62.広域殲滅攻撃
「お前達、やってしまいなさい」
魔獣軍幹部『序列壱位』レイ・エレガントの命を受けた配下、数百体の獣族が唸り声を上げて突撃を開始する。既にそのほぼ全てが獣化した状態。攻撃力マックスで遠方に陣取る少数の人族めがけて動き出す。
「ギャハハハ!! 子供だ、女だ。旨そうだ!!!」
「ああ、堪らねえ~、早くあの柔肌に齧り付きてえ~!!」
魔獣族のほかにも猛獣族、低能な野獣族なども含まれるレイ・エレガント隊。ただその本性はみな同じ『人族殲滅』。理性を破壊し、人族を蹂躙する魔獣王が与えた厳命。そこに何の躊躇もなかった。
「い、行くよ。ベー太」
「ああ、いつでもこい」
そんなエレガント隊を迎え撃つベート達一行。たった六名。子供も混じった一見ひ弱な集団。キャロットが前に立つ。そしてここからオリジンパーティにて『他力本懐』の二つ名で後世に知られる広域マナ使いの歴史が始まる。
「ふう……」
白のローブを着たキャロットが小さく息を吐く。
(お父さん、見てるかな? ボクは、キャロットは元気だよ)
キャロットが両手を天に挙げ目を閉じる。
(ちょっと前ならあんなの見たらきっと怖くて逃げてたよね。でも今は大丈夫。お父さんが見ててくれるし、それに……)
「森羅万象を源にせしベー太の闇のマナよ……」
「な、なあ。疑う訳じゃないけど、本当に大丈夫なのか……?」
百体以上の魔獣軍が迫る中、さすがのユウキも不安を隠せない。司令官ミリザが余裕の笑みを浮かべそれに答える。
「大丈夫よ。キャロットはやれる子なんだから」
そう答えるミリザの目にマナを吸われて脂汗を流すベートの姿が映る。キャロットが左手を一気に下ろし叫ぶ。
「重力となりて敵を潰さん! 深闇重圧!!」
(これはわたくしとと同じ、闇の重力攻撃……)
エリザベスが思わず前のめりになってその光景を見つめる。そして度肝を抜かれた。
「ウガッ、ガガァ……」
「こ、これはナンだ!?」
百体以上いた獣族の足が止まる。そして全身を襲う重く強い重力。力の弱い者は動けなくなり地面に張り付くように倒れる。
「すごい……」
広範囲マナ攻撃。ベートのマナを借用し放つキャロットの攻撃。話には聞いていたが、これほどの範囲を一気に包括するキャロットの才に驚いた。
「これは……」
獣族の後方で高みの見物をしていたレイ・エレガントが思わず声を上げる。これほどの使い手がいたのかと思うほど見事な攻撃。だが腕組みをしたままの彼にはまだ余裕があった。
「何をしている!! 動ける者は突撃せよ!!!」
見事な闇の重力広域攻撃。だが甘い。この程度で『序列壱位』レイ・エレガント率いる配下を全て倒せるはずはない。そう思っていた。そのはずだった。
「ベー太、……行くよ」
「ああ、どんと来い」
ベートは分かっていた。キャロットの本気にしては吸収量が少ない。前回と違い立ちくらみ程度。そして空を見上げその理由を察した。エリザベスがそれに気付いて声を上げる。
「な、何かしら!? あれ!!」
皆が空を見上げる。そこには無数の赤黒く燃え盛る巨大な球体。炎を放ち浮遊している。それはまるで召喚者の号令を待っているかのよう。
さすがにその異常な業火の球体に気付いたエレガントが皆に叫ぶ。
「空を!! 空からの攻撃に気をつけろ!!!」
「ギャッ!?」
だが時すでに遅し。右手一本を天に上げていたキャロットが叫ぶ。
「数多の隕石よ、前に巣くう敵を殲滅せよ!! 烈業火隕石的群!!!」
ゴオオオオオオ……
召喚者の命を受け取った燃え滾る隕石が一気に急降下。地表で蠢いていた獣族達めがけて落とされる。
ドン、ドドドドオオオオオオオン!!!!
重力の闇マナ攻撃で動きを封じられていたエレガント隊。強い個体はそれでも強引に前進していたが、雨嵐のように降り注ぐ業火の隕石を受け次々と力尽き倒れていく。エリザベスが口を開けて呆然という。
「す、すごい。すごすぎる……、キャロットさん、こんなに強かったの……」
地面に両膝をつき、肩で息をするキャロットが答える。
「ボ、ボクは大したことないよ。すごいのは、ベー太。ベー太だよ……」
そう言って同じく脂汗を流しながら大きく肩で息をするベートの背中を見つめる。他者のマナを借用し放つ広域マナ攻撃。半信半疑だったエリザベスだが、その威力をまざまざと見せつけられることとなった。ミリザがベートの隣に来て尋ねる。
「大丈夫?」
「ああ、問題ない」
前回は倒れるように崩れたベート。だけど今はまだ意識もしっかりしている。全壊に近いダメージを受けたエレガント隊を見るに、吸われたマナの量は半端ではないはず。だけど耐えている。ベート自身も確実に強くなっている。ミリザがキャロットに言う。
「キャロット、お疲れ様! 後ろで休んでて!」
「あ、ああ。ごめんね……」
入れ替わるように前に出たユウキとエリザベスに言う。
「ここからは二人の出番。キャロットがほとんど退治してくれたけど、まだ数十体残っている。さすが『序列壱位』の本体ね」
「ああ、だけど皆大きなダメージを負っている。あいつらにとどめを刺せばいいのだね?」
「そう。お願い。無理はしないで」
「分かった」
「了解ですわ!!」
ユウキが肩に担いでいた大きなハンマーを構える。エリザベスも黒き杖を前に掲げ敵の突進に備える。決戦緒戦、ミリザの見事な指揮で優勢に戦いを進めるベート達。対するエレガントはやや焦りを見せていた。
「信じられぬ。あのような広域攻撃を同時に繰り出すとは……」
単発でも相当な負荷がかかる広域攻撃。それを連続、しかもほぼ同時に繰り出すなんて人族の力量では考えられぬ行動。百体以上いた配下が壊滅状態にまで追い詰められた。残った強い個体が意地で突撃を続けるが、恐らくあの深手では返り討ちに遭うのは時間の問題である。
不服そうな顔をするエレガントに隣で伏せていた白虎が言う。
「エレガント様、ご心配イリマセヌ。我ガ、オリマス」
エレガントがやや傾いていた白のシルクハットを被り直しそれに答える。
「分かっている。どんな敵が現れようが、私とお前がいれば負けることなどありえない」
そう言って巨大な白虎の可憐な体毛を優しく撫でる。
「御意。エレガント様」
幹部に匹敵する力を持ちながら、エレガントに忠誠を誓い『序列』を拝命しなかった白虎。主の仇、じっとこちらを睨みつける茶髪の少年をその白き眼に映していた。




