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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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66.親孝行

(有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない!!!!!!)


 ベートとの戦いに敗れ、這う這うの体で魔獣国へ戻ったレイ・エレガント。獣化は解け、縫製された醜い顔面に、新たに黒ずんで動かなくなってしまった左腕を押さえながら魔獣城へ入る。



「エ、エレガント様!?」


 迎えた獣族らが驚きの表情で最高幹部を迎える。ただでさえ正体不明のオリジン使いによって醜い姿になっていたエレガント。金色のウェーブの掛かった髪を靡かせ、上下白のスーツで気品のあった『レイ・エレガント』はもういない。側近がエレガントに近付いて言う。



「エレガント様、治療を!!」


「うるさい!!」


 ドン!!!!


 エレガントは側近を殴りつけ、そのまま魔獣城の地下にある集中治療室へと向かう。



(私は強い。私は強い。私は誰にも負けない……)


 エレガントは自分自身の中に何か手に負えない大きな悪魔の存在を感じつつ、脇目も振らずにその部屋へと足を運んだ。



「エ、エレガント様!? そのお姿は? いえ、それよりこの先には……」


 魔獣城の地下にある集中治療室。その一番奥にある装飾の扉の前に立つ守衛が、エレガントの姿を見て驚き声をかける。全身に怪我を負い、治療にやって来たと思った守衛。だが自身が守る部屋には誰一人入れる訳にはいかない。


「どけ!!!」


 ドン!!!


「ギャアアア!!」


 エレガントが容赦なく守衛を殴りつける。壁に吹き飛ばされ、守衛が悲鳴を上げ気絶する。



「私は、負けない……」


 エレガントは何か念仏を唱えるようにその観音開きの扉に手をかけ、そしてゆっくりと開いていく。


「私は負けない……」


 美しき装飾の施された魔獣族の技術の粋が詰まった集中治療室。その部屋の中心に置かれた大きなベッドの上で横たわる褐色の肌をしたひとりの魔獣族。口には呼吸を補助するマスクが付けられ、全身には痛々しいほどのチューブが突き刺さっている。腹部には痛々しいほどの()()による怪我の痕。エレガントがやって来たことにすら気付かず眠り続けている。



「父上……」


 エレガントはもたつく足に力を入れ、動かない父親に語り掛ける。


「私は負けたのですか……? 私が負ける? そんな馬鹿なことはないですよね。父親として息子が負けるなんてこと、認められませんよね……」


 無言の父。シンデレラ・ヴォルトとの戦いで負った怪我が悪化し、いわゆる生命維持装置なしでは生きられない体となってしまっていた。エレガントが涙目で言う。


「見てくださいよ、父上。私はこんな姿になってしまったんですよ……」


 継ぎはぎの顔。醜い右腕に爛れた左腕。優雅で気品のあった『序列壱位』の最高幹部の姿はもうそこにない。エレガントが尋ねる。



「父上も嫌ですよね? 大事な息子が、こんな醜い姿になり人族に負けるなんてこと……」


 エレガントが眠る魔獣王の父の顔にそっと手を当てる。そして言う。


「父親なら当然ですよね。息子の為に、魔獣族の為に何でもするってこと……」



 ガシッ……


 エレガントが動かない魔獣王の頭を掴み、そしてゆっくりと持ち上げていく。


「ああ、可愛そうな父上。憎き人族にこのような哀れな姿にさせられて……」


 エレガントが舌でぺろりと口の周りを舐める。



「私がその苦しみから解放してあげましょう。息子の親孝行ですよ。()()の親孝行……」



 シュン!!!


 ……ドン


 エレガントの右腕が手刀となって魔獣王の首を横に切り裂く。胴体が頭から離れ、小さな音共にベッドに落ちる。エレガントは父親の首を高々と天に上げ、滴る鮮血を自身の口へと流し込む。



(父上、ああ、父上。私と、この私と共に生きましょう。私と共に戦いましょう……)


 魔獣国を支配し、人族を恐怖で振るい上がらせた魔獣王。その最期は誰も予想しないようなあっけないものであった。






「おはよう、ベート」


 翌朝、ベッドの上で目を覚ましたベートにミリザが笑顔で挨拶する。窓から漏れる朝日。銀色の髪を輝かせながらミリザが尋ねる。


「どう、体調は?」


「え、ああ。うん、大丈夫」


 ベートはレイ・エレガント撃退の後意識を失い、ずっと眠っていたことを教えて貰った。ベートが言う。


「そうか。俺、また意識がなくなったんか……」


「そうだね。すっごく強かったけど、マナの使い過ぎかな。気を付けてね」


「ああ」


 オリジンを発現させ、圧倒的な強さを手に入れたベート。ただ急激なマナ消費はさすがの彼でも体の負担が大きい。今回も、もしエレガントの後に別の幹部が現れていたら敗北していた可能性もある。ミリザが尋ねる。



「ねえ、ご飯食べよっか。ユウキが作戦立てたいって」


「ああ、分かった」


 ベートはミリザに続いて宿の食堂へと向かった。





「おはよう、ベート。良かった、無事に目を覚まして」


 食堂ではユウキやエリザベス、モモコにキャロットが座って朝食を食べていた。モモコが言う。


「ベート様ぁ、モモコ心配しましたぁ~!!」


 水色の三つ編み。泣きそうな顔でそういうモモコにベートが答える。


「ああ、悪かった。でもありがとう。モモコのお陰であいつに勝てたよ」


 キュンキュン!!


 モモコがときめく。ベートに会う度に強まる想い。何が起ころうと自分は彼についていくのだと決意する。キャロットが朱色の髪を耳にかけベートに言う。



「ボクのお婿さんになるベー太だ。あれぐらい心配していないよ」


 そう言いつつも、ベートが心配で昨晩ほとんど眠れなかったキャロット。顔は赤らみ、明らかに寝不足である。ベートが言う。


「誰がお婿さんだ。勝手に決めるな」


 笑い。皆の笑いに包まれながらベートが席に着く。ユウキが言う。



「早速だが作戦の話に入らせてもらう。まずエレガントがどこに行ったのかは知らないが、これから我々は予定通り帝都城へと向かう」


 帝都奪還。ユウキとエレガントの一番の目的。ミリザが尋ねる。


「帝都には『序列弐位』もいるんでしょ? どんなやつなの?」


 ユウキが首をかしげて答える。


「それが分からないんだ」


「分からない? そうね、でも『序列弐位』って前オリジンのシンデレラ・ヴォルトに倒されたはずでしょ? それがまた現れたってことは、誰かがその地位を襲名したってことだよね」


 ミリザの言葉に皆が頷く。エリザベスが言う。


「なんでも白い髭に焼けた肌。それに大きなマスクをつけているそうですわ。魔獣族のお爺さんでしょうか?」


「とりあえず会ってみりゃ分かるよ」


 ベートが朝食のパンを齧りながら言う。ユウキがコーヒーをひとくち口にしてから尋ねる。



「それで帝都奪還の作戦だが、仲間の情報によると帝都城の前にある守護砦にその『序列弐位』が陣取っているそうだ。配下は側近のフォレット。今わかるのはそのぐらい。さて、どうやって攻めるべきか」


「どうも何も正面突破しかねえだろ」


 さらりとそう言いのけるベート。


「正面突破? あの幹部相手にそれは……」


 そう言いかけたユウキにミリザが言う。


「確実に幹部を討ち取れる作戦なんてないわ。あなたも分かったでしょ? 幹部の強さ」


「ま、まあ……」


 ミリザが言う。


「下手に策を講じるより、今のベートの強さなら正面突破が一番いいと思うわ。『序列弐位』なら負けることはなと思う」


「うーむ……」


 確かにそうだ。これまでのユウキ達の考え方は、あくまで『力負けする』と言うのが前提。そのハンデを作戦を使ってどう克服するかを考えていた。ただ今は違う。人族最強の切り札オリジンがこちらにはいる。エリザベスが言う。


「お兄様。ミリザさんの仰る通りですわ。ベート様の強さを魔獣族に知らしめるチャンスでもありますわ!!」


「確かにそうか……」


 モモコが言う。


「で、でも、ベート様。無理はしないでくださいね。モモコがいれば絶対大丈夫ですから、無理はしないでください~」


「そうだよ、ベー太。無鉄砲に突っ込んじゃダメだぞ」


 キャロットの言葉にベートがやや反省した顔で答える。


「確かにちょっといきなり全力過ぎたかもしれないな。今度はちゃんと抑えていくよ」


 ユウキがコーヒーカップをテーブルに置き、皆に言う。



「じゃあ食事後に出発だ。今日の昼には帝都城前にある守護砦に到着する。気合い入れていこう!!」


 皆は真剣な表情でその言葉を聞き頷く。

 間近に迫った過酷な運命。これよりベート最大の試練が始まる。

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