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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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70.新魔獣王、即位。

 魔獣国、王城。その獣族の国はとある噂でもちきりであった。


 ――魔獣王が死んだ



 先日のかなめとの戦いで傷つき負傷した魔獣王。多くの獣族が悲しみ、その回復を祈っていたがついにそれが力尽きたという。ただ一方で、魔獣王は人族の刺客によって暗殺されたという噂も流れた。

 次々と幹部が消えていく魔獣族。ここで魔獣王死去の報は国の根幹にかかる事態。下手をすれば統治体制に不満を持つ勢力のクーデターの危険すらある。


 そんなある日、緊急の招集が伝えられた。王城に集まった上級種族である魔獣族。皆が何の発表があるのかと不安と期待が渦巻く中、その最高幹部が前に立ち、大きな声で言った。



「よくぞ集まってくれた、我が同胞よ!!」


「おお、エレガント様……」


 王城中庭。皆を見下ろすように高台から姿を現し声をかける人物こそ、魔獣国『序列壱位』レイ・エレガントその人であった。集まった観衆から歓声とざわめきが起こる。



「あれ、エレガント様!?」

「エレガント様、お怪我が……」


 新生オリジンから負った全身の怪我。顔右半分と右腕全体を負傷し、まるでフランケンシュタインのような継ぎはぎの顔であったエレガント。だが今高台に立つ彼は、傷ひとつない以前のような気品のある美しい顔に戻っていた。


「エレガント様ーーーーーっ!!」

「うおおお、エレガント様っ!!!」


 魔獣国幹部敗退の報はみなも知っている。だからこそ最高幹部である『序列壱位』のその美しき姿に皆は酔いしれた。エレガントがやや寂しそうな顔で言う。



「皆に知らせがある」


 歓声から一転、集まった皆が静かになる。エレガントはウェーブの掛かった金色の髪をかき上げながら大きな声で言う。



「魔獣王が亡くなった」


「!!」


 さらに静まる聴衆。噂は本当だった。オリジンに負わされた怪我による死去か。次の言葉を待つ皆がエレガントをじっと見つめる。



「我らの最大の難敵オリジン。そのオリジンと戦い勝利したものの、負わされた怪我により先日その御霊が天に還った。だが安心するがいい!! この私が、レイ・エレガントが父上に代わり、ここに新たな魔獣王として誕生することを宣言する!!!」


「うおおおおおおお!!!」

「エレガント様ーーーーーーーっ!!!」


 拍手。歓声。集まった皆が新たな若きリーダーに惜しみない歓喜を送る。新生オリジン誕生に怯える魔獣族。危篤の魔獣王。だがついに自分達にも新たなリーダーが降臨した。エレガントが言う。



「父上の国葬を終えた後、私はオリジン討伐の為出立する。皆は私の勝利を信じ、これまで通り生活するがよい!!」


 大歓声に拍手。エレガントはそれに手を挙げて応えながら段を降りる。




「うぐっ……」


 その直後、胸を押さえ屈みこむエレガント。真っ青な顔した彼に、側近が慌てて近付き尋ねる。


「エ、エレガント様!? 大丈夫でしょうか!!??」


 優雅な顔から一転、苦痛に満ちた表情を浮かべながらエレガントが答える。


「だ、大丈夫だ。少し休む……」


「はっ!!」


 側近はすぐにエレガントを近くの部屋へと案内する。

 先代魔獣王の『祝福の血清』を得たエレガント。驚異的な回復でその醜悪な見た目だけでなく体も回復も進んだが、やはり全快までにはまだ時間がかかる。それほどベートに負わされたダメージは大きかった。そしてその恐怖はエレガントの心に刻み込まれている。



(ゆ、ゆるせぬ。オリジン……、必ず私の手で……)


 寝かされたベッドの上で復讐を誓うエレガント。必ず自らの手でシンデレラ・ベートを討ち取る。強い決意を新たにした。






「ベートの様子はどうだ?」


 バルッサ帝国。激戦を繰り広げた帝国城からやや離れた街。ユウキ達反魔獣軍のメンバーが活動するこの街に、ベートは急ぎ担ぎ込まれた。戦いから数日、外傷はモモコや治療師のお陰ですっかり治ったが未だ目を覚まさない。治療師が言う。


「怪我は治っています。でも何か起きることを拒絶しているような気がしてなりません……」


 その言葉にユウキやモモコ、キャロットらが黙り込む。ベートが始めた謝罪の旅。育ての親シンデレラ・ヴォルトに会って謝りたい。だがその再会は『敵の幹部』と言う最悪な形で実現した。



「ベート様ぁ……」


 涙目のモモコ。回復のマナを得意とする彼女でも、今のベートを救うことができない。自分はベートに救われた。生贄行進で死を覚悟した自分に、生きる光を当ててくれた。生きたい。ベートの為にももっと生きたいと思わせてくれた。そんな自分が彼の窮地に何もできない。モモコはベートの手を握りぼろぼろと涙を流した。



(ベー太……)


 それは椅子に座って眠るベートを見つめるキャロットも同じだった。彼女の場合はモモコ以上に何もできない。広域マナ攻撃ができる。だがそれはベートが居て初めて成せるものであり、自分一人では何もできない。エルフ族に何か治療法はないのか。キャロットは一人眠るベートを見つめながら必死に考えた。




(ベートが生きていてくれただけまだ良かった。だが……)


 ユウキが考える。事態は最悪に近い状況。頼みのオリジンは目を覚まさず、ミリザが生贄という形で連行された。敵は『序列弐位』であり、同時に人族最強であったシンデレラ・ヴォルト。戦ってはいないがベートでも負けた。


「どうすればいいんだ……」


 ユウキが頭を抱え、小声で言う。


「お兄様……」


 隣でそれをエリザベスが心配そうに見つめる。



(私がもっと強ければ……)


 ユウキが思う。自身を『オリジン』などと言っていた頃が滑稽に思える。初めて触れた本物のオリジン。敵の幹部。自分など何の役にも立たないことだと気付かされた。ユウキがベートを見つめながら思う。



(ベート、早く起きろ。みんなが、ミリザがお前を待っているんだぞ……)


 安らかな顔で眠るベート。まるでこのまま永遠に目を覚まさないのではないかと思えるほどに、それは静かな顔であった。

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