58.ユウキ・ファンタスティック
バルッサ帝国、レアリスの街。そこで始まった『自称魔獣軍幹部』対『自称オリジン』の戦い。
見事な闇マナ攻撃で『序列七位』のガリウスとの戦いに挑んだエリザベスだったが、獣化した敵の前に一撃で粉砕させられた。超攻撃型のエリザベス。反撃には脆かった。
そして兄である『自称オリジン』のユウキ・ファンタスティックが、肩に担いだ巨大なハンマーを突き付け叫ぶ。
「この私のハンマーで貴様を一潰しにしてやる!!!」
発せられる白きマナ。だがベートもミリザも、そしてモモコ達も気付いた。
(あれは、光のマナ……)
無色。時に白銀に光るオリジンのマナ。それとは異なる純白の光のマナ。両者は似ていて異なるもの。ユウキも、そして彼と接してきた皆がそれを『オリジン』だと思い込んでいた。ミリザが言う。
「ベート、あれって……」
「とりあえず見てみよう。あいつのマナがすごい勢いで集まってきている」
「ええ……」
皆が感じていた。ユウキの周囲に集まる光のマナ。それも膨大な量。ただ何をするのか知らないが、あれを一度に放ったら色々と不都合が起こるだろう。
鼻息荒く、全身から湯気を出し興奮するガリウスが叫ぶ。
「俺は、俺はバカじゃねえーーーーーーっ!!!」
交代で現れた外套を着たハンマーの男。ガリウスは再び四つん這いになり、勢いよく突撃する。
カバの魔獣族ガリウス・ガガ。彼の攻撃の特徴は猪突猛進。馬鹿にされることが嫌いで、キレやすい性格。ただ暴れだした彼を止めるのは困難を極める。
ドオオオオオオオン!!!!!
妹エリザベスよりは冷静に状況を見ていたユウキ。突撃するガリウスをかわし、上空へ大きく跳躍しながら脳内詠唱。同時に着ていた外套を投げ捨て、金色の髪を風に靡かせながらハンマーを振り上げ、そして叫ぶ。
「これでくたばれ!! 神裁の光戟!!!!」
ユウキの周囲に集まっていた光のマナが一気に持っていたハンマーに流れ込む。マナを受け純白に光り始めるハンマー。地面に突撃し動けなくなっていたガリウスへと一気に振り下ろす。
ドオオオオオオオオオオオン!!!!
砂埃。白きマナがキラキラと光りながら空へと舞っていく。その光景は美しく、見た者の心奪う。これがユウキ・ファンタスティックが『オリジン』だと誤解されてしまう所以であった。
「はあ、はあはあ……」
光のハンマー攻撃を受け動かなくなるガリウス。その隣で肩で息をして蹲るユウキ。ベートが言う。
「あいつ、大丈夫か? マナ量、皆無だぞ……」
ユウキの光マナ攻撃。他者より豊富なマナ量を誇る彼だが、その攻撃手段はたったひとつしかなかった。
(まだ、大丈夫。私は、まだ戦える……)
全マナを放出させて行う神裁の光戟。破壊的な攻撃力と引き換えに、使った後使用者は脱力感で動けなくなってしまう。
ユウキ達兄妹の戦術。雑魚をエリザベスの攻撃で一掃し、ボスを重力攻撃で動けなくする。そこへユウキの必殺の一撃をお見舞いするのだが、今回は勝手が違った。言わば『ボス級が二体』、しかもエリザベスが負傷するというイレギュラー付き。ミリザが言う。
「ベート、あの人もうダメだよ……」
マナを失い真っ青な顔のユウキを見てミリザが心配する。カバの魔獣族を倒して喜んでいた街の人達も、いつまでも立ち上がらないユウキを見て不安の声が上がり始める。ベートが言う。
「いや、それよりあのカバ野郎。まだ終わっちゃいねえ……」
直後。ベートの不安が的中する。
「ウガアアアアアアアア!! 俺は、バカじゃねえ!!!!!!!」
「なっ!?」
これまで動かなかったガリウスが突如、立ち上がり大声を上げる。驚いたユウキ。だが全身の脱力感から動くことができず、開いた大きな口の餌食となる。
「ぎゃあああああああ!!!!」
力だけが自慢のガリウス。大人とは言え、小さな人族など丸飲みすら可能だ。後方で余裕の笑みを浮かべながら弟分の戦いを見つめるトリ・フェラデル。ユウキの妹エリザベスが悲痛な声を上げ涙を流す。
「お兄様、お兄様っ!!!!」
自分が倒れた時にこうなる予感はあった。だがいつも最後に頼りになる兄。自身の負傷と、その甘い感情に身を委ねてしまった。
「あっ、がぁああっ……」
巨大な口に咥えられたユウキ。想像を絶する力で全身を締め付けてくる。そんな中、意識朦朧とする彼が思う。
(に、逃げろ、エリザベス。幹部は、甘くなかった……)
初の幹部との対決。オリジンを発現し、これまで負け知らずだった兄妹。今日も勝てると思っていた。ふたり一緒なら負けることなどないと思っていた。
――すまない……
意識を失う直前。敗北を認めた彼の目に、右手をこちらに向け真剣な表情の少年が映る。
ドオオオオオン!!!
何が起こったのか知らない。
だが不意に起きた爆発の後、気付けば水色の三つ編みの少女によって治療されていた。そして皆が唖然とする中、その少年がカバの巨漢に向かって言う。
「消えろ。次は手加減しねえぞ」
手加減。意味が分からなかった。あの恐るべき魔獣軍の幹部相手に『手加減』とは。
ガリウスが巨体から湯気を出し激怒するのが見える。自然と自分の体が先ほどの恐怖を思い出し震えだす。そんな彼の胸に優しく手を置いたモモコが言った。
「大丈夫です。ベート様は強いんですから」
一瞬理解できなかった。だがその直後、怒り狂ってベートに突撃したガリウスは、先ほどよりも数倍も大きな白銀の爆発に巻き込まれその場に倒れた。ガリウス撃退。一瞬の出来事であった。
腕を前に突き出したまま微動だにしないベート。ふうっと大きく息を吐くとこちらに向かって尋ねる。
「おい、そいつ大丈夫か??」
自分を治療していたモモコが笑顔になって手を振り答える。
「はい! もう大丈夫です。ベート様っ!!」
強い信頼関係。あの少年が絶対に倒してくれる。だからこのような無防備な状態でも他者の治療ができる。ユウキがモモコに尋ねる。
「なあ、教えてくれ。あいつは、一体何者なんだ……?」
モモコがやや一瞬驚いた顔をして、それから笑みになって答える。
「え~、さっき教えたじゃないですか~。ベート様はシルバーナイツの要で、そして……」
モモコの視線がベートに向けられる。
「世界で一番強い、オリジンさんなんですよ」
今ならその言葉が信じられる。すっと言葉が体に入ってくる。ユウキは初めて接した『本物』に心地良い安心感を覚えた。




