56.バルッサのオリジン
「ベート、本当に強くなったね!!」
真っ赤なワニの獣族を圧倒したベート。ほとんど動かずにマナのみで撃破。数か月前までマナも使えず『無能者』と呼ばれていた頃からは想像もつかない姿だ。ベートが答える。
「ああ、ありがとう。ミリザのお陰でもあるし、それにみんなが居てくれれば俺はもっとやれる。改めてお礼を言うよ。一緒に来てくれてありがとう」
キュンキュン!!!
モモコが顔を真っ赤にして答える。
「そ、そんな!! 私はベート様のお陰で初めて自分が居てもいいと思えたんです。お礼を言いたいのは私の方で……」
「ボクもだよ!! ベー太のお陰でお父さんにもまた会えたし、将来も安泰だよ!!」
だったらいい加減名前を覚えろよ、と内心突っ込むベート。むっとした表情を浮かべるミリザと共に、一行は橋を渡りバルッサ帝国を行く。
「な、なんか寂しいところですね……」
初めての帝国内。自然の要塞であるこの国の情報はあまり外部には漏れず、実際内情を知る者は少ない。荒れ果てた荒野が続く道中。変わらぬ景色にモモコがやや不安そうな表情を浮かべる。ミリザが言う。
「ねえ、ベート……」
「ああ」
敢えて言葉にしないがバルッサ帝国に入ってからビシビシと感じる獣族の気配。姿こそ見せないがかなりの数が生息しているようだ。キャロットが前方を指さして言う。
「あ、街があるよ!!」
荒野の真ん中。周りを壁に囲まれたその街の前に数名の人が集まってこちらを見ている。ミリザが言う。
「なんかみんなこっちを見て、警戒されてる……??」
特に前に立つ二人の人族。金色の髪に外套を羽織った男性。大きなハンマーを肩に担いでいる。もうひとりは長い黒髪の女性。黒の杖に同じく黒色の魔女帽をかぶっている。
ゆっくりと近付くベート達。金髪男が指をさして叫ぶ。
「来たな、魔獣族!!! このレアリスの街には一歩も踏み入れさせぬぞ!!!」
「は?」
口を開け唖然とするベート達。ベートが前に出て言う。
「おい! 何か勘違いしてねえか!? 俺達は魔獣族じゃねえぞ!!」
一名該当者はいるが、多分何か勘違いされているようだ。金髪外套の男がやや困惑した顔で言う。
「嘘をつけ!! お前達は魔獣国幹部『序列陸位』と『序列七位』なんだだろ!! この街を襲撃するという情報は掴んでいる。さあ、これでもしらを切るか!!」
「じょ、序列陸位? 七位??」
ミリザが口を開けてぽかんとする。魔獣国の幹部は全部で五人。序列は伍位まで。それ以下など聞いたことがない。ベートが前に出て言う。
「とにかく俺達は魔獣国の者じゃない。少し前にフォレスト王国からこの国にやって来たんだ」
「フォレスト王国からだと? 一体何の為に、今この国にやって来たんだ!!」
金髪外套の男が尋ねる。ベートが答える。
「この国の要に会いに来た。俺はベート。シルバーナイツの……」
ベートの言葉に皆が注目する。
「要だ!!」
「!!」
ざわざわしていた皆が一瞬で静かになる。要。それは国を代表する安寧の大黒柱。他国であるがその要が目の前に居るということ自体異例のことだ。金髪外套の男の隣にいた魔女の女が言う。
「お兄様、彼はどう見ても獣族ではありません。そもそも魔獣族は男性二人との情報があります。お供の者はどう見ても女性。幼女と言うべきか……」
金髪外套の男がベートの後ろに立つミリザ達を見て小さく頷く。肩に担いでいたハンマーを地面に下ろし、ベートに近付いて言う。
「君が要かどうかはさておき、どうやら私達の勘違いだったようだ。悪かったな、謝るよ」
手を差し出す金髪外套の男。ベートもそれに手を出し尋ねる。
「何があったんだ? 魔獣国『序列陸位』とか、『七位』とか?」
「ああ、それは後で答えるよ。先に自己紹介させてくれ。これは私の妹でエリザベス・ファンタスティック。闇のマナ使いだ。そして私は……」
そう言うと金髪外套の男は再びハンマーを肩に担ぎ、ポーズを決めてから言う。
「ユウキ・ファンタスティック。世界に安寧をもたらすという英雄ことオリジンだ」
ベートをはじめそこに居た皆がその言葉に唖然とした。
「いやー、すまなかったね。ベート。今この国全体がピリピリしていてね」
誤解が解けたベート達。レアリスの街に入り皆の視線が集まる中、ユウキ達を会話をする。ミリザが尋ねる。
「一体どういうことかしら? 状況を教えてくれます?」
ユウキが頷いて答える。
「ああ、まず今このバルッサ帝国は非常事態下にある」
「非常事態下?」
「ああ。要であるグロリアス様が魔獣族の奇襲によって命を落とされた」
「なっ!?」
要の死亡。いきなりこの国での目標を失ったベート達。ユウキが続ける。
「そして帝国城、並びに帝都バルッサは魔獣族に制圧され、同時にこの国で多くの魔獣族が暴れだした。要を失ったバルッサ帝国は空中分解しかけた。だが……」
ユウキはドンと胸を叩き声高々に言う。
「これまで野に伏せていたオリジンであるこのユウキ・ファンタスティックが、国を救う為に立ち上がったのだ!!」
「おおーーーっ!!」
「ユウキーーっ!!!」
周りの民から拍手と歓声が上がる。ユウキはそれに手を振って応え、そして言う。
「このレアリスの街にまもなく魔獣国『序列陸位』と『序列七位』の幹部が襲撃に現れる。数多の魔獣族を倒した私とエリザベス。幹部襲来の知らせを聞いてここに来たわけだ」
「……」
色々と突っ込みがある話だが、今はあまりこちらの情報を出さない方がいいとミリザが思う。だがモモコが口を滑らす。
「あれ? でも~、ベート様がオリジンじゃないんですか~~??」
「え?」
「あ」
モモコに集まった視線。それがすぐにベートへと移る。ユウキが眉間にしわを寄せて言う。
「ベート。君は要じゃなかったのか? それですら君のような子供がと考えると正直眉唾物なのだが。まさかこの見知らぬ土地でオリジンを名乗るつもりだったのかい?」
「あ、いや……」
正直もうあまり関わらない方がいいと思えてきた。二人ともマナは感じるが、魔獣国の幹部に敵うほどではないし、そもそもオリジン独特の無のマナではない。黒髪の妹エリザベスが言う。
「お兄様、あまり失礼なことを言うものじゃありませんわ。こちらのベートさん、何か不思議なマナを感じますの」
「なに? 不思議なマナ?」
ユウキが金色の美しい髪をかき上げ尋ねる。エリザベスがじっとベートの顔に自分の顔を近づけ言う。
「不思議なマナ。感じたことのないマナ。何でしょう、これは」
「お、おい! ちょっと近いぞ!!」
ベートが慌てて離れるように後退する。すかさずミリザとキャロットがふたりの間に入って言う。
「ちょっと、あなた! 勝手にベートに近付かないでよ!」
「ボクのベー太に何するつもりなの!!」
エリザベスが黒髪を手で優雅にかき上げながら答える。
「別に何でもございませんわ。ただ変わったマナだと思いましてね」
「ふん!」
腕を組み、顔を背けるミリザ。険悪な雰囲気になりかけあたふたするモモコ。そこへ街の人が慌てて駆けて来て言った。
「た、大変だ!! 来た来た!! 魔獣族『序列陸位』と『七位』が!!」
街の外に現れた魔獣国の幹部。その報を聞いてすぐにユウキがハンマーを手にして妹のエリザベスに言う。
「行くぞ!」
「はい、お兄様!!」
街の門へと向かう二人。ベートに言う。
「ベート。お前らは手を出すなよ! 魔獣国の陸位程度、我ら兄妹で十分だ!!」
「……」
黙って小さく頷くベート。ミリザが小声で言う。
「じゃあ、お手並み拝見って行こうか。ベート」
「ああ、そうだな」
バルッサ帝国の自称オリジン。その戦いを見る為にベート達も街の門へと向かった。




