表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

灰の都市に灯る光

作者: ko0ha
掲載日:2025/12/08




朝の街は冷えていた。

陽は差しているのに、体を温める気配はほとんどなく、

ビルの壁を跳ね返った光は、ただ眩しいだけの無音の粒になっていた。


通勤の人々が群れのように流れていく。

誰も僕を見ないし、僕も彼らに触れない。

人の気配が多いほど、逆に自分の輪郭が薄くなっていくようだった。


世界の中にいるのに、

世界のページから名前だけ抜け落ちてしまった状態。

会話の音も、靴音も、街のざわめきも、

僕の心にだけ小さな穴を開けたまま通り過ぎていった。


ーーーーーーーーーー


都市は、いつだって冷たい。

その冷たさは、拒絶ではなく“無関心”の温度だ。

ビルは空を切り裂き、

コンクリートは硬く沈黙を守り続ける。


そんな街を歩くと、

生きているという感覚がどこか曖昧になる。

喜びが薄いわけでも、悲しみに沈んでいるわけでもない。

ただ、何も強く心に触れてこない日が続いていく。


僕は特別な目的を持っているわけでもない。

誰かに求められる役割があるわけでもない。

今日を生きる理由も、明日を待つ理由も見当たらないまま、

それでも足だけは前へ運ばれていく。


止まれば消えてしまう気がして、

進めば何かが変わる気がして、

どちらも確信ではないのに、どちらも捨てきれない。

そんな曖昧を抱えたまま、僕は都市の隅を歩く。


ーーーーーーーーーー


ふと、周りの人間の表情を眺める。

笑っている人も、黙って歩く人も、

まるでそれぞれの影を胸の底に隠しているように見えた。


「これは自分だけじゃない」

そう思える瞬間が、確かにある。


朝の満員電車でうなだれる人、

コンビニの前でため息をつく学生、

喫煙所で空だけを見つめるサラリーマン。

彼らもきっと、心の奥に何か重たい石を持ちながら、

それを誰にも見せずに今日を歩いている。


“必要とされていない気がする”

そんな感覚は、実は珍しいものじゃない。

誰も言わないだけで、

世界中のどこかで同じ色の孤独が

静かに呼吸をしている。


それを推測ではなく、

都市の景色から自然に感じ取ってしまう。


この街の中では、

寂しさは一人分では終わらない。

たくさんの心がそれぞれの沈黙を抱えて、

同じ空気を吸っている。


その事実が、

僕の孤独の形を少しだけ変えた。


ーーーーーーーーーー


夕方になる。

ビルのガラスが光を集めて、

街全体がゆっくり輝き始める。


その光は星みたいだった。

でも空の星とは違って、遠くない。

手を伸ばせば届く距離にあって、

触れたらきっと冷たい。

綺麗だとも言い切れない、

ただそこに灯り続けるだけの光。


だが、その曖昧さが都市の光らしくて、

どこか僕自身に似ていた。


僕もまた、

誰かの人生を特別に照らすわけじゃないし、

眩しい存在でもない。

けれど、完全に消えているわけでもない。

確かにここで灯っている。

それだけで、都市の一角になっている。


夜が落ちると、街が星座みたいに光で満たされる。

無数の灯りが並び、

それぞれ違う人生を抱えたまま、

同じ暗闇の中で今日を生きている。


光の数だけ、

誰かの孤独や迷いや空虚が存在する。

そう思うと、

この街はただ冷たいだけの場所ではなくなった。


僕も、この光のひとつとして

明日へと続くどこかで

静かに灯っていけるかもしれない。


理由はまだ見つからない。

意味もまだ掴めない。

それでもーーーー

僕は今日も歩いている。


灰色の都市の中で、

確かに、ここにいる。

あなたと共にいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ