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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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77.オリジン対オリジン

「ヒール!」

「ヒール!!」

「ヒール!」



 モモコが皆のところへ行き治療を行う。相手がベートではないのでハイヒールは無理だが、それでも彼女の純粋な水マナの回復によって皆の傷が癒えていく。


「ありがとう、モモコ」


 ユウキがお礼を言う。頷くモモコ。だが皆の視線はやはり茶髪の少年ベートに集まる。



「ベート!!」

「ベート様ぁ!!」


 フォレットを圧倒したベートに皆が集まる。ミリザがベートに抱き着いたまま涙声で言う。


「本当に、本当に心配したんだから……」


 目を覚まさないベート。これまではどんな怪我をしてもすぐに元気になった。でも今回は違う。何かが違う。そんな気持ちがミリザをずっと不安にしていた。ベートが答える。


「ごめん、心配かけた」


 吹っ切れたような表情のベート。モモコが言う。


「ベート様ぁ、モモコ、心配しました~」


「本当だよ、ベー太。ボクも心配だったんだぜ」


 珍しくキャロットも素直に言葉を口にする。


「ごめんな、みんな」



「あ、あの……」


 そんなみんなの輪に銀髪の女性が近づく。ミリザがその女性レモンの手を取って皆に紹介する。



「みんな、こちらは私の姉のレモン。レモン・ハニーキッスよ」


「あ、やっぱそうか」


 ベートが納得したような表情で言う。よく似た姉妹。だが痩せてしまってはいるが、姉の方が背が高く品もある。レモンが皆に挨拶した後、ベートの元へきて片膝をついて言う。


「お初にお目にかかります、オリジン様」


「お、おい……」


 善良な獣族にとってオリジンは奉る存在。畏敬の対象でもある。レモンが言う。


「妹が本当にお世話になったようで、姉として感謝申し上げます」


 ベートがやや照れながら答える。


「いや、いいって。俺も助けられたんで同じだから」


 そう言ってレモンに手を差し出すベート。レモンは少し驚きながらもその手を取り、笑みを浮かべながら立ち上がる。



「お姉ちゃん!」


 ミリザがレモンに抱き着く。


「よかった。生きていてくれて……」


 涙目になるミリザ。レモンも目を閉じ妹の頭を撫でながら答える。


「うん、よかった。あなたも無事で……」


 姉妹の再会。皆が目を細めてその光景を見つめる。だがレモンはすぐに真剣な表情となり、皆に言う。



「お伝えしなければならないことがあります」


 雰囲気の変わったレモン。皆も真剣になって彼女を見つめる。


「魔獣王が死にました」


「えっ」


 驚きの言葉。人族の敵である魔獣族の王が死んだという。だがすぐにレモンが首を振って続ける。


「でも、新たな魔獣王が即位しました。レイ・エレガント、です……」


「え? レイ・エレガントって、『序列壱位』の……」


 ベートも何度か戦ったことのある相手。あのエレガントが魔獣王に即位したという。レモンが言う。


「私も囚われの身でしたので詳しいことは分かりませんが、父親であるレイ・ガースト死去後、その息子であるエレガントが跡を継いだそうです。ただ魔獣王は世襲ではないので、エレガントの強さは本物かと……」


 レイ・エレガントは一度退けている。モモコの強化バフのお陰ではあるが、もう一度やったところで負ける気はしない。それより……



 ザッザザッ……


 城の奥の方から誰かが歩てくる音がする。静かな音。無駄のない足音。ミリザが言う。


「ベート!!」


「ああ、分かってる」


 強いマナ。純粋なマナ。あの頃は気付かなかったが、ずっとそれに触れて育ってきた懐かしいマナ。ベートが皆に言う。



「下がっていてくれ……」


「ベート……」


 心配するミリザにベートが笑顔で答える。


「大丈夫」


「……うん」


 ベートが前に出てその訪問者を迎える。やがて城の陰から姿を現すひとりの男。白い髭に焼けた肌。腰に太い剣を携えた魔獣軍『序列弐位』シンデレラ・ヴォルト。ベートの放つマナを察知し、魔獣王の血の盟約を受け再び姿を現した。驚く一同。モモコが言う。



「べ、ベート様。私も……」


 ベートがモモコに背を向けたまま、手でそれを制して言う。


「大丈夫。ここは俺だけの力で何とかしたい」


 プライド。矜持。色んな思いがベートを包み込む。



「はい……」


 そう小さく頷いて下がるモモコ。皆の視線を背中に受け、ベートがシンデレラ・ヴォルトに対峙する。



(強いマナ。相手を圧倒する強烈なマナ。それでいてどこか優しい……)


 前回は取り乱していて何も分からなった。でも今は違う。不思議と落ち着けている。ベートが言う。



「なあ、ジジイ。俺だよ、ベート。ベートだ。あんたの息子だよ」


「……」


 無言のヴォルト。反応はない。


「まあ、確かに酷いこと言っちまったんだけどさ、俺、あんたに謝りたくてここまで来たんだ。それを酷いじゃねえか。いきなり、胸にグサッてよお」


 ベートが冗談っぽく、そして感慨深く言う。黙って聞いていたヴォルトがゆっくりと腰につけた剣を抜く。太い剣。ヴォルトが好んで使っていた剣だ。ベートも近くに落ちていた敵兵の剣を拾い、構えて言う。


「何やってんだよ、ジジイ。シルバーナイツの要が、オリジンがそんな無様な顔してよぉ……」


 そう言葉を口にするベートの目が赤くなる。大切だった家族であり、憧れていた師。その老将に一言告げる。



「俺が目を覚ましてやるよ……」


 それが開始。ふたりのオリジンの戦いの合図となった。



 ガン!!!!


 最初の一太刀。お互いの剣と剣が激しい音を立ててぶつかり合う。



(すげえ威力!! 重い攻撃!!!)


 たった一撃で分かるヴォルトの剣の重さ。だがベートも負けてはいない。



「うおおおおおおおおおお!!!!」


 ガンガンガンガン、ガン!!!!!


 ヴォルトに習った剣。マーベルトに鍛えられた剣。ふたりの思いを込めたベートの剣戟がヴォルトに対抗する。



「す、すごい……」


 ユウキ達も圧倒された。流れるような剣捌き。適当に振っているだけでない。お互い相手の先を読み、攻撃を仕掛け、また攻撃されないように剣を振る。

 後方に跳躍する両者。ベートが息を整えながら思う。



(楽しい。まるで昔の稽古みたいだ。あんなに嫌だったのにな……)


 強くなるために毎日鍛えられたベート。幼心には苦しさや辛さしか残っていないはずなのに、数年ぶりに剣を交えるとどうしてこんなに楽しいのか。



(ベート、なんだか嬉しそう……)


 それを最も感じ取ったのがミリザ。いつも一緒に居た彼女だからこそ気付くベートの喜び。だが反面、心配でもあった。家族でもあるヴォルトとの戦いの結末が。ベートが言う。



「ジジイ、本気で行くぜ!!」


 ベートが下段の構えから一気にヴォルトに肉薄する。



 ガン!! ガガガガガン!!!!


 目に見えないような剣戟。だがヴォルトもそれを冷静にいなしていく。ベートが隙のできた胴に手を近づけ、息を止める。



(爆ぜよ!!!)


 連撃の最中。溜めなどできない小規模なマナ攻撃。



 ドオオン!!!


 小爆発。だがヴォルトは咄嗟に張った障壁でそれを防御。ベートはさらに隙のできたヴォルトの足を睨み、素早く足払いを放つ。



 ドン!!!


 命中。だが倒れ行くヴォルトも右手をベートの顔の前に出し、マナを集中。同時にお返しにと小規模な爆発を起こす。



 ドオオン!!!


(くっ!!)


 それを間一髪かわすベート。後方に飛び大きく息をする。



「はあはあ……、さすがだぜ……」


 足払いを受け、腰を地面につくヴォルト。だがあそこで追撃をしていれば、間違いなくカウンターを受けていた。それほどヴォルトの目は数手先を読んでいたし、集約させたマナが未だに発動させたくてうずうずしているのも分かる。ベートが少し笑いながら思う。



(なあ、ジジイ。俺、少しは強くなったかな。あんたに褒めて貰えるぐらい強くなったかな……)


 立ち上がったヴォルト。表情は変わらず冷たい氷のよう。ただその手には剣はない。先ほどの攻撃で折れてしまったようだ。ベートも剣を投げ捨て、拳を構える。



「さあ、ジジイ。俺はあんたを超えてやるぜ!!」


 そう言って構えるベート。その目には涙が溢れていた。

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