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第12話:渇望するスコア

 第一マッチ、終了。

 公式配信の画面には、最終盤の激闘を制した若手エリートチーム『VEGA』の勝利ログが躍っていた。

 

 システムによるマイクの遮断が解除された瞬間、三人の荒い呼吸音がボイスチャットに流れ込む。

『……はぁ、はぁ。……ねね、生きてる……?』

『……っ、最後……弾が、あと一発あれば……っ!』

 レイが悔しげにキーボードを叩く音が響く。

 初戦、トリニティ・レイドは絶対王者『REIGN』を半壊させ、安置の心臓部を死守し続けた末に――三位でフィニッシュした。

 新人Vとしては、歴史的な快挙だ。だが。

「……及第点だ。だが、喜びすぎるな。……見ろ、これが現実だ」

 俺の冷徹な声と共に、画面に全二五チームの総合ポイント順位表(スコア)が表示される。

 1位:VEGA(45pt)

 2位:ASTRA(37pt)

 3位:Trinity Raid(32pt)

 :

 12位:REIGN(12pt)

『……え? 嘘でしょ? あんなに必死にやって、一位と一〇ポイント以上も差があるの……?』

 レイの、愕然とした声。

 順位ポイントは高い。だが、生き残ることに必死だった彼女たちに対し、一位のVEGAは安置の外側から敵を掃討し続け、圧倒的な「キルポイント」を積み上げていた。

「……当然だ。お前たちは『正解』をなぞるのに精一杯で、敵を狩る余裕がなかった。……だが、それより深刻なのは、一二位に沈んだ王者の眼光だ」

 一二位、REIGN。

 初動で三人に二人を抜かれ、泥を啜って隠れ続けた王者のアイコンが、画面の向こうで静かに、けれど燃えるような殺気を放っている。

『……プライドを、ズタズタにしちゃったわね』

 ほむらが、冷や汗を拭いながら呟く。

 SNSでは既に『#トリニティ・レイド運ゲー』というタグと並び、『#REIGNの逆襲』という不気味な予言が跳ね始めていた。

『……怖いわ。……次、絶対私たちを殺しに来る』

 ねねの怯えを、俺は容赦なく切り捨てた。

「……来るだろうな。奴らは次、確実に『TR対策』を練ってくる。安置の先取りなど、二度目は通じないと思え」

 一戦目の奇跡は、二戦目からは「標的」に変わる。

 マイクの向こう。三人の少女たちが、プロの「格」という巨大な壁を、改めて見上げる気配がした。

 インターバル、残り十分。

 公式配信のメインモニターでは、一戦目のリプレイ映像が何度も流されていた。

「……やはり不可解なのは、このトリニティ・レイドの初動です。装備を捨ててまで安置の心臓部を奪う。このムーブ、二戦目も続くのでしょうか?」

「いや、無理でしょう。手の内はバレました。他チーム……特に一二位に沈んだ『REIGN』は、今頃殺気立って彼女たちの降下地点を予測しているはずです」

 解説者の言葉通り、SNSのトレンドは『#TRの安置ハック』と『#王者の公開処刑』で二分されていた。

 

 そんな狂騒から切り離された専用BC(ボイスチャット)

 三人は、葉月が画面に映し出した「二戦目の航路予想図」を、食い入るように見つめていた。

『……コーチ。次、どうするの? また同じように車を獲って走る?』

 レイの問いに、葉月は短く、冷徹に首を振った。

「……殺されるぞ。一戦目は『無名』という迷彩ステルスがあった。だが、手の内を晒した今は違う。……お前たちは今、この会場で最も『目障りなエサ』だ。……一二位に沈んだREIGNを含め、プロ連中は次、お前たちと車両を奪い合い、武器を拾う前に轢き殺しに来る」

『……初動で、無理やり被せに来るってこと……?』

 ねねの顔が、恐怖で強張る。

 一戦目の『車両最短確保』を見せた以上、二戦目はライバルたちが同じ車両を奪い合い、武器を拾う前に車列で轢き殺しに来るリスクがある。

「……そうだ。お前たちが一戦目で見せた『正解』は、二戦目では『予測可能な弱点』に変わる。……特に一二位のREIGNは、プライドを懸けてお前たちの初動を潰しに来るぞ」

『……初動で潰されたら、ポイントはゼロ。……一気に下位に沈むわね』

 ほむらが、眼鏡の奥で最悪のシミュレーションを弾き出す。

 だが、葉月は短く、冷徹に首を振った。

「……だから、二戦目の『正解』は一つしかない。……安置を捨てるぞ」

『……えっ!? 安置を、捨てる!?』

 レイが驚愕で声を上げた。安置の中心を支配することこそが、自分たちの唯一の武器だったはずだ。

「……正確には、『中心への最短ルート』を捨てるんだ。……敵は、お前たちが再び最速で中心に向かうと確信している。……なら、俺たちはその逆を行く。……パルスの外側、通称『ブルーゾーン・ムーブ』で、安置の外周を大きく回る」

 葉月の瞳に、初めて攻撃的な光が宿る。

「……一位の『VEGA』に追いつくには、順位だけでは足りん。……パルスの収縮に追われ、パニックに陥った奴らの背後を、外側から(むし)り取りに行くぞ」

『……ふっ、あはは! ……いいわね、それ。……最高に性格が悪いわ、コーチ!』

 レイが不敵に口角を上げた。

 守るためのロジックから、「狩るためのロジック」へ。

 二戦目のカウントダウンが、静かに始まった。 


 二戦目、開始。

 輸送機が島の上空を横切る。公式配信のカメラは、真っ先に『Trinity Raid』の降下ラインを追った。

「さあ注目の降下です! 一戦目、驚異の安置予測を見せたTR! 次も車両を確保して中心へ向かうのか……ああっ!? 王者REIGNが被せてきた! 全く同じタイミング、同じ角度で降下しています!」

 実況が絶叫する。

 画面の中、王者の三人が、レイたちの降下ラインにピタリと重なるように急降下を開始していた。武器を拾う前に、物理的に「潰し」に来る殺気。

『……来たわね。……予定通りよ』

 レイの、低く落ち着いた声。

 三人は一戦目の車両ポイントを敢えて無視し、航路の最果て、誰も見向きもしない最北の小さな集落へとパラシュートを向けた。

 

 王者が「逃がすか」と追撃しようとしたその時、最初のパルス(安全地帯)が南西の正反対の方向に確定する。

「パルス確定! 南西です! TRの降りた北とは真逆! ……しかもTR、車を確保しましたが南下しません! 逆に、さらに北の『パルスの外側』へと車を走らせたぁ!?」

 実況も、解説も、そして追撃していた王者も、一瞬思考が停止した。

 青い毒ガス(パルス)が迫る中、三人は物資を漁ることもなく、じわじわと体力を削るダメージを受けながら、マップの縁を大きく回る。

 

 ――猛毒(ブルーゾーン)・ムーブ。

 

 それは、安置の中心で待ち構える「プロの正解」を根底から覆す、葉月の授けた「逆襲のロジック」。

『……外周、クリア。……敵の背後、取ったわ』

 ほむらの報告。

 パルスダメージに耐え、ボロボロになりながらも三人が辿り着いたのは、安置の「心臓部」ではなく、安置へ向かうプロたちが最も警戒していない「真後ろ」の断崖絶壁だった。

「……正解だ。……(むし)り取ってこい」

 マイクの切れたコーチ席で、葉月が静かに告げる。

 一戦目の「安置の主」が、二戦目では、毒ガスの中から現れる「死神」へと変貌を遂げていた。

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