53.再会と別れ
「すべてを貫け!! 雷神の裁き!!!!」
この日二度目の広域マナ攻撃。キャロットの渾身の雷撃が、赤蟻のように群がっていた国王軍の元へ次々と落とされる。
ドン、ドドドドドオオオオオオン!!!!
まさに地獄絵図であった。容赦なしに天から振り下ろされる雷神の怒りの裁きの前に、悲鳴を上げながらバタバタと兵士が倒れていく。金属製で、しかも雨に濡れた鎧がその被害をさらに拡大させた。
「ぁあ、があぁあ……」
「た、助けて、くれ……」
まさに阿鼻叫喚。悲鳴を上げ倒れる者、痺れながら動かなくなる者。たった一撃のマナ攻撃で、国家兵団を壊滅状態まで追い込んでいく。
「な、なーにがぁ、どーなってるんだぁあああ!!!!」
自身も落雷を受け、体の動きが効かない司令官レザ。ケタ外れの広域攻撃、全軍が壊滅状態に陥るのを目の当たりにして腰が抜けるように座り込む。鎧を着ていなかった側近に向かって言う。
「た、退却。もう無理だ、退却を……」
側近達がレザの体を起こし撤退の準備を始める。同時にそのけたたましい叫び声が響いた。
「逃がさぬぞ!! 貴様だけは絶対っ!!!!」
それは体が崩壊しながら細身の剣を持って突撃してくるアイマスクの紳士。今はそのアイマスクも外れ、鬼の形相でフォレストの要レザ・スリーデルに向かってくる。
「ひ、ひゃ!!」
グサッ……
マーベルトの剣がレザの胸に突き刺さる。
「ぐはっ……」
激しい吐血。同時に周りにいた側近達が慌てて剣で応戦。次々とその刃をマーベルトの体へと突き刺していく。
「急げ、急げ急げ!! 至急手当を!!!」
レザは側近達に助けられ水のマナで応急処置を施される。側近が叫ぶ。
「撤退、撤退だ!!!!」
何本もの剣を体に突き刺されたマーベルト。身体機能が破壊され、両膝をついたままついに動けなくなった。
「お父さん!! お父さーーーーーーーーん!!!!」
真っ先に駆け付けたのが朱色の髪のキャロット。規格外の攻撃を行い動けなくなっていたはずなのに、自然と体が、足が、父の元へと駆けだしていた。ミリザとモモコに肩を貸されたベートが驚いて言う。
「お、お父さん!?」
謎の紳士がキャロットの父親!? そしてエルフ族のローレンの叫び声を聞いてさらに唖然とする。
「侯爵!! マーベルト侯爵っ!!!」
「え!?」
マーベルト侯爵。それは魔獣国幹部であり『序列参位』の強者の名。ベートは理解した。あの強さ。あの迫力。それなら理解できる。
「お父さん、お父さん!! うわああああん!!!」
父に抱き着き、大声で泣くキャロット。マーベルトはもはや感覚の無くなった腕で、その小さな頭を撫でて言う。
「元気そうで良かった。強くなったな、キャロット……」
「お父さん、お父さん。嫌だよ!! 死んじゃ嫌っ!!!!」
キャロットは感じていた。父の体から体温が感じられないことを。マーベルトが言う。
「会えなくてすまなかった。寂しい思いをさせてすまなかった。私は、父親失格……、ぐっ、うぐぐっ……」
血の盟約。人族を滅ぼすという命令に背くと、強い拒否反応が起こる。マーベルトが自分の手を手刀にして脇腹に突き刺す。
グサッ……
「がっ……」
「お、お父さん!! 何してるの!!!!」
驚くキャロット。父の行動が理解できない。マーベルトは笑みを浮かべて答える。
「大したことではない。私は大丈夫だ……」
「大丈夫じゃないよ!! こんなに剣が刺さって、怪我をして……、モモコ!! お願い、お父さんを助けて!!!」
呼ばれたモモコが駆け寄る。ときめかない以上ハイヒールは無理だが、通常のヒールなら発動できる。だがマーベルトがそれを手で静止して言う。
「無理だ。私はアンデッド。既に死んでいる……」
「え? お父さん、お父さん、何言って……」
キャロットの頭を撫でながらマーベルトが答える。
「私は魔獣王によって無理やり生き返らされた、いわば操り人形。いちゃいけない存在なのだ。ここに居てはいけないのだ……」
「そんなことない!! お父さんは居ていい!! 居ていいんだよ……」
父の胸に顔を埋めて号泣するキャロット。次々と襲う信じられない事実に頭が混乱し始める。ベートが尋ねる。
「あんた、序列参位のマーベルト侯爵だな?」
「ああ、そうだ」
既に会話をするのですら苦しそう。ベートが尋ねる。
「教えてくれ。ジジイは無事なのか!? 元気なのか!!」
マーベルトがベートの顔を見つめながら答える。
「私は、ヴォルト殿に返しきれないほどの恩が、ある……。だからベート、お前に会えて嬉しかった……」
ベートが大声で言う。
「俺のことはどうでもいい!! ジジイは!! ジジイは無事なのか!!!」
徐々に弱まるマーベルトの声。ベートに答える。
「オリジンの責務は、計り知れなく重い……、だから自身で確かめよ。自身で会って確かめよ……。ベート、お前ならばきっと、乗り越えられるはず……」
「お、おい!! それはどういう意味で……!!」
グサッ……
神妙な空気の中、皆が油断していた。王国軍が退却しここは安全。ここにはもう敵などいないと思っていた。キャロットが叫ぶ。
「お父さん!? お父さーーーーーーん!!!!」
マーベルト配下の魔獣族クローバー。持っていたレイピアで、後ろから主であるマーベルトの頭を一突きにした。クローバーが言う。
「裏切りはいけませんよ、ご主人様~」
「ぅぐっ、ぐっ……」
脳を突かれ、ぐったりとするマーベルト。クローバーが言う。
「どうも怪しいと思ってたんだよね~。変にエルフとか、人族に関わろうとする。親子? 知らないね~。まあ、アンデッドでも脳をやられればもうおしまい。後は弱ったオリジンを……、え?」
クローバーの目の前に鬼の形相をしたベートが立つ。
「クズがぁああ!!!」
ドオオオオオン!!!
「ぎゃあああああ!!!!」
渾身の右拳がクローバーの顔面に炸裂。吹き飛ばされたクローバーに向かって、ベートが内心叫ぶ。
(爆ぜよ!!!!!)
ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
マナなんて残っていなかった。残っていないはずだった。だけど無意識にベートの体は動いた。許せない敵に対して容赦はしなかった。
オリジンの攻撃を見て唖然とするローレン達エルフ族。だがすぐにキャロットの泣き声が彼らを辛い現実へと引き戻した。
「お父さん、お父さん!! うわあああん!!」
もはや動くことはできない。辛うじて思いを声に出せるのみ。マーベルトが言う。
「こんな姿になってもここに戻って来て良かった。みんなに会えて、お前に会えて、私は幸せだ……」
「お父さん、行かないで!! もうボクをひとりにしないで!!」
マーベルトの目に涙が溢れる。
「すまない、私はやはり父親失格だ……」
「そんなことない!! ボクは、キャロットはずっと幸せだったよ。お父さんと、居られて……」
最後の抱擁。キャロット自身ももうそれが分かっていた。だから目一杯抱きしめた。別れを告げるように強く父を抱きしめた。マーベルトがベートに言う。
「ベートよ、娘を、キャロットを頼む……」
「あ、はい……」
思わず返事をするベート。キャロットが泣きながら叫ぶ。
「お父さん!! お父さん!!!!」
マーベルトが父親の顔になって最期に口にする。
「愛してる。可愛い娘、キャロット……」
「え?」
同時にボロボロと崩れ始めるマーベルトの体。強く、憧れだった父が崩れていく。
「お父さーーーーーーーん!! うわああああああああああん!!!」
最期の別れを終えたキャロットの泣き声が、静かな夜の森に響いた。




