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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第四章「さよなら、ベート」

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61.前哨戦

 制圧された帝都バルッサ。その中央、帝都城の最上階にある皇帝の間で寛ぐ『序列壱位』レイ・エレガント。魔獣国の中でも選りすぐりの猛者を集結させ、ここバルッサを人族攻略の足掛かりとしようとしている。そんな彼に猛獣族の伝令が慌ただしくやって来た。



「エ、エレガント様!! ご報告です!!」


「なんだ?」


 皇帝バルッサが使っていた玉座。その装飾素晴らしき椅子の上に、今はウェーブの掛かった金髪の似合うエレガントが座る。伝令が言う。


「はっ、魔獣王様の生命反応が低下。危篤状態に陥っております!!」


「……」


 エレガントは足を組みながらその報を受ける。父である魔獣王。先の戦いで【根源たるマナ(オリジン)】シンデレラ・ヴォルトより受けたダメージは思った以上に深刻だったようだ。


「危篤……、さすがはオリジンって言ったところだね」


 エレガントはそうつぶやきながら、皇帝の間の端で腕組みしながら佇立するその白髭の老人を見つめる。無言の老人。足を組み替えたエレガントに伝令が別の報告を行う。



「もうひとつございます! レアリス地区担当のガリウス・ガガが敗北したとのことです!!」


「ガリウス? ああ、あのバカか」


 あまり興味のなさそうなエレガント。今魔獣国の軍の一部を割いて、このバルッサ帝国全土を襲撃させている。ガリウスとトリ・フェラデルもその一端。ほとんど知らない配下。負けることもあろうかと思った。ただ次の言葉を聞いてエレガントの表情が一変する。


「偵察の話ではガリウスを倒したのは茶髪の少年。まるで相手にならないほど強く、目に見えない不思議なマナを使ったとのことです!!」


「なんだと……?」


 その瞬間、皇帝の間に居た者達の背中に悪寒が走る。エレガントが発した怒りのオーラ。これまで余裕の表情だった彼がその報を聞いて急変した。エレガントが言う。



「攻略担当を持つってことは、それなりの強さなんだろ? それを圧倒。そして見えないマナに、茶髪の少年……」


 徐々にエレガントの金色の髪が逆立っていく。右手で醜く縫製された顔半分を押さえながら言う。


「そうか、あいつか……、この私をこんな姿に変えた憎き存在。くくくっ、いいだろう。父上も心配だが、この私自ら消してやる……」


 エレガントはゆっくり立ち上がると怒りに体を震わせながら皇帝の間を退出した。






「それにしてもベート。オリジンって本当にすごいんだな」


 帝都バルッサに向かう馬車の中、向かいに座ったユウキが改めて言う。ガタゴトと揺れる馬車。ウトウトと睡魔と戦うモモコを苦笑して見ていたベートが答える。


「そうだな。俺自身もびっくりしている」


 それが正直なところ。少し前まで『無能者』と蔑まれていたのが噓のようだ。ユウキが言う。


「私のマナは、光か。そうか」


 ミリザに教えて貰った自分のマナ。ユウキが腕を組みながら言う。



「幼い頃から必死に訓練してきた。どんな奴でも一撃で倒せるぐらい強くなりたいってね」


「なので、あの攻撃が生まれたのね」


 そう口にするミリザ。皆の頭にユウキの必殺一撃である『神裁の光戟シャイン・ゴットハンマー』が浮かぶ。ユウキが恥ずかしそうに言う。



「まあ、確かに威力はあるんだがその後がね……」


 全マナを放出して放つ攻撃。それで討ち取れなかった場合は逆に窮地に追い込まれる。妹のエリザベスが言う。


「これまではわたくし達は運が良かったということですね」


「そうなるな」


 つまりこれまで雑魚はエリザベスが、ボスはユウキが倒して来た。ユウキが言う。



「さすがに自分の力量を痛感したよ。先日のような『序列』持ち幹部相手には通用しないってね」


 思わずミリザとベートが顔を見合わせる。寝息を立てるモモコ。代わりに今日はキャロットが言った。



「え、あいつらって幹部じゃないでしょ?」


「あ、おい! キャロット」


 制止にかかるベートより先にエリザベスが尋ねる。


「それはどういうことでしょう?」


「どういうことって、魔獣軍の序列ってのは昔から伍位までだよ。陸位とか七位なんてのはないんだ。あいつら勝手に名乗ってただけだよ」


「え!? マジかよ……」


 ユウキが顔を引きつらせながら言う。エリザベスが頷いて言う。



「確かに序列は伍位までとは昔聞いたことがありますわ。てっきり増えたのものだと思ってました……」


「っていうことはなんだ? 私達は序列もないただの小隊長クラスの奴に負けたってことか……?」


 ユウキの口調が自嘲気味になる。エリザベスが答える。


「そういうことですわ。お兄様」


「はあ……」


 ユウキが顔を押さえながらため息をつく。すかさずベートが言う。



「ま、まあ、でもあいつらそこらの魔獣軍よりは強かったぜ」


 ユウキが顔を押さえた指の間からベートを見て言う。


「一歩も動かずに圧倒したお前に言われてもな……」


 苦笑する一同。ベートがそんな仲間を見て言う。


「俺だけの力じゃないよ。一緒にいる仲間がいてここまで来られた。マジで俺は幸せ者だ」


 司令塔のミリザ。回復、強化バフのモモコ。広範囲攻撃のキャロット。自分一人では幹部誰一人として勝てなかった。隣に座るミリザがベートの肩に頭を乗せて言う。



「ベートぉ~、ちゃんと私も幸せにしてね~」


 それを聞いたキャロットが立ち上がって言う。


「あー、ミリザ、また抜け駆けする!! ベー太はボクと将来を誓った仲なんだぞ!!」


 白のローブを着たキャロット。朱色のボブカットの中に見える頬を赤くして言う。ユウキが苦笑して言う。


「ベートはモテモテだな。私も各地で魔獣族を倒した時は女の子に……」



「ベート」


「ああ」


 突如、顔つきが険しくなるベートとミリザ。キャロットもすぐにそれを察知し、寝息を立てているモモコを起こす。ミリザが御者に言う。


「馬車を止めてください!」


 意味が分からないユウキ。エリザベスが小声で言う。



「何かがこちらに迫って来ていますわ……」


 帝都まで残り半日足らずの距離。止められた馬車。一体何が来るというのか。皆と一緒に馬車を降りたユウキ。張り詰めた空気の中、皆が感じたそれはすぐに姿を現した。



「あれは……」


 獣達の群れ。その中央に白く大きな虎の上に足を組んで座る白のスーツの男。間違いない。忘れることなどできない相手。ベートが言う。



「『序列壱位』レイ・エレガント……」


 皆に緊張が走る。ユウキが唖然として言う。


「じょ、序列壱位だって……、どうしてここに……」


 帝都にいるはずの上級幹部。時間はまだあった。これから攻略作戦を立てようと思っていた矢先の遭遇。

 ベートらに気付いたエレガントが皆に停止を命じる。そして巨大な白虎から飛び降り、被っていた白のシルクハットを取り頭を下げて言う。



「これはこれはオリジンの、ええっと名前は失念してしまいましたが、お久しぶりです」


 ベート達はその姿を見て驚いた。以前のような気品ある顔立ちは消え、半分は縫製、まるでフランケンシュタインのような醜いものとなっていた。黙り込むベートに対してエレガントが言う。



「この数か月、私は反省しましたよ。子供の人族にムキになり、いたぶらずさっさと殺してしまえば良かったものだと。その結果がこれです」


 そう言って自分の醜い顔に手を添えるエレガント。魔獣族の技術でも完全な復元は不可。ベートがエレガントを囲むようにして対峙する百体近くの魔獣族に目を配らせる。ミリザが小声で言う。



「キャロット、先制攻撃いい?」


「うん……」


 頷くキャロット。そしてミリザがユウキらに言う。


「キャロットで数を減らすわ。でも叩ききれなかった奴らを二人にお願いしたいの。ユウキ、あなたは普通にハンマーで攻撃して」


 それはマナを使わないという意味。ユウキが尋ね返す。


「私がマナなしで!?」


「ええ、あなたはあんな攻撃使わなくても十分強いわ。大丈夫。自信をもって」


「わ、分かった。ミリザを信じるよ」


「わたくしも承知致しましたわ!!」


 黒の杖を強く握りしめ、そう答えるエリザベス。モモコに言う。


「モモコ、あなたは怪我の回復。必要に応じて強化バフをお願い。決して前には出ないように」


「わ、分かりました!!」


 緊張気味のモモコ。最後にミリザがベートに言う。


「それから、ベート……」



「分かってる。あいつは俺が倒す」


 その目線の先には再び白のシルクハットを被り直した『序列壱位』レイ・エレガント。それぞれの役割は把握した。ミリザが言う。



「さあ、みんなの目的は少し違うかもしれないけど、やらなきゃいけないことは同じ」


 ミリザがレイ・エレガントを睨みつけて言う。



「勝つわよ、『序列壱位』に!!!」


「「おう!!」」


 皆がそれに気合の入った声で答える。対するレイ・エレガント。少し砂埃のついた白のスーツを手で払い、ベートを見つめながら配下に言う。



「おや? もうやる気満々ですね。いいでしょう。お前達、やってしまいなさい」


「ウゴオオオオオオオオオ!!!!!!!」


 魔獣王に至るまでの行程に於いて最大にして最強の壁『序列壱位』レイ・エレガント。その戦いがついに始まった。

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