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シンデレラ・ベート ~学園劣等生が覚醒する時~  作者: サイトウ純蒼
第三章「誇り高き屍が遺したもの」

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47.素晴らしき日

(二度目の死。不甲斐ない私のせいで彼らは二度も死ななければならなかった。だからこそ……)


「スリーデル家は必ず打ち倒す!!!」


 謎のアイマスクの紳士。細身の剣を振り、敗走するフォレスト王国軍に向かって単騎突進する。



「うわあああああ!!」

「助けてくれーーーーっ!!!」


 もはやフォレスト王国の敗北は決定的なものとなった。最強を誇った重歩兵軍団はまるで制御を失った車輪の如く敗走し、その負の連鎖が後方に控えていた他部隊まで浸透。極めつけは要であり指揮官レザの撤退命令。王国軍は瓦解した。




「ふうーーーっ」


 ベートが殿しんがり、敗走する部隊の最後方に立ち、息を整える。こちらに向かって歩み寄るアイマスクの紳士に対峙する。



(この少年は、確か……、キャロットと一緒にいた……)


 マーベルト侯爵の足が止まる。あの茶髪の少年は愛するキャロットと行動を共にしていた人物。友達だろうか? できれば戦いたくない。そう思ったマーベルの脳裏に血の盟約が命じる。



 ――殺せ。人族を殲滅せよ。


「うぐぐっ……」


 反する二つの意思。マーベルトの体の中で血の盟約が激しく騒ぎ出す。そしてマーベルトが剣を握り直した時、その呼び声が耳に響いた。



()()()!! 無理しないで!!!」



(……ベート)


 一瞬マーベルトの歩みが止まる。どこかで聞いたことのある名前。思い出せない。一度死して、くだらぬめいが支配した脳。記憶が散り散りになっている。ベートが言う。



「あんた、誰だか知らねえけど、行くぞ!!!!」


 駆け出すベート。息を止めマナを放出する。



(貫け、アイスピラー!!!)


 ドドドドォ……



「無詠唱!?」


 マーベルトの周囲に地表から天に向かって突出する白き氷の柱。視界と、動きが一瞬封じられる。



 ガン、バキン!!!!


 冷静にそれを剣で破壊するマーベルト。だが崩れゆく氷柱の中からベートの姿が現れ、そして白いマナを発現する。



(爆ぜよ!!)


 ドオオオオオオン!!!



「ぐっ!!」


 瞬時に防御姿勢を取り爆撃を回避するマーベルト。崩れゆく氷柱の上にトンと飛び乗り、今起きた一連の攻撃を回顧し始める。



(このマナ、まるで()()()()……!!)


 その時、散り散りになっていたマーベルトの記憶のひとつが結び直される。



(オリジン、ベート、ヴォルト殿……、まさか!!)


 マーベルトが絶対に忘れることのないその記憶を思い出す。






「お前は万年、しがない小隊長だな」


 フォレスト王国軍時代。長年小隊長から昇級できない若きマーベルトに上官が言った。当時の彼は自分の剣に自信が持てず、日々迷いながら毎日を過ごしていた。能力の限界。殻に籠る自分。そんなマーベルトにある日転機が訪れる。



「お前剣の筋が良いな。良かったら俺が鍛えてやろうか?」


 偶然、魔獣族討伐の為フォレスト王国に来ていたシルバーナイツの要でありオリジンのシンデレラ・ヴォルト。鍛錬中のマーベルトを見て声をかけた。マーベルトが驚いて背筋を伸ばして答える。


「オ、オリジン様!? いいのですか!? こんな私に……」


「いいよ。どうせ出撃まで時間あるしな。ほら、剣を持ってみな」


「はい!!」


 当時オリジンを発現させ『大陸最強』と名が知れ渡っていたシンデレラ・ヴォルト。言わば雲の上の存在。時間を持て余していたヴォルトは、滞在中毎日マーベルトの剣術を指南した。



「甘い甘い!! 腰、足っ!! 視線は数手先を見て動け!!」


 ヴォルトの指導は壮絶を極めた。早朝の基礎鍛錬から始まり、日中夕方まで時間がある限りマーベルトに付き合った。



「あいつ、死ぬんじゃねえ……?」

「ほんと、よくやるぜ……」


 最初、オリジンの指導を独占していたマーベルは同僚達から嫉妬された。だがあまりに厳しい鍛錬にいつしかそんな声も消えていく。

 一か月。魔獣族討伐を終えたヴォルトがマーベルトに言う。



「よう頑張ったな。短かったが俺の教えられることは全部教えた。あとは自分で頑張りな!!」


「あ、ありがとうございます!!」


 厳しい鍛錬に耐え抜き体はボロボロ。だがその深い達成感を体中に感じていた。この後もヴォルトの鍛錬を地道に続けたマーベルトは、フォレスト王国軍にて剣豪の名で称えられるほどの実力者となる。顔を上げたマーベルトが尋ねる。



「ヴォルト殿。お聞きしてもよろしいですか?」


「なんだ?」


 間もなく帰還してしまうヴォルト。どうしても聞いておきたかった。



「なぜ私みたいな何の取り柄もない人間に、貴重な時間を割いて指導してくださったのでしょうか。私にはあなたにお返しできるものなど何もないのですが……」


 真剣な表情のマーベルト。それを聞いたヴォルトが笑って答える。


「細かいことなど気にすんな。強くなりてえって願う若いやつがいたんで教えただけだ。それにお前から何か貰おうなんてこれっぽっちも思ってねえよ」


 呵呵と笑うヴォルト。そして思い出したように言う。



「ただ、そうだな。もしお前が将来強くなって、お前と同じように強くなりたいって真剣な目のやつが現れたら……」


 ヴォルトがマーベルトの肩をポンと叩き笑顔で言う。



「鍛えてやってくれ。この世界のために」


 マーベルトは深く頭を下げ涙を流した。

 そして数年後、ヴォルトから届いた便りの中で、『ベート』と言う戦争孤児を拾って育てていることを知った。






(まさか、まさか、ヴォルト殿の……)


 目の前に現れた茶髪の少年。オリジンを使い、ベートと言う名前。その可能性を思い、マーベルトの体が震える。


「ぐっ……」


 ただ同時に彼の血に刻まれた『人族殲滅』のめいがその身を縛る。激しい痛み。脳を割るような振動。強靭な精神力を持つマーベルトですら立っているのが精一杯である。



「ベートと言ったか、これは使えますかね?」


 激痛を隠し、マーベルトは地面に落ちていた兵士の鉄剣を拾ってベートに投げる。



 カランカラン……


 マナを主体に戦っていたベート。意外な行動に思わず尋ね返す。



「どういう意味だ?」


 何かの罠かもしれない。だがマーベルトは呼吸を整えそれに丁寧に答える。


「大した意味などありませんよ。ただあなたとそれで手合わせしてみたいだけです」


 それはベートも思っていたこと。鉄の剣に細工がないことを確かめてからベートが答える。



「ああ、いいぜ。やってやるよ」


 魔獣軍『序列参位』マーベルト侯爵、そして新生オリジンのベートが剣を持ちぶつかり合う。



 カンカンカンカン!!!!


 激しい打ち合い。見る者を圧倒する剣戟。今でこそ拳でマナを使って戦うベートだが、元々幼少の頃から様々な武器を使って鍛錬していた。剣はその最も基本的な武器。ベートの得意とするもののひとつだった。



(つ、強い……)


 ただそんなベートをもってしてもマーベルト侯爵の剣捌きの前には防戦一方となりつつあった。動き、振る舞い、圧。どれをとっても相手の方が一枚上。徐々に後退させられる。剣だけでは勝てないと思ったベートが思わず別の対抗手段を考えた。その時だった。



 グサッ……


「え?」


 ベートが思わず後方に跳躍して状況を見つめ直す。何が起きたのか分からない。ただ攻勢だったアイマスクの紳士が、突如自分の左腕に剣を()()()()()のだった。思わずベートが尋ねる。



「な、何やってんだ!? お前……」


 このままでは負ける。そう思った矢先の出来事。体を震わせながら剣を抜くアイマスクの紳士が答える。


「何でもありせんよ……、私事わたくしごとです……」


 そんなはずはない。戦闘中に自らの腕を剣で刺すことが何でもないはずがない。マーベルトが思う。



(想像以上に強い血の呪縛。こうでもしないと我を保てない……)


 人族殲滅を命じられた血の盟約。少しでもそれに背こうとすれば対象者の自我を崩壊させてでも目的遂行を図る。それを防ぐ為の自傷行為。異なる激痛が自我の破壊を防いでくれる。マーベルトが剣を鞘に納めベートに言う。



「今日はこれ以上無理のようです。また会いましょう」


「え? お前一体なにを言って!? ちょ、ちょっと待てよ!!」


 マーベルトはベートのそんな言葉に耳も貸さず、深く一礼してから撤退を始める。

 殿しんがりを任されたベート。その役目は果たした。ただ頭の中はもやもやで一杯であった。




「侯爵様、あれで良かったんですか?」


 退却中、待機を命じられていた顔に傷のある男がマーベルトに尋ねる。


「ええ、もちろん。少し思うところはありますが、とりあえず王国軍には大損害を与えられました。それに……」


 マーベルトが後方を一度振り返ってから言う。



「色々と素晴らしい一日になりました」


 そう話す顔は、感情を露にしない彼には珍しいほど清々しいものであった。

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