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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第三章「誇り高き屍が遺したもの」

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50.森の禁忌

「それで一晩中戦ってきたってわけ……??」


「まあ、そうだ……」


 アイマスクの紳士との徹夜の戦いを終え洞窟の拠点に戻ってきたベート。疲労困憊で、戻って来るなり床に倒れ込んだ。心配していたミリザ達は無事帰ってきた事には安心したのだが、いまいち状況がよく分からない。



「ベート、あなた一体何しに行ってきたの?」


「た、戦いだよ……」


 それは間違いない。だがミリザが言う。


「そうなの? でも話を聞く限りまるで『稽古』に行って来たみたいだよね」


「……」


 否定はしない。戦闘中ずっとそれを感じていたのは、何を隠そう自分自身だから。モモコが尋ねる。



「仮面の紳士さんは、敵なんですか? 味方なんでしょうか?」


「……正直良く分からねえ」


 疲労困憊の頭。もう考えることすらできなくなっている。キャロットが尋ねる。



「ねえ、ベー太。あの人は一体誰なの?」


「分からない。俺が知りたいぐらいだ。お前ここの住民なんだろ? 心当たりはないのか?」


「……」


 ないと言ったら嘘になる。だけどそんなはずはない。あってはいけない人物だ。ベートがゴロンと横になって言う。



「とりあえず俺は寝るぞ。もう限界だ。じゃあおやすみ……」


 そう言うとすぐに寝息を立て始めるベート。日々鍛錬はしているのだが、その彼をもってしても音を上げたくなるような内容の濃い戦い。ミリザ達はベートをゆっくりと寝かしてあげようと静かに部屋を出た。






 一方エルフの村では、破壊された砦の修復が急ピッチで進められていた。金色の美しい髪を後ろで束ねた若きリーダー、ローレン・エグファイヤーが先頭に立って声を上げる。


「急げ急げ!! 新たな戦いは近いぞ!!」


 防御壁となる砦。壕を深く掘り、新たな侵攻に備える。だがどれだけ強固に組み立てようと所詮木製。金属製の装備を擁するフォレスト王国軍にはいずれ敗れる。白髪のポニーテールを揺らしながら歩兵隊長アリシア・マッケンライアがやって来て言う。



「この次は必ず敵将の首を取って見せます!!」


 内通していた副隊長に刺された脇腹。その傷がまだ癒えない。ローレンが言う。


「無理はするな。お前の活躍の場は必ずやって来る。今は治療に専念しろ」


「もう大丈夫です。戦えます!!」


「お前の力が必要な時は必ず……」



「守るべきものがなくなってからでは遅いのです!!」


「アリシア……」


「出過ぎた真似を、申し訳ありません。ただ……」


 アリシアは負傷しながらも修繕作業を行う同胞を見つめながら言う。



「皆が不安になっています。敵は強大な王国軍。戦っても勝てず、その上仲間や家族が拉致され行方不明になっています。他国に売られたとの噂も聞きます。だから皆やれることをやっているのです。この程度の怪我でこの私が寝ている訳にはいかないのです!!」


「……」


 黙り込むローレン。アリシアが頭を下げて言う。


「無礼を、失礼しました。では……」


 そう言って立ち去るアリシア。分かっている。ここ数年のエルフ族の苦境を。昔はお互い尊重し、干渉しないよう共存できていた。それがいつの頃からだか知らないが、互いに憎み、戦い、両者の間には深い溝ができてしまっている。



(だが、剣を取らねば蹂躙されるだけ!!)


 ローレンの拳に力が入る。



「復旧は順調ですか? ローレン」


 そこへアイマスクを付けた紳士がやって来る。ローレンが言う。


「ああ、これは侯爵殿。先日は助かりました」


 彼の助力がなければ敗北していたであろう。ローレンが礼を言う。


「いえ、私は私の信念で戦っているだけです。あ、そうそう。これは私の部下でクローバーと言います。どうぞよろしく」


 そう言って自分の横に立つ顔に傷を負った男を紹介する。クローバーが言う。



「クローバーっす。どうぞお見知りおきを」


「ローレンです。よろしく」


 握手を交わす二人。温かい。彼はアンデッドではないと分かり、一瞬ローレンが安堵する。マーベルトが言う。



「次の王国軍との戦いにはクローバーも一緒に戦います。頼りになりますので」


「そうですか。それは有り難い。それにしても侯爵殿があのような術を使えるとは驚きました」


 そう話すローレンにマーベルトが答える。


「ええ。なんとも自分でも滑稽なのですが。ただもう彼らは使えません。死者を操るのはたった一度だけ。これ以降は私自身もっと頑張らなければなりません」


 何度も部下に死を与えたくない。そんな気持ちももちろんある。ローレンが言う。



「ありがとうございます。侯爵殿のお力がなければ我々エルフ族はもう滅んでいました。本当に感謝致します。ただ、途中で現れた人族は何者なのでしょうか? フォレスト王国軍とは思えないのですが……」


 アンデッド軍団を一瞬で消した光のマナ使い。剣豪マーベルトに真っ向勝負した茶髪の少年。新たな敵の出現にローレンが表情を曇らせる。


「ああ、彼らですね」


「何かご存じで?」


「そうですね。知らぬこともないのですが、彼らはとても強いです。これから世のために働いてくれるでしょう」


「世のために働く? 彼らは敵ではないのですか?」


 そう尋ねるローレンにマーベルトが答える。


「敵ではないでしょう。少なくとも私はそう思っています。では王国軍が動きを見せているようなのでこれで」


「あ、侯爵殿!!」


 マーベルトはそう言うと手を上げて立ち去っていく。



「敵ではない? どういうことだ……?」


 ローレンはマーベルトの言った言葉の意味が分からず首を傾げた。






 そしてその翌日、事態は急変を告げる。


「準備が整いました。レザ様!!」


「遅いわ、この馬鹿ども!!! まあいい。これであの下賤なエルフ共を本当に一掃できる」


 日も落ちてきた夕刻。フォレスト大森林入り口に立ったレザ・スリーデルが、王国軍愛用の朱色の鎧に身を包み不気味な笑みを浮かべる。


「全軍抜かりはないな?」


 そう尋ねる総司令官レザに部隊長が答える。


「はっ!! すべて配置を終えております。王都に駐留するすべての軍を動員。その数は前回の倍以上。遠距離攻撃のマナ隊も各属性準備。森の()()()もつつがなく終えております!!」


「良い。ふふ、良いではないか」


 満足そうな笑みを浮かべるレザ。そして剣を掲げ皆に叫ぶ。



「エルフ討伐の最終決戦!! 抜かりなく行けよ!!!」


「おおおーーーーーーっ!!」


 大歓声で答える王国軍。そしてレザが命じる。



()()っ!!!」


 その号令と共に森を囲むように配置されていた、火のマナ使い達が一斉に詠唱を始める。



「森羅万象を源にせし火のマナよ。火球となりて森を焼かん! ファイヤーボール!!」


 次々と森に放たれる火球。それが森に仕込まれていた発火性の油に引火し一気に燃え上がる。



 ゴオオオオオ……


 あっと言う間に至る所で燃え上がる大火。暗くなりかけていた空を明るく染め上げるほど勢いよく燃え広がる。


「燃えよ燃えよ。くくくっ、苦しめ、エルフ共……」


 レザはそれを満足そうに見つめる。森の焼き討ち。それはある意味、森と共存してきたこの国では禁忌の行為。森に暮らす者達に対し、いわば死刑宣告を突きつけるようなもの。



「ロ、ローレン様、大変です!!」


「どうした!!」


 まだ終わらぬ砦の修繕。そこへもたらされた一報がローレンを真っ青にさせた。



「森が、森が焼かれております!!!!」


 それはエルフにとって絶望以外何者でもない言葉であった。

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