表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遥か彼方のフェアリーステラ  作者: るてーあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/12

10 "波及" 下

10話ペタペタ

かほく市北部最大の商店街に和風メイド食堂「割烹ふりる」がある。


大正時代のお手伝いさんの恰好をしたウェイトレスが給仕してくれる食堂だ。


和洋折衷のインテリアが並ぶ食堂の中を、和装の着物に割烹着を着た女の子が忙しそうに歩き回っている。


その中の一人がいまだ筋肉痛に苦しむ小山田心愛だった。


着物かっぽう着を着こなし手際よく食堂内を動き回る心愛は、全身筋肉痛で苦しんでいることなど全く感じさせない活躍を見せている。


そんな心愛が休憩時間になって食堂の奥のスタッフルームでテーブルに突っ伏しているときのことだ。


くねくね近づいてきたのは油で肌のお手入れを忘れたことがないマッシブな食堂の店長だ。


古代中国で服従の証として強制されたべん髪までいかなくとも、長い髪をつむじで無理矢理纏めて編み編みの細いポニーテールにした男性だ。


恰好だけは質のいい和服を着こなし、堂に入っていた。


「心愛ちゃん~?」


「はーい? どうしました、店長」


痛む体に鞭打って店長へ顔を心愛は向けた。


「心愛ちゃん、今日の心愛ちゃんの筋肉から喜びの声が聞こえてこないのだけど、どこかお怪我でもしちゃってる~?」


「あー……いえ、その、試験が結構ハードだったので筋肉痛になっちゃって……まだ全身痛いんです」


「ああ、そうだったのね……よかったわあ。聞いてる? 新桜の訓練場でトレーニング中にファンタジアの群れに襲われて死んだ子がいるんだって」


「へぇ、そんなことあったんですね……。あ、シフトに変更とかありそういう話しですか?」


「いいえ。うちの新桜の子は大丈夫だったみたいよ。戦死した子とはあんまり交流がない子たちみたいだから休みとかそういうのもないみたい。ただドミニオンの外で襲われたみたいだから心愛ちゃんも気を付けてねぇ」


「はーい」


小山田心愛にとって見ず知らずの他人よりバイトが大事だ。


このご時世、誰がどこで死んだなんて気にしても仕方ない。


その話題はバイトが終わって石上凛からの電話の中で話題に上がるまで頭の中から完全に消えていた。




星翔防衛高校には学生寮がある。


校庭の端に並んで建つ二棟の質素な建物だ。


どちらも校舎をそのまま小さくしたような白塗りの建物でそれぞれが男子寮と女子寮に分かれている。


外は暗く、食堂が締まった五階建ての寮の窓から漏れる明かりはまばらだ。


この時間ともなれば学生たちは皆自分の部屋に戻って思い思いの時間を過ごす。


この寮に入っていた大葉綾香もラフな格好で自室のベッドに寝転がり、雑誌を広げているところだった。


ふいに部屋のドアが叩かれた。


軽快な叩き方に覚えがあった綾香がなんだろうとドアを開けると、そこには思った通り隣室の同学年の女の子が立っていた。


ツインテール陽キャギャル、己家葛利。


Aクラスながら隣室であることが縁となり綾香の数少ない友人となった一人だった。


「少しいーい? 耳よりの情報もあるぜよ?」


「んー? いいよ。なんにもないから持ち込んでね」


「にひひ、当然ばんたんですって」


葛利が片手を持ち上げるとスナック菓子とチョコ菓子の袋が握られていた。


「綾香の部屋ってせいりせいとん行き届いてるねえ。あ、白峰ちゃんの写真立て発見」


「そのあたりのもの、勝手に動かさないでよ」


「ういういー! こっちはご両親か。亡くなってるんだったよね」


両手を合わせる葛利に苦笑しながら綾香は居間のスペースに葛利の場所を作る。


「で、どうしたの?」


お菓子の袋を広げた低いテーブルに向かい合って座った二人はお菓子を摘まみながら


「そうそう。聞いた? 新桜のほうで訓練場でファンタジアに襲われて人死にが出たってさ」


「へぇ。ドミニオンの外で戦死者って珍しいわね。同情するわ」


「わーぉ、クールねえ。綾香らしいっていえばらしいんだけどさ。なんか今まで見たこともないのが二十体以上いたらしい。半分人型で槍とか持ってて日本語喋ったらしいわよ」


「ええ……? それはまた……本当??」


「わかんない。三人が死んでその子たちに身を挺して逃がされた隊長さんは半狂乱になってるらしいって。んで、出会った場所に戻ろうとする隊長さんがそんなこと言ってたみたい……」


「それほんと信用していいの」


「そうなのよねー。でもうちの隊長がそれきいてめっちゃぴりぴりしててさあ。空気めっちゃ悪いの今うちの小隊」


「あぁ、あの神経質そうな子ね。そんな感じするわ。……いえ、他のところもこの話知ってるとこはしばらく面倒そうね。こっちはでっかいカナブンに萌花が追いかけられてとても面白かったのに……」


「あはは、聞いた聞いた。秋津寺ちゃんがめっちゃわめいてた。囮にされたって、うちの小隊は血も涙もないって。そのくせ、うち来るって聞いたら嫌って即答するんだからかわいいというかなんというか」


「勝手に走り出して、勝手に出会って、勝手に狙われて、勝手に追いかけられたのよね、あの子。そういうところさえなければ頼りになるのに」


「小物感が抜けないのよね、あの子。なんでだろうね。背が小さいのが玉に瑕だけど、見た目も清廉で悪くないし、古武術の道場の子なら近接戦闘も強いはずなのに」


そうねえと葛利の言葉に綾香は困ったように小さく笑う。


二人の会話が止まった。


あやふやなうわさ話程度では話し合うにも限界はあるし、未成年の戦死なんて詳細がニュースにでるわけないだろうから答え合わせもできない。


それに人死にの話を長引かせるのも少々問題があるだろう。


自然と話題が次へ移っていく。


血なまぐさい話題から共通の趣味であるファッション雑誌の最新号についての感想や好みが飛び交い始めると、部屋が華やいだ空気へと一変した。




自衛隊能登島中央基地にとある一室に龍仙ミカゲと比咩ヒサメが顔を突き合わせていた。


基地のブリーフィングルームで書類仕事をしていた龍仙ミカゲを訪ねてきた比咩ヒサメから提案された案件で少々もめているところだった。


「話しはわかりました。ですが、どうして彼女たちを? あなたが突飛なことを言い出すのはいつもことですが、今回は本当に理解に苦しみます。足手まといどころか、危険ですよ」


「それはおっしゃる通りです、みかげ様。隠れた実力が、なんてこともなく小隊行動のできない最下位部隊の子たちなのは間違いないです」


「先日もドミニオンでない場所で犠牲が出てしまいました。この地はどこよりもファンタジアが理知的で秩序を重視していてとても好ましい。ですが、だからといって安全であるわけではありません」


「理知的で秩序を重視ですか。たしかにそういう言い方もできますね。先ほど言われた犠牲者を出したファンタジア、日本語と話し、武術を使ったらしいですからね。金沢ドミニオンの魔王が人に近い知性を持つという分析班の予測も世迷言と笑い飛ばせなくなってきましたね」


「魔王という言葉は不適切ですよ」


「おっとすみません、口が滑りました」


「ファンタジアはファンタジア。人の言葉を、しかも日本語を使い、知性があるなんてとても信じられません。それに、これまで私たちが相手してきたファンタジアにただの一体も人語を解する者がいなかった。自分の見たものしか信じないことは愚かなことですが、こればかりはそういうわけにはいきません」


「たしかに信じることはできないでしょうし信じろとも言えませんが、私がこういう形で持ってくることはあとあとちゃんと意味があったでしょ? みかげ様」


「それは、そうなのですが。いいえ、だから今、あなたの話を聞いているのです」


「でしょう? 内通者のときも裏切り者の時も最初はカンですよカン」


「今回も?」


「ええ、特に今回は絶対当たるカンですよ。あの馬鹿げた計画のときにきっと私たちの命綱になってくれますから」


「……」

いいやんと思ってもらえたらうれしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ