1 ”似て非なる終の世界”
チアーズプログラムに参加したけれど、一つも投稿しないのはどうなのかと思ったのでとりあえず書けてる分をペタペタ。
朝から灰色の雲が空一杯に広がっている。
先日から続いている崩れそうで崩れない天気は相変わらずだ。
天気予報では今日も雨は降らないらしい。
この県では一、二か月曇り空が続くことだってよくある話。
今の空を見上げて嫌な顔をすることはあっても、今日の行く末を案じる人間はひとりもいない。
暗い空の下、ひび割れた道路を五人の女子高校生が歩いている。
自衛隊の装備に身を包んだ少女たちだ。
黒白灰の三色を混ぜた都市迷彩の戦闘服、鉄より軽く硬い特殊プラスチック(FRP)製ヘルメットを頭に深々とかぶって、それぞれが違う銃を多機能リュックの邪魔にならないように肩にかけている。
学校推奨の国産銃からm16に似た米製アサルトライフル、蛾のような色をしたP90似の銃を揺らす少女たちの歩みは非常にゆったりしている。
「ねぇ、きくり。見て見て……。これ昨日出たやつなんだけど、この子この子……」
しっとりした声に白峰きくり――私は振り返った。
私の視界に映るのは雑誌の一か所を指差した背の高いゆるふわ髪の女の子だ。
目が少し淀んで見えるのが玉に瑕なこの小隊隊長の大葉綾香である。
物腰柔らかいというか陰気だというかは人それぞれだろうけど、物静かなタイプで服やモデルさんが好きらしい。どこに行くでも必ずファッション誌を持ち込んでは暇があれば読んでいる。
彼女が指差すページには、無骨な重装甲と普段使いするようなワンピースを混ぜ合わせた奇妙な服装ではにかむ女性の写真があった。
笑うだけで周囲を明るくする特殊な才能の持ち主特有の笑顔と、さすがモデルらしくその立ち姿は様にはなっているが、軍用の分厚いプロテクターじみたものを所々露出させた日常用の服なんて何処に着ていくつもりなのか。
特別な笑顔と相まって帰りは誰かの血で赤に染まっていそうな雰囲気さえある写真である。
「どんな生活してるのかしらね。最前線戦隊所属らしいけど全然お肉ついてないわ……」
「ふぅん。撮影だからなのかもしれないけど清潔感のある綺麗な人ね。現代戦は機械化が進んで前線でもそこまで身体能力が求められないって聞くけど、本当に普通のグラビアモデルみたいね」
「でしょ、羨ましいわ。私もできるならこういうファッションのお仕事したいわあ……」
「将来前線に赴任すれば最低限の身だしなみを維持するのも大変でしょうしね。でも、綾香、目を覚ましなさい。ミニ装甲版をぶら下げたワンピースよ」
「……そうね。能登島本部基地だけでモテてもそれはそれで嫌よね」
「肉体美という意味ではある意味その雑誌の子よりキレイかもしれないわよ」
「どうせモテるならきくりみたいに色白ですらっとしてる子のほうがいいわぁ……」
綾香と私の控えめな笑い声が重なった。私の肩にかかった学校推奨の89式国産突撃銃”ハチキュウちゃん”が私の声に合わせて右左に揺れる。
私と綾香の後ろには小柄で分厚い赤縁の眼鏡をかけた二本お下げの小山田心愛、双子みたいに同じ身長ながら肩口まで髪を伸ばした無表情な石上凛。
そして、一つ二つ年齢が下に見える古武術を継承する家の出の刈り上げたおかっぱに近いベリーショートの秋津寺萌花の小柄三人がついてきている。
三人は近所のスーパーマーケットの有名おばちゃん店長の話で盛り上がっているようだった。
「頻繁にびっくりするような値段でタイムセールやるけど、値段そのままのやつが混じってるから油断できない。心愛がよくひっかかってる」
「あはは、凛てばまたあ……。え、うそだよね……?」
「ボクもたまに怖く感じるときあるよ、あの人。父さm……父さんの知り合いの博打打ちと同じ雰囲気している」
「あそこのスーパーの店長はやり手だから。このご時世、ずっと一か所で店を続けられてるだけあるって近所の人皆言ってる」
「凛? またそんなこといって私をからかおうとしてるんでしょ? 私が一生懸命お金節約しようとしてるって知っててそんなこと言ってるんだよね?」
「……近所の人皆言ってる」
「ねええっ、うそだっていってよ凛んんっ!」
長身三つ編みの私、長身ゆるふわ髪の大葉綾香、小柄二本お下げ眼鏡の小山田心愛、小柄無表情ショートの石上凛、子供おかっぱベリーショートの秋津寺萌花。
この凸凹五人がいつものメンバーだ。
傾いたビルの間から風が駆け抜け、遠くで鳥が鳴いている。
ドミニオンの中は静かで空気は冷たい。
長い間人の手が入らなかったせいで荒れ果て、植物が伸びて建物に絡みついていても放置されている。
放棄された多くの町と同じく、この町もいつかここに町があったことさえわからなくなってしまうのだろう。
だけど、今だけは私たちの周りにそんな空気は存在しない。
私たちから笑いは絶えず、話し声も途切れない。
わたしたちの周りだけ切り抜いたみたいに色彩が違うように感じられる。
私の前世の世界でもわざわざ廃墟の中を歩き回ったり廃墟の写真を撮る仕事をしている人たちがいたが、今を生きる自分と廃墟のコントラストに強く惹かれ、滅びを記憶や写真に残そうとしていたのかもしれない。
――私は転生者だ。
しかもこの世界に少々特殊な転生を果たしていた。
どう特殊だったのか詳しくは後回しにするが、とにかく似て非なる世界から滅びに向かうこの世界に生まれ変わった。
前世では家格の非常に高い家に生まれたせいで、友人たちと流行りものでわいわい話したり、一緒に遊びに行ったり、テスト前に勉強会したり、放課後皆で連れ立って買い物したりすることが一度だってなかった。
常に学業、教養、芸事の習得と名家の娘として相応しい結果を出すことに追われ続け、結局いろいろ無理がたたって高校三年生の冬に私は死んでしまった。強い後悔だけを残して。
だから、この世界に生まれ変わってただの女子高校生として友人たちと過ごす今が私はとても楽しくて幸せだ。
例え自衛隊火器で武装しているところは少々物騒だとしても。
前世の女子高校生のときと違い、この世界の友人は純粋に友人で派閥も関係ない。
お互いの家の内情を探り合う駆け引きも、過剰に私を持ち上げてくる太鼓持ちも、遠回しな嫌味も、足の引っ張り合いもない。
前世の私が決して手に入れられなかった日常の一コマ。
こんな日常を積み重ねていくことが生きるということなのではないか、なんてことも感じるようになってきている。
「きくり、機嫌よさそうねぇ」
綾香がふいに私の顔を覗き込んだ。
綾香の顔がいきなり近づいたことに少し驚きつつも、前世の話をするわけにいかず私は少し考えて、
「なんというか、小学校の遠足思い出すのよね。行き先があって、道が決まってて、目的地に到着したらご飯食べて、時間がきたら帰る。防小でもそこは同じだったから」
「あぁ、そういうことね。つまり、きくりの中の幼女きくりがウキウキしてるんだ……。私も昨日なかなか寝つけなかったのだけれど、私の中の幼女私も今日の遠足が楽しみだったのかもしれない。いつも学校行事には突発的な急病を患っていたツケかしら」
「突発的な急病ってなによ」
私はその言葉に小さく笑った。
ダウナー気質の綾香がたまに言う謎の言い分はよくわからないが、私にはそのよくわからなさが面白く感じていた。
とても好きだ。
「ほんとにもう。幼女きくりとか幼女私っていうのもなんなの、それ」
綾香の肩を私は軽くはたく。叩かれた綾香が笑いながら逃げていく。
新一年生として入学し、綾香とは春からまだ数か月の付き合いだったが、小隊として一緒するうち気づけばお互いそれなりに気安い関係になったと思っている。
綾香の様子を笑いながら、綾香も多少は私のことを友人だと思っていてくれているだろうかなんことを考える。
いや、綾香だけでなく心愛も凛も萌花も。
ふと空を見上げ、このまま雨降らないといいなぁなんてことを思う。
早晩、人類の滅亡は避けられないことなのだけど、今この瞬間がこれからもずっと続いていくことを私は願った。
いいやんってなったらうれしい。
書いて投稿して書いて投稿して……みたいな投稿頻度になると思います。話の中身としてはメインメンバーが退場することはないけど、あとあと人が死んだりするのでそういうがいやな人はごめん。
あと読み返してみると思ったより変なところ多いからそのうち読みやすくなるように書き直すつもり。これは投稿分全部込みで。




