71.フォレット・ガールソンの暗躍
フォレット・ガールソンは不満であった。
(なぜこの私の功績が評価されない……!?)
魔獣軍『序列弐位』シンデレラ・ヴォルトに仕える側近。だが実際は無口で『オリジン抹殺』以外何もしないヴォルトに代わり、隊の運営などの雑務を担ってきた。帝国城に入ってからも荒ぶる獣族達を宥め、無秩序な破壊などを抑制してきた。ある意味『面倒な仕事』。だから初めて手にした手柄に彼は浮かれていた。だが、
「『新生オリジン抹殺』はシンデレラ・ヴォルトの功績。シルバーペガサスについては本国の沙汰を待て」
それがフォレットに告げられた魔獣国からの言葉であった。
(ふ、ふざけるな! まるで私が何もしていなかったみたいじゃないか!!)
実際戦場では大したことはしていない。獣化した後もキャロットの広域マナ攻撃から必死に逃げ、自ら生贄になることを選んだミリザに縄をかけるよう命じただけ。
(くそっ、だったら仕方ない……)
フォレットは急ぎ『序列弐位』シンデレラ・ヴォルトがいる部屋へと向かう。
「お疲れでーす、ボス」
部屋に座するヴォルト。変わらず無言である。フォレットが言う。
「ボスぅ、先日の戦い見事でした! そこでお願いがあるんですが~」
座したまま腕を組み無言のヴォルト。そんな彼を無視するかのようにフォレットがひとり喋り続ける。
「あの連中の仲間がまだ居やしたよね~。討伐しますよね~。このフォレットが行って来てもいいですか~??」
無言のヴォルト。フォレットが言う。
「了解っす! じゃあ、行ってくるでやんす!!」
フォレットは微動だにしないヴォルトに軽く頭を下げ、部屋を出る。
(くくくっ、よしよし。あの何の関心もない奴などチョロいもんだ。私はオリジンの残党を狩る。これで私の手柄がまた増えるぞ~)
ユウキ達、逃げたベートの仲間を討ち取る。ここ数日フォレットが考えついた新しい手柄。オリジン無き今、残りの残党殲滅など魔獣軍をもってすれば容易いこと。にやにやと笑うフォレット。そして言う。
「ああ、あとあの女も何とかしないとな~」
フォレットは真っすぐに帝国城の地下にあるその部屋へと向かった。
「あ、これはフォレット様!!」
帝国城の地下。厳重な警備の先にある部屋の前に現れた黄金色の髪をしたフォレットの顔を見て、兵士が挨拶する。フォレットが頷いて答える。
「問題はないですよね?」
「はい!」
「ちょっと開けてくれる?」
「はい、では……」
兵士は懐から鍵を取り出すと、何重にも掛けられた鍵をひとつずつ開けていく。ギギっと扉が軋む音と共に開けられるドア。その先にこの地下道からは想像もできないほど豪華な部屋が現れた。
まるで貴賓室。豪華なソファーに絵画。新鮮な花々に、ベッドにかかる華やかな天蓋。シャンデリア。そしてその中央の椅子に座る銀色の髪の可憐な女性。
フォレットが部屋の中に入り、胸に手を当て頭を下げて言う。
「これはこれはシルバーペガサス様。ご機嫌麗しゅうございます~」
壁を見たまま目を合わさないミリザ。美しい銀色のドレスも今の仏頂面の彼女には全く似合っていない。フォレットが言う。
「お気に召されましたでしょうか~?」
「……」
無言。いや無視と言った方がいい。黙り込むミリザにフォレットが言う。
「シルバーペガサスに獣化する気にはなれましたか?」
「……」
やはり無言。獣族にとってシルバーペガサスは目が出るほどの貴重種。交尾を行い、強い子を残す。獣族繁栄の為には是が非でも探したい相手。
だが肝心のシルバーペガサスが獣化しなければ意味がない。そしてその獣化は本人の意思のみで行われる。つまり無理強いは不可能に近い。どんな形にせよ、相手の合意が必要になる。
フォレットがテーブルの上に置かれた美しきカップを手にして言う。
「これもお気に召されませんでしたか~? いやいや乙女心ってのは難しいですね~」
「……」
先ほどから何の反応も示さないミリザ。煌びやかな部屋に豪華な食事。だが彼女を満足させるものは何ひとつここにはなかった。フォレットが言う。
「でもね~、自分から来ておいてずっとその態度じゃ、さすがの我々もいつまで耐えられるか分からないですよ~。まあ、もうじきお客様がいらっしゃる。お楽しみに~」
フォレットはそう口にすると、こちらを見ようともしないミリザに軽く頭を下げ退室する。
(ベート……)
ミリザは再び涙を流した。あれからどうなったのか。ベートは無事なのか。ミリザは俯き、目に涙を溜めた。
「あ~、本当に大変な仕事ですね~、面倒面倒」
部屋を出たフォレット。兵士に警備を指示してから歩き出す。
「さ~て、では残党狩りを始めますか~」
歩き出すフォレット。その細く吊り上がった目が、さらに線のように細くなった。
「さて、これからどうするか……」
その少し前、ユウキ達は拠点の街でもう何度目か分からない作戦会議を開いていた。部屋に集まったのはユウキに妹のエリザベス、モモコ、キャロット。オリジンであるベートは未だ目を覚まさぬまま。司令塔であったミリザもいない。八方塞がりの状態に皆の顔はずっと暗いままだ。ユウキが言う。
「前から言っている作戦を実行したいと思う」
モモコが顔を上げる。キャロットが言う。
「本当にそれで大丈夫なのか……?」
不安げな顔。だがユウキがそれを打ち消すかのような強い口調で答える。
「大丈夫だ。モモコは全力で私に強化をかけてくれ。残ったマナで『神裁の光戟』を『序列弐位』にぶっ放す!」
「……」
モモコが黙り込む。
その作戦には致命的な欠点が幾つもあった。まずモモコの全力の強化をユウキでは受け入れらないという点。また仮に強化が上手くいったとしても、そこからマナを大量消費する『神裁の光戟』はもう放つことはできない。その時点でマナ切れは明白だ。エリザベスが言う。
「ですからお兄様。その作戦は無理がございます」
ユウキが机を叩いて言う。
「じゃあ、どうするって言うんだ! このままでは我々はじり貧に……」
折角『序列壱位』レイ・エレガントを退けた。残る幹部は『序列弐位』シンデレラ・ヴォルトのみ。この好機を逃したくない。焦るユウキにキャロットが言う。
「やっぱりさ、ベートの目覚めを待つ方がいいじゃない?」
「……」
無言になるユウキ。確かにそれが一番だ。だが深い心の傷を負ったベートがいつ目覚めるのか分からない。何人もの治療師に見て貰ったが皆さじを投げた。もう後は彼自身が打ち破るしかない状況なのだ。
「それが一番いい。だがこうしている間にもミリザの安否が心配だし、レイ・エレガントが再び戻ってくる可能性もある。叩くなら今だ。ヴォルト殿さえなんとかできれば……」
再び無言になる一同。結局いつもここで議論が止まる。決定的な何かがない。ベートと言う原動力を失ったメンバーに前に進む力はほとんど残っていなかった。そんな彼らの部屋に仲間が慌ててやってくる。
「ユ、ユウキ、大変だ!! 魔獣族が街の外までやって来ている!!!」
「何だって!?」
慌てて街から出る一同。その前に集まっていた魔獣軍を見て唖然とする。
「ここの場所がバレていたのか……」
もう帝国内に安住の地はない。街には眠りにつくベート。是が非でもここは死守しなければならない。ユウキが皆に言う。
「戦うぞ。みんな、死ぬ気で頼む!!」
頷くモモコ達。不安。恐怖。ベートを欠いた戦いがこんなに恐ろしいものだと初めて気付く。
「さ~て、残飯処理と行きますか~」
対する魔獣軍。その後方で指揮をするフォレットが下品な笑みを浮かべながら、突撃の合図を出した。




