プロローグ
半年前――蒼々島
島の館に住む青年城崎玲史は、静かで優しい青年だった。
島の誰よりも働き、困っているものがいれば手を貸していた。
風で浅橋が壊れればすぐさま駆けつけ修理をし、病気で寝込む老人には食事を家まで届け、島の子どもたちによく読み聞かせをする姿もよく見られた。
彼のもう一つの顔は、庭師だった。
彼の庭はいっぱいに咲く蒼い薔薇で埋め尽くされていた、玲史が手塩かけて育てたものだ
だか、島では「蒼い薔薇は不吉だ」と囁かれていた、玲史は笑って答えた。
「不吉? いや、これは“奇跡”の色さ。
見たこともない色の花が咲いたとき、人は希望を信じられるだろ?」
そう言うと、玲史は蒼い薔薇を一輪摘んで少女に渡した。
「ほら、きれいだろだから泣かないできっと奇跡が起きる。」
その夜、悲劇が起きた。
突然の火事。
洋館は瞬く間に炎に包まれ、玲史は屋敷の中に取り残された。
炎に照らされる窓辺で、誰かを見たという者がいる。
「あの夜、見たんだよ洋館に入っていく人影を……玲史じゃなかった。」
だが火事は「事故」として処理された。
焼け跡からは玲史のペンダントだけが見つかった。
遺体は焼け焦げていて身元の確認ができず、人々の胸に疑念が残った。
それ以来島には奇妙な噂が絶えない。
「真夜中に焼け跡で玲史の声が聞こえた!」
「海辺に蒼い薔薇の花束が置いてあった。」
「玲史と仲が悪かった者が次々島から居なくなってる。」
島の人々は、その存在をこう呼んだ――
「ブルーローズの亡霊」
そして今――
数年の時を超え再びこの島に、奇妙な影が落ちようとしていた。




