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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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76.ベートの怒り

「じ、じいちゃん。もう無理だよ。手が痛いし、足も疲れた……」


 幼きベートは、稽古をつけてくれているヴォルトに泣きそうな顔で言った。ヴォルトが落ちたベートの木刀を拾い、投げながら言う。


「お前は魔獣族と戦う時でも、手が痛いとか疲れたとか言うのか?」


 地面に落ちた木刀を見つめながらベートが答える。


「そんなことないけど、でも今は本当に疲れて……」



 ドン!!


「ぎゃっ! 痛いっ!!」


 容赦なしに木刀でベートを殴りつけるヴォルト。真面目な顔で言う。


「死にたくなかったら剣を振れ。戦え。諦めるな」


「で、でももう俺……」


 ぐずるベートをヴォルトが一喝する。



「そんな弱気で国を守れるのか!? わしを守るのじゃなかったのか?? お前が諦めたら何ひとつ守ることなどできぬぞ!!」


「じ、じいちゃん……、分かったよ」


 諦めたベートが地面に落ちた木刀を拾う。そして顔を上げると、そこに何故かヴォルトの姿はなかった。



「あれ? じいちゃん?? ねえ、じいちゃん、どこに行ったの……」


 周りをきょろきょろと見まわすベート。そんな彼の目に、少し離れた森へと向かう人の姿が映る。


「あ、いた!!」


 嬉しくなったベートが駆け出す。大好きなヴォルト。ずっと一緒に居たい。だが森に入るその後姿を見て違和感を覚える。



(あれ? 女の子? 長い、綺麗な銀色の髪……)


 ヴォルトではない。ただ不思議とベートはその少女を追いかけて森の中へと走り出す。



「おーーい!! 待ってよ!!」


 全力で走るベート。ただどれだけ頑張っても一向に追いつけない。ベートが叫ぶ。



「お前、誰だよ!! ちょっと待ってくれよ!!」


 少女は手を後ろに組んだまま森の中を移動。振り返ることなく森の奥へと消えていく。



「はあ、はあはあ……」


 どこかで見たことがある。きっとどこかで出会っている。ベーとは不思議とそう思えた。



「絶対探してやる!!」


 そう思ったベート。だが同時に胸に激痛が走る。



「ぎゃああ!!」


 まるで太い剣を突き刺されたかのような衝撃。体の自由を奪う激痛。訳が分からないベートは、目の前が真っ暗になりその場に崩れるように倒れる。



(痛てぇ……、俺、死ぬのか……)


 激痛。目を閉じ意識が遠のくベート。だがそんな彼の意識に不思議な声が響いた。



 ――ベート、大好き!!



(えっ、誰……)


 聞き覚えのある懐かしい声。



 ――ベートは私のものなの!! 誰にも渡さないんだから!!


(誰だよ、お前……)


 思い出せない。だけど知っている。自分は間違いなく彼女を知っている。



 ――照れちゃって可愛い~。やっぱりベート大好き!!


 その思いは確信に変わっていく。思い出せない。だけどとても大切な人。失ってはいけない相手。そして今すぐに会いたい人。



 ――ベート、


 声の勢いが失われていく。焦るベート。そしてその言葉を聞いて目の前が一気に開けた。



 ――助けて、ベート……




「ミリザっ!!!!!!」



 目を覚ましたベート。病室。見知らぬ場所。だけど感じる。ミリザを。彼女の危機を。ベートが周りを見回し叫ぶ。



「ミリザ、ミリザ、どこにいる!!!」


 理解できない。状況が分からない。ただ、それでも何かが告げている。彼女がピンチだと。ベッドから跳ね起きたベート。急いで服を着替え、病室を出て走り始める。



(ミリザ、ミリザ、どこだ!!!!)


 ベートが廊下を駆ける。それに気付いた治療師が驚いて声をかける。



「あ、ベートさん!? 起きたのですか!!??」


 そんな声を無視してベートが走る。限界だった。ミリザに会いたい。ミリザの傍に駆け付けたい。一緒に居たい。もう失いたくない。大切な人を、大事な人を。ベートが叫ぶ。



「ミリザーーーーーーーーーーっ!!!」



 パリン……


 ベートは気付かなかった。自身が付けていた銀色の指輪が小さな音を立てて割れたのを。




(え?)


 気が付くとどこかの空。転移? 夢? それは分からなかったが、眼下で首を締め上げられる銀髪の少女を見てベートの怒りが一気に最高点に達する。



「何してんだよ、てめえーーーーーーーーーーっ!!!」


 回し蹴り。無意識に放った回し蹴りで、黄金色の髪の男が吹き飛ぶ。


『寄り添いの指輪』

 シルバーナイツ王国の要祭で貰った国宝。その効果はたった一度だけ、強く会いたいと願った者の傍に行けるというもの。古の時代、愛する者と離れ離れになった魔導士が作り上げた名工。たった一度の奇跡がこの時代、愛する者を呼び寄せた。



「ベート!!!」

「ベート様ぁ……」

「ベー太ぁあああ!!!」


 皆が待ち望んでいた彼の姿を見て涙し、その名前を叫ぶ。ベートが怪我をしたミリザを見て首を振って謝る。



「ごめん、俺がしっかりしていればこんなことに……」


 ミリザがベートの頬に手を当て笑顔で答える。


「ううん、大丈夫。私は幸せだよ、ベートが来てくれて」




(この人、誰? いえ、そんなことよりも、まさかオリジン……)


 ミリザの姉レモンは突然空から現れたベートを見て固まっていた。誰かは知らない。だけど彼から感じる純粋で無垢なマナ。獣族を畏怖させるその存在は間違いなくオリジン。




「痛てててて……」


 ベートの回し蹴りを受けて吹き飛ばされたフォレットが、ようやく頭を押さえながらよろよろと起き上がる。そして茶髪の少年を見て驚き、叫んだ。



「ぎゃっ!? お前は、まさかオリジンの……」


 ベートがミリザの頭をぽんぽんと叩き、ゆっくり立ち上がり振り返る。フォレットが言う。



「お、お前はボスに殺されたんじゃ……、どうしてまだ生きている!?」


 胸を剣で突き刺されたはず。オリジンは死んだはず。混乱するフォレットにベートが尋ねる。



「ひとつだけ答えろ。これをやったのはお前か?」


 ベートは周りで倒れる仲間を見つめる。ぼろぼろのミリザ。足を折られたユウキ。鮮血に染まるエリザベス。顔が膨れ上がっているモモコ。静かな怒り。ベートの問いにフォレットが低い声で答える。



「ああ、そうだ。この私がやった。お、お前大怪我してんだろ……? くくくっ、この私の手柄がまた増える。オリジン、抹殺と言う手柄が……」


 フォレットが強く光り始める。獣化。黄金色の体毛に三本の尻尾。魔獣ジャックフォックスに変化したフォレットが笑いながら言う。



「殺してやるよ……、この私が、お前を、……え?」


 フォレットはいきなり目の前に現れたベートに驚き、声を上げる。



「な、なんで!? こんなに速……」



 ドオオオン!!!!


「ぎゃああああ!!!!!」


 渾身の右ストレート。ベートよりもずっと大きな魔獣ジャックフォックスが回転しながら吹き飛ばされる。



(痛てええ!! 痛てええ!! なんて威力……)


 一撃で戦意喪失。圧倒的な力。フォレットは自分が相手にしようとしていたのが、本物のオリジンだとようやく思い出した。震える声でベートを見ながら言う。



「わ、悪かった。シルバーペガサスは返すから。返すから……」


 もう恥も外聞もなかった。とにかく逃げたい。謝って逃げたい。オリジンを畏怖する獣族の本能が彼を締め上げていた。



「え……?」


 そんなフォレットの目に右手をこちらに向け鬼の形相で睨みつけるベートの姿が映る。まずい。本能的にそう感じた瞬間、目の前が真っ白になった。



(爆ぜよ!!!!!)



 ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 オリジンのマナ。無垢で純粋。白銀の煙が太陽の光を浴びてキラキラと輝く。倒れるフォレット。ベート激怒の一撃を食らった彼はもう生きているのかすら分からなかった。



「に、逃げろーーーーっ!!」

「うわあああ!!」


 フォレットの部下達が真っ青な顔で逃げ始める。魔獣王の束縛すら撥ね退けるオリジンへの畏怖。ベートがモモコに叫ぶ。



「モモコ!! みんなを、みんなの治療を頼む!! 全力で頼むっ!!!!」



 キュンキュンキュン!!!


 名指しで助けを求められた。あのベートに。世界の安寧をもたらすというオリジンに。ときめきが最高潮に達したモモコが笑顔でそれに答える。


「はい! ベート様っ!!!」


 もう心配は要らない。モモコは安心して、力一杯皆の治療を開始した。






 一方、帝国城内にある貴賓室。その部屋の片隅でひとり座していた白髭の老人シンデレラ・ヴォルトがゆっくりと目を開けた。窓から流れる心地よい風。攻撃を受ける帝国城にあって、唯一微動だにしなかった男。小さく言う。


「オリジンのマナを感知。これより討伐を行う」


 静かに立ち上がるヴォルト。だがその目は獲物を狩るような鋭い目つきであった。

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