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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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63.兄妹の意地

「森羅万象を源にせし闇のマナよ。闇球となりて敵を潰さん! ダークボール!!」


 広域マナ攻撃を終えたキャロットに代わって前に出たのが、ユウキとエリザベス兄妹。闇重力攻撃に烈業火隕石的群メテオ・ウェポンを食らっても、まだしぶとく突撃してくる魔獣族をバルッサの兄妹が迎え討つ。


 ドン、ドドドドドオオオン!!!


 詠唱と同時にエリザベスの周囲に発現した無数の闇球。負傷し、血を流しながら突撃する魔獣族へ向かって的確に撃ち込んでいく。



「はあああああああっ!!!」


 ドン、ドドドオン!!!!


 そしてエリザベスの兄ユウキも巨大なハンマーを振り回して暴れる。



「ガガアアアアア!!」

「ギャガァアア!!」


(すごい!! 本当に戦える!!)


 ユウキにとっては随分と久しぶりのハンマーのみの攻撃。半信半疑だったのだが、弱った相手であればこれだけできちんとダメージが与えられる。数的にも圧倒的に不利だったベート達。だがあっと言う間に形勢逆転に成功した。





「エレガント様、出撃キョカを」


 次々と倒れていく配下を見ながら、エレガントの隣で座する白虎が出撃の許可を求める。エレガントは苛立ちが頂点に達していた。


「何たる失態。何たる屈辱。私の、『序列壱位』の軍隊があのようなガキどもに負けるだと……」


 しかもまだオリジンである茶髪の少年は動いてすらいない。要はこの程度の相手、自分が出なくても問題ないという認識。エレガントが被っていた白のシルクハットに手をかけ、隣座する白虎に言う。



「殲滅せよ。白虎ビャッコ


「御意」


 立ち上がる白き虎。見上げるほど大きなその体に似合わず、素早い動きで一気にベート達へと駆けだす。すぐにそれに気付いたミリザが言う。



「ふたりとも気を付けて! 強い個体が来るわ!!」


 キャロットの攻撃を受けていない魔獣族。しかもエレガントの傍にずっといた言わば側近。あらかた雑兵の掃除を終えたエリザベスが、黒き杖を構え詠唱を始める。



「森羅万象を源にせし闇のマナよ。深淵の刃となりて敵を切り刻まん! ブラックウィンドウ!!」


 エリザベスの頭上に発現した大きな黒き刃。黒光りしながら突進してくる白虎に向かって放たれる。



 シュン!!! バリン!!!!


「なっ!?」


 だが白虎は慌てずそれを自慢の爪で半分に叩き斬り、そのまま突進。唖然とするエリザベスに向かって大きな牙を剝く。



 ガン!!!!


 エリザベスの前に現れた兄のユウキが、間一髪でその鋭き牙を巨大なハンマーで受け止める。


「お兄様!!」


「お前は下がって反撃を!!」


「はいですわ!!」


 ユウキはエリザベスが後方に下がるのを見てから、大きなハンマーをクルクルと回し白虎に向けて言う。


「行くぜ!!」



 ガン、ガンガンガンガガガガガン!!!


 大きなハンマーをまるで苦にせず左右から振り抜くユウキ。だが白虎はそれを余裕をもって爪で防いでいく。



(くそっ、全然手応えがない!!)


 ユウキのハンマー。マナの付与がない為、瀕死の相手には有効だが、無傷の強い個体には思うように戦えない。



深闇重圧ダークグラビティ!!」


 後方からエリザベスが重力マナ攻撃で援護を行う。黒きマナが白虎一帯の重力を強化。一瞬動きが止まった白虎だが、大きな咆哮と共にそれを打ち払いユウキに鋭い爪を振り下ろす。



 ザン!!!!


「ぎゃああ!!」


 初めての被弾。ユウキのハンマーを持つ腕に鮮血が滴り落ちる。


「お、お兄様!!!」


 慌てて駆け寄ろうとするエリザベスを手で静止してユウキが言う。



「来るな!! この程度、傷でも何でもない!!」


 前線は自分。ベートはまだ温存しなければならない。ユウキが再びハンマーを構え白虎に対峙する。



(強い。これまで戦ってきたどの魔獣族よりもずっと強い。このままではジリ貧。私が倒すべき相手はこの一体のみ。ならば……)


 ユウキが小さく息を吐き気を集中し始める。その意味にすぐに気づいたエリザベスが無言で反応する。



「森羅万象を源にせし闇のマナよ。重圧となりて敵を潰さん! 深闇重圧ダークグラビティ!!」


 壊れてもいい。エリザベスは持てる力の限りで重力魔法を発動。対峙する白虎の辺りに先ほどよりずっと強い重力の負荷を掛け始める。それを見ていたミリザがつぶやく。



「本気で決めに来たわね……」


 長引けは不利になるのは明白。ミリザが兄妹の意思をくみ取る。モモコが言う。


「わ、私が援護を……」


「まだ。あなたはまだ温存したいの」


 ミリザがモモコを手で制して言う。それほど『序列壱位』は大きな壁。総力戦ですらどこまでやれるか分からない。ユウキがハンマーを振り上げ白虎に突進する。


(こいつで決める!! だから後は頼むぜ、ベート!!!)


 着ていた外套を脱ぎ捨て大きく跳躍。白色に光るハンマーを振り上げ、重力攻撃を受ける白虎に狙いを定める。



「コノ程度の攻撃で、コノ我ヲ……、!!」


 エリザベスの放った重力攻撃。先ほどよりより強固なものであったが、本気を出した白虎には足止めにもならない。飛び上がったユウキを迎え撃とうと白虎が顔を上げた瞬間、空を埋め尽くす黒い槍を見て唖然とした。



「森羅万象を源にせし闇のマナよ。漆黒の槍となりて敵を貫かん! 暗黒槍戟ダーク・スピア!!!」


 エリザベスの高速詠唱。そしてマナの同時発動。もうマナ攻撃はないと思っていた白虎の見事な不意を突いた。



 ザン、ザザザザザン!!!!


 数多の漆黒の槍が一斉に白虎へと打ち込まれる。



「グガッ、ガガッ……」


 一本一本は大した威力はない。ただ数が多い。そしてそれは次の攻撃を放つユウキにとっては十分な時間稼ぎとなった。



(エリザベスが命懸けで作ってくれたこの機会、絶対にものにする!!!)



 マナの同時発動。エリザベス自身は先ほどのキャロットの攻撃を真似てみたものだが、その身体的負担は想像以上。兄へのバトンを渡した彼女は、マナ切れを起こしその場に倒れこむ。ユウキが叫ぶ。


「これでくたばれ!! 神裁の光戟シャイン・ゴットハンマー!!!!」


 白く光り輝く巨大なハンマー。不意打ちを受け、足踏みしていた白虎の脳天めがけて爆音とともに打ち下ろされる。



 ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 辺り一面を揺らす衝撃。空気を揺らす爆音。白いマナがキラキラと空に舞い美しさも併せ持つユウキの必殺の一撃。



「はあ、はあはあ……」


 地面に降り、片膝をついて息をするユウキ。マナ切れ。兄妹の力を合わせた最高の攻撃。もう動けないが、相打ち程度にはなったはず。そう思っていた。そう信じていた。だが砂埃が晴れた先に現れた、その白き虎の姿を見て兄妹は愕然とした。



「痛タイ。カナリ効いたぞ……」


 脳天から真っ赤な血を流しこちらを睨む白虎。確実に攻撃が入ったはず。確実に仕留めたはず。手応えは十分だった。だが無情な現実が彼らに突き付けられる。


「ば、馬鹿な……」


 全力の一撃。精一杯の攻撃。それを放っても目の前の白き悪魔には通じないのか。不安に震える兄に、後方の妹が叫ぶ。



「お兄様!! まだ行けますわ。もう一度!!!」


 エリザベスだってもう立てないほど消耗しているはず。ユウキは下を向き少し笑ってから言う。


「ああ、そうだ。兄の私が諦めてどうする。さあ、もう一度行くぞ……、!!」



「ガオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 白虎の怒りの咆哮。格下と思っていた人族に負わされた深き怪我。魔獣族としてのプライドが白き虎の怒りに火をつけた。


「細切れにシテブチ殺す!!!」


 恐るべき邪気を放ちながらユウキに突撃する白虎。これまでの戦いがまるで前座であったかのような迫力。ユウキがギュッとハンマーを握りしめ、防御態勢を取る。



(私が守る。私が守らなければ!!!)


 後方には非戦闘員のミリザや、マナ要因の妹、モモコらがいる。絶対にここは通さない。そう決意したユウキの目に、信じられない光景が映った。



 ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!


「え?」


 突如白虎の傍で起こる無色透明な爆音。爆進していた白虎は真横に大きく吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。

 ユウキは理解した。その遥か横で右手を差し出し、拳をぎゅっと握りしめるベートの姿を見て。



「サンキュ! あれだけ弱らせてくれれば楽勝だったぜ」


 ベートが少しこちらを見てそう告げる。ユウキが軽く手を上げそれに答える。


「ああ、ベート。後は頼むぞ」


 もう意識が飛びそう。そんなユウキに向かってベートが親指を立てて応える。




「白虎を倒しましたか。もう本当に手加減は要りませんね……」


 レイ・エレガントは怒りに震えながら、少し傾いていたシルクハットを被り直した。

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