72.悲しみの再会
「哀れな新生オリジン一行様だね~。この帝国内ではすべての行動が筒抜け。きゃきゃきゃっ、さあ~、残飯処理と行きましょうか~」
魔獣軍『序列弐位』の側近フォレット・ガールソンが、ユウキ達の街を囲むようにして配置した魔獣軍をバックにほくそ笑んだ。オリジン無き今、人族制圧ももはや時間の問題。その最前線にいることが彼をより興奮させた。フォレットが皆に命じる。
「じゃあ、みなさ~ん。突撃っ!!」
「ガルウウウウウウウ!!!」
フォレットの合図で一斉に街へと進撃する魔獣軍。
一方、それを迎え撃つユウキ達はみな脂汗を流しながら戦に備えた。ユウキが言う。
「キャロット、モモコ!! 広域マナ攻撃は撃てるか!!??」
広範囲のマナ攻撃。こうなるともはやキャロットの攻撃に頼る以外方法はない。キャロットが頷くモモコを見てから答える。
「大丈夫だよ!! ボクも、モモコも大丈夫!!」
まるで自分自身に言い聞かせるように答えるキャロット。モモコも顔もいつもとは違い真剣になる。キャロットが迫りくる魔獣軍を睨みつけ詠唱を開始。あいさつ代わりのどデカい一撃を敵にお見舞いした。
「いや~、残飯風情が結構頑張りますね~」
戦い中盤。均衡する意外な展開に、後方で指揮を執っていたフォレットがつぶやいた。地面に倒れる魔獣軍。予想外にキャロットの連撃によって大幅に戦力を削がれていた。だが強い個体はすべて生き残り、気が狂ったように街へと突進する。
「うおおおおおおお!!!」
それを迎撃しているのがユウキとエリザベス。巨大なハンマーと闇マナ攻撃で敵を屠っていく。幸運だったのは街からも応援が来たこと。魔獣軍の支配に不満を持つ人族の冒険者や兵士などが加勢に来てくれた。
だがフォレットの顔のはまだ余裕の表情。戦況を見ながら言う。
「まあ、魔獣族の敗北はないでしょう。楽勝楽勝~」
余裕の理由は獣化。まだ半数以上の個体が獣化していない。つまりその程度の相手だということ。欠伸をするフォレットに、兵士が報告にやってくる。
「フォレット様、ご報告が」
「な~に~? 忙しんだけど」
目の前で行われている『新生オリジンパーティ狩り』。そのフィナーレが間もなく始まる。兵士が言う。
「ようやく先ほど到着しました」
「え? 来たの!?」
眠そうだったフォレットの顔が一瞬で目覚める。兵士が頷いてそれに応える。フォレットがすぐに立ち上がり近くの者に言う。
「後は頼むよ! 私はちょっと帝国城に戻らなきゃならないんでね!!」
「はっ!」
フォレットは慌てて配下数名と共に帝国城へと戻っていく。
(むっ!? 敵勢に変化が……)
それを敏感に感じ取ったのがユウキ。フォレットと言う司令官を欠いた魔獣軍に乱れが生じる。ユウキが尋ねる。
「今がチャンスだ。ふたりとも行けるか!?」
モモコとキャロットが頷いて答える。
「だ、大丈夫ですぅ!!」
「ボクもいけるよ!!」
今回の戦い。ふたりの攻撃はある程度マナを抑制して行わせていた。最初から全力だと長期戦は戦えない。攻撃方法や適性を選べば、広域マナ攻撃の回数を減らしても十分に戦える。ユウキがハンマーを前に突き出し叫ぶ。
「行くぞ!! 私達は負けない!! ベートが目覚めるまで、決して諦めない!!」
その言葉は皆の心に響き、ユウキ率いる人族はこの後フォレットが居なくなった魔獣軍を見事打ち破ることとなる。
一方、帝国城に急ぎ戻ったフォレットは、その厳重に警護された人物と共にもたらされた報告に仰天した。
「え!? 魔獣王様が死去?? エレガント様が就任!!??」
ある程度の予想はしていた。エレガントが魔獣王になることもいずれはと考えていた。ただ思ったよりも早かった。フォレットが思う。
(新魔獣王様の就任に『新生オリジン撃破』の報はこれ以上ない吉報。それに『シルバーペガサス捕獲』も加われば、くくくっ、私の『序列拝命』も夢じゃなくなる……)
千載一遇のチャンス。逸る気持ちを抑えるようにフォレットが部下に命じる。
「早くその女を地下室に連れていけ!! 急げ急げ!!」
「はっ!」
兵士が魔獣城から連れて来られた痩せた女を見て言う。腕には太い手縄。顔には目隠し。銀色の美しい髪だけが風に揺られている。
女と共に帝国城にある地下室を訪れたフォレット。装飾美しいドアを開け、中にいた美少女に笑顔で言う。
「いやいや、これはシルバーペガサス殿。ご機嫌いかがでしょうか~」
反吐が出るようなうざったい声。ミリザは壁を向いたままその言葉を聞き流す。その態度にイラっと来たフォレットだが、深呼吸してから再び話しかける。
「今日はね~、特別なゲストをお呼びしてるんですよ~。これであなたの気持ちも少しは変われば嬉しいんですけどね~。さ、お連れして」
フォレットの言葉に反応した兵士が、部屋の外にいた女を連れてくる。
「え?」
その痩せた女性を見てミリザは固まった。大きな目隠し。腕には太い手縄。何より美しい銀色の長髪。そう、まるで自分と同じ髪。ミリザが震えた声で言う。
「お姉ちゃん、レモンお姉ちゃんなの……?」
それまで恐怖からかずっと黙っていた目隠しされた女が答える。
「ミリザ? そこに居るのは、ミリザなの……??」
女の後ろにいた兵士が目隠しを外す。
「お姉ちゃん!!」
「ミリザ!!」
魔獣王に囚われていたミリザの姉レモン・ハニーキッス。シルバーペガサスとして生まれた妹ミリザをおびき寄せるための餌として捕まっていたのだが、今回ミリザが確保されたことを受け、その説得材料として帝国城へと連れて来られた。
数十年ぶりの姉妹の再会。涙ぐむ二人の間にフォレットが入り、姉レモンの首を掴み言う。
「は~い、ミリザちゃん。そこまでそこまで。大好きなお姉ちゃんが痛い思いしたくなかったら、私の言うことを聞いてね~」
「うぐぐぐっ……」
フォレットが手に力を入れる。息ができなくなり苦しむレモン。ミリザが叫ぶ。
「やめて! お姉ちゃんに酷いことしないで!!」
気が強く、多少ことでは負けないミリザ。だが彼女の唯一の家族となった姉レモンは確実にウィークポイントとなっていた。フォレットが笑いながら言う。
「じゃあ、交尾しようか~? 新しく就任した魔獣王様と、むふふふっ、濃厚で熱~い交尾を」
ミリザが両手をぎゅっと握りしめフォレットを睨みつけた。
「お兄様!! やりましたわ、全滅ですわ!!!」
エリザベスは目の前にいた魔獣軍の全滅を見て思わず喜びの声を上げる。ベートなしでも戦えた。勝つことができた。興奮する皆に向かって言う。
「怪我はないか!? 大丈夫か!!」
モモコやキャロットが頷いて答える。
「大丈夫ですぅ!! まだまだいけますぅ!!」
「ユウキ、このまま敵陣に攻め入ろう!!」
それはユウキも考えていた。時間が過ぎるごとに状況は不利になる。その前に今ある戦力で帝国城を、『序列弐位』を叩く。一か八かの賭け。ユウキがふたりに尋ねる。
「マナは? マナはまだ大丈夫か!?」
モモコとキャロットが親指を立ててそれに答える。
「十分!! まだ行けるよ!!」
「早くミリザちゃんを助けに行かなきゃ!!」
勝利の興奮。その余韻が皆の気持ちを大きくする。ユウキが言う。
「ではこれより帝国城への進軍を開始する!!」
ミリザ奪還。ベートが眠る今。残された彼らにできる最大の仕事であった。




