64.『序列壱位』再び
白いスーツに白のシルクハット。ウェーブの掛かった長い金髪。常に冷静で、魔獣軍『序列壱位』を拝命する最強幹部。
しかしながら、ベート討伐の為に隊を組んでやって来た味方は既に全滅。戦いを優勢に進めるベート達に追い詰められようとしている。ただ、その最強幹部レイ・エレガントには不思議とまだ余裕すら感じさせる。不敵な笑みを浮かべ対峙するベートに言う。
「随分変わりましたね、あなた」
「……」
黙ってエレガントを睨みつけるベート。
「数か月前、初めて会った時はまるで死に怯えて震える小動物のようでした。でも今は自信に満ち溢れている。人族というのは恐ろしいですね。この短期間でこうも変わってしまうとは」
そう話すエレガント自身も数か月前とは随分見た目が変わっている。偶発にせよ、ベートが放った【根源たるマナ】の爆発により右半身に大きな傷を負い、不気味で醜悪な姿を晒している。エレガントが顔の右半分を押さえながら言う。
「反省しましたよ。どんな小さな相手でも必ず全力で仕留める。些細なことでかっとなってしまった自分自身への戒めとして、敢えて隠さずこの醜態を晒しているんですよ」
エレガントの顔の右半分。まるでフランケンシュタインのように縫製された醜いもの。可憐で、優雅だった以前の彼からは想像できないほど悍ましい姿だ。ベートが言う。
「ジジイはどこにいる? シンデレラ・ヴォルトはどこにいる!!!」
一瞬体が固まったエレガントが、風に靡く金色の髪を手でかき上げそれに答える。
「あなたは本当に私の調子を狂わせる。その存在が、その言葉の一つ一つが私を苛立たせる……」
冷静を保とうとしているエレガント。眉間に青筋が立つのがはっきりと見て取れる。ベートが言う。
「言いたくないならいい。とっとと魔獣王ぶん殴って直接聞いてやる」
「……ふっ」
エレガントから突如強い邪気が放たれる。ゆっくりと、可憐に白のシルクハットを取り投げ捨てると、ベートを睨みつけて言った。
「やはり貴様の前では冷静になどなってはいられぬようだ。ジジイ? 知りたきゃ、この私を倒してみよ!!!」
エレガントが駆け出し、一気にベートとの間を詰める。
(障壁!!)
息を止め、目の前に二重のマナ障壁を発現。エレガントの右拳を受け止める。
ドオオオオオオオン!!!!
粉々に破壊される障壁。だがそこベートの姿はもういない。
「後ろっ!?」
振り返るエレガント。だが誰もいない。
(爆ぜよ!!!!)
マナの動きに気付いたエレガントが空を見上げる。そこには跳躍した茶髪の少年。同時に周囲で爆発が起こる。
ドオオオオオオオン!!!!
「ぐっ!!」
エレガントが腕を目の前で十字に構え、爆発に耐える。同時に自身の周りに無数の熱線を発現させ、空中にいるベートに向けて反撃を開始。
「串刺しになれ!!!」
シュンシュンシュン!!!
以前ベートの右腕を貫いたエレガントの攻撃。空中で動けないベート。ただ、彼はそんなエレガントよりもずっと冷静であった。
(うおおおおおお!!!)
息を止め、マナを創造。右手に纏わせる感覚で迫りくる熱線を殴り弾き飛ばす。
「ば、馬鹿な!?」
驚いたのがエレガント。如何なるものでも貫いてきた自慢の熱線。それが弾かれ、そして今、目の前に怒りの形相で殴り掛かってくるベートの姿が迫る。
ドオオオオオオオン!!!!
「はあ、はあはあ……」
エレガントが後方に吹き飛ばされ、地面に片膝をつき息をする。間一髪、ベートの攻撃を避けることができたが、地面はえぐられ大きな穴となっている。ベートが言う。
「逃げんなよ。戦えよ」
「くっ……」
立ち上がったエレガント。怒りで金色の髪が逆立ち始めている。
「すごい、ベート……」
ミリザが思わず口にする。三か月前、命からがら一緒に逃げた上級幹部。その相手を前に引けを取るどころか、押しているようにすら見える。
あれからベートは強くなった。マナを発現させ、たくさんの強敵と戦い成長した。心も体も強くなった。自信に溢れている。だが安心はできない。
「気を付けて、ベート」
ミリザの視線が怒りに狂うエレガントに向けられる。
「許せない許せない許せない許せない……」
金色の髪を逆立て、頭を掻き毟るように怒り狂うエレガント。その姿は異様で、見ている者に恐怖すら与える。エレガントが天を仰ぎながら言う。
「ああ、そうだったね。お前は最初から全力で狩らねばならない相手だったね。ああ、そうだった。ああ、そうだった……」
同時にエレガントの体が白く、強い光を発する。
(獣化……)
分かっていた。ベートもエレガントが必ず獣化してその本当の力を見せてくるものだと。ミリザが獣化し始めたエレガントを見て言う。
「あれが、『序列壱位』レイ・エレガントの獣化……、ゴールドパンサー……」
先の白虎よりも更に大きくなった肢体。金色の体毛に黒の斑模様。二本の尻尾に、上下に生えた大きな牙。手足にも金色の巨大な爪が光る。エレガントが言う。
「久しぶりだよ、獣化なんてね。ああ、疲れる。疲れるけど、なんて心地よいんだ……」
魔獣族の獣化。非常にエネルギー消費が多くなり体力消耗が激しいが、魔獣族本来の力が発揮され、さらに生物本来の心地よさを与える。ゴールドパンサーに獣化したレイ・エレガントがベートを上から見下ろして言う。
「さあ、殺してやる。苦しませて殺したいが、ああ残念だがこの姿では一瞬で死をもたらせてしまうだろう」
エレガントが巨大な右手を振り上げる。金色の爪。それが太陽の光に当たり一瞬輝く。刹那、その爪がベートの真横まで迫っていた。
(やべっ!! 障壁っ!!!)
ドン!!!!!
「ぎゃっ!!!」
ほんの一瞬。攻撃から被弾まであっと言う間の出来事。巨大な体のくせに、恐るべきスピード。ベートは辛うじて発現させたマナの障壁によって直撃は防いだものの、激しく真横へと吹き飛ばされる。
「ベート!!」
ミリザの声が響く。
(燃え上れ!! 炎の竜巻っ!!!!)
息を止めたベートがマナを放出。エレガントの周囲にゴウゴウと燃え盛る炎の竜巻を発現させる。だがエレガントが大きな右足を上げ、その竜巻を踏みつぶして叫ぶ。
「この程度か!!」
白銀の竜巻が消され、ジリジリと白い燃えカスが宙を漂う。同時にエレガントの周囲から再び熱線がベートへと放たれる。
ドオオオオオン!!!
「ぎゃああ!!」
間一髪それをかわすものの、爆風で飛ばされるベート。更に着地する前にエレガントがベートに迫り、姿勢を立て直す間を与えず鋭い爪を振り下ろす。
ガン、ガンガンガン!!!
ベートも息を止め、拳にマナを纏わせ必死にそれに対抗。エレガントの連続攻撃。ベートは後退りさせられながら防戦一方となる。
(い、息が……)
激しい運動。衝撃。体は呼吸を求めているが、息を吸えば一瞬でマナが解け、目の前の鋭い爪の餌食となる。エレガントがこれまで以上に大きく腕振り上げ、ベートに襲い掛かる。
「くたばれ!! 人族っ!!!」
ドン!!!
「ぐわああああああ!!!!」
ベートが悲鳴を上げながら真横に吹き飛ばされる。マナでの防御。それももう限界に達しようとしていた。
「ベート!!!」
吹き飛ばされ、倒れたベートにミリザが叫ぶ。力の差は歴然。今のままでは負ける。ユウキやエレガントも青い顔をして戦況を見つめている。エレガントが言う。
「しぶとい人族ですね。獣化した私の攻撃をここまで受けても立ち上がるとは」
よろよろと立ち上がったベート。だがその目は死んでおらず、不敵な笑みすら浮かべている。ベートが言う。
「なあ、『序列弐位』もいるんだろ? このままで勝ちたかったけど、まあやっぱそうはいかねえか」
エレガントの眉がピクリと動き尋ねる。
「何の話をしているのですか? あなたは私に今ここで殺されるんですよ」
ベートがふうと大きく息を吐き答える。
「いや、勝つのは俺だ。その程度なら勝てる!!」
「な、なにを!!」
怒りのオーラを放出するエレガント。同時にベートが叫ぶ。
「モモコ、頼むっ!!!」
「はい!!」
ミリザの横でずっと待機していたモモコ・フォールラブ。小声で詠唱を終え、ずっとベートの呼びかけを待っていた。
(大丈夫、大丈夫です。モモコがいますから! 絶対に負けません!!)
モモコがありったけの大きな声で叫ぶ。
「かの者を助力せよ。流水装甲!!!!」
ベートの周りに集まる水のマナ。それが薄く、彼に纏いつくように吸収されていく。
(ああ、すごい。やっぱりベートさんはすごい……)
どんどん与えられる。際限なく注ぎ込まれる。モモコは持てるだけすべてのマナを放出し、ベートへと注いでいく。
「……ぉおおおおお」
モモコ得意の水の強化。マナ耐久力化け物のベートだからこそ、彼女の強く深いマナにも耐えることができる。
「軽い。体が軽いし、力が漲ってくる……」
全能力が上昇したベートが座り込んでしまったモモコに軽く手を上げ、エレガントに対峙する。
「き、貴様。一体何をした……」
エレガントもベートの強化に気付き、一瞬戸惑う。ベートが答える。
「お前を倒すだけ。行くぞ!!!」
ベートの反撃。一瞬でレイ・エレガントの懐へ飛び込んだ。




