59.新生オリジン
倒れた『自称序列七位』のガリウス・ガガ。その前には右手を突き出し、微動だにしない茶髪の少年。敗色ムード漂っていた街の人達は驚き、大きな声を上げて喜んだ。
ユウキ同様、モモコに治療をして貰ったエリザベスが口をぽかんと開けて言う。
「綺麗……」
ベートから感じる不思議なマナ。無色透明。いや、見方によっては白銀にも映るそのマナは、彼女にとって初めて目にするものであった。
だが一番驚いていたのはガリウスの兄貴分である『序列陸位』のトリ・フェラデル。弟分ガリウスは、魔獣軍幹部を名乗るほどの強さを誇りながらほぼ瞬殺された。ベートがトリ・フェラデルに歩み寄り尋ねる。
「なあ、魔獣軍の幹部って『序列伍位』までしかないはずだろ? お前ら本当に幹部なのか?」
皆の注目がトリ・フェラデルに集まる。細い体を震わせながら答える。
「そ、そうである。そうに決まっている。私達は魔獣軍の中でも最強の個体。故に序列を頂いている……」
「それにしてはあいつ、弱かったぞ」
そう言って後ろで気を失っているガリウスを指さすベート。トリ・フェラデルが眉間にしわを寄せて言い返す。
「わ、私はもっと強い!! 何せ『序列陸位』だ!! それにお前は知らないだろうが、もっと上の序列、『伍位』とか『四位』とか、『参位』とかの方々は腰を抜かすほど強いんだ。お前みたいなガキ、一捻りだ!! どうだ、ビビったか!!」
話を聞きながら顔を引きつらせて苦笑するベート。トリ・フェラデルが脂汗を流しながら言う。
「こ、降参しろ!! それにな、今ここに『序列伍位』のエレファント・ゾウ様が向かっているんだ!! どうだ、驚いたか!? 怖いだろ? 魔獣軍の幹部達を相手にお前みたいなガキが勝てるはずない! さあ、跪いて降伏しろっ!!!」
勢いと声色だけは強いトリ・フェラデル。さすがにベートも苛立ちを隠せずに言う。
「いいわもう!! やるのかやらないのか!! やらないならこのバカ……、いや、カバ連れてとっとと消えろ!!」
「き、貴様……」
トリ・フェラデルから怒りのオーラが放出される。体を震わせながらベートに言う。
「後悔させてやる。絶対に後悔させてやる!!」
そしてトリ・フェラデルの体が白く光り、体が変化。手からは鋭い爪が伸び、背には茶色の翼。口はまるで鳥のような嘴が伸び、何度も大きく翼をはばたかせる。
「獣化か」
それを冷静に見つめるベート。トリ・フェラデルが言う。
「驚いたか! 私はグリフォンの魔獣族。最強種の一角だぞ!! 序列を拝命した私の強さ。分かるか!? 降参するなら今のうちだぞ!!」
ベートがふうと息を吐きそれに答える。
「来いよ」
「貴様っ、この私を何度も侮蔑したその罪。体で思い知れ!!!!」
そう言うとトリ・フェラデルは大空へと舞い上がる。これまであまり対戦のなかった飛行型。だがベートは冷静だった。
(マナを創造する……)
息を止め、周囲の地面に竜巻のようなマナをイメージ。そしてギャーギャー騒ぎながらこちらに飛行してくるトリ・フェラデルに向かって、内心叫ぶ。
(舞え、疾風っ!!!)
ゴオオオオオオ……
「なっ!?」
突如トリ・フェラデルを囲むようにして出現した五本の竜巻。一瞬で強く、太くなり空中でトリ・フェラデルを囲むように逃げ道を塞ぐ。
「こ、これは一体!?」
慌てたトリ・フェラデル。経験したことのないような竜巻が壁のように周囲を囲み自分に迫ってくる。宙に浮かびながら逃げ道を失ったトリ・フェラデルが叫ぶ。
「な、何だこれは!? やめてくれ!!! ぎゃああアアア!!!」
五つの竜巻がひとつに合わさる。同時にそれに飲み込まれたトリ・フェラデルが大空高く舞い上げられ、落下。ドンと大きな音を立てて地表へと叩きつけられた。
「がっ、ぁがっ、ああ……」
無残に地面に倒れるトリ・フェラデ。自慢の翼は痛々しいほどにへし折られ、もう飛行は不可能。ベートが近づき言う。
「死なない程度に手加減してやった。あのカバを連れて早く消えろ」
(こんな屈辱、こんな屈辱初めてだ……)
背中を向けて仲間の元へと歩き始めたベートを見て、トリ・フェラデルの体が怒りに震える。『序列陸位』を自負し、人族と戦ってきた矜持。それが攻撃すらできずにこの有り様。
(だがまだ戦える!! 手加減だと、ふざけるな!! これがお前の精一杯だろ!!)
トリ・フェラデルはまた体に十分余力が残っていることに気付き、折れた翼にマナを込める。反撃。隙を見せた今が最大の好機。
だがベートが立ち止まり、上半身を起こしたトリ・フェラデルに背を向けたまま言う。
「おい、トリ野郎。人の好意は素直に受け取るもんだぜ」
「だ、黙れ!! 貴様など……」
(……爆ぜろ)
ドオオオオオオオオオオン!!!!!
街の人達、そしてユウキ達兄妹は驚いた。突然トリ・フェラデルに起こった爆発。何が起こったのか分からない。だが白目をむいて倒れるトリ・フェラデルを見て皆から拍手と歓声が上がった。ベートが少しだけ振り向いて言う。
「あとな、お前が言っていた幹部、ほとんど俺が倒した。それから俺は……」
再び背を向け歩き出したベートが小さく言う。
「新生オリジン、シンデレラ・ベート。忘れんなよ」
街の人達、そしてミリザらが拍手と笑顔で迎える中、ベートはやや恥ずかしそうにそれに応えながら歩きだした。




