表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王降臨 奈落都市ネザリアから始まる人類征服戦記  作者: たゆたう
第二章 魔王の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/27

第25話 戦火の森

戦いのあとには、必ず「匂い」が残る。


血と、焼けた肉と、土。

それにこの場所には――黒炎がなぞった痕の、金属を焦がしたような苦い匂いが混じっていた。


ダークエルフの集落の広場は、もはや「村の中心」ではない。


砕けた銀の鎧と折れた槍が転がり、

聖騎士たちの白いマントは泥と血と煤でまだらになっている。


半分崩れ落ちた木の家々。

柱にして使われていた黒い枝が炭になり、時折、軋んで崩れ落ちていく。


地面には、黒く焼け焦げた筋がいくつも走っていた。


広場の中央を切り裂くように伸びた、奔流の痕――


その上に重なるように、縦に真っ直ぐ聖騎士隊長を呑み込んだ伸びた黒い柱の跡――


白と赤の火が作った地獄を、

さらにその上から、別の「地獄」が塗りつぶしている。



黒炎は、ルシアンの指先からゆっくりと収まっていった。


足元でまだ名残のように揺れていた火を、彼は手を軽く振って土に沈める。


(……もう、動く敵はいない)


視線を巡らせる。


倒れた聖騎士たちは、すでに誰一人として武器を取れる状態ではなかった。

黒炎に焼かれた者、ガルネの拳で鎧ごと潰れた者、ノクスに噛み千切られた者。


《名前のない聖職者たち》は――二つの黒衣が地に伏している。


一人は喉にラガンの矢を受け、

もう一人は手首から先を黒炎に焼かれたまま、うつ伏せで倒れて動かない。


ルシアンは眉をわずかにひそめたが、すぐに周囲への注意に意識を戻した。


味方側――


ガルネは肩で息をしながらも、まだ立っていた。


「っはー……。いやぁ、人間相手もなかなか骨が折れるな」


額から流れた血が、頬を伝って顎へと滴っている。


どう見ても満身創痍なのに、本人は口の端を上げて拳を振って見せた。


「聖騎士って言うからさ、もっと石像みたいに硬ぇのかと思ってたけどよ。

案外、ちゃんと殴れば飛ぶじゃねぇか」


「ガルネ、その“案外”で折れてる肋骨がいくつあると思ってるんだい」


マーヤが少し離れた場所から苦笑混じりに返す。


「後でちゃんと寝かせるからね。動いたら変なふうにくっつくよ」


「闘技場のほうがまだマシだった、とか言わなくてよかったね」


ルナが半泣き顔で付け足すと、ガルネは肩をすくめた。


「おうおう、心配性の子どもたちだこと。

大丈夫だ、まだ走れる」


そう言いながら、ちょっと足元がふらつく。


「……今のナシな。やっぱちょっと痛ぇ」


そこだけ、張り詰めた空気がほんの少し緩んだ。


ラガンは、その間も黒衣のそばにしゃがみ込んでいた。


黒い法衣の裾をつまみ、裏に縫い付けられている小さな札をいくつも引きはがす。


「……やっぱりだ」


低く押し殺した声が漏れる。


札には、数字と簡単な符号だけが刻まれていた。


標本。

調査用。

不要。


そうした意味を持つ線と印。


「森で拾った命を、全部数字と用途でしか見ていない」


ラガンは札を握りしめる。


褐色の指先が白くなるほど力がこもった。


「木も、獣も、人も……。

人間の森でのやり口は、いつもこれだ」


目の奥に、静かな怒りが燃えていた。



集落の外れ。倒壊しかけた家屋の影に、まだ人影がひとつ残っていた。


《名前のない聖職者》――最後に生き残った男だ。


黒い布で顔の下半分を覆ったまま、彼は壁にもたれかかって荒い息を吐いている。


右腕は、肘から先がなかった。


ノクスの一撃で砕かれた骨を、自分で切り落としたばかりだ。

焦げた肉の匂いと、聖油の甘い香りが混じり合う。


左のわき腹には、黒炎がかすめた跡が残っていた。


皮膚がただれ、ところどころ黒く変色している。


(……あれは)


脳裏に焼き付いて離れないのは、黒い狼が放ったあの瞬間。


吠え声と共に、闇のような圧が広場を薙ぎ払い、

聖印も、祈りの声も、音ごと呑み込まれた。


魔獣。

異端。

魔族。


そういう枠に収まらない、「何か」。


(呪いの森の奥に棲む、“王”……か)


昔、どこかの聖堂で耳にした報告の断片が蘇る。


黒い王狼。

かつて魔族の王に仕えた獣の血を引く存在。


そして――


闇の奔流を操る青年。

赤い瞳。黒炎。


(森の中で、魔王の息子と思しき黒炎。

呪いの森の“王”。

ダークエルフと獣人が、一つの群れのように動いている……)


男は、自分の震えを悟られまいと歯を食いしばる。


恐怖と、職務に縛られた義務感が胸の内でせめぎ合っていた。


(ここで、私は死ねない)


彼は、左手で懐から短いナイフを取り出した。


刃には、自分の血がこびりついている。

先ほど右腕を切り落としたときのものだ。


法衣をたくし上げ、腹を露出させる。


そこには既に、薄く刻まれた刻印があった。


円と十字。

その周囲には、小さな印がいくつも並んでいる。


それは「聖なる転送」の完全な陣ではない。


正規の聖堂で用いられる、整った転移術式ではない。


聖堂の外――戦場や森の奥から、

傷だらけの聖職者を「とりあえず回収する」ための簡易術式。


代償は、肉体の一部。


男はナイフの先で、自分の腹の刻印をなぞる。


古い傷が開き、血が線に沿って溢れてきた。


「……光よ」


掠れた声が、家屋の影で震えた。


「我が肉を座標とし、我が影を道とせよ。

この身の一部を捧げる代わりに――黙示庁への路を開け」


足元の土が、じわりと白く光る。


崩れた板の隙間から覗く地面に、

簡素な十字の紋が浮かび上がった。


聖句らしい整った祈りはない。

術式は粗く、歪で、乱暴だ。


だが、その代わり――早い。


男の影が、地面の十字に向かって引き伸ばされていく。


骨の内側を何かが引き抜かれるような、きしむ痛み。


左足の感覚が、ふっと消えた。


皮膚がはがれ落ちるように、

黒炎に焼かれた部分が、地面に貼りついたまま残る。


(この森の奥に、“魔王の残り火”がいる)


意識が白に呑まれていく寸前、

男は心の中で、はっきりと名を呼んだ。


黙示庁。


《解体司祭》イグナティウス・ローレンス。


(あの男に、この情報を届けねばならない。

これは、“上”の計画にとって、決して看過できぬ事象だ)


光が弾けた。


次の瞬間、そこには誰もいなかった。


残されたのは、黒く焼け焦げた左足と、

血で赤黒く濡れた刻印付きの皮膚――


そして、べっとりとした聖油の匂いだけ。



広場のほうで、ラガンが顔をしかめて振り向いた。


「……今の気配は?」


崩れかけた家々の列の向こうから、一瞬だけ、

光の匂いが立ち上ったような感覚がした。


ノクスも、そちらを一度だけ見やる。


黒い耳が、ぴくりと動いた。


ーー虫けらが一匹、巣へ這い戻った。


低い思念が、ルシアンの頭の奥に響く。


ルシアンは一瞬だけそちらへ視線を送り、すぐに戻した。


「ルシアン様?」


ラガンが問う。


「……一人、取り逃がした」


ルシアンは短く答えた。


「だが、今追えば、ここの治療が間に合わない」


焼け落ちかけた家々の奥から、

うめき声や、子どもの泣き声がまだ絶えず聞こえてくる。


ルシアンは片手を握りしめ、すぐに開いた。


「ラガン。生きてるやつを先だ」


「……了解だ、ルシアン様」


ラガンは矢筒を背負い直し、ダークエルフたちのほうへ駆けていった。



マーヤは、地面に膝をついたまま負傷者を次々と診ていた。


脈。

呼吸。

瞳孔の反応。


治せる者と、手遅れの者。

その境界線を、冷静に、しかし乱暴に引き分けていく。


「……こっちはまだいける。

肋と腕が折れてるけど、内臓まではいってない」


「はい!」


ブランがすぐに駆け寄り、指示された男の肩を支える。


「ここ、持つぞ。足は動かすなって言われたからな」


「す、すまない……」


ダークエルフの男は、かすれた声で謝ろうとした。


ブランは首を振る。


「謝るのは、全部終わってからでいいだろ。

今は、生き延びるほうが先だ」


隣ではルナが、子どもの手を握っていた。


涙で腫れた目。

嗚咽でひきつる喉。


「大丈夫……大丈夫だよ。

ここから離れないで。ノクス様が見ててくれるから」


自分の声も震えているのが分かった。


それでも、手だけは絶対に離さない。


ノクスは、少し高い位置――半分崩れた家の屋根の残骸の上に腰を下ろしていた。


集落全体と森の外縁を一度に見渡せる、見晴らしのいい場所。


黒い巨体は、動かずに座っているだけなのに、

その周囲の空気だけが濃く、重く感じられる。


森の闇が、その一点に集まって形をとったような存在感。


生き残ったダークエルフたちは、本能でそれを感じ取っていた。


マーヤのほうへ歩み寄ろうとして、ノクスの影にかかるあたりで足を止めてしまう者がいる。


子どもを抱いたまま、黒狼を一瞬見て、

慌てて視線をそらす者もいた。


耳がぴくりと震え、尾が足の間に挟まる。


助けられたことは分かっている。

あの影の中へ逃げ込んだからこそ、今こうして息をしていることも。


それでも、体は別の反応をする。


――近づくな。


森に生きる者の本能が、そう囁いている。


「……あれが」


腕に包帯を巻いてもらいながら、

年長のダークエルフの男が小さく呟いた。


「昔、聞いたことがある。

森の奥には、黒い王狼が棲んでいて……

かつて魔族の王に仕えた獣の血を引いているって」


隣の女が、震える声で返す。


「昔話でしょ。それこそ、子どものころに怯かされる話……」


「その昔話に命を拾われたのなら、どう受け止めればいいんだろうな」


男は苦笑とも諦めともつかない表情を浮かべた。



そんな空気の中で、ルナは一歩前に出た。


ノクスの影のすぐ手前で立ち止まり、

自分より小さな子どもたちに向かって、できるだけ明るい声を出す。


「き、聞いて。みんな。

ノクス様はね、ルシアン様の仲間なんだ」


子どもたちの視線が、一斉に彼女へ向いた。


「わ、私たちといっしょに、森を守ってくれる“王様”だよ。

さっきも、悪い人たちをいっぱい追い払ってくれたの。

だから――その……怖いのは分かるけど、敵じゃないから」


自分だって、あの咆哮を間近で聞いたとき、膝が笑いかけた。

背中の毛が総立ちになった。


それでも、ルシアンを信じている。

だから、ノクスも信じると決めている。


それを、できるだけ言葉にのせた。


「ノクス様は、ルシアン様の下についてくれてる。

ルシアン様は……弱い人を見捨てない人だから」


嘘は言っていない。

それでも、ほんの少しだけ、自分を奮い立たせるための言葉も混じっていた。


子どもたちは、まだ不安そうにノクスとルナを見比べている。


ノクスは、その様子をじっと見ていた。


黄金の瞳が、細くなる。


ーー小さな雌獣は、よく吠える。


思念には、どこかくすぐったそうな響きがあった。


ルナの言葉のあとで、

ノクスはほんのわずかに耳を伏せ、尾を一度だけゆっくりと揺らす。


それだけで、影の中の空気が、少し柔らぐ。


「……ほら。怒ってないでしょ」


ルナがそっと笑うと、

子どもたちのうち一人が、おそるおそる一歩、ノクスのほうへ足を出しかけた。


すぐに、母親が慌てて抱き寄せる。


「だ、駄目……!あんまり近づくんじゃないよ」


その声にも、恐怖と理解が混ざっていた。


助けてもらったことは分かっている。

それでも、あの牙と焔を、あまり近くで見たいとは思えない。


ノクスは、何も言わない。


ただ少しだけ視線を逸らし、

森の奥――まだ何かを警戒する方向へ耳を向けた。


ーー守られた獲物が、牙を恐れるのは当然だ。


ルシアンには、そんな独り言めいた思念だけが届く。



イリーネは、まだ包帯の下から血を滲ませながらも歩いていた。


足取りはふらついている。

それでも、どうしても確かめたい場所があった。


半ば崩れ落ちた家の前で、彼女は立ち止まる。


「……っ」


中から、かすかな声がした。


「イリ……ーネ……?」


「お母さん!」


イリーネは思わず前のめりになる。


マーヤが背中を押さえて制した。


「駄目だよ。走ったら傷が開く。ゆっくり」


家の中には、煙にむせながらも生きている女たちが数人いた。


その一人が、イリーネに向かって手を伸ばす。


二人は、言葉にならない声を何度も漏らしながら抱き合った。


イリーネは、その肩越しに広場を振り返る。


黒い焼け跡と、倒れた聖騎士たち。

そして、その中央に立つ少年と――その周りに集まる獣人や亜人たち。


さらに、その一段高いところに座る黒狼。


胸の奥からこみ上げるものを、どう言葉にしていいか分からない。


それでも、彼女は何度も頭を下げようとした。


「ル……ルシアン様……っ、あ、あの、わたし……」


まともな言葉にならない。


ルシアンは首を振った。


「礼は、後でいい」


淡々とした声だった。


「今は、生きている奴を優先しろ。

話す相手は、明日でもまだ間に合う」


そう言いながらも、心の中では別の数を数えていた。


間に合った家。

間に合わなかった家。


起き上がれる者。

もう二度と動かない者。


「何人救えたか」より先に、

「何人救えなかったか」が浮かんでしまう。


ルシアンは、自分でその思考を押し流した。


今は、立ち止まって振り返る時間ではない。



ラガンは、集落の全体を見回していた。


焼けた家。

割れた壺。

地面に散らばる矢じりや、小さな装飾品。


ここが、彼の「知っている場所」だったことを示すものが、ところどころに残っている。


彼を見つけた一人のダークエルフが、目を見開いた。


「……ラガン?」


親族か、旧知か。


褐色の顔に、驚きと安堵と、複雑な感情が一度に浮かぶ。


ラガンは肩をすくめた。


「久しいな。

……もっとマシな姿で顔を出したかったが」


声は淡々としている。


しかし、視線の端に、押し殺した怒りがにじんでいた。


「お前が連れてきたのか、あの……?」


男がノクスのほうを一瞬見やり、すぐに目をそらす。


「いや。向こうから“見つけて”きた」


ラガンは、ちらりとルシアンを振り返る。


「ルシアン様のほうが、よっぽど厄介な縁を引き寄せる」


皮肉めいた言葉だが、そこには薄い敬意も混ざっていた。


ガルネは、マーヤに肋を巻かれながら、

それでも場の空気を軽くしようとするかのように口を開いた。


「おうおう、そんな顔すんなよ。

あたしらがいなかったら、もっとひでぇことになってた。

……まぁ、闘技場に比べりゃ、これでもまだマシな光景だがな」


「闘技場って、どんな場所なんですか……」


ブランが思わず呟く。


「今は、教えたくないな」


ガルネは歯を見せて笑った。


「子どもには、もうちょっとマシな話から聞かせてやりてぇ」



夕暮れが、森をゆっくりと染めていく。


燃え残った家々の影が伸び、

広場の真ん中には、死者を囲むようにして小さなたき火がいくつか灯された。


歌も祈りも、まだ出てこない。


代わりに、低いささやき声が、炎の周りで途切れ途切れに続いていた。


ルシアンたちは、少し離れた場所に腰を落ち着けた。


今夜はここで傷の手当てと、死者の弔い。


その先のこと――この集落がここに残るのか、別の場所へ移るのか。

自分たちが森の奥へどう進むのか。


それを話すのは、明日以降だ。


ルシアンは、そんな段取りを頭の中で組み立てながら焚き火を見ていた。


視線を上げれば、少し離れた高所に、ノクスの黒い影が見える。


森の縁と集落を一望できる位置。


黒い狼は、座ったまま動かない。


それでも、その存在があるだけで、

森から何かが近づけばすぐに分かるだろうという安心感と、


同時に――近づいてはいけないという本能的な警戒を、両方同時に生み出していた。


(味方であっても、恐ろしい)


ルシアンは自分の胸の内でそう言葉にしてみる。


牙を向けられていなくても、

咆哮を聞いていなくても、


あれがひとたび本気になれば、

森一つくらい簡単に噛み千切るのだろう、ということが直感で分かる。


(……その位置に、いつか俺も近づいていくのかもしれない)


黒炎を握る自分の手を見下ろす。


父のような「魔王」が座っていた場所。


そこへ向かう道の途中に、自分も立っている。


一瞬だけそんな予感が胸をかすめたが、

ルシアンはそれを意識から追い払った。


今は、考えるべきことが多すぎる。



「今夜はここで留まるしかないね」


マーヤが、簡易の包帯を結び直しながら言った。


「動かせない怪我人が多すぎる。

死者の弔いも、急ぎ足で済ませるわけにはいかないし」


「ルシアン様」


ラガンが呼びかける。


「明日以降の話は、どうする?」


「明日、集落の者たちと話す」


ルシアンは迷いなく答えた。


「ここに残るか、森のどこかへ移るか。

俺たちはネザリアに向かうが、その道で手伝えることがあれば、考える」


そう言っているときだった。


ノクスが、ゆっくりと頭を上げた。


黒い耳が、森の外縁へ向けてぴんと立つ。


ーー来るぞ。


短い思念。


次の瞬間、ルシアンの耳にもそれが届いた。


重い足音。

乾いた枝を踏みしめる音。

金属と革の擦れる音。


多人数。


「……気配が増えてる」


ラガンが身を起こした。


顔色がわずかに変わる。


「この歩き方、装備の音……。

――狩り部隊だ」


森の奥から、複数の影が現れた。


軽装の斥候ではない。

鎧と皮をまとい、長弓と槍を携えたダークエルフたち。


魔獣狩りに出ていた戦闘部隊が、ようやく集落へ戻ってきたのだ。


彼らの視界に飛び込んできたのは――


燃えかけた集落。

倒れた同族たちの姿。

その中央にいる、見知らぬ一団。


獣人。

鱗持ち。

黒い焔の匂いをまとった少年。


そして、その少し上から全てを見下ろしている、黒い王狼。


「……っ!」


先頭にいた長身のダークエルフが、反射的に弓を引き絞った。


その動きに合わせて、後ろの者たちも一斉に武器を構える。


「――貴様ら、動くな!」


鋭い声が、広場に響いた。


「そこから一歩でも動けば、容赦なく射る!」


矢じりが、ルシアンたちの胸元を真っ直ぐに狙う。


ルシアンは、即座に黒炎を抑えた。


掌の内側でうごめく熱を押し込み、

代わりに、片手をゆっくりと上げて仲間たちに「動くな」と合図する。


ガルネは歯を食いしばって立ち上がりかけ、

マーヤに肩を掴まれて踏みとどまった。


ルナとブランは、反射的に子どもたちの前に立つ。


ノクスは、ただ静かに黄金の瞳を細めた。


黒い焔の痕と、白いマントの死骸と、

森の王と、魔王の息子。


焼け落ちた集落の広場で、

新しい緊張が、音もなく燃え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ