第25話 戦火の森
戦いのあとには、必ず「匂い」が残る。
血と、焼けた肉と、土。
それにこの場所には――黒炎がなぞった痕の、金属を焦がしたような苦い匂いが混じっていた。
ダークエルフの集落の広場は、もはや「村の中心」ではない。
砕けた銀の鎧と折れた槍が転がり、
聖騎士たちの白いマントは泥と血と煤でまだらになっている。
半分崩れ落ちた木の家々。
柱にして使われていた黒い枝が炭になり、時折、軋んで崩れ落ちていく。
地面には、黒く焼け焦げた筋がいくつも走っていた。
広場の中央を切り裂くように伸びた、奔流の痕――
その上に重なるように、縦に真っ直ぐ聖騎士隊長を呑み込んだ伸びた黒い柱の跡――
白と赤の火が作った地獄を、
さらにその上から、別の「地獄」が塗りつぶしている。
◆
黒炎は、ルシアンの指先からゆっくりと収まっていった。
足元でまだ名残のように揺れていた火を、彼は手を軽く振って土に沈める。
(……もう、動く敵はいない)
視線を巡らせる。
倒れた聖騎士たちは、すでに誰一人として武器を取れる状態ではなかった。
黒炎に焼かれた者、ガルネの拳で鎧ごと潰れた者、ノクスに噛み千切られた者。
《名前のない聖職者たち》は――二つの黒衣が地に伏している。
一人は喉にラガンの矢を受け、
もう一人は手首から先を黒炎に焼かれたまま、うつ伏せで倒れて動かない。
ルシアンは眉をわずかにひそめたが、すぐに周囲への注意に意識を戻した。
味方側――
ガルネは肩で息をしながらも、まだ立っていた。
「っはー……。いやぁ、人間相手もなかなか骨が折れるな」
額から流れた血が、頬を伝って顎へと滴っている。
どう見ても満身創痍なのに、本人は口の端を上げて拳を振って見せた。
「聖騎士って言うからさ、もっと石像みたいに硬ぇのかと思ってたけどよ。
案外、ちゃんと殴れば飛ぶじゃねぇか」
「ガルネ、その“案外”で折れてる肋骨がいくつあると思ってるんだい」
マーヤが少し離れた場所から苦笑混じりに返す。
「後でちゃんと寝かせるからね。動いたら変なふうにくっつくよ」
「闘技場のほうがまだマシだった、とか言わなくてよかったね」
ルナが半泣き顔で付け足すと、ガルネは肩をすくめた。
「おうおう、心配性の子どもたちだこと。
大丈夫だ、まだ走れる」
そう言いながら、ちょっと足元がふらつく。
「……今のナシな。やっぱちょっと痛ぇ」
そこだけ、張り詰めた空気がほんの少し緩んだ。
ラガンは、その間も黒衣のそばにしゃがみ込んでいた。
黒い法衣の裾をつまみ、裏に縫い付けられている小さな札をいくつも引きはがす。
「……やっぱりだ」
低く押し殺した声が漏れる。
札には、数字と簡単な符号だけが刻まれていた。
標本。
調査用。
不要。
そうした意味を持つ線と印。
「森で拾った命を、全部数字と用途でしか見ていない」
ラガンは札を握りしめる。
褐色の指先が白くなるほど力がこもった。
「木も、獣も、人も……。
人間の森でのやり口は、いつもこれだ」
目の奥に、静かな怒りが燃えていた。
◆
集落の外れ。倒壊しかけた家屋の影に、まだ人影がひとつ残っていた。
《名前のない聖職者》――最後に生き残った男だ。
黒い布で顔の下半分を覆ったまま、彼は壁にもたれかかって荒い息を吐いている。
右腕は、肘から先がなかった。
ノクスの一撃で砕かれた骨を、自分で切り落としたばかりだ。
焦げた肉の匂いと、聖油の甘い香りが混じり合う。
左のわき腹には、黒炎がかすめた跡が残っていた。
皮膚がただれ、ところどころ黒く変色している。
(……あれは)
脳裏に焼き付いて離れないのは、黒い狼が放ったあの瞬間。
吠え声と共に、闇のような圧が広場を薙ぎ払い、
聖印も、祈りの声も、音ごと呑み込まれた。
魔獣。
異端。
魔族。
そういう枠に収まらない、「何か」。
(呪いの森の奥に棲む、“王”……か)
昔、どこかの聖堂で耳にした報告の断片が蘇る。
黒い王狼。
かつて魔族の王に仕えた獣の血を引く存在。
そして――
闇の奔流を操る青年。
赤い瞳。黒炎。
(森の中で、魔王の息子と思しき黒炎。
呪いの森の“王”。
ダークエルフと獣人が、一つの群れのように動いている……)
男は、自分の震えを悟られまいと歯を食いしばる。
恐怖と、職務に縛られた義務感が胸の内でせめぎ合っていた。
(ここで、私は死ねない)
彼は、左手で懐から短いナイフを取り出した。
刃には、自分の血がこびりついている。
先ほど右腕を切り落としたときのものだ。
法衣をたくし上げ、腹を露出させる。
そこには既に、薄く刻まれた刻印があった。
円と十字。
その周囲には、小さな印がいくつも並んでいる。
それは「聖なる転送」の完全な陣ではない。
正規の聖堂で用いられる、整った転移術式ではない。
聖堂の外――戦場や森の奥から、
傷だらけの聖職者を「とりあえず回収する」ための簡易術式。
代償は、肉体の一部。
男はナイフの先で、自分の腹の刻印をなぞる。
古い傷が開き、血が線に沿って溢れてきた。
「……光よ」
掠れた声が、家屋の影で震えた。
「我が肉を座標とし、我が影を道とせよ。
この身の一部を捧げる代わりに――黙示庁への路を開け」
足元の土が、じわりと白く光る。
崩れた板の隙間から覗く地面に、
簡素な十字の紋が浮かび上がった。
聖句らしい整った祈りはない。
術式は粗く、歪で、乱暴だ。
だが、その代わり――早い。
男の影が、地面の十字に向かって引き伸ばされていく。
骨の内側を何かが引き抜かれるような、きしむ痛み。
左足の感覚が、ふっと消えた。
皮膚がはがれ落ちるように、
黒炎に焼かれた部分が、地面に貼りついたまま残る。
(この森の奥に、“魔王の残り火”がいる)
意識が白に呑まれていく寸前、
男は心の中で、はっきりと名を呼んだ。
黙示庁。
《解体司祭》イグナティウス・ローレンス。
(あの男に、この情報を届けねばならない。
これは、“上”の計画にとって、決して看過できぬ事象だ)
光が弾けた。
次の瞬間、そこには誰もいなかった。
残されたのは、黒く焼け焦げた左足と、
血で赤黒く濡れた刻印付きの皮膚――
そして、べっとりとした聖油の匂いだけ。
◆
広場のほうで、ラガンが顔をしかめて振り向いた。
「……今の気配は?」
崩れかけた家々の列の向こうから、一瞬だけ、
光の匂いが立ち上ったような感覚がした。
ノクスも、そちらを一度だけ見やる。
黒い耳が、ぴくりと動いた。
ーー虫けらが一匹、巣へ這い戻った。
低い思念が、ルシアンの頭の奥に響く。
ルシアンは一瞬だけそちらへ視線を送り、すぐに戻した。
「ルシアン様?」
ラガンが問う。
「……一人、取り逃がした」
ルシアンは短く答えた。
「だが、今追えば、ここの治療が間に合わない」
焼け落ちかけた家々の奥から、
うめき声や、子どもの泣き声がまだ絶えず聞こえてくる。
ルシアンは片手を握りしめ、すぐに開いた。
「ラガン。生きてるやつを先だ」
「……了解だ、ルシアン様」
ラガンは矢筒を背負い直し、ダークエルフたちのほうへ駆けていった。
◆
マーヤは、地面に膝をついたまま負傷者を次々と診ていた。
脈。
呼吸。
瞳孔の反応。
治せる者と、手遅れの者。
その境界線を、冷静に、しかし乱暴に引き分けていく。
「……こっちはまだいける。
肋と腕が折れてるけど、内臓まではいってない」
「はい!」
ブランがすぐに駆け寄り、指示された男の肩を支える。
「ここ、持つぞ。足は動かすなって言われたからな」
「す、すまない……」
ダークエルフの男は、かすれた声で謝ろうとした。
ブランは首を振る。
「謝るのは、全部終わってからでいいだろ。
今は、生き延びるほうが先だ」
隣ではルナが、子どもの手を握っていた。
涙で腫れた目。
嗚咽でひきつる喉。
「大丈夫……大丈夫だよ。
ここから離れないで。ノクス様が見ててくれるから」
自分の声も震えているのが分かった。
それでも、手だけは絶対に離さない。
ノクスは、少し高い位置――半分崩れた家の屋根の残骸の上に腰を下ろしていた。
集落全体と森の外縁を一度に見渡せる、見晴らしのいい場所。
黒い巨体は、動かずに座っているだけなのに、
その周囲の空気だけが濃く、重く感じられる。
森の闇が、その一点に集まって形をとったような存在感。
生き残ったダークエルフたちは、本能でそれを感じ取っていた。
マーヤのほうへ歩み寄ろうとして、ノクスの影にかかるあたりで足を止めてしまう者がいる。
子どもを抱いたまま、黒狼を一瞬見て、
慌てて視線をそらす者もいた。
耳がぴくりと震え、尾が足の間に挟まる。
助けられたことは分かっている。
あの影の中へ逃げ込んだからこそ、今こうして息をしていることも。
それでも、体は別の反応をする。
――近づくな。
森に生きる者の本能が、そう囁いている。
「……あれが」
腕に包帯を巻いてもらいながら、
年長のダークエルフの男が小さく呟いた。
「昔、聞いたことがある。
森の奥には、黒い王狼が棲んでいて……
かつて魔族の王に仕えた獣の血を引いているって」
隣の女が、震える声で返す。
「昔話でしょ。それこそ、子どものころに怯かされる話……」
「その昔話に命を拾われたのなら、どう受け止めればいいんだろうな」
男は苦笑とも諦めともつかない表情を浮かべた。
◆
そんな空気の中で、ルナは一歩前に出た。
ノクスの影のすぐ手前で立ち止まり、
自分より小さな子どもたちに向かって、できるだけ明るい声を出す。
「き、聞いて。みんな。
ノクス様はね、ルシアン様の仲間なんだ」
子どもたちの視線が、一斉に彼女へ向いた。
「わ、私たちといっしょに、森を守ってくれる“王様”だよ。
さっきも、悪い人たちをいっぱい追い払ってくれたの。
だから――その……怖いのは分かるけど、敵じゃないから」
自分だって、あの咆哮を間近で聞いたとき、膝が笑いかけた。
背中の毛が総立ちになった。
それでも、ルシアンを信じている。
だから、ノクスも信じると決めている。
それを、できるだけ言葉にのせた。
「ノクス様は、ルシアン様の下についてくれてる。
ルシアン様は……弱い人を見捨てない人だから」
嘘は言っていない。
それでも、ほんの少しだけ、自分を奮い立たせるための言葉も混じっていた。
子どもたちは、まだ不安そうにノクスとルナを見比べている。
ノクスは、その様子をじっと見ていた。
黄金の瞳が、細くなる。
ーー小さな雌獣は、よく吠える。
思念には、どこかくすぐったそうな響きがあった。
ルナの言葉のあとで、
ノクスはほんのわずかに耳を伏せ、尾を一度だけゆっくりと揺らす。
それだけで、影の中の空気が、少し柔らぐ。
「……ほら。怒ってないでしょ」
ルナがそっと笑うと、
子どもたちのうち一人が、おそるおそる一歩、ノクスのほうへ足を出しかけた。
すぐに、母親が慌てて抱き寄せる。
「だ、駄目……!あんまり近づくんじゃないよ」
その声にも、恐怖と理解が混ざっていた。
助けてもらったことは分かっている。
それでも、あの牙と焔を、あまり近くで見たいとは思えない。
ノクスは、何も言わない。
ただ少しだけ視線を逸らし、
森の奥――まだ何かを警戒する方向へ耳を向けた。
ーー守られた獲物が、牙を恐れるのは当然だ。
ルシアンには、そんな独り言めいた思念だけが届く。
◆
イリーネは、まだ包帯の下から血を滲ませながらも歩いていた。
足取りはふらついている。
それでも、どうしても確かめたい場所があった。
半ば崩れ落ちた家の前で、彼女は立ち止まる。
「……っ」
中から、かすかな声がした。
「イリ……ーネ……?」
「お母さん!」
イリーネは思わず前のめりになる。
マーヤが背中を押さえて制した。
「駄目だよ。走ったら傷が開く。ゆっくり」
家の中には、煙にむせながらも生きている女たちが数人いた。
その一人が、イリーネに向かって手を伸ばす。
二人は、言葉にならない声を何度も漏らしながら抱き合った。
イリーネは、その肩越しに広場を振り返る。
黒い焼け跡と、倒れた聖騎士たち。
そして、その中央に立つ少年と――その周りに集まる獣人や亜人たち。
さらに、その一段高いところに座る黒狼。
胸の奥からこみ上げるものを、どう言葉にしていいか分からない。
それでも、彼女は何度も頭を下げようとした。
「ル……ルシアン様……っ、あ、あの、わたし……」
まともな言葉にならない。
ルシアンは首を振った。
「礼は、後でいい」
淡々とした声だった。
「今は、生きている奴を優先しろ。
話す相手は、明日でもまだ間に合う」
そう言いながらも、心の中では別の数を数えていた。
間に合った家。
間に合わなかった家。
起き上がれる者。
もう二度と動かない者。
「何人救えたか」より先に、
「何人救えなかったか」が浮かんでしまう。
ルシアンは、自分でその思考を押し流した。
今は、立ち止まって振り返る時間ではない。
◆
ラガンは、集落の全体を見回していた。
焼けた家。
割れた壺。
地面に散らばる矢じりや、小さな装飾品。
ここが、彼の「知っている場所」だったことを示すものが、ところどころに残っている。
彼を見つけた一人のダークエルフが、目を見開いた。
「……ラガン?」
親族か、旧知か。
褐色の顔に、驚きと安堵と、複雑な感情が一度に浮かぶ。
ラガンは肩をすくめた。
「久しいな。
……もっとマシな姿で顔を出したかったが」
声は淡々としている。
しかし、視線の端に、押し殺した怒りがにじんでいた。
「お前が連れてきたのか、あの……?」
男がノクスのほうを一瞬見やり、すぐに目をそらす。
「いや。向こうから“見つけて”きた」
ラガンは、ちらりとルシアンを振り返る。
「ルシアン様のほうが、よっぽど厄介な縁を引き寄せる」
皮肉めいた言葉だが、そこには薄い敬意も混ざっていた。
ガルネは、マーヤに肋を巻かれながら、
それでも場の空気を軽くしようとするかのように口を開いた。
「おうおう、そんな顔すんなよ。
あたしらがいなかったら、もっとひでぇことになってた。
……まぁ、闘技場に比べりゃ、これでもまだマシな光景だがな」
「闘技場って、どんな場所なんですか……」
ブランが思わず呟く。
「今は、教えたくないな」
ガルネは歯を見せて笑った。
「子どもには、もうちょっとマシな話から聞かせてやりてぇ」
◆
夕暮れが、森をゆっくりと染めていく。
燃え残った家々の影が伸び、
広場の真ん中には、死者を囲むようにして小さなたき火がいくつか灯された。
歌も祈りも、まだ出てこない。
代わりに、低いささやき声が、炎の周りで途切れ途切れに続いていた。
ルシアンたちは、少し離れた場所に腰を落ち着けた。
今夜はここで傷の手当てと、死者の弔い。
その先のこと――この集落がここに残るのか、別の場所へ移るのか。
自分たちが森の奥へどう進むのか。
それを話すのは、明日以降だ。
ルシアンは、そんな段取りを頭の中で組み立てながら焚き火を見ていた。
視線を上げれば、少し離れた高所に、ノクスの黒い影が見える。
森の縁と集落を一望できる位置。
黒い狼は、座ったまま動かない。
それでも、その存在があるだけで、
森から何かが近づけばすぐに分かるだろうという安心感と、
同時に――近づいてはいけないという本能的な警戒を、両方同時に生み出していた。
(味方であっても、恐ろしい)
ルシアンは自分の胸の内でそう言葉にしてみる。
牙を向けられていなくても、
咆哮を聞いていなくても、
あれがひとたび本気になれば、
森一つくらい簡単に噛み千切るのだろう、ということが直感で分かる。
(……その位置に、いつか俺も近づいていくのかもしれない)
黒炎を握る自分の手を見下ろす。
父のような「魔王」が座っていた場所。
そこへ向かう道の途中に、自分も立っている。
一瞬だけそんな予感が胸をかすめたが、
ルシアンはそれを意識から追い払った。
今は、考えるべきことが多すぎる。
◆
「今夜はここで留まるしかないね」
マーヤが、簡易の包帯を結び直しながら言った。
「動かせない怪我人が多すぎる。
死者の弔いも、急ぎ足で済ませるわけにはいかないし」
「ルシアン様」
ラガンが呼びかける。
「明日以降の話は、どうする?」
「明日、集落の者たちと話す」
ルシアンは迷いなく答えた。
「ここに残るか、森のどこかへ移るか。
俺たちはネザリアに向かうが、その道で手伝えることがあれば、考える」
そう言っているときだった。
ノクスが、ゆっくりと頭を上げた。
黒い耳が、森の外縁へ向けてぴんと立つ。
ーー来るぞ。
短い思念。
次の瞬間、ルシアンの耳にもそれが届いた。
重い足音。
乾いた枝を踏みしめる音。
金属と革の擦れる音。
多人数。
「……気配が増えてる」
ラガンが身を起こした。
顔色がわずかに変わる。
「この歩き方、装備の音……。
――狩り部隊だ」
森の奥から、複数の影が現れた。
軽装の斥候ではない。
鎧と皮をまとい、長弓と槍を携えたダークエルフたち。
魔獣狩りに出ていた戦闘部隊が、ようやく集落へ戻ってきたのだ。
彼らの視界に飛び込んできたのは――
燃えかけた集落。
倒れた同族たちの姿。
その中央にいる、見知らぬ一団。
獣人。
鱗持ち。
黒い焔の匂いをまとった少年。
そして、その少し上から全てを見下ろしている、黒い王狼。
「……っ!」
先頭にいた長身のダークエルフが、反射的に弓を引き絞った。
その動きに合わせて、後ろの者たちも一斉に武器を構える。
「――貴様ら、動くな!」
鋭い声が、広場に響いた。
「そこから一歩でも動けば、容赦なく射る!」
矢じりが、ルシアンたちの胸元を真っ直ぐに狙う。
ルシアンは、即座に黒炎を抑えた。
掌の内側でうごめく熱を押し込み、
代わりに、片手をゆっくりと上げて仲間たちに「動くな」と合図する。
ガルネは歯を食いしばって立ち上がりかけ、
マーヤに肩を掴まれて踏みとどまった。
ルナとブランは、反射的に子どもたちの前に立つ。
ノクスは、ただ静かに黄金の瞳を細めた。
黒い焔の痕と、白いマントの死骸と、
森の王と、魔王の息子。
焼け落ちた集落の広場で、
新しい緊張が、音もなく燃え始めていた。




