さん……。……彼女、とか……。あ、いえ! その、お休みの日は何をされてるのかなって……」
「…………マウスのチャタリングを直してるか、寝てる。他には何もない」
「……。……全方位に隙がないわね。面白いくらいに『ゲーム以外に興味がない』って顔をしてるわ」
ほむらが呆れたように溜息をつく。
だが、そんな三人の追及を、Mintyが意地悪な笑みで一蹴した。
「甘いわね、みんな! こいつの本当の正体はね――」
「姉さん。……それ以上は、本当に肉の注文を止めるぞ」
葉月の冷たい声が響くが、Mintyはどこ吹く風だ。
「こいつね、実はかなりの『寂しがり屋』なのよ。五年前、チームが解散してからは、まるで抜け殻。趣味もない、友達もいない。ただ、自分が教えた『正解』が正しかったのかどうかを、誰もいないサーバーでずっと検証し続けてた……。そんな、不器用で、過去に縛られた大馬鹿者なのよ」
個室が、しん……と静まり返った。
網の上で弾ける脂の音だけが、やけに大きく響く。
葉月は無言で、焦げかけた肉を自分の皿に移した。
否定はしなかった。否定できるほど、自分の五年間に価値があったとも思えなかったからだ。
「……でも、今は一人じゃないですよね」
その静寂を破ったのは、レイの優しく、けれど芯の通った声だった。
「私たちがいます。……コーチが教えてくれた『正解』が、正しいってこと。……本選で、私たちが証明しますから」
レイの瞳には、かつての孤独な王者を、自分たちの場所まで引きずり出そうとするような、強い光が宿っていた。




