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遥か彼方のフェアリーステラ  作者: るてーあ


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5 "学校"

5話ペタペタ

ソレはすべてを見通す眼を持っていた。


この地の先住種族が我らが領地に足を踏み入れ、荒している。


そのうちの一匹が群れより離れ、この箱の上に昇ったまま、居座っている。


贄が三つ奪われたことをきっかけに八つの足を引っ掻け、沢山の目を四方八方へと向けながら、巨大な箱を音をたてることなくソレらは昇り始めた。




萌花を囲むようにして綾香、心愛、凛が四人で早足に歩いていた。


方向からして向かう先は仮設陣地構築予定の駅だろう。


配下が殺されたことを察知し、ドミニオンルーラー(群れの主)が襲来する可能性があるので急いで駐車場を離れるのは正解だ。


誰が良い出したのたのか気になるところだ。


生家がサルベージ会社で、自衛隊の支援なくドミニオンに出入りすることがある凜あたりが一番可能性が高いだろうか。


とはいえ、帰るといってぴゃーぴゃー泣いてる秋津寺を三人で大騒ぎして慰めながらの移動にどれだけの効果があるかは不明だ。


「ボ゛ク゛も゛う゛か゛え゛る゛ぅ゛~゛っ゛!」


「秋津寺、落ち着いて。すごかったよ。秋津寺がいなかったら私たち危なかった。誰が犠牲になっててもおかしくなかった」


「そうそう! もえちゃんがんばった、すごくがんばったから!」


「よしよし。そうよぉ。ほんとよくがんばったわ、萌花。さすが古い道場の子ね。ほら、とっておきのお菓子上げるから。はいあーげた……」


「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛っ゛!! と゛と゛か゛な゛い゛ぃ゛ぃ゛!!! い゛し゛わ゛る゛ぅ゛!!!」


全員が萌花をねぎらっていると思っていたが、濁った目に歪んだ光を宿したゆるふわ髪だけは萌花で遊んでいた。


(綾香、なにしてるの、あなた)




皆が駅へ向かう一方、私はというと相変わらずビルの屋上の一角に座り、星城一学年HQ……現在の星城一学年を担当している指令所へ一連のあらましを報告しているところだった。


通話がよく聞こえるように片手を耳にあてている。


「以上がファンタジアと遭遇戦になった状況と対応です。直接交戦した四人はすでに現場を離脱済み、当初の訓練過程に戻りました」


『成績からは実戦は危険すぎると思ったのですがよく対処できましたね。いろいろモニタリングしていましたが本当に成績が最下位だとは思えないほどです。驚きました』


「あー……ありがとうございます。そうですね……。成績だけ見ると不安かもしれませんが、石上や秋津寺がいますから」


『石上? 秋津寺? ……ああ。どこかで見た名前だと思いましたが、サルベージ会社イシガミと練武館のご息女ですか。成績は低くても戦闘自体には慣れている子がいたわけですね。なるほど……。うーん。それなら、試験続けられそう、なのかしら……? 試験の継続は少し厳しいかと思っていたのだけど』


『はい。続けても大丈夫だと思います。皆もそのまま陣地作りに向かってるみたいですし。合流して聞いてみないとわからないですけど、もし問題があるなら改めて報告させてもらいます』


星城防衛高校の実技試験は、教養や技能を問う試験の体裁を整えてはいるが、研修や実地訓練に近い形式で行われている。


例えば今回のドミニオン哨戒任務実習訓練の場合、学生たちの試験場のとして指定されるドミニオンはファンタジアの目撃例が極めて少ない、あるいは一度も報告のない区画で、さらに前日には安全の確認や必要な駆除が行なわれ、当日も教員や自衛隊の隊員が密かに配置されて、安全面にも十分な配慮がなされている。


試験といいながらこのような形をとるのは、学生のうちからドミニオンでの経験を積ませ、自衛隊入隊後の適応教育を省略したいという意向があるからだろう。


そんな中、事前の調査でも問題がなく、ファンタジアの目撃報告もない区画で学生たちがファンタジアと遭遇したのだから、学校側、そして自衛隊も相当焦ったのではないだろうか。


過去、最前線の見学に派遣された県下最優秀の学生部隊が皆殺しにされた記憶もまだ新しい。


世界と同じく日本の人口も激減している今、将来の自衛隊員となる防高の学生は貴重な人材だ。


彼らを不用意に戦死させるようなことは、文科省と連携する自衛隊にとっても大きな批判の的となる。


もし今回のような事態で死亡者が出れば、今度こそ大問題に発展しかねない。


私たちに見せることはないだろうが、今の指揮所の先生方は心の底から安堵しているのではないだろうか。


『そう。現状はわかりました。そちらに救援の小隊が一つ向かっていますが、もし出会っても気にすることなく試験を継続してください。何事もなくて本当によかったわ。終わり』


「大葉小隊白峰から星城一年HQへ。ありがとうございます。了解です。終わり」


先生のニュアンスからするとこちらに向かっている救援の小隊は誰もが知っている部隊のようだった。


彼女たち、という言い方をしていたということは、どこかの有名な女性隊長か女性のみの小隊なのだろうか。


自衛隊の有名部隊のことは全く興味がないのでわからない。


(後で皆に聞いてみようかしら)


そう思って私はさっさと気持ちを切り替えた。




街を一望できるビルの屋上はより強く湿った風が吹いている。


元々ベッドタウンだったこともあり、平べったい街並みが私の視界に広がっていた。


そんな街並みの中で頭一つ二つ飛び出るビルはそう多くはない。


今自分がいる商業ビル、病院、地元建設会社の持ちビルぐらいが目立ち、あとに続くのはいくつかのマンションや県営アパートぐらいだろうか。


HQへの報告を終えたことを皆に報告すると、綾香が妙なことを私に言い出した。


『きくりー』


「うん。なに? なにかあった?」


『ううん。特に問題ないわ。そうじゃなくてね。ええと……仮設陣地って作らなきゃダメかしら?』


「……? それはそうじゃない? 向こうでこっちをモニタリングしてるならなおさら作らなきゃ得点どころか大きなマイナスになるわよ」


裏の意図としてドミニオンを体験させるというものがあったとしても試験は試験である。


『……作った振りするだけでいいんじゃないかなって』


普段よりさらに怠そうな綾香の声に私はため息をつく。


「あー、つまり、綾香はサボりたいと」


命がけの実戦からは距離を置かれるはずの学生がつい先ほどまで本当の実戦に身を置いていたのだから何もしたくなくなっている気持ちは分からないでもない。


『サボるなんて言い方良くないわ。ちょっと手抜きできないかなって』


「うーん。一応ね、指揮所からは試験を中止にするか聞かれてはいるのよね。こっちに救援の小隊も来てくれてるらしいから指揮所に言えば試験を切り上げられると思うわ」


『わあ。それでいいじゃないの。(萌花が)大きなカナブンに襲われて疲労困憊よー私たち』


「後日再試験になると思うけど、それでもいい?」


『え……』


私たちの小隊はこれまで最下位というだけでなく、試験で赤点になったことが何度かあった。


赤点をとった場合星城防衛高校では放課後に試験範囲の補習を課せられそこからさらに合格点をとるまで補習と再試験が執拗に繰り返される。


いまところ私たちは多くて二回の再試験でなんとか合格点をとれていたが、学校の規則では合格できる見込みがないと教師と学年主任、そして校長が判断した場合、このご時世であっても退学もありえるらしい。


「今回の試験って実習に近いけど今までと同じ赤点はあるのよ。私たちこれまでも何度か赤点とって補習受けたじゃない? 試験と同じやつ。教師が横でつきっきりで。今回赤点とったらその補習授業ってちょーっと重いかもしれない気がしない?」


教師とつきっきりの補講や監視付きの再試験は前世、そして転生しても小中校では体験したことがなかったので本当に悪夢だった。


これは綾香には言わないが、今回無事で終わったこととは別にして私たちのファンタジアの対処に学校側がどう評価をするのかと想像した場合、おそらく学校側はあまりいい評価をつけていないだろうなと思っている。


偶発的な遭遇戦になったが誰一人負傷せずうまく撃破することができた、全体としては花丸だ。

だが、不注意としかいいようがない不用意な遭遇。


小隊員が一人だけがファンタジア3体を引き連れて派手な逃走劇。


ファンタジア外殻に銃撃が通じるのか確認しないまま行き当たりばったりの人員の集中。


私が教師の立場ならまず赤点を付けるだろう。


(ごり先が無事なら補習とはあるかもしれないわね)


あってしかるべきなのだろうが、できればありませんようにと願わずにはいられない。


『……。つまり、きくりはこう言いたいわけ? またドミニオンの哨戒任務に行かされるって。今度は……センセ付きで?』


「そう。今までのこと考えたらね……あり得ると思わない?


綾香が喉の奥から聞いたことのないような声で呻いた。


『……ありえると思う』


「そう思うでしょ? 疲れてて面倒に思うのはわかるけど、ちゃんとやったほうがいいと思うわ」


『はぁー……今からとんてんとんてんやるのはほんと嫌だけど、この試験をもう一度やるのはもっと嫌だわ。しかもセンセ付きなんて……』


「こっちも急いで合流するから。あとはもう基本通りに仮設陣地作るだけじゃない。それさえ終わらせればあとはしばらく待機して学校に帰るだけよ。最後のひと踏ん張りだから、がんばりましょう。ね?」

『はぁい……。きくり、出来る限り早く戻ってきてね』


「はいはい」


しぶしぶといったように綾香が通信を切断した。


仕方ないなあなんて私は思いながら――無意識に自分の背後に手を払った。


音もなく背後から忍び寄り、一足で飛び掛かってきた巨大蜘蛛のファンタジアが私の手のひらとぶつかり、花火みたいな小気味よい音と共に粉々になって吹き散らされた。


「あっ……!」


空中に花びらみたいに舞う様々な大きさのマナ光と、飛び掛かった一匹の末路を見て屋上の縁で一斉に動きを止めた巨大蜘蛛たち。


私がこんなことができるのは私がちょっと変わった転生をしてしまったことが原因だが、誰かに知られれば今の学校にも居られないだろう。


常日頃から注意しているのだが、たまに反射的にやってしまうので自分のことながら困ったことだ。


こうなるたびにどうにかできないかと考えて、そしてこれまで何度も諦めてきたことを思い出し、私は空を仰いで嘆息した。


いいやんって思ってもらえたらうれしい。


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