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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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67.『序列弐位』

 帝都バルッサにある帝国城。その前に築かれた横長の構造物は、通常『守備砦』と呼ばれる敵襲に備えた防御施設である。今回の空からの魔獣族襲撃には何の役にも立たなかったが、地上戦では大切な帝都や城を守る国の生命線ともなる。

 その守備砦の中、じっと椅子に座する『序列弐位』の白髭の老人に向かって側近の男が言う。



「ボスぅ、エレガント様が負けちゃったみたいっすよ~」


 黄金色の髪。つり上がった目。老人同様に腰に太い剣を刺した男フォレットがヘラヘラした表情で尋ねる。


「……」


 沈黙の老人。焼けた肌に大きなマスク。椅子に座ったまま動かない。フォレットが言う。


「もうすぐこちらに着くそうですよ。困りましたね~、エレガント様を倒しちゃうような相手、いや~、怖い!」


 まるで揶揄うような口調。それでも『序列弐位』の老人は微動だにしない。フォレットが尋ねる。



「えー、ボスの目的は『新生オリジン抹殺』でしたよね~。気ぃつけてくれんす」


 フォレットはそう言って呵々と笑いながら退出していく。残された白髭の老人。だがその目には獲物を狩るような鋭い眼差しが光っていた。






「ベート、違う。剣の持ち方はこうやってだな……」


 シンデレラ・ヴォルトが幼いベートの元にやって来て言った。腰を下ろし、間違った持ち方をする剣の持ち方を丁寧に説明する。それを目を輝かせて聞くベート。


「ありがとう、じいちゃん!」


「ああ、だけど無理はするなよ」


 ヴォルトはベートの小さな頭をその大きな手で撫で、笑みを浮かべる。ベートが言う。


「俺、じいちゃんみたいに強くなりたいんだ!」


 ヴォルトが苦笑しながらその言葉を聞く。


「じいちゃん、かなめなんだろ? この国で一番強いんだろ? すげーや!!!」


 純粋な目。ヴォルトはそれに真面目に答える。


「そんなことはない。ワシはまだまだじゃ。だからこうして毎日鍛えておる。お前も鍛錬を忘れるなよ」


「うん! 俺もじいちゃんみたいに要になって国を守るんだ! じいちゃんも俺が守ってやるよ!!」


 ヴォルトが頷きながらそれに答える。


「ああ、それは嬉しい。お前はきっとワシを超える。その時はこの国を頼んだぞ」


「任せときなって! 俺、どんなことがあっても負けない。じいちゃんの()()としてみんなを守るよ!!」


 思わず目頭が熱くなるヴォルト。それを隠すように森へ歩き出し、ベートに言う。



「さあ、鍛錬だ。今日は厳しいぞ!」


「あ、待ってよ。じいちゃん!!」




 ――じいちゃん、じいちゃん





「……じいちゃん」



「あ、やっと起きた」


 ベートは自分の目に涙が溜まっていることに気付いた。夢。懐かしい幼い子供の頃の夢。ヴォルトに拾われ鍛錬を始めた頃。すべてが幸せだった。ふたりでいることが何よりも幸せな時間だった。


「ベート、大丈夫??」


 帝都バルッサへ向かう馬車の中。うとうと眠りについていたベートにミリザが心配そうに尋ねる。手で涙を拭い、ベートが答える。


「大丈夫。ちょっと寝ちゃっただけ」


 向かいに座るキャロットも心配そうに尋ねる。


「ベー太、本当に大丈夫なのか? 無理してないか?」


 彼女にしては珍しい気を遣った言葉。それほど何か言葉に言い表せない緊張感が漂っていた。ベートが笑って答える。


「大丈夫。とっとと『序列弐位』を倒して、魔獣国に行くぞ」


「うん……」


 不思議な感覚。キャロットはこの時に覚えたその感覚の意味を後程知ることとなる。




 遮るものが何もなく、広く荒れた荒野。ベールに包まれた帝国領はまだ皆が知らぬことがたくさんあるが、その広い国土の割に村や町が少ないのもそのひとつだ。朝、出発した村から結局一つの村や町を見ることなく帝都に辿り着くこととなる。御者が馬車を止め皆に言う。



「て、敵です!! 魔獣軍です!!!」


 遠方に帝都。帝都城を前に御者が馬車を慌てて止める。帝都を守る守護砦ももう目と鼻の先。だが当然魔獣軍もベート達の接近を知っておりそれに対処するように待ち構えていた。

 馬車を降りたベート達はその敵の軍勢を見て驚きの声を上げる。


「多いな……」


 ユウキが砦の前に集まった魔獣族の姿を見て言う。ミリザも頷いて答える。


「そうね。『序列弐位』もいるだろうし。キャロット、準備はいい?」


 白のフードの中から顔を出したキャロットが頷いて答える。


「ボクは大丈夫だよ! ねえ、ベー太」


 むろん彼女一人では戦えない。ベートが居て初めて戦える。


「ああ」


 しっかり休んだお陰か、ベートも気合十分である。



「みんな、気をつけろ。何か出てきた」


 魔獣族をじっと見つめていたユウキが皆に言う。その目線の先、魔獣軍の中から出てきた黄金色の髪の男に皆の視線が集まる。男は魔獣族の前まで歩み出ると、つり上がった目をさらに細めてベートらに言う。



「これはこれは新生オリジン一行様。お初にお目にかかりますぅ。わたくし、魔獣軍『序列弐位』の側近を務めますフォレット・ガールソンと申します~」


 軽い口調。幹部の側近だというのにまるで緊張感が感じられない。フォレットが続ける。


「そちらに広域マナ攻撃の使い手さんがいらっしゃるのは分かっておりますのでぇ、彼らは何もしません」


 そう言って後方に立ち並ぶ魔獣族を指さす。そして振り返って言う。


「ここはひとつ、大将同士の戦いってことにしませんか~??」


 大将同士の戦い。それはベートと『序列弐位』との一騎打ちを意味する。ミリザがユウキに尋ねる。



「どう思う?」


「どうでしょうか。確かにあの後ろの奴らはキャロットさんの攻撃でほぼ壊滅させられるでしょう。となると必然的にベートと『序列弐位』との戦いになるはず。となれば……」


「キャロットを温存しつつ、ベートが勝つ。ってことね」


 そう返したミリザにユウキが頷いて答える。


「そうです。ベートが勝つ。やはりそれが最大にして最低条件。どう? やれる?」


 そう尋ねるユウキにベートが答える。



「問題ねえ。魔獣王まであと少し。『序列弐位』も叩きのめす!!」


 気合十分。それを見たミリザがフォレットに答える。



「いいわ!! こちらからは新生オリジンのベート。そっちは魔獣軍幹部の『序列弐位』でいいわね??」


 フォレットがにやりと笑いながらミリザに答える。


「ええ、そうですよそうですよ。承ってくれて感謝ですよ。では、始めましょうか。ボスぅ~、出番でっせ!!」


 軽い口調。だがその言葉に合わせて魔獣軍の中から白髭の老人がゆっくりと前に歩み出る。同じく前方に歩き出すベート。だが途中でその歩みが止まった。



(え?)


 ベートが立ち止まりその老人をじっと見つめる。


(どうしたの、ベート??)


 後ろにいたミリザが思わず内心尋ねる。ギラギラに燃え上がっていたベートの気迫が、一瞬萎えるように消え去る。ベートが震える声で言う。



「あ、あのさ、それって……」


 魔獣軍の前に仁王立ちする老人。白い髭に日に焼けた肌。顔には大きなマスク。腰に太い剣を携え、眼光鋭くベートを睨みつけている。ミリザが大声で言う。



「ベート!! どうしたのよ!!」


 突如、蛇の抜け殻のようになってしまったベートを心配する。ベートが震える声で老人に言う。



()()()、あんた、ジジイだろ……」



「え!?」


 ミリザにモモコ、そしてユウキ達が驚きの表情となる。ベートが叫ぶ。



「ジジイ!! 俺だよ、ベートだよ!! ベート!!!!」


「……」


 無言の老人。その後方で側近のフォレットが笑いながら言う。



「ああ、そうそう。確かボスは()()()()()()、『シンデレラ・ヴォルト』なんて名前でしたね~~」


 ベートが両膝を地面に着き震える声で言う。



「ジジイ……、俺だよ。ベートだよ。何で分からねえんだよ……」


 そんな声を無視するかのように、白髭の老人はゆっくりと鞘から剣を抜いた。

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