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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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73.帝都強襲!!

「やっぱりダメね……」


 水マナの治療師が、ベッドの横たわるベートを見て言った。

 魔獣軍の襲撃。それをユウキらが退ける為に出撃。静かになった街に治療師のため息が漏れる。


「何と言うか、怪我は全然大丈夫だしマナ量もすごく豊富なんだけど、心が目を覚ますことを拒否してる感じよね……」


 治療師が助手に対してお手上げのポーズをとる。助手が尋ねる。


「心が目を覚ますことを拒否、ですか……?」


 経験のない例に困惑する助手に治療師が答える。


「そう。単なる怪我ならある程度治せるけど、これは心の病。辛すぎる現実に直面した時、人の防衛本能がすべてを遮断するの。これ以上心が壊れないようにってね」


「なるほど……」


 ふたりがベッドに横たわるベートを見つめる。治療師が言う。



「こんな子供が一体どんな辛い目に遭ったのかしら? ユウキは全然教えてくれないし」


「……ですね」


 ユウキらはベートの正体を黙っていた。ただ『非常に大切な人』とだけ伝え、万が一の際には必ず彼を連れて逃げて欲しいとお願いしている。


「でもこのマナ量、私じゃとても計れないけど底抜けね。彼、一体何者なのかしら?」


 そう口にする治療師に助手が冗談っぽく言う。


「どこかの国のかなめだったりして。バルッサを救いに来てくれた」


「まさかね~。でもオリジンのユウキがあそこまで言うんだから、まんざらでもないかもね」


 ふたりはそう言ってベートに布団をかけ直すと部屋を出ていく。病室の窓から流れる穏やかな風。ベートは安らかな表情のまま眠り続けた。






「作戦を伝える」


 帝都バルッサを前にユウキが緊張した面持ちで皆に言う。


「守護砦には今は誰もいない。あそこは無視して帝都城へ向かう」


「うん……」


 それを聞くモモコ達。その表情も真剣だ。


「力勝負では勝ち目はない。だからまずキャロットの広域マナ攻撃で帝都城全体を襲撃する」


「ボクのマナ攻撃で?」


「ああ。派手に頼む。多分それで帝都城は大混乱に陥るだろう。その隙を突いて一気に我々が攻め込む。ミリザが囚われているのは地下室だ。彼女を救出し、その勢いで出てきた『序列弐位』を私のハンマーで討ち取る」


「……なるほど」


 今できる最善の作戦であった。だが成功の可能性はそれほど大きくない。敵の数は多く、味方の戦力は少ない。『序列弐位』をユウキが討ち取れる保証もない。だがもう限界だった。モモコもキャロットも『ミリザが居ない』という現実に耐えることはできなかった。ユウキが守護砦を見つめながら言う。


「さあ、行くぞ!!」


「はい!」


 ユウキの掛け声で皆が一斉に走り出す。守護砦を迂回して帝都前に来た一行が、奥にそびえる帝都城を見ながら気持ちを新たにする。ユウキが叫ぶ。



「キャロット、頼む!!」


「任せて!!」


 モモコを使った広域マナ攻撃。突然の襲撃に帝都城は大混乱に陥った。






 その頃、ユウキ達が目指していた帝都城の地下室では、フォレットの下品な笑い声が部屋中に響いていた。ミリザの姉であるレモン・ハニーキッスの首を掴み、力を入れるフォレット。それを見て涙声のミリザが懇願する。



「やめて、お願い……、お姉ちゃんに酷いことしないで……」


 両親を殺され、唯一残った大切な家族。長年魔獣王に囚われ美しかった姉は随分痩せこけてしまっている。そんな辛い現実がミリザの心をへし折ろうとしていた。フォレットが言う。


「じゃあさあ~、早く獣化して魔獣王様と交尾してよね~。それだけだよ~」


 獣族皆が望むシルバーペガサスとの交尾。特に魔獣王のような強い系統の獣族は優秀な子孫を残そうと必死になる。ミリザが俯き言う。


「わ、私……」


 もう限界。こんな辛いなら自分が犠牲になれば。そんなミリザにレモンが言う。



「ダ、ダメ……、絶対にダメ。ミリザ、私は、大丈夫……」


 魔獣王がシルバーペガサスと交尾する。それは新たな強い後継ぎができることを意味し、魔獣王の支配がこれからも続くことを意味する。



 ドフッ!!


「ぎゃっ!!」


 レモンの首を掴んでいたフォレットが、右拳を彼女の瘦せた腹部に打ち込む。ミリザが叫ぶ。


「お、お姉ちゃん!!!」


 口から涎を垂らし、ぐったりとするレモン。フォレットが困った顔で言う。


「こらこら。エサ役が勝手なことを言ってもらっては困りますね~。エサはエサらしく、黙っていてよ~」


「ぐぐっ……」


 ミリザが怒りの顔でフォレットを睨みつける。それに気づいたフォレットがレモンの首を掴む手にさらに力を込める。



「がっ、ぐっがぁ……」


「お、お姉ちゃん!!!」


 いつの間にかミリザの両脇にやって来た兵士。彼女を動かさないよう押さえつける。フォレットが言う。


「さ~あ、どうしましょうかね、シルバーペガサス様ぁ??」


「わ、私は、私は……」


 限界。諦めかけたミリザの目に、意識朦朧となりながらも首を振る姉の顔が映る。涙を流し俯くミリザ。フォレットが言う。



「魔獣王様との子をもうければあなたの将来も安泰ですよ~。豪華な暮らしに贅沢な食事。魔獣国であなたのすべては保証されます~。どうです? こんな素晴らしい提案、ないでしょう~~??」


 そんな将来は要らない。大好きなベートと一緒に過ごす未来。口には出さなかったが、ミリザは彼と旅する中でずっとそうなればいいなと思っていた。だが目の前で痛めつけられる姉を見て、その決意が揺らいでいく。


「ミ、ミリザ、だめ……」


 バン!!!


「ぎゃっ!!」


 口を開く度に殴打される姉のレモン。もう無理だった。耐えきれなかった。ミリザが覚悟を決め、顔を上げ口を開いた。



 ドオオオオオオオオオン……


 その時だった。突然大地を揺らがすような振動が地下室を襲った。



「ぎゃっ!? な、なんですか!! 一体!!」


 衝撃に驚き、フォレットがレモンの首を放して尻もちをつく。慌てふためく兵士達。そこへ別の兵士が真っ青な顔で部屋にやって来て報告する。


「フォ、フォレット様! 大変です、敵襲です!! 敵が攻めてきました!!!」


「な、なんですって!?」


 すべてが順調だったフォレット。今この地で、魔獣軍に逆らえる者などいないはず。一体誰が?


「敵襲とは!? 敵って誰なの?? 誰が攻めて来たの!!??」


 早口で尋ねるフォレットに兵士が困った顔で答える。


「そ、それがまだ分からなくて。城全体が攻撃されたのに敵の姿も見えないそうです……」


 それを聞いたミリザはすぐに分かった。



(キャロット!? キャロットだわ!! でも誰のマナ? モモコかしら……)


 皆が来てくれた。嬉しい反面、もしベートが居ないようであれば返り討ちに遭うのは明白。心配するミリザ。ただ今は、数十年ぶりに再会した姉に目を向ける。



「お姉ちゃん!!」

「ミリザ!!」


 抱擁。長年放されていた姉妹が、ようやく再会できた。ミリザが言う。


「ごめんね、ごめんね、お姉ちゃん……」


 やせ細った体。長年の過酷な拘束生活がそれを物語っている。レモンも涙を流して答える。


「大丈夫。大丈夫だから。ミリザが元気で良かった……」


 レモンもまた妹ミリザを心配していた。魔獣国では貴重種と呼ばれるシルバーペガサス。突如妹がその重責を担うこととなった。狙われる妹。どうやって逃げていたのか。自分も大変だったが、彼女の逃亡生活を思うと自然と涙が溢れてくる。



「何やってる!!!」


 バン!!!


「きゃああ!!!」


 そんな姉レモンをフォレットが思い切りぶん殴る。吹き飛ばれるレモン。ミリザがギッと睨みつけて言う。


「何するのよ!! あなた!!!!」


「黙れっ!!!」


 バン!!!


「きゃああ!!!」


 フォレットの右手がミリザの頬を打ち抜く。思わず殴ってしまった。シルバーペガサスは貴重種。消して傷つけてはならない相手。一瞬魔獣王の怒りの姿が浮かんだフォレットが身震いしてから皆に言う。



「ふたりを縛れ!! さ、ここから脱出するぞ!!」


「了解です!!」


 ミリザとレモンは兵士に縄で縛られ、地上へと出る。数日ぶりの日光。太陽の眩しさに思わず目を閉じるミリザだったが、すぐにその景色を見て驚き声を上げる。



「な、なにこれ……」


 あちらこちらで上がる白煙。逃げ惑う民や兵士。突然の広域マナ攻撃に皆がパニックになっていた。




(待ってて、ミリザちゃん!! もう少しだから!!)


 そんなミリザを探し帝都城内を駆けるユウキ達。数日ぶりの再会がそこまで迫っていた。

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